筋肉寺の朝は早い。
日もまだ出ていない朝4時、和尚の一日は滝行から始まった。
「朝早い時間ですので、冷たい水で体を心を起こすことを目的としています」和尚はそう語った。
和尚は丸太を担いだまま、ゆっくりと滝に向かって歩いていく。肩にかついだ丸太の先端が円を描いているようだ。担いだ丸太はおよそ直径50cm以上、長さ3m。400kgほどだろうか。絶え間なく、大水量の滝に打たれてもびくともすることなく、和尚は念仏を唱えている。念仏が終わると、滝に打たれながらスクワットをしはじめた。およそ一時間。念仏を唱えるレストも挟み、計200レップスほどスクワットを行い、滝行を修了した。
朝のお勤めが終わり、食事の時間となった。僧侶たちが天井近くまで蒸し鶏を積んでいる。意外かもしれないが、仏教において肉食は許容されている。その動物が自分のために殺される現場を見ていない、聞いていないこと、自分のために殺されたと疑う根拠がないことを条件としている。
蒸し鶏の他大量の食事が用意されていたが、ものの見事に平らげていく。食事中の音はまったくせず、ただただ口に食べ物が吸い込まれていく様子を見届けた。食事は一日一度。午前中のみとのことだった。
昼、夕方のお勤め、清掃が終わり、辺りは夜中の冷たい風が拭いていた。僧侶達は講堂に集まり、プレートの準備を始めた。バーベルに重りが一つ、また一つ取り付けられていく。
「あれ、一枚50kgですよね」
「お静かに」 他の僧侶に静止された。もう話してはいけない時間のようだ。
片方に300kgずつ。つまり合計600kgとなる。バーを含めるとそれ以上だろうか。
和尚はこのバーベルでデッドリフトを始めるようだ。
足幅は腰幅に開き、つま先はやや外側に向ける。バーベルが土踏まずの真上に来るように調整している。
和尚がバーを掴んだ。膝を曲げると同時に臀部を突き出し、 胸を張り、背中はピンと伸びている。静まり返った寺の中で、空気を吸い込む音がこちらにも聞こえてくる。集中力と腹圧を高め、次の瞬間。600kg以上もあるバーベルを密着させ引き上げた。
上がった瞬間、おおと歓声を上げてしまいそうになるが、周りは異様に静かだ。
和尚はバーベルをそのまま腰辺りまで上げたまま胸を張って直立する。そして徐々にバーベルを下げていく。ここでも上げたとき同様、お尻を後ろに突き出しながら、背中はピンと伸びたままだ。そのままバーベルを下ろした。
下ろした瞬間、ごお───んと重厚な鐘のような音が寺、そして境内へと響く。一度鳴った音が終わる前に、次の音が響く。間隔はおよそ30秒程度だ。これがこの寺の除夜の鐘である。
休憩はない。1セット108レップス。総ボリュームは約65トンになる。見る者たちは静かに祈りを捧げている。中には涙を流しながら祈りを捧げている者もいた。
それは、紛れもなく神事であった。人を超えた精霊が鐘を打つ。綺羅びやかな光景と音が頭の中に残っていた。
「本日は腕、肩の鍛錬の日でございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。」和尚から新年のご挨拶を頂いた。いつのまにか、年が明けていたようだ。