村人の少年マルクから色々と情報を得ているが、何かがおかしい。転生した田中は違和感を感じていた。
「魔王とかはこの世界にはいないのですか?」
「たまに出てきますね」
「魔王の脅威とかはないのですか?」
「ないですね。このサイトを見てもらえば分かりますが」
そう言い、マルクは端末の画面をみせてくれた。サイトには魔王発生情報が載っている。
「3時間ほど前に魔王が発生したらしいですね」マルクが”最新の情報”をタップすると、映像が流れた。ドローンのような物体が、出現したばかりの魔王を射殺していた。
「このように、魔王の出現を予測し、能力や魔力規模まで事前に算出し、迅速に殺処分されています」
「容赦ないリスキルですね。」
「ええ。まあ。数週間に1回出現するのですが、大体そんな同じです。」
田中は、自身の存在価値が無いのでは?と思いはじめていた。
「この世界はもう何も問題は残っていないということですか」
「ええと、問題・・?懸賞金付き問題とかでしょうか。」
「そうそう!そういうのです!」田中は笑みをこぼした。
「そうですね。素数の分布予想を証明する課題と、代数幾何学の・・」
「ああいえそういうのではなく。数学の問題ではなくて、クエストみたいな・・」
「クエスト・・!ああ!ギルドで仕事を受注するといったあの」
「それです!ありますか」
「少々お待ちください。」そう言いマルクは端末を触り始めた。
「今はアプリでそういったお仕事の受注ができるようになっていまして」マルクは端末の画面を見せてくれた。
”給与前払いOK【経験不要】魔導工場での組み立て作業・検査スタッフ【期間工】”
”【日払いOK/早く終わっても日給保障!】マンドラゴラ農園の警備スタッフ【面接で即採用】”
違う。いや、ちょっと気になるけど、僕が考えていたのと違う。タウン◯ークじゃない。
「違いましたか。」顔色からマルクが察してくれたようだ。
「なんだろう、その、今の社会全体で問題になっていることってありますか?」
「うーんこの国ですと、少子高齢化、通貨価値の低下 労働生産性の低下・・」
どこかで聞いたこと有る問題ばかりだ。僕がどうこうできる問題じゃない。
「こう武力でパパッと解決できそうな問題とかないですか?」
「武力・・うーん、パルパティア問題とかですかね?」全く分からない単語が出てきた。パルパティア?
「あっ、パルパティアと言われても分からないですよね。説明します」マルクは丁寧に説明してくれた。
要はこうだ。3枚舌外交を戦勝国がやったことで、お互い正しいと主張する領土問題が発生し、パルパティアでは常に紛争が発生している。
・・・パレ◯チナじゃねーか。
「これって武力では解決できない問題だったりしませんか?」
「うーん。かもしれませんね。」だよな。と田中は思った。
今までに得た情報の限りでは、この国は日本とあまり変わらなさそうだ。現在の日本より、大分未来感はあるが。聞く限り、僕が解決出来そうな問題はない。とはいえ戻る方法もない・・、いやあるのか?一応帰る方法があるか聞いてみることにした。
「元の世界に戻る方法ってあったりしますか?」
「はい。ありますよ」マルクはさらりと答えた。あるのか。
「今この画面に映っているのが元の世界の田中さんです」画面には包帯ぐるぐるの私が病室にいた。
「今戻る決断をされましたら、精神転移によって元の世界に戻すことができます」
「保留もできたりしますか?」
「もちろんです。大体の異世界転生の方が、数ヶ月から数年程度在住され、戻られていきます」
長期の旅行みたいな感じで滞在して帰る奴ばっかなんだな。まぁそうなるか。
「滞在される場合は、夜間に義務教育を受けていただき、昼間は自力で生活費を稼いで頂く形になります」
バイトか。なんか旅行というより、ワーキングホリデーに近いのかも知れない。
何かしら楽して稼げないものだろうか。例えば付与されたチートを活かして何か・・。
「この世界はプロ格闘技とかあったりするのですか?」
「あります。一番稼げるのはボクシングあたりでしょうか。総合格闘技もあります」
この世界に来てから、初めて活路が見えてきた。
「ですが、田中様ですと活躍は難しいかと存じます」出鼻をくじかれた。何故だ。
「それはチート能力の使用禁止とか異世界転生者は出場禁止とか・・?」
「いえ、単純に実力で上に上がるのは難しいという話です」
舐められたものだ。僕のチート、身体能力100倍を使えば、相手がゴリラでも勝てるぞ。
「ご納得頂けないとは思いますので、こうしましょう」マルクは落ちている木の枝で小さな円を描いた。
「この丸の中でお互い押しあって、出た人が負けということで」要は相撲か。簡単だ。マルクを抱えて外に押し出して終わりだ。
「はい、よーいどん」と言うと同時に、マルクが消えた。テレポーテーションか。と思った刹那、僕は円の外に出ていた。
「何が起こったのか分かりました?」マルクは円の中にまだいた。
「空間転移魔法か?時間静止能力か?」言い訳がましく聞いてみた。
「いえ、魔法は使っていません。田中さんを抱えて、外に出しただけです」マルクの言葉を理解出来なかった。そんな馬鹿な。全く知覚できなかった。
「田中さんのチートは、身体能力100倍その他、まああるようですが。」
「これらは大体幼児期教育、5歳頃には全て修了している内容になります」
「過去のチート転生者を全員分研究し、それらを一般人が全て習得できるようにしたものが、義務教育になっているわけですね」
「ということは、僕は幼児にも負けうると」田中はなんとか理解し、質問した。
「十分ありえます」聞きたくない回答だった。道理で過去の転生者が少し滞在した程度で帰ってしまうわけだ。
「義務教育をおよそ15年程度消化して頂くと、一般成人と同様のレベルになります。夜間だともう少しかかりますかね。」マルクの言葉に、僕の心は折れかけていた。
とりあえず、就労継続支援A型事業所というところを紹介してもらい、そこで働きつつ義務教育を受けることになった。