|そこの、そこの貴方|
どこからか、遠くから呼びかけられているような気がする。
|そこのステューシーのジャージにニット帽を被っている貴方|
具体的な呼びかけだ。多分私だろうか。
「私か?」
|そう貴方|
テレパシーなのだろうかこれは。やけにハッキリ聞こえる。
「どう話しているの?これ」
|超指向性スピーカーによる音声伝達だ|
「どこの人?実験とか?」
|かなり遠くの星から通信している。貴方に依頼したいことがある|
「宇宙人てこと?」
|そう思ってもらって構わない|
「私に依頼って何?」
|話が早くて助かる。我々は銅のインゴットが欲しい。我々の代わりに購入してほしい|
「なんで銅?というかあなた達が直接買えばいいのでは?」
|我々の星には銅があまりない。そして私たちは地球での身分がなく購入できない|
「そんな面倒なことをせずとも奪えばいいのに。できるでしょ」
|技術的には可能だ。だが、当国の法律で略奪が禁じられている|
そういうのを律儀に守るのか。よくわからん宇宙人は。
「脅しではないの?だとすると、だれも手伝ってくれなくない?銅のインゴットを集めてと言われても」
|銅1gに対して純金10gを交換する取引をしたい|
「ほう」
凄いレートだ。1kgでどれほど儲かるのだろうか。
「前金は貰えないのか?」
|前回は前金を用意した上で依頼したのだが、持ち逃げされてしまった |
「その逃げた奴は捕まえられないのか?」
|人権を無視した行動は制限されている|
またそれか。向こうも色々と苦労しているのだな。
|もちろん貴方が逃げてしまっても、仕方ないと考えている|
|ただ、実行してもらえるとありがたい。そう言う話だ|
なるほど。状況は理解した。
「私が銅を集めてきた場合、絶対に10倍の重量の金をもらえるという保証はあるのか?」
|保証はない。無論当国の法律上、受領してから逃げることは窃盗・詐取行為にあたるが、
我々が逃げたとしても、貴方は当国に申告することができないだろう。|
|我々を信用してくれと言うしか、残念ながらできない|
「私に追跡装置を付けて、事後追跡装置を外すと言う契約で前金を貰えないのか?」
|技術的には可能だ|
|だが、残念ながら貴方が住んでいる日本国との契約が完了していない。貴方との個別での契約ができないのだ|
残念だ。お前らの国は法律を遵守しすぎて動けなくなっていないか?
「AIに相談しても良いか」
|構わない。良い回答が得られるとは思わないが|
馬鹿にされているぞAI。いい答えを出してくれ。
状況を入力し、回答を待つ。Jeminiは12秒考えた。
「用意された質問が現実に即した質問でないため、現実的な回答が難しいです。回答を差し控えます」
使えない。だから馬鹿にされるんだよお前は。
|そこで我々から提案がある|
「ほう」
|1kgの銅のインゴットを持って指定のポイントに来てほしい|
|そうすれば10kgの純金を渡すので、継続で取引したい場合はその純金を元手にすればよい|
「最初の1kgの銅は?どう調達するの?」
|それはダジャレというものか?|
「・・・・・」
|初期投資の銅は貴方の自腹になる。懐疑的なら500gとか軽いものでもよい。そうすれば初期投資は数千円程度だ。|
「騙されたら宇宙人に詐欺にあったと話のネタにしろ、と。」
|その解釈でかまわない|
「うーーーん」
「やるようん。」
「暇だから今買ってくるよ。」
|大変ありがたい|
「貴金属店に行ったが銅は販売されていないようだった。」
|ネットショップやヤフオクなどでも入手できるらしい|
「そうか」
ヤフオクで1kgの銅インゴットを落札した。
「持ってきたぞ」
|感謝する。貴方も含め宇宙船に移動させるがよいか|
「安全が確保されるなら問題ない」
|では移動させる|
一瞬で移動した。周りはアパートの一室のような空間だ。
「そういえば日本国と契約していないのに、人身の移動は法的に問題ないのか?」
|安全を確保した上での人の移動は個別契約でよい|
|追跡装置などのナノマシンを知的生命体に使用する場合は、かなり規制が厳しいのだ|
なるほど、実施する行為によって法的厳しさが違うのだな。
「ていうかここ、どこなの?」
|宇宙空間だ。大気と重力は地球と同じにしてある|
窓がない部屋なので、確かめようがない。
「外を見れたりしないのか?」
|見れるが、秘匿情報の観点で見ないことを推奨する|
うーん。駄目なようだ。
|銅の情報を確認した。99.999%のインゴットであることを確認した。|
よかった。あまり調べず適当に購入したが、品質に問題はないらしい。
|10kgの金を渡す|
ゴトッという重たい音とともにいきなり金が現れた。
「おお」
|この金は自由に持って帰ってもらっていい。これを元手にもう一度取引するのも構わない|
「記憶とか消さなくてもいいのか?」
|重要な情報は開示していない。現在の地球の技術力では我々の惑星の場所さえも探知できないだろう|
「まぁこの話をしたところで誰にも信じてもらえないだろうしなあ」
|追加で質問がないなら元の場所に戻す。再度取引を希望するならもう一度同じポイントに持ってきてほしい|
「わかった」
映像がここで途切れる。
学校の先生と思しき人物が話し始める。
「というようにー、2000年初頭の人類は銅の取引に応じてしまいー」
「地球上の銅は不当に安く買い叩かれてしまったんですねー」
ざわざわと反応する小学生達。
「アホやなあ。銅の価値が分かってなかったんや」