ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 作:わたあめ丸
翌朝。
346プロダクションの事務所には、いつもより少し賑やかな声が響いていた。
「――で、シンさん! 昨日の番組、観ました!?」
開口一番、そう尋ねてきたのは島村卯月だった。
その隣には、本田未央と渋谷凛。三人はモロボシ・シンのいる事務所へ顔を出していた。
「……昨日の番組?」
「ほら、あの特別番組です! 銀色の巨人の正体についてあれこれ話していた!」
「ああ……」
シンは、わずかに顔をしかめた。
昨夜、スマホでネットサーフィンをしていた所、見覚えのある自分の姿が画面に流れて来た。何やら、番組の最後にはメトロン星人が堂々と登場し、自分を名指しして話がしたいなどと言い出したらしい。
おかげで、今朝のニュースもその話題で持ちきりだった。
「いやー、びっくりしたよね! まさか、あの巨人の名前がウルトラマンゼロだったなんて!」
「お前、知ってただろうが!」
悪びれもせず、未央は笑う。
「しかも、セブンの息子! いやー、すごいよねぇ。ゼロってば、そんなすごい人だったんだー」
「棒読みで言うんじゃねえ!」
「えー? 私は純粋に感動してるだけだよ?」
「どの口が言ってんだ!」
未央は楽しそうに笑い、卯月も口元を押さえて微笑んだ。凛は呆れたように息を吐いているが、その表情にもどこか楽しげなものがあった。
「未央、あんまりゼロをからかわないであげてよ」
「しぶりん、私は事実を確認しているだけであります!」
「どこの記者だ、お前は……」
シンは未央にデコピンを喰らわせる。
「イテッ!」
「ふふ…でも、あのメッセージをどうするの」
凛が声を潜めた。
「メトロン星人が、わざわざテレビを乗っ取ってまで呼びかけてきた。あれはどう考えても、ゼロをおびき出すための行動でしょ」
「そうだな」
シンの表情から、先ほどまでの軽さが消えた。
「ただの悪ふざけなら、あそこまで手の込んだことはしねえ。俺に何か用があるのは間違いねえだろうな」
「でも、メトロン星人って、前にゼロさんのお父さんと戦った宇宙人なんですよね?」
卯月が尋ねる。
「ああ。親父と因縁がある相手だ。もっとも、メトロン星人も色々いるしな、あいつが何を考えてるのかは、まだ分からねえ」
「ちゃぶ台を囲んで話したい、だっけ?」
未央が吹き出した。
「宇宙人からそんなお誘いが来るなんて、さすがゼロ! 交友関係がグローバルというか、宇宙規模というか!」
「俺だって、あんな招待状は初めてだよ!」
「でも、ちゃぶ台って庶民的なお誘いと言うか……。ふふっ、宇宙人さんが言うとなんだか可愛らしいお誘いですね」
「卯月まで笑うな!」
三人の笑い声が重なる。
三人の笑顔に釣られる様にシンも笑みを浮かべるがすぐに険しい顔で腕を組んだ。
メトロン星人の真意が分からない以上、警戒するに越したことはない。
アイツは侵略の意思は無いと言ったが、あの放送だけで何かが起こるとも限らない。
こちらから探しに行くべきか。それとも、相手が接触してくるのを待つべきか。
そんなことを考えていた、その時だった。
少し離れたデスクで、電話対応をしていたちひろが、ふと動きを止めた。
「……はい。ええ、346プロでございます。……はい?」
普段は明るく、てきぱきと仕事をこなす彼女が、珍しく言葉を切った。
「円谷プロダクション様……ですか?」
その社名が聞こえた瞬間、シンの眉がぴくりと動いた。
卯月たちも顔を見合わせる。
円谷プロ。
ウルトラマンをはじめとする数々の特撮作品を制作している日本が誇る偉大な会社だ。
この世界でウルトラマンがテレビ番組として存在している以上、その会社も当然存在している。そして、ウルトラマンが現実に出現して以来、円谷プロの名前は毎日のようにニュースやネット記事で取り上げられていた。
しかし、なぜ今、その会社から346プロに電話が?
