ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS   作:わたあめ丸

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光の巨人

 時空の亀裂を抜けた先に広がっていたのは、上下も左右も定かではない、歪んだ空間だった。

 

「ぐっ……おおおおおっ!?」

 

 ゼロの身体が、無数の光の筋が入り乱れる渦の中を猛烈な勢いで流されていく。周囲では、見たこともない星々の光景が一瞬だけ映し出されては、次々と砕け散るように消えていった。

 

「チッ……! 流石プルトンの四次元空間か、ブラックホールより吹き荒れていやがるぜ!」

 

 体勢を立て直そうとするが、思うように身体が動かない。まるで巨大な手に掴まれ、見えない方向へと引きずり込まれているかのようだった。

 

 そもそも、ゼロは時空を超えること自体が初めてというわけではない。彼の持つ伝説の鎧、ウルティメイトイージスは次元を渡る力を持ち、異なる宇宙や次元を渡り歩く事は日常茶飯事、プルトンに巻き込まれるのも今回で2回目なのだが、今回の渦は明らかに異質だった。

 

 空間の流れが一定ではない。進んでいるはずなのに後方へ引き戻され、かと思えば、突然身体が何倍もの速度で押し流される。しかも、渦の内部には正体不明のエネルギーが満ちており、ゼロの身体から光を奪うように干渉していた。

 

「ぐっ……! この野郎、どこまで俺を引っ張り回す気だ……!」

 

 そのときだった。

 

 ピコン……ピコン……ピコン……!

 

 胸部に備わったカラータイマーが、警告音とともに赤く点滅し始めた。

 

「なっ……!?」

 

 ゼロは思わず自分の胸元に目を向ける。

 

 カラータイマーの点滅は、活動エネルギーの消耗を知らせるものだ。光の力が届かない辺境の星での滞在や強敵との激闘ならともかく、時空の渦に巻き込まれただけで、ここまで急激にエネルギーを消耗するとは予想していなかった。

 

「冗談じゃねぇぞ……! まだアリギアの野郎も捕まえてねぇってのに……!」

 

 歯を食いしばり、両腕を前に突き出して渦の流れに抗う。

しかし、抵抗すればするほど、身体から力が抜けていく。

このままでは、目的地に到着する前に活動限界を迎えてしまう。

 

「くそっ……! ゼット……悪ぃ……!」

 

 脳裏に浮かんだのは、自分に手を伸ばしていた自称弟子の姿だった。

 

 あいつなら、きっと自分が無事だと信じているだろう。いや、信じているからこそ、無茶をしてでも探しに来ようとするに違いない。

 

「けどよ……俺がこんなところでくたばるわけには……いかねぇんだよ!」

 

 ゼロは残された力を振り絞り、全身に光を巡らせた。

その瞬間、渦の一角に小さな光の裂け目が生じる。

ゼロはそこを目指して身体を捻った。

 

「ここだぁぁぁっ!!」

 

 全力で飛び込む。

 次の瞬間、世界が白く染まった。

 

 

 ーーーーーーー

 

 

「うひゃひゃひゃひゃっ! いやぁ、助かった助かった!」

 

 一方、その頃。

 

 ゼロと同じ時空の渦に飛び込んだアリギアは、銀色の宇宙船の操縦席で呑気に笑っていた。

 

「まったく、あのゼロの野郎は乱暴で困るねぇ! 宇宙船を撃ち抜くわ、怪獣を倒そうとするわ! もうちょっと犯罪者に優しくしてくれてもいいんじゃないの?」

 

 もちろん、反省している様子など微塵もない。

アリギアは計器を操作しながら、船体の状態を確認していた。

プルトン爆弾によって発生した時空の渦は、確かに危険な代物だった。しかし、彼はこうした不安定な空間を移動することに、ゼロよりも慣れていた。

 

「へへっ、どこに飛ばされるか分からないってのがミソなんだよなぁ。追いかけてくる方は大変だろうけど、こっちはこっちで新しい商売相手が見つかるかもしれないし?」

 

 そう言いながら、アリギアは操縦席の前方に広がる空間を見つめた。

船体の外には、幾重にも重なった時空の壁が広がっている。その向こう側には、まだ見ぬ宇宙が存在しているはずだった。

 

 やがて、計器のひとつが甲高い電子音を発する。

 

『警告。時空間転移、終息予測。前方に惑星反応を確認』

 

「おっ?」

 

 アリギアは身を乗り出した。

モニターに映し出されたのは、青い海と緑の大地、そして白い雲に覆われた美しい惑星だった。

見た目だけなら、宇宙に数多く存在する生命の星のひとつにすぎない。

だが、アリギアの目は、惑星そのものではなく、その周囲に満ちている不可視のエネルギー反応を捉えていた。

 

「……なんだ、こりゃ?」

 

 彼は計器を何度も確認した。

通常の生命反応や、文明活動によるエネルギーとは違う。

もっと根源的な、生命の営みそのものから生み出されるような力。それが、惑星全体を包み込むほどの規模で満ちていた。

 

 まるで、星そのものが生きているかのように。

 

「おいおいおい……嘘だろ?」

 

 アリギアの口元が、ゆっくりと吊り上がった。

 

「なんだよ、この星! プラスパワーが溢れまくってるじゃねぇか!」

 

 彼の頭の中で、次々と計算が始まる。

 

