転生した俺が負けヒロインを泣かせるまで   作:のめりー

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第一章∶異人、推しに出会う
第一話∶不平等な交渉


『魔王候補の英雄譚(ダークロード・ブレイザー)』。

 それは2011年頃に発売した一冊のライトノベルだ。

 

 内容としてはシンプルなもので、現代日本で普通の男子高校生が突然『魔王候補者』に選ばれてしまい、生き残るために異能の力と共に、眷属と呼ばれる仲間を増やし、戦いへ身を投じる、という話だ。

 

 よくあるハーレムモノのラノベだったが、それなりに人気もある。

 外伝に始まり、アニメ、ゲーム、様々な媒体で展開されるくらいには。

 

 そんな作品がつい先日、15周年を迎えたわけだが。

 俺はこの作品をこよなく愛している。

 

 ……愛していると言っても、推しがいる、ってだけだがな。

 

 この作品を初めて読んだのは14歳とか、中学生の時だった。

 15周年手前ということもあり、色々なイベントがあったのをよく覚えている。

 

 その一環でこの作品に触れた俺は、第一巻の中盤に出てきた一人の少女に心を奪われた。

 

 名前をガブリエラ・アッシュバルト。

 白銀の髪と小さい体が特徴的な、もちフワ感のあるマスコット的ヒロインだ。

 

 ただしメインではなくサブのヒロイン。

 最初から勝てるはずのない負けヒロインとして登場した少女だ。

 

 同じく魔王候補者である主人公の前に立ちはだかり、一人の眷属とともに挑むも敗北。

 様々な事件経て、主人公と共に行動を共にするようになる。

 

 俺はそんな彼女を推した。

 いや、推(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 彼女を追いかけるように作品を読み進め、大体数巻ぐらい進んだ時だろうか。

 

 突如として、彼女は死んだ。

 ヒロインが増え過ぎたからだろうか、物語に緊張感を増すためのものだったのか。

 何にせよ、彼女は主人公を庇い死んでしまった。

 

 ネタバレ1つ見ていなかった俺は、そのページで手が止まってしまい、30分ほど動くことができなかった。

 

 思考が止まる、っていうのは、ああいうことを言うんだろうな、と今でも覚えている。

 

 30分ほどの思考停止を経て、現実を受け止めた俺はその思いをネットで掲示板に吐き捨てた。

 そこで知ったのだが、当時人気ヒロインだった彼女が殺されたことにはかなり炎上したとのことで。

 

 その日思い知った。

 世の中、どうにもならないことは存在すると。

 

 彼女の死を糧に俺は成長した。

 困難な壁にぶつかっても、それを乗り越えていく強さを。

 他人と繋がることの勇気を。

 様々なものを経て、俺は成長した。

 

 そして高校二年生となった今、俺は今でもその作品が好きだ。

 推しが死してもなお、俺はその作品を読み続けた。

 

 そして作品が15周年を迎えた今日、俺は奇妙な夢を見ることになる──

 

 

「……あれ、ここどこだ?」

 

 

 目を開くと周りに広がるのは白い空間。

 果てが見えることはなく、地平線の果てまで真っ白な景色が広がっている。

 

(確かさっきまでダクブレ読んでて、寝落ちしたはず……だよな?)

 

 ダクブレっていうのは『魔王候補の英雄譚(ダークロード・ブレイザー)』の略称だ。

 

 俺はさっきまで読み返していた……めちゃくちゃ眠くなっていたのを覚えているから、寝落ちしたはずなのだが。

 だが夢にしては現実的すぎる。

 

 

「……痛くは、ない。夢なのか?」

 

 

 なんとなくほっぺを引っ張ってみたが、痛みは一つもない。

 どうも夢っぽい。

 

 

「夢なのか。これ?」

「夢だよ、これ」

「……!? だ、誰だ!?」

 

 

 聞き慣れない男の声に振り返ると、そこには髪の長い陰険そうな男が突っ立っていた。

 

 素っ裸で。

 

 

「へ、変態だーッ!!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、別に裸なのは俺だけじゃない」

「え」

 

 

 その言葉に辺りを見渡すが、俺たち以外に人はいない。

 

(と、言うことは?)

 

 自分の体を見ると、布一つ纏っておらず、同じく素っ裸であった。

 変態男児二人、あまりにも悲惨な光景である。

 

 俺は数分間の思考の後、一つの答えを編み出した。

 

 

「……よし。俺は今から死ぬ」

「な、なかなか思い切りがいいね!? でも、死んでもらうと、こ、困るんだよ、僕が」

 

 

 目の前の男がそう言うと、突然ビリっと全身に仄かな痛みのようなものが走る。

 さっきは感じなかった痛みに驚くと同時に、俺の身体が突然硬直する。

 

(な、なんだ……!? 口以外が、動かせない……!?)