「……はい。ええ、確かに弊社のプロデューサーですが……」
ちひろは相手の話を聞きながら、手元のメモに何かを書き込んでいく。
そして。
「えっ!?」
思わず声を上げた。
その場にいたスタッフが何事かと振り返る。
ちひろは慌てて口元を押さえたものの、電話の向こうから告げられた内容に驚いているのは明らかだった。
「い、いえ、失礼いたしました。……はい。モロボシ・シンさん、ですね?」
名前を呼ばれたシンは、露骨に嫌そうな顔をした。
未央がその顔を見て、何かを察したように口元を押さえる。
「……はい。承知いたしました。詳しいお話は、直接お伺いしてからということで……。分かりました。本日中ですね。こちらで調整いたします」
電話を切る。
ちひろはしばらく受話器を見つめていたが、やがてゆっくりとシンの方を向いた。
「シンさん」
「……なんでしょう?」
「お仕事のご指名が入りました」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出た。
ーーーーーーー
「円谷プロダクションから、ですか?」
数分後。
シンとニュージェネレーションの三人は、ちひろのデスクの近くに集まっていた。
ちひろは電話で受けた依頼について、手元のメモを確認しながら説明を始めた。
「はい。先方から、ぜひシンさんご本人にお会いしたいと連絡がありました」
「俺に?」
「ええ。理由については、電話では詳しく教えていただけませんでした。ただ、先方のお話によると、シンさんと直接お話ししたい方がいらっしゃるそうです」
「……誰だよ、そいつ」
「それも、実際にお会いしてからとのことです」
シンは黙り込んだ。
円谷プロが自分を指名する。
昨日、メトロン星人がテレビ番組に乱入し、自分の名前を口にした。その直後に、今度は円谷プロから直接会いたいという連絡が入った。
偶然にしては、出来すぎている。
「それで、依頼の内容は?」
「はい。先方からは、このように伝えられています」
ちひろはメモを読み上げた。
「『モロボシ・シンさんと、ぜひ会っていただきたい方がいます。どうか来ていただけないでしょうか。その代わりと言っては何ですが、今度撮影する特撮番組に、モロボシ・シンさんと関わりの深い、御社のアイドル数名を起用したいと考えています』……とのことです」
「……アイドルを?」
「はい。さらに、『お受けいただくにしろ、お断りいただくにしろ、本日中に弊社までお越しいただきたい』と。それから、アイドルも三名ほど同行してほしいそうです」
「三人、ねえ……」
シンはニュージェネレーションの三人へ視線を向けた。
卯月はきょとんとした顔で自分たちを指差し、未央は目を輝かせている。凛はというと、すでに何かを考え込んでいた。
「つまり、私たちも一緒に行っていいってことですか?」
卯月が尋ねる。
「はい。先方も、そのように希望されています。もちろん、スケジュールの調整が必要ですが……」
「ええっ、特撮番組に出演!? すごいじゃん、しまむー! しぶりん!」
「まだ出演が決まったわけじゃないでしょ」
凛が冷静に突っ込む。
「でも、円谷プロだよ!? ウルトラマンの会社だよ!? これはもう、歴史的な一歩かもしれないよ!」
「未央、声が大きい」
「だってさあ!」
未央は興奮を隠しきれない様子だった。
アイドルとしてテレビ番組に出演する機会は珍しくない。しかし、特撮番組への出演となれば話は別だ。しかも、その相手は今話題のウルトラマンの制作会社である。
今の世間の注目度を考えれば、346プロにとっても大きな仕事になる可能性があった。
「先方からは、出演するアイドルの具体的な名前までは指定されていないんですか?」
凛が確認する。
「はい。ただ、シンさんと関わりの深いアイドル、という不思議な言い方をされていました」
「……なるほど」
凛はシンをちらりと見た。
その視線に、シンは小さく頷く。
円谷プロがわざわざ俺を指名し「会っていただきたい方がいる」と言い、さらに自分と関わりの深いアイドルを番組に起用したいと言ってきた。
どう考えても、普通の仕事の依頼ではない。ましてや、今日中に来てほしいという急な指定。
何かがある。シンの脳裏に、昨夜のテレビの内容がよみがえった。
大きな縫い目が顔面にある、メトロン星人。
『しばらくしないうちに君に招待状を送ろう』
シンは目を細めた。
――なるほどな。
胸の内で、答えが形になっていく。
メトロン星人が言っていた「招待状」とは、これのことではないのか。
もちろん、確証はない。
しかし、ここまで条件が重なっているのだ。無関係だと考える方が難しい。
「……シンさん?」
ちひろの声で、シンは我に返った。
「どうかされましたか? 何か気になることでも?」
「いや……」
シンは一瞬、言葉に詰まった。
ここで「メトロン星人からの招待状だ」と言うわけにはいかない。そもそも、ちひろはシンの正体を知らないのだ。
そして、ニュージェネレーションズの三人も、今ここで余計なことを口にするわけにはいかなかった。
「……ちょっと、急な話だと思っただけだ」
