転生した俺が負けヒロインを泣かせるまで 作:のめりー
「ッ!? こ、ここは……! 夢から、覚めた、のか……?」
目が覚めた俺は、全身に纏わりつく嫌な汗と共に、身体を起こして周りを見渡す。
「俺の部屋じゃ、ない……?」
見覚えのない部屋に、夢の中での言葉が色濃く蘇る。
後を託すだの、後は君がやるんだ、だの。
もしその言葉、全てが現実のものだとして。
俺はもしかして──
嫌な予想とともに身体を起こし、部屋の中で見つけた全身鏡の前へと向かう。
こういうときの予想というのはよく当たるもので、俺は鏡の前に立って息を呑んだ。
何故なら鏡に映ったのは俺ではなく、先ほどの夢の中で俺の身体を止めたあの男、名前すらないモブだったからだ。
「なるほどな、こういうことかよ……ッ!」
アレは全て、夢であって夢ではなかった。
それはつまり、転生をした──いや、憑依のほうが近いかもしれない。
何にせよ俺は今、全く別人の身体になっている。
髪は長いし陰気臭いが、身体は軽いし、なんか全身ピリピリしている。
恐らくピリピリは能力影響だろうか。
「……てかこうやってみたら、こいつちょっと茶髪寄りなんだな」
改めて見ると、顔はそんなに悪くないように見える。
どちらかと言えば問題はこの陰気臭さだ。
……一旦その辺りは後でどうにかするとして。
冷静に考えてみると、だ。
実はこの身体になったのって、そんなに悪いことではないんじゃないだろうか。
なんせここはあのラノベ、ダクブレの世界だ。
俺はそんな世界にモブとは言え存在している。
それ即ち、原作のキャラ、ヒロインや主人公、そして俺の推しに出会うことができるってわけだ。
しかも俺はその推しに付き従っていたモブ。
これ以上にないくらい最高の立ち位置だ。
一瞬で退場することを除けばな。
ふと、そこで一つ気になった。
(今日って何日だ? もし8月とかだと、普通に負けて終わってるぞ……)
カレンダーを見ると、4月の中頃に丸がしてあった。
それ以前は全てバツ印が書かれている。
意外とマメなやつだったらしい。
だがおかげで今日が何日かわかった。
「4月中旬ってことは、主人公が目覚めてすぐぐらいか。なら俺がそもそも眷属になっていない可能性があるな」
魔王候補選定戦……つまり推しと主人公が戦うのは4月の末頃。
それを考えれば今がどういう時期か考えるのは容易い話だった。
だが気にかかることが一つ。
「……そういや、あいつまるで、未来のことを知っているようだったな」
あいつは言った、彼女を救ってくれ、と。
(つまり、あいつはガブリエラの結末を知った? 知ったことで、やつは未来を変えることを願った? となれば、その契機は……)
恐らく、と思い出すのはあの『目』。
宙に浮かぶ奇妙な二つの目のことだった。
(やつが彼──今の俺に未来を教えたか、それとも別の理由か……どちらにしろ、転生にはやつが絡んでいるに違いない)
だがそれを考えたところで現状どうにかなる、というものでもない。
俺のできることと言えば、ただ一つ。
「……託されたし、個人的にも救いたいしな」
俺はこの身体で生きる。
これから先のことを知っている俺なら、未来を変えていける。
目指す目標はただ一つ、俺の推しガブリエラ・アッシュバルトを救い、未来を捻じ伏せた上でこの世界を本編通りに終わらせる。
「……長い道のりにはなるな、間違いなく」
決意を新たにした俺は、近くの勉強机からハサミを手に取る。
そして鏡の前に立つと、その長い髪を切り落とし始めた。
前髪は視界を遮らないように、後髪はある程度短く。
そうやって切り終えた俺は鏡を見る。
(なんか髪がちょっとツンツンしてんな……伸びてたから重さに持っていかれてたのかな)
なんて考えながら、もはや別人のように見える俺の姿をまじまじと見つめた。
ちなみに後髪は失敗するのが怖くて、少し長いためゴムで一本に束ねている。
装いを新たにし、時計を見ると時間は大体午後5時頃。
だんだんと暗くなっていくような時間帯だ。
しかしまだ、やることはある。
「取り敢えず部屋の整理と、俺の周囲の状況の確認だな」
と、言うわけで。
俺はそこから1時間ほど、スマホを見たり部屋をひっくり返したりして、自らの置かれている状況を確認した。
それでわかったことが幾つか。
俺の名前は『
スマホの履歴から友だちとかがいないわけでもなく、だからといって女っ気があるわけでもなく。
平凡普通なオタク高校生って感じだ。
なんか親近感あるな。
そして俺は今、一人暮らしをしているらしい。
お金に関しては実家からの仕送りがあるため問題はなく、家賃も実家から払われているようだ。
ちなみに学年は二年生、見事に前世と一致している。
二年生なりたて、ということもあり、少なくとも勉強にはついていけそうだ。
(後は家族とかの情報諸々だが……まぁ、ここは追々確認していけばいいだろう)
一先ず一旦、確認すべきところとしてはこんなところだろう、と区切りをつけ、俺は自らの手のひらを見つめる。
なんとなくだが、わかる。
俺の持つ『能力』の使い方が。
試しにと手のひらに電気を流して見た。
が、表面的には変化はない。
動きが速くなった、なんて感覚もない。
「……実戦形式じゃないとわかんねぇか」
能力が不発に終わったことを残念に思いながらも、俺は机の下から新しいノートを一冊取り出して勉強机に置く。
そしてマーカーを使って一筆、『攻略本』と書き記した。
あのラノベの知識、アニメで補完された内容や、外伝で追加された物語、アニメで展開されたifストーリー。
その全ては頭の中に叩き込まれているが、いつ思い出せるかわからない。
だからまずはここに書く。
俺しか知らない情報、俺だけが知っている未来のことを。
そして備えるんだ、明日から始まる学園での物語に。
俺は救ってみせる。
俺の持ちうる全てを使って、あの子に訪れる未来を。
捻じ曲げてみせる。
「……そうと決まれば、さっさとやっちゃうか!」
そうして俺は就寝時間が来るまで、飯を食べることもなく、ただひたすらに物語を思い出してはノートに書き記したのだった。