憧れのドラゴンを買った。あのレ・クーサス牧場のドラゴンだ。
中古ドラゴン販売店にて破格で売られていたため、買ってしまった。
妻にはひどく怒られた。ドラゴンがいくら安かったと言っても、私の年収ほどの価格であったからだ。
ただ、納得はしてもらえた。すべて私個人の貯金で買ったこと、あとは、旅行や買い出しなどでも役に立つからだ。
「グォロロロロロ」ドラゴンが鳴いている。こんな鳴き声だったっけ。
まただ、買って3週間も経っていないのに調子の悪い時がある。数キロ飛んだだけでもう飛べなくなってしまうようだ。翌日になれば少し回復するが、ある程度飛ぶと同じように飛べなくなる。仕方ない。医者に診てもらうしかない。
中古販売店の初期不良の対応期間は1ヶ月あったので、様子を見てもらおうと、中古販売店に降り立った。
おかしい。この辺りにあったはずなのだが。ドラゴンを買った中古販売店が見当たらない。
通りすがりの老人に聞いてみる。「すみません。この辺りにビッグドラゴンの店があったはずなのですが」
「ビッグドラゴン?あんた、新聞を見ていないのか?」老人は目を丸くした。
「いえ、最近新聞を見ていないもので。」新聞は最近解約していた。
「そうか。あのビッグドラゴンという会社は、保険金を不正に受給して営業停止処分を食らってな。先週倒産したのだよ」
「ほら、あそこ。白い看板があるだろう」老人が指す先に白い看板があった。看板の横にある街路樹は全て枯れていた。
ドラゴンもおらず、看板も全て白紙の状態。建物ももぬけの殻となっていた。
老人に詳細を聞いたが、酷いものだった。事故後のドラゴンの治療に伴い、保険会社へ治療費用を水増しして請求していた。
また、 ドラゴンへの虐待も行っていた。 鉄球でドラゴンを叩き骨折させたり、刀剣で鱗に傷をつけたりして損傷を拡大させたらしい。
「体調が悪そうだな、そのドラゴン。知り合いが医者やってるから紹介してやるよ」老人は親切にメモを渡してくれた。
「大手のとこで診てもらうと、大体ぼったくられる。ここは医者の口は悪いが、最初に見積もりをだしてくれるから良心的だよ」
老人に礼を言い。ビッグドラゴンの跡地を後にした。
治療見積が無料の大手医院があったため、立ち寄った。大分新しく最新設備が揃っているような医院だった。ギルドの評価情報では☆3.2/5 中々だった。
「えー、簡単に外観を確認いたしましたところ、キズが3箇所ございました。飛翔時の問題ですと、特に翼の治療が必要かと存じます。」担当者がスラスラと内容を読み上げていく。
「また、当院の治療のサブスクに加入いただけますと更にお安く治療をご提供できるかと存じます」
「内臓とかそういった部分に異常があるかの検査、あと、検査後の治療費の見積もりは難しいでしょうか。」外観のみの検査と聞いたため、念のため聞いてみたが、やはりそれ以外は有料か。
「ええそうですね。無料のお見積もりの対象外となります。サブスクに加入していただけますと~」
「あぁいいですいいです。一旦見積書をいただけますか。」長く聞くのも面倒なので遮り、見積書を貰った。翼含め3箇所の治療費で半年分の給料が飛ぶようだ。冗談じゃない。
「やはり正規農場から治療キット等を取り寄せますと、高くなってしまいまして」担当者は補足説明をしてくれた。
「一旦持ち帰らせていただきます。」やはり一般人はドラゴンを持つべきではなかったのか。後悔し始めていた。
藁にもすがる思いで、老人に貰った医院へ向かった。
老人に貰った医院は市街からかなり離れた場所にあった。建物も古い。”ティア総合魔獣医院”という看板の灯りもついてるのかついていないのかよくわからない。そもそも今日は営業しているのだろうか。ギルドの評価情報では☆1.2/5だった。大手の治療院へ先に行ったのは評価が低かったからだ。