「確かに、突然のご依頼ではありますね」
ちひろは頷き、真剣な顔で続けた。
「ただ、円谷プロさんは今、世間から非常に注目されている企業です。先方がどのような意図でシンさんを指名されたのかは分かりませんが、弊社にとっても大きな機会になるかもしれません」
「そうだな」
「もちろん、無理にお受けいただく必要はありません。ただ、先方も本日中にお話ししたいとのことですので、一度お会いして、詳しい内容を確認してみるのがよいと思います」
ちひろはそう言って、柔らかく微笑んだ。
「シンさんにとっても、何か新しい手掛かりになるかもしれませんしね」
その言葉に、シンは少しだけ目を見開いた。
ちひろは、彼が記憶を失っているという話を信じている。だからこそ、この依頼がシンにとって何かの手掛かりになるかもしれないと考えてくれたのだろう。
もちろん、記憶喪失という話は未央が作り上げた嘘なのだが。
シンは小さく息を吐いた。
「……分かった。行ってみるよ」
「ありがとうございます。では、同行するアイドルについてですが……」
ちひろが三人へ視線を向ける。
「皆さん、今日の午後は予定が空いていますか?」
「私は大丈夫です!」
卯月がすぐに手を挙げた。
「私も問題ないよ」
凛も頷く。
「もちろん! むしろ、行かない理由がないよね!」
未央は勢いよく手を挙げた。
「円谷プロに行けるんだよ!? もしかしたら本物のウルトラマンの撮影現場が見られるかもしれないし! 怪獣の着ぐるみとか、変身アイテムとか、光線の演出とか!」
「未央、まだ何も決まってないから」
「分かってるって! でも、期待くらいしてもいいじゃん!」
「ふふっ。そうですね」
ちひろは楽しそうに笑った。
「では、同行する三名は卯月ちゃん、未央ちゃん、凛ちゃんということで午後のスケジュールを調整しておきます」
「はい!」
三人が声を揃えた。
こうして、円谷プロダクションへの訪問が決まった。
ーーーーーーー
それから少しして。
ちひろが別の仕事へ戻り、卯月たちも出発の準備について話し始めた頃。
未央がシンのそばへ寄り、周囲に聞こえない程度の声で囁いた。
「……ねえ、ゼロ」
「おい。今その呼び方をするな」
「はいはい、シンプロデューサー……で、どう思う?」
未央は、いつものふざけた表情を少しだけ引っ込めていた。
「昨日のメトロン星人、やっぱり関係あると思う?」
「間違いなく、何かしら関係してるだろうな」
シンは声を潜めて答えた。
「俺を指名したことも、アイドルを三人連れてこいって話も、偶然にしちゃ都合がよすぎる。あいつが言ってた招待状ってのは、たぶん今回のことだ」
「でも、どうして円谷プロなんでしょう」
卯月が小さな声で尋ねた。
「メトロン星人が円谷プロの人たちを操ってるとか?」
「そこまでは分からねえ。あいつが直接関わってるのか、それとも円谷プロの誰かがあいつと接触したのか……。どっちにしても、行って確かめるしかねえな」
凛は静かに落ち着いて語りかけてくる。
「相手が本当にメトロン星人なら、警戒した方がいいでしょ。お父さんと因縁がある人なんでしょ?」
「ああ。だからって、いきなり敵だと決めつけるつもりもねえけどな」
「……ゼロらしいね」
凛は小さく笑った。
「まずは話を聞く。それから判断するってこと?」
「そういうことだ。相手が何を考えてようが、地球の連中に迷惑をかけるつもりなら止める。そうじゃないなら、話くらい聞いてやるさ」
卯月も頷いた。
その時、未央が再びにやりと笑った。
「いやー、それにしてもさあ。円谷プロからご指名なんて、シンさんもすっかり有名人だね!」
「……だから、俺はそんなに有名じゃねえだろ」
「えー? 昨日の番組で名前が出て、今朝にはネットでも話題になってるんだよ? もしかしたら、サインを求められちゃうかも!」
「誰が誰にサインするんだよ!」
「そりゃあ、ウルトラマンゼロのウルトラサインでしょ!」
「だから、その名前を出すなっての!」
未央の声が少し大きくなり、シンは慌てて周囲を見回した。
幸い、近くにいたスタッフは別の話に夢中だったようだ。
「……ったく。お前、わざとやってんだろ」
「えへへ。シン、反応が面白いんだもん」
「この野郎……!」
「まあまあ、シンさん。未央ちゃんも悪気があるわけじゃないんですから」
「卯月、お前も甘やかすな!」
凛は呆れ顔のまま、二人のやり取りを眺めていた。
いつも通りの、騒がしい朝。だが、シンの胸の内には、確かな緊張があった。
メトロン星人は、なぜ自分と話したがっているのか。
なぜ、この世界の円谷プロを通じて接触しようとしているのか。
そして、彼が言う「招待状」の先には、何が待っているのか。
それを確かめるためにも、今日の訪問は避けられない。
シンは腕に装着したウルティメイトブレスレットへ、ちらりと目を落とした。
いざとなれば、戦う覚悟はできている。
しかし、できることならば――。
「……今回は、話し合いだけで済んでほしいもんだぜ」
こうして、ニュージェネレーションズの三人とシンは、謎めいた依頼を持ち込んだ円谷プロダクションへ向かうことになる。