魔法なんて、使えないけれど   作:dorakoishi

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13. それでも、好きだから

その日の帰り道。

 

私は、悠人君と一緒に歩いていた。

 

優香に言われたことが、ずっと頭から離れなかった。

 

朝倉君は、優しい。

 

誰にでも親切。

 

私を好きなのではなく、かわいそうだと思っているだけ。

 

そんなこと、気にしなければいい。

 

優香が何を言おうと、私と悠人君のことなのだから。

 

わかっている。

 

わかっているのに。

 

一度頭に入ってしまうと、どうしても考えてしまう。

 

本当は、彼もそう思っているのではないか。

 

私が一人でいるから、放っておけないだけなのではないか。

 

いつか、私が普通に友達を作れるようになったら。

 

私が、彼に頼らなくても平気になったら。

 

そのとき、彼は私の隣にいてくれるのだろうか。

 

「……魔理沙さん?」

 

悠人君の声で、私は我に返った。

 

「……え?」

 

「さっきから、ずっと黙ってるけど……何かあった?」

 

私は、少しだけ迷った。

 

言ってしまっていいのだろうか。

 

こんなことを言ったら、面倒だと思われるかもしれない。

 

でも、玲夢と約束したばかりだ。

 

一人で抱え込まない。

 

私は、小さく息を吐いた。

 

「……今日、優香に会ったんだ」

 

「……風見さん?」

 

「うん」

 

私は、彼女に言われたことを話した。

 

自分がどう思われているのか。

 

悠人君が、私のことをかわいそうだと思っているだけなのではないか。

 

そんなふうに言われたこと。

 

話し終える頃には、少しだけ声が震えていた。

 

悠人君は、黙って聞いていた。

 

そして、しばらくしてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「……そっか」

 

「……うん」

 

「それで、魔理沙さんはどう思ったの?」

 

私は、俯いた。

 

「……わからない」

 

それが、本当の答えだった。

 

信じたい。

 

彼が私を好きだと言ってくれたことを。

 

一緒にいたいと言ってくれたことを。

 

でも、どうしても怖くなってしまう。

 

彼が優しいことを、私は知っている。

 

だからこそ、彼の優しさが、恋愛感情とは別のものなのではないかと思ってしまう。

 

「……ごめんね」

 

また、謝ってしまった。

 

「こういうことばっかり言って……」

 

悠人君は、少しだけ困ったように笑った。

 

「……魔理沙さん」

 

「……うん」

 

「俺、前にも言ったと思うんだけど」

 

彼は、足を止めた。

 

私も、立ち止まる。

 

「俺は、魔理沙さんと一緒にいたいから、一緒にいるんだよ」

 

「……」

 

「かわいそうだからとか、そういう理由じゃない」

 

彼は、少しだけ照れくさそうに頭を掻いた。

 

「正直、俺だって、そんなに器用な人間じゃないし。魔理沙さんが何を考えてるのか、全部わかるわけでもない」

 

「……うん」

 

「でも、わからないなら聞けばいいと思ってるし、困ってたら一緒に考えたいと思ってる」

 

彼は、私を見つめた。

 

「それが、俺の好きってことなんだと思う」

 

私は、何も言えなかった。

 

胸の奥が、じんわりと熱くなっていく。

 

「……だから、俺がどう思ってるか気になるなら、何度でも聞いていいよ」

 

「……何度でも?」

 

「うん」

 

彼は笑った。

 

「そのたびに、ちゃんと答えるから」

 

私は、思わず顔を伏せた。

 

……ずるい。

 

そんなことを言われたら、また好きになってしまうじゃないか。

 

いや、もう十分に好きなのだけれど。

 

「……悠人君」

 

「うん?」

 

「……私、面倒くさい女かもしれない」

 

そう言うと、彼は少しだけ驚いたあと、笑った。

 

「そうかな?」

 

「そうだよ。すぐ不安になるし、考えすぎるし……」

 

「うーん」

 

彼は、少し考えるように視線を上げた。

 

「じゃあ、俺も面倒くさい男かもしれないね」

 

「……え?」

 

「だって、魔理沙さんが不安になってるのに、全部すぐ解決してあげられるわけじゃないから」

 

彼は、困ったように笑った。

 

「でも、二人で考えることはできるでしょ」

 

私は、顔を上げた。

 

彼は、いつもどおりの顔をしていた。

 

特別なことを言っているつもりもないのだろう。

 

ただ、当たり前のことを話すように、そう言った。

 

そのことが、何よりもうれしかった。

 

「……うん」

 

私は、小さく頷いた。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

彼は、そっと私の手を取った。

 

その温かさに、私は少しだけ安心した。

 

まだ、不安はなくならない。

 

きっと、これからも何度も悩むのだろう。

 

優香に何か言われれば、また傷つくかもしれない。

 

それでも。

 

私には、話を聞いてくれる人がいる。

 

一緒に考えてくれる人がいる。

 

そのことを、忘れないようにしたいと思った。

 

*

 

家に帰ると、私は鞄を置いて、ベッドに腰を下ろした。

 

スマートフォンを取り出す。

 

玲夢からメッセージが届いていた。

 

『今日、何かあった?』

 

私は、少しだけ笑った。

 

本当に、この子はよく気づく。

 

『ちょっとね。でも、悠人君に話したよ』

 

そう送ると、すぐに返事が来た。

 

『そっか。ちゃんと話せたならよかった』

 

続けて、もう一通。

 

『何かあったら、私にも言いなさいよ』

 

私は、画面を見つめた。

 

それから、ゆっくりと文字を打った。

 

『うん。ありがとう』

 

送信する。

 

スマートフォンを机の上に置き、私は窓の外を眺めた。

 

空は、いつの間にか暗くなっていた。

 

明日も学校がある。

 

また優香に何か言われるかもしれない。

 

また、嫌なことが起きるかもしれない。

 

それでも、明日になれば、悠人君に会える。

 

玲夢にも会える。

 

そのことが、今の私には支えだった。

 

『……頑張ろう』

 

小さく呟く。

 

自分に言い聞かせるように。

 

けれど、その言葉には、ほんの少しだけ力がこもっていた。

 

夏休みが終わってから、私の日常は、確かに少しずつ変わり始めていた。

 

幸せな時間が増えた分、失うことが怖くなった。

 

大切な人ができた分、傷つけたくないと思うようになった。

 

そして、誰かに頼ることの意味を、少しずつ知り始めていた。

 

この先、何が起こるのかはわからない。

 

ただ、今の私は、まだ前を向いていた。

 

大切な人たちと一緒に、明日を迎えたいと思っていた。

 

その気持ちだけは、確かなものだった。

 

 

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