魔法なんて、使えないけれど   作:dorakoishi

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11. 優しい人の困った顔

その日の放課後。

 

私は、昇降口で悠人君を待っていた。

 

一緒に帰る約束をしていたのだ。

 

教室から出てくる人の流れを眺めながら、私は鞄の持ち手を握り直した。

 

今日、彼に話そう。

 

朝のこと。

 

ノートのこと。

 

優香のこと。

 

今までだったら、たぶん話さなかったと思う。

 

心配をかけたくない。

 

面倒だと思われたくない。

 

そんなことを考えて、結局は自分一人で抱え込んでしまう。

 

でも、昨日、彼は言ってくれた。

 

何かあったら言ってほしい、と。

 

なら、少しくらい頼ってもいいのかもしれない。

 

そんなことを考えていると、悠人君がやってきた。

 

「ごめん、待った?」

 

「ううん。今来たところ」

 

本当は、少し前から待っていた。

 

けれど、こういうときは、そう答えるものなのだろう。

 

二人で校門を出る。

 

帰り道は、いつもと同じだった。

 

駅まで歩いて、途中の交差点を曲がって。

 

けれど、今日は少しだけ話しにくかった。

 

「……悠人君」

 

「ん?」

 

「あのさ……」

 

私は、言葉を探した。

 

「最近、ちょっと……嫌なことがあって」

 

彼は、すぐにこちらを向いた。

 

「嫌なこと?」

 

「……うん」

 

私は、鞄の中からノートを取り出した。

 

表紙に書かれた文字を見せる。

 

悠人君は、一瞬だけ黙った。

 

そして、眉をひそめた。

 

「……これ、誰が?」

 

「わからない」

 

「いつから?」

 

「今日の朝、教室に入ったら……」

 

言いながら、少しだけ声が小さくなった。

 

「……でも、たぶん、優香たちだと思う」

 

彼は、ノートを見つめたまま黙っていた。

 

怒っているのだと思った。

 

けれど、何に怒っているのかはわからなかった。

 

私に対してではない。

 

きっと、こんなことをする人たちに対してだ。

 

「……ごめんね」

 

気づけば、そんな言葉が口から出ていた。

 

「……え?」

 

悠人君は、驚いたように私を見た。

 

「どうして謝るの?」

 

「だって……」

 

私は、ノートを握りしめた。

 

「私が、ちゃんとしてないから……。もっと普通だったら、こんなことにならなかったのかもしれないし……」

 

言いながら、自分でも嫌になった。

 

何を言っているのだろう。

 

自分がされたことなのに。

 

どうして、自分が悪いのだと思ってしまうのだろう。

 

でも、そう考えなければ、どうにもならなかった。

 

優香が悪い。

 

周りが悪い。

 

そう思うだけでは、明日も同じことが続くという現実を受け止められない気がした。

 

だから、いつの間にか、自分の方を責めるようになっていたのだ。

 

悠人君は、しばらく何も言わなかった。

 

やがて、静かな声で言った。

 

「……魔理沙さん」

 

「……うん」

 

「それ、魔理沙さんが謝ることじゃないよ」

 

私は、顔を上げた。

 

「……でも」

 

「名前も、髪の色も、何も悪くないでしょ」

 

彼は、真っすぐに私を見ていた。

 

「誰かが気に入らないからって、こんなことをしていい理由にはならないよ」

 

「……」

 

「俺、こういうのは本当に嫌だ」

 

その言葉に、胸が締めつけられた。

 

うれしかった。

 

自分のことを、ちゃんと見てくれている。

 

私が悪いわけではないと、言ってくれる人がいる。

 

それだけで、心が少し軽くなった。

 

でも、同時に、怖くなった。

 

「……悠人君」

 

「うん?」

 

「……あんまり、私のことで怒らないで」

 

自分でも、変なことを言っていると思う。

 

けれど、本心だった。

 

彼にまで嫌な思いをしてほしくなかった。

 

「私、こういうのには慣れてるから……。悠人君まで、何か言われたら嫌だし」

 

そう言うと、彼は少しだけ困ったような顔をした。

 

「……慣れてるって、言わないでほしいな」

 

「……え?」

 

「本当は、慣れなくていいことだと思うから」

 

その言葉に、私は何も言えなかった。

 

彼は、私の手を取った。

 

「でも、わかった。俺も、魔理沙さんが嫌がるようなことはしないようにする」

 

「……うん」

 

「ただ、何かあったら教えてほしい。何も知らないままだと、俺もどうしたらいいかわからないから」

 

私は、小さく頷いた。

 

「……わかった」

 

その返事は、今までよりも少しだけ素直なものになった。

 

この人に頼ってもいいのかもしれない。

 

そう思えた。

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