短編置き場   作:みゃおたろう

10 / 12
ゆっくり話そう

「Bくん。君は何言っているか分からないんだよ」そう部長に叱られた新入社員のBは、上司に相談した。

「言ってることは合っているから、ゆっくり自信をもって話せばいいよ」上司はBにゆっくりと伝えた。

 なるほど。ゆっくり伝えればよいのか。妙に納得した。

 次に部長と話す時に、堂々とし、意識的にゆっくり伝えてみた。

「A社が安いです。A社にしましょう」

 伝わったのだろうか。部長は驚いたのか、目を見開いている。

「Bくん!すばらしいぞ。どこかで話し方を学んだのか?」

「いえ、ゆっくり喋るようにアドバイスをいただいただけで」ゆっくりと返す。

「きみっ!」後ろから声をかけられる。振り返って見ると総理大臣がいた。社長と面会する道中で私の話を聞いたようだ。

 「君はいい政治家になれる、次の選挙にでてみないか」ゆったりした力強い声で勧誘された。

 なぜか断れる気にはならなかった。次の選挙に出馬することを決めた。

 

「私は日本を変えたい!その力をください」堂々と力強く宣言した。

 最初は数人に一人が足を止めてくれる程度だったが、段々と人が増えてきた。

 選挙運動の最終日には、駅前に50万人もの人々が集まった。

 

 当選後、総理大臣から声をかけられた。

「次の首相、君にするから。ゆっくりでいい。やれるね?」あたたかく、穏やかにそう告げられた。

「やります。ゆっくりと。」自信を持って、返答した。

 

 G7の会議で、日本国の首相としてスピーチすることになった。

「世界を 平和に したい」

 精一杯遅く、力強く読み上げた。たった11文字に5分程度かけゆっくりと穏やかに伝えた。

 読み終わり、口を閉じた。

 静寂は1分以上続いた。反応がない。

 礼をしてゆっくりと退席する。

 次の瞬間、割れんばかりの拍手が会場を揺らした。

 自分の席へと戻る前に、各国の首脳から握手を求められた。なぜか皆、涙を流していた。

 

 この会議の後、世界の平和は今に至るまで80年以上続いた。

 貧困問題、地球温暖化、少子高齢化、経済格差、戦争、世界中のあらゆる問題がかつては存在した。

 今まではみんなやる気がなかったのだろうか。私がゆっくりと声をかけ、改善を促すと解決してしまった。

 もう私は100歳を超え、体調が良くない日も増えた。だが首相を辞してよいいのか、ずっと判断がつかなかった。

 今まで保ってきた平和が崩れてしまわないか。私が辞めることで世界にまた問題が生まれないか。不安で仕方なかった。

 

 色々進んだ技術によって、若さをなるべく維持させてもらっていたが、110歳が近くなるとどうにもならないようだ。

 ものを考えられなくなる前に、今後も役目を果たせる後継者を決めたかった。

 

 私の方針に賛同している者を10名集め、聞いた。

「わたしの後を継ぎたい人はいるか」

 一人ひとりに尋ねたが、荷が重すぎると口々に断られる。ゆっくりとお願いするしかないかと諦めかけた。

 「継ぎます。やらせてください」一人の青年がこう答えた。

 ありがたい気持ちで一杯になった。普通は誰もやりたくないだろう。青年をねぎらった。

 最後に伝えたいことがあるといい、できるだけ多くの者を集めた。横に青年を立たせた。

 「この青年に 全てを 与える」

 1時間かけ、15文字を限りなくゆっくりとゆっくりと、感謝を込めて青年に伝えると。

 私の体は燃え尽きるように消え、意識を失った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。