「Bくん。君は何言っているか分からないんだよ」そう部長に叱られた新入社員のBは、上司に相談した。
「言ってることは合っているから、ゆっくり自信をもって話せばいいよ」上司はBにゆっくりと伝えた。
なるほど。ゆっくり伝えればよいのか。妙に納得した。
次に部長と話す時に、堂々とし、意識的にゆっくり伝えてみた。
「A社が安いです。A社にしましょう」
伝わったのだろうか。部長は驚いたのか、目を見開いている。
「Bくん!すばらしいぞ。どこかで話し方を学んだのか?」
「いえ、ゆっくり喋るようにアドバイスをいただいただけで」ゆっくりと返す。
「きみっ!」後ろから声をかけられる。振り返って見ると総理大臣がいた。社長と面会する道中で私の話を聞いたようだ。
「君はいい政治家になれる、次の選挙にでてみないか」ゆったりした力強い声で勧誘された。
なぜか断れる気にはならなかった。次の選挙に出馬することを決めた。
「私は日本を変えたい!その力をください」堂々と力強く宣言した。
最初は数人に一人が足を止めてくれる程度だったが、段々と人が増えてきた。
選挙運動の最終日には、駅前に50万人もの人々が集まった。
当選後、総理大臣から声をかけられた。
「次の首相、君にするから。ゆっくりでいい。やれるね?」あたたかく、穏やかにそう告げられた。
「やります。ゆっくりと。」自信を持って、返答した。
G7の会議で、日本国の首相としてスピーチすることになった。
「世界を 平和に したい」
精一杯遅く、力強く読み上げた。たった11文字に5分程度かけゆっくりと穏やかに伝えた。
読み終わり、口を閉じた。
静寂は1分以上続いた。反応がない。
礼をしてゆっくりと退席する。
次の瞬間、割れんばかりの拍手が会場を揺らした。
自分の席へと戻る前に、各国の首脳から握手を求められた。なぜか皆、涙を流していた。
この会議の後、世界の平和は今に至るまで80年以上続いた。
貧困問題、地球温暖化、少子高齢化、経済格差、戦争、世界中のあらゆる問題がかつては存在した。
今まではみんなやる気がなかったのだろうか。私がゆっくりと声をかけ、改善を促すと解決してしまった。
もう私は100歳を超え、体調が良くない日も増えた。だが首相を辞してよいいのか、ずっと判断がつかなかった。
今まで保ってきた平和が崩れてしまわないか。私が辞めることで世界にまた問題が生まれないか。不安で仕方なかった。
色々進んだ技術によって、若さをなるべく維持させてもらっていたが、110歳が近くなるとどうにもならないようだ。
ものを考えられなくなる前に、今後も役目を果たせる後継者を決めたかった。
私の方針に賛同している者を10名集め、聞いた。
「わたしの後を継ぎたい人はいるか」
一人ひとりに尋ねたが、荷が重すぎると口々に断られる。ゆっくりとお願いするしかないかと諦めかけた。
「継ぎます。やらせてください」一人の青年がこう答えた。
ありがたい気持ちで一杯になった。普通は誰もやりたくないだろう。青年をねぎらった。
最後に伝えたいことがあるといい、できるだけ多くの者を集めた。横に青年を立たせた。
「この青年に 全てを 与える」
1時間かけ、15文字を限りなくゆっくりとゆっくりと、感謝を込めて青年に伝えると。
私の体は燃え尽きるように消え、意識を失った。