短編置き場   作:みゃおたろう

8 / 8
筋肉寺の年越し

 筋肉寺の朝は早い。

 日もまだ出ていない朝4時、和尚の一日は滝行から始まった。

「朝早い時間ですので、冷たい水で体を心を起こすことを目的としています」和尚はそう語った。

 和尚は丸太を担いだまま、ゆっくりと滝に向かって歩いていく。肩にかついだ丸太の先端が円を描いているようだ。担いだ丸太はおよそ直径50cm以上、長さ3m。400kgほどだろうか。絶え間なく、大水量の滝に打たれてもびくともすることなく、和尚は念仏を唱えている。念仏が終わると、滝に打たれながらスクワットをしはじめた。およそ一時間。念仏を唱えるレストも挟み、計200レップスほどスクワットを行い、滝行を修了した。

 

 朝のお勤めが終わり、食事の時間となった。僧侶たちが天井近くまで蒸し鶏を積んでいる。意外かもしれないが、仏教において肉食は許容されている。その動物が自分のために殺される現場を見ていない、聞いていないこと、自分のために殺されたと疑う根拠がないことを条件としている。

 蒸し鶏の他大量の食事が用意されていたが、ものの見事に平らげていく。食事中の音はまったくせず、ただただ口に食べ物が吸い込まれていく様子を見届けた。食事は一日一度。午前中のみとのことだった。

 

 昼、夕方のお勤め、清掃が終わり、辺りは夜中の冷たい風が拭いていた。僧侶達は講堂に集まり、プレートの準備を始めた。バーベルに重りが一つ、また一つ取り付けられていく。

「あれ、一枚50kgですよね」

「お静かに」 他の僧侶に静止された。もう話してはいけない時間のようだ。

 片方に300kgずつ。つまり合計600kgとなる。バーを含めるとそれ以上だろうか。

 和尚はこのバーベルでデッドリフトを始めるようだ。

  足幅は腰幅に開き、つま先はやや外側に向ける。バーベルが土踏まずの真上に来るように調整している。

 和尚がバーを掴んだ。膝を曲げると同時に臀部を突き出し、 胸を張り、背中はピンと伸びている。静まり返った寺の中で、空気を吸い込む音がこちらにも聞こえてくる。集中力と腹圧を高め、次の瞬間。600kg以上もあるバーベルを密着させ引き上げた。

 上がった瞬間、おおと歓声を上げてしまいそうになるが、周りは異様に静かだ。

 和尚はバーベルをそのまま腰辺りまで上げたまま胸を張って直立する。そして徐々にバーベルを下げていく。ここでも上げたとき同様、お尻を後ろに突き出しながら、背中はピンと伸びたままだ。そのままバーベルを下ろした。

 下ろした瞬間、ごお───んと重厚な鐘のような音が寺、そして境内へと響く。一度鳴った音が終わる前に、次の音が響く。間隔はおよそ30秒程度だ。これがこの寺の除夜の鐘である。

 休憩はない。1セット108レップス。総ボリュームは約65トンになる。見る者たちは静かに祈りを捧げている。中には涙を流しながら祈りを捧げている者もいた。

 それは、紛れもなく神事であった。人を超えた精霊が鐘を打つ。綺羅びやかな光景と音が頭の中に残っていた。

「本日は腕、肩の鍛錬の日でございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。」和尚から新年のご挨拶を頂いた。いつのまにか、年が明けていたようだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。