 

 マジで死のうとは思ってはいなかったが、まさか身体が動かなくなるとは……。

 

 

「あの、身体が、動かないのですが……」

「それは、だって、僕が止めたからね」

「すごいな。夢を操れるのか?」

「違うさ。これは僕の能(・)力(・)だよ」

「……能力? ……待てよ、お前の顔、どっかで……」

 

 

 目を細めて男の顔を凝視する。

 あの大雑把に長い髪、陰険そうな雰囲気、そして吃ったような話し方。

 

 ……あ。

 

 

「お、思い出した!! お前アレだ! ガブリエラちゃんの眷属!!」

「……まぁ、未来の話、だけどね」

 

 

 ガブリエラ・アッシュバルト。

 彼女は主人公に戦いを挑んだが、そこには一人だけ彼女に付き従うものがいた。

 

 それが目の前の名前すら明かされなかった男。

 同調率がどうのこうのってやつで、自然な形で眷属になったらしい。

 ちょっと出てきて主人公に殴り飛ばされ、そのままフェードアウトした可哀想な奴、ってことだけは覚えている。

 

 ちなみに眷属っていうのは、契約に基づいて魔王候補者に従う者のことを指す。

 

 ともかく。

 それなら身体が動かなくなった理由にも納得がいく。

 何故ならやつは彼女と出会う前に一つの能力を持っていたからだ。

 

(生体電気操作……確か名前は『雷疾装(ライトニング・ライン)』、だっけ)

 

 自身の身体に走る生体電気を操ることで、身体能力を強化したり、さっきみたいに他人の生体電気を操ることで動きを止めたりできるらしい。

 

(……なるほど、ラノベの見すぎで頭がおかしくなったらしい)

 

 まさか架空の人物がこうして目の前に立つなんて。

 お互い素っ裸っていうのも実に夢らしい。

 

 

「嫌な夢だな、これ……」

「ゆ、夢だけど、夢じゃないさ。僕が用意してもらった、舞台、だからね」

「ぶ、舞台? 何言って……」

 

 

 ふと、気づいた。

 

 遥か遠くの方、何か二つの目のようなものが浮いている。

 影も形もないと言うのに、目だけは浮いているのがなんとも気味が悪い。

 ギョロギョロと奇妙に動くそれは俺たちを視界の中に捕らえていた。

 

 

「彼は、長引くのが、き、嫌いらしい」

「だ、誰か、教えてもらっても?」

「……まぁ、シンプルに言えば、僕の雇い主、ってところかな?」

 

 

 何がなんだかわからないが、全身の本能が告げている。

 アレはダ(・)メ(・)だ(・)、見ちゃいけない。

 関わってはいけない。

 

 今すぐ、目覚めるべきだ、と。

 

 だが身体は動かないし、目覚める気配もない。

 試しにもがこうとしてみるも、身体は一片たりとも動く気配なし。

 

 何もできそうにない。

 

(今……今できることはなんだ? 俺にできることを探せ。脱出を……ここから出るための方法を……!)

 

 

「や、雇い主って、どういうことなんだ?」

「どうもこうもないさ。僕は願った、未来を捻じ曲げる力を。だが、彼は言った、それはお前にとって重すぎると」

「……じゃあ、お前はどうするって言うんだ?」

「後は託すのみだよ。僕はこの魂を捧げる。だから後は君(・)が(・)や(・)る(・)ん(・)だ(・)」

 

 

 異質なその覇気に気圧され、俺は唾を飲み込む。

 何か言おうとするが言葉が続いてこない。

 

 

「……任せるよ。君に」

「お、おい! ちょ、ちょっと待て!! なんなんだよ!? どういうことだ!?」

「英雄譚は此処から始まる。どうか、君の持ちうる全てを使って、彼の与えた力と共に、彼女を、救って、くれ」

 

 

 今更慌てても時既に遅く、だんだんと瞼が落ちてくる。

 眠たいとはまた別の、何か強制的に意識が失っていく感覚。

 

 落ちる瞼の中、足元から光の粒となって消滅していくやつを見ながら、俺は小さく「くそったれ」と呟く。

 

 そんな俺に奴は悔しそうに笑いながら──

 

 

「ああクソ、羨ましいよ」

 

 

 そんな言葉とともに俺の意識は深く落ちるのだった。

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