受付の灯りはついていた。人はいなかった。受付の横にあったベルを押す。「チーン!」飲食店に置いてある、あのベルだ。
「はい、はいよっと」老人が出てきた。白髭がもじゃもじゃしている職人のようだ。受付の人だろうか。
「で、調子悪いのは?あんた?」老人はこちらをじろりと見た。魔獣だけでなく、人も診ているのだろうか。ここは。
「いえ、外にいるドラゴンです」
「ああそう。見に行く。」医院のドアを開け、受付と思われる人が出ていった。後についていく。
「豊田のLXシリーズだな。若いのにいいもん乗ってるじゃねえの」ドラゴンを見て、老人はつぶやいた。
「とよた?いえ、レ・クーサス牧場のやつですが」一応訂正しておく。
「同じだよ。50年ぐらい前に豊田から意味わからん名前に変えたんだ。創業者が豊田だから豊田牧場。そのまんまだ。」知らなかった。50年前なら知るよしもないか。
「ちなみに治療って、おいくらかかりそうですか」老人から貰った推薦文も渡した後、聞いてみた。
「ああ?ティシラかよ。あいつまだ生きてたんだ」ティシラとはあの医院を紹介してくれた老人の名前だろうか。そういえば名前を聞いていなかった。
「まぁ3000ゴールドかな。薬込みでその価格でいいよ」破格の治療費を提示された。安すぎる。私の2食分といったところか。その場で老人に3000ゴールドを渡した。
「まいどあり、ティシラの頼みだったら適当に診れんな」ははは、と老人は笑った。
「ということは、院長さんですか」受付の人だと思っていた。
「まぁ医者には見えねえよな」聴診器をドラゴンにあてながらティア院長は答えた。
先程の医院では見る機会がなかったが、ドラゴン用途の聴診器は長い。高いところにも届くようになっている。ティア院長は丁寧に呼吸音を聞いているようだ。
触診や呼吸器検査、X線検査を終え、診察結果を待つのみとなった。
「まぁーひどいね。世代的にはおよそ3年前から使用されて、最近中古市場に流れたんだろうが」院長は診察結果を話し始めた。
「そんなに酷いんですか。やっぱり翼ですか」
「翼?あぁまぁ確かに傷んでるけど、そこは大したことない。元気になれば勝手に治る」ティア院長は、はっきりと言った。
「少なくとも1年前ぐらいから肺炎を起こしている。肺炎起こしたまま1年ぐらい酷使された様に見える。虐待だよこれは。」
「総飛行距離も3年には見えない。ドラゴンが寝る暇もなく業務用の運送に使われたとしか思えんな。」そんな酷い状態だったのか。
「あんたも!ドラゴンが肺炎起こしてるのは本来気づくべきだ。乗ってる時、変な肺の音がしていただろう。」変な音がしていた……かもしれない。見逃していたのか。
「え、もしかしてもう飛べないような状態ということでしょうか」不安で一杯になり質問してしまった。
「ははは。んなわけない。天下の豊田農場のドラゴンが、この程度ではくたばらないよ」
「肺炎の薬を2週間ぐらい毎日投与して、十分に睡眠を取らせること。7時間以上ね。一日の飛行は5km未満に抑えてね。」
「念のため、2週間後にまた来なさい。」
「分かりました。ありがとうございました。」
「ああ、あと名前つけてやりなよ。ドラゴンじゃなくてさ。」院長に指摘された。確かに名前をつけていなかった。
「あいつら賢いからさ、ちゃんと愛情込めて接してやるんだぞ。ああ。あと、ティシラによろしく」
「わかりました」この医院を教えてもらった、ティシラ老人にも後日お礼をしにいこう。
医院の外にいるドラゴンを呼び帰ろうとする。名前か。どうしたものか。
「じゃあティシラ。行くぞ!」
「ギャウッ」ティシラは答えてくれた。医院から飛び立った。
「ティアじゃなくてティシラかよ」ティア院長はつっこんだ。ツッコミは届いていない。