ぼんやりと過ごしていると、お昼休みの時間がやってきていた。
聞いてもらってわかるように、私には友人がほとんどいない。
いじめられている子の周りに集まれば、自分までいじめられるかもしれない。
そういう恐怖もあるのだから、当然と言われれば当然なのかもしれない。
そんな中でも、他クラスではあるけれど、唯一心を許している人物がいる。
彼女の名前は博麗玲夢。
非常に正義感の強い人物で、私がいじめられているところを何度か助けてもらったことまである。
お昼休みになると、そこそこの頻度でおしゃべりをする。
今日も、私のクラスの教室前で話していた。
「……ってことがあってね。さすがにひどいと思わない?」
玲夢は少し呆れたように笑いながら話していた。
正直、話の内容そのものはどうでもよかった。
笑顔で話してくれる玲夢の姿を見ると、私は救われたような気持ちになる。
「うん……それはひどいと思う」
本心からの返事ではあるけれど、玲夢からすれば少し淡白に感じる返し方だったかもしれない。
「……ねえ、アンタ」
「ん?」
「今日、なんか変じゃない?」
「そうかな?」
「そうよ。さっきから、ずっと上の空じゃない」
やっぱり、この子は鋭い。
私の心なんて全て見透かしていると言わんばかりの口ぶりで聞いてくる。
この子の前では、隠し事なんて一生できないんだろうな。
……なんてね。
「ねえ。もしかして、あの人のこと?」
「……えっ?」
思わず声が裏返った。
「図星じゃない」
玲夢は、にやりと笑った。
「な、何のことだよ」
「はいはい。じゃあ、朝倉君のことじゃないのね?」
「なっ……!」
顔が熱くなった。
どうしてこの子は、こういうときだけ妙に察しがいいのだろう。
「へえ。違うんだ?」
「ち、違うとは……言ってないけど」
「じゃあ、好きなの?」
「…………」
答えられなかった。
けれど、沈黙は何よりも雄弁だったらしい。
玲夢は一瞬驚いた顔をしたあと、少しだけ表情を和らげた。
「そっか」
「……笑わないの?」
「何でよ。好きな人くらいいるでしょ、普通」
その言い方があまりにも当たり前だったので、私はかえって戸惑ってしまった。
私が誰かを好きになること。
誰かに恋をすること。
それは、私にも許されることなのだろうか。
「……でもさ」
私は、少しだけ声を落とした。
「私なんかが好きになったって、迷惑じゃないかな」
玲夢の表情が変わった。
「どうしてそう思うの?」
「だって、私……」
言葉が出てこなかった。
いじめられているから。
名前が変だから。
風見優香に目をつけられているから。
そんな私が、普通の恋愛なんてしてもいいのだろうか。
悠人と一緒にいることで、彼まで何か言われるようになったら。
もし彼が私と話していることを理由に、嫌な思いをするようになったら。
考えれば考えるほど、何もできなくなってしまう。
「……アンタさ」
玲夢は、ため息をついた。
「また、一人で悪い方に考えてるでしょ」
「……」
「まだ何も起きてないじゃない」
彼女は私の顔をまっすぐ見つめた。
「朝倉君がどう思ってるかもわからない。アンタと話したいと思ってる理由だって、本人にしかわからない。それなのに、勝手に迷惑だとか決めつけるのは違うんじゃない?」
「……そう、だけど」
「それにね」
玲夢は、少しだけ声を柔らかくした。
「アンタが誰かを好きになることまで、風見さんたちに決められる筋合いなんてないでしょ」
私は、何も言えなかった。
本当に、そのとおりだったから。
「何かあったら、私に言いなさいよ。アンタ一人で抱えることじゃないんだから」
「……うん」
返事は、少し弱々しいものになってしまった。
それでも、玲夢はそれ以上何も言わず、私の肩を軽く叩いてから、自分の教室へ戻っていった。
一人になった私を、また何人かの視線が捉える。
誰かが笑っている。
けれど、今日はいつもほど気にならなかった。
玲夢の言葉が、頭の中に残っていたからだ。
――アンタが誰かを好きになることまで、決められる筋合いなんてない。
私は、小さく息を吐いた。
もしも。
もしも、悠人が私のことを好きになってくれたら。
そんな都合のいいことを考えてしまう自分が、少しだけ嫌になった。
でも、少しだけ。
ほんの少しだけ、期待してしまっていた。