転生した俺が負けヒロインを泣かせるまで   作:のめりー

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第二話∶心機一転

「ッ!? こ、ここは……! 夢から、覚めた、のか……?」

 

 

 目が覚めた俺は、全身に纏わりつく嫌な汗と共に、身体を起こして周りを見渡す。

 

 

「俺の部屋じゃ、ない……?」

 

 

 見覚えのない部屋に、夢の中での言葉が色濃く蘇る。

 後を託すだの、後は君がやるんだ、だの。

 

 もしその言葉、全てが現実のものだとして。

 俺はもしかして──

 

 嫌な予想とともに身体を起こし、部屋の中で見つけた全身鏡の前へと向かう。

 こういうときの予想というのはよく当たるもので、俺は鏡の前に立って息を呑んだ。

 

 何故なら鏡に映ったのは俺ではなく、先ほどの夢の中で俺の身体を止めたあの男、名前すらないモブだったからだ。

 

 

「なるほどな、こういうことかよ……ッ!」

 

 

 アレは全て、夢であって夢ではなかった。

 

 それはつまり、転生をした──いや、憑依のほうが近いかもしれない。

 何にせよ俺は今、全く別人の身体になっている。

 髪は長いし陰気臭いが、身体は軽いし、なんか全身ピリピリしている。

 

 恐らくピリピリは能力影響だろうか。

 

 

「……てかこうやってみたら、こいつちょっと茶髪寄りなんだな」

 

 

 改めて見ると、顔はそんなに悪くないように見える。

 どちらかと言えば問題はこの陰気臭さだ。

 

 ……一旦その辺りは後でどうにかするとして。

 

 冷静に考えてみると、だ。

 実はこの身体になったのって、そんなに悪いことではないんじゃないだろうか。

 

 なんせここはあのラノベ、ダクブレの世界だ。

 俺はそんな世界にモブとは言え存在している。

 

 それ即ち、原作のキャラ、ヒロインや主人公、そして俺の推しに出会うことができるってわけだ。

 

 しかも俺はその推しに付き従っていたモブ。

 これ以上にないくらい最高の立ち位置だ。

 

 一瞬で退場することを除けばな。

 

 ふと、そこで一つ気になった。

 

(今日って何日だ? もし8月とかだと、普通に負けて終わってるぞ……)

 

 カレンダーを見ると、4月の中頃に丸がしてあった。

 それ以前は全てバツ印が書かれている。

 

 意外とマメなやつだったらしい。

 

 だがおかげで今日が何日かわかった。

 

 

「4月中旬ってことは、主人公が目覚めてすぐぐらいか。なら俺がそもそも眷属になっていない可能性があるな」

 

 

 魔王候補選定戦……つまり推しと主人公が戦うのは4月の末頃。

 それを考えれば今がどういう時期か考えるのは容易い話だった。

 

 だが気にかかることが一つ。

 

 

「……そういや、あいつまるで、未来のことを知っているようだったな」

 

 

 あいつは言った、彼女を救ってくれ、と。

 

(つまり、あいつはガブリエラの結末を知った? 知ったことで、やつは未来を変えることを願った? となれば、その契機は……)

 

 恐らく、と思い出すのはあの『目』。

 宙に浮かぶ奇妙な二つの目のことだった。

 

(やつが彼──今の俺に未来を教えたか、それとも別の理由か……どちらにしろ、転生にはやつが絡んでいるに違いない)

 

 だがそれを考えたところで現状どうにかなる、というものでもない。

 

 俺のできることと言えば、ただ一つ。

 

 

「……託されたし、個人的にも救いたいしな」

 

 

 俺はこの身体で生きる。

 これから先のことを知っている俺なら、未来を変えていける。

 

 目指す目標はただ一つ、俺の推しガブリエラ・アッシュバルトを救い、未来を捻じ伏せた上でこの世界を本編通りに終わらせる。

 

 

「……長い道のりにはなるな、間違いなく」

 

 

 決意を新たにした俺は、近くの勉強机からハサミを手に取る。

 そして鏡の前に立つと、その長い髪を切り落とし始めた。

 

 前髪は視界を遮らないように、後髪はある程度短く。

 そうやって切り終えた俺は鏡を見る。

 

(なんか髪がちょっとツンツンしてんな……伸びてたから重さに持っていかれてたのかな)

 

 なんて考えながら、もはや別人のように見える俺の姿をまじまじと見つめた。

 

 ちなみに後髪は失敗するのが怖くて、少し長いためゴムで一本に束ねている。

 

 装いを新たにし、時計を見ると時間は大体午後5時頃。

 だんだんと暗くなっていくような時間帯だ。

 しかしまだ、やることはある。

 

 

「取り敢えず部屋の整理と、俺の周囲の状況の確認だな」

 

 

 と、言うわけで。

 俺はそこから1時間ほど、スマホを見たり部屋をひっくり返したりして、自らの置かれている状況を確認した。

 

 それでわかったことが幾つか。

 俺の名前は『景山 裕市(かげやま ゆういち)』と言うらしい。

 スマホの履歴から友だちとかがいないわけでもなく、だからといって女っ気があるわけでもなく。

 

 平凡普通なオタク高校生って感じだ。

 なんか親近感あるな。

 

 そして俺は今、一人暮らしをしているらしい。

 お金に関しては実家からの仕送りがあるため問題はなく、家賃も実家から払われているようだ。

 

 ちなみに学年は二年生、見事に前世と一致している。

 二年生なりたて、ということもあり、少なくとも勉強にはついていけそうだ。

 

(後は家族とかの情報諸々だが……まぁ、ここは追々確認していけばいいだろう)

 

 一先ず一旦、確認すべきところとしてはこんなところだろう、と区切りをつけ、俺は自らの手のひらを見つめる。

 

 なんとなくだが、わかる。

 俺の持つ『能力』の使い方が。

 

 試しにと手のひらに電気を流して見た。

 が、表面的には変化はない。

 動きが速くなった、なんて感覚もない。

 

 

「……実戦形式じゃないとわかんねぇか」

 

 

 能力が不発に終わったことを残念に思いながらも、俺は机の下から新しいノートを一冊取り出して勉強机に置く。

 そしてマーカーを使って一筆、『攻略本』と書き記した。

 

 あのラノベの知識、アニメで補完された内容や、外伝で追加された物語、アニメで展開されたifストーリー。

 その全ては頭の中に叩き込まれているが、いつ思い出せるかわからない。

 

 だからまずはここに書く。

 俺しか知らない情報、俺だけが知っている未来のことを。

 

 そして備えるんだ、明日から始まる学園での物語に。

 

 俺は救ってみせる。

 俺の持ちうる全てを使って、あの子に訪れる未来を。

 捻じ曲げてみせる。

 

 

「……そうと決まれば、さっさとやっちゃうか!」

 

 

 そうして俺は就寝時間が来るまで、飯を食べることもなく、ただひたすらに物語を思い出してはノートに書き記したのだった。

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