 これほどのエネルギーがあれば、改造怪獣の稼働時間を大幅に延長できる。宇宙船の動力源に転用することも、強力な兵器を開発することも夢ではない。

うまく利用すれば、これまでの商売とは比較にならない利益を生み出せるだろう。

 

 もちろん、そんなエネルギーを生み出す星が、平和なだけの場所であるはずもない。

だが、アリギアにとって、そんなことは些細な問題だった。

 

「へへへ……こいつは大当たりだぜ!」

 

 彼は操縦桿を握り直した。

 

「よーし、決めた! この星は俺様がいただきだ! 星の住民がどんな奴らだろうと関係ねぇ! このエネルギーを使って、銀河一の兵器商人になってやる!」

 

 もっとも、彼がこの星の文明について何も知らないことは、アリギア自身も承知していた。

どのような武器を持っているのか。どれほどの軍事力があるのか。そして、侵略者に対抗できる存在がいるのか。

それらを確かめる必要がある。

 

 とはいえ、自分から目立つような真似をするのは得策ではない。

 

「まずは情報収集……って言いたいところだけどよぉ」

 

 アリギアは、ふと操縦席の隅に置かれた装置へ目を向けた。

 

「俺様が調査してる間、誰かに構ってもらわなきゃいいんだよな?」

 

 そこで、彼は名案を思いついた。

侵略者の存在を隠すためには、侵略者以外の脅威を作り出せばいい。

住民たちの目をそちらへ向けさせておけば、その隙に自分は好きなだけ調査を進められる。

 

 しかも、混乱に乗じて街の防衛体制や文明の技術水準まで把握できるかもしれない。

 

「クククッ……さすが俺様! 頭いいじゃねぇか!」

 

 アリギアは端末を操作し、船内の格納庫に通信を繋いだ。

 

『格納庫システム、起動。待機中の機体を選択してください』

 

「そりゃ、決まってるだろ!」

 

 モニターに、巨大なロボットの姿が映し出される。

長い腕。鋭い爪を備えた両手。人型でありながら、どこか昆虫を思わせる不気味な頭部。そして、重厚な装甲に覆われた機械の巨体。

 

 その名は、クレージーゴン。

 

 かつてウルトラセブンと戦ったこともある、ロボット怪獣である。

 

 もっとも、今回の機体はアリギアが独自に改修を施した特別仕様だった。装甲の一部には追加の武装が取り付けられ、内部には遠隔操作用の制御装置が組み込まれている。

戦闘能力だけでなく、破壊活動と物資の回収に特化した機体だ。

 

「クレージーゴン! お仕事の時間だぜぇ!」

 

『起動シーケンス、開始』

 

 低い駆動音が格納庫に響き渡る。

機体の目に赤い光が灯り、各部の装甲がゆっくりと動き出した。

 

『動力系統、正常。制御系統、正常。全機能、起動確認』

 

「よーし! まずは街で派手に暴れてもらおうか! 建物をぶっ壊して、人間どもを大騒ぎさせてくれよ! その隙に俺様は、この星のことをじっくり調べさせてもらうぜ!」

 

 アリギアは操縦席から立ち上がり、愉快そうに手を叩いた。

 

「へへへ……待ってろよ、未知の惑星! このアリギア様が、たっぷり利用してやるからな!」

 

 

 ーーーーーーー

 

 

 その日、街はいつもと変わらない朝を迎えていた。

 

 高層ビルが立ち並ぶ都市の一角。通勤や通学に向かう人々が行き交い、道路には車が走り、商店街では開店準備が進められている。

青空には薄い雲が浮かび、遠くからは電車の走行音が聞こえていた。

平穏そのものの日常。

 

 少なくとも、数分前までは。

 

 ズゥゥゥン……!

 

 突然、地面が大きく揺れた。

 

「えっ、地震!?」

 

 歩道を歩いていた女性が足を止める。

しかし、揺れは一度きりでは終わらなかった。

 

 ズゥン……! ズゥン……!

 

 重い何かが地面を踏みしめる音が、街の向こうから近づいてくる。

人々が不安げに振り返った、その瞬間。

ビルの向こう側から、巨大な影が姿を現した。

 

「……え?」

 

 誰かが呆然と声を漏らす。

全高数十メートルにも及ぶ、鋼鉄の巨人。

異様に長い腕を振り回しながら、クレージーゴンが街中へと進入してきたのだ。

 

 ガシャンッ!

 

 その腕が道路脇の街灯を薙ぎ払う。

金属がひしゃげ、街灯が音を立てて倒れた。

さらにクレージーゴンは、目の前にあったビルへ向かって腕を振り上げる。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

 鈍い轟音とともに、外壁が砕け散った。

 

「きゃああああっ!!」

 

「巨大ロボットだぁぁぁっ!!」

 

「逃げろ! 早く逃げるんだ!!」

 

 悲鳴が街中に広がった。

 

 人々は我先にと逃げ出し、道路には乗り捨てられた車が次々と増えていく。交差点では車同士がぶつかり、クラクションがけたたましく鳴り響いた。

クレージーゴンは、そんな混乱など意に介さない。

その巨大な足がアスファルトを踏み砕き、両腕が建物の壁面を削り取る。

 

 ガガガガガッ!!

 

 鋭い爪がビルの外壁を引っ掻き、窓ガラスが次々と割れていく。

それはまるで、街そのものを玩具のように扱っているかのようだった。

そして、クレージーゴンの腹部にある収納区画が、重々しい駆動音とともに開き。

内部から伸びた機械のアームが、道路脇に停車していたトラックを掴み上げた。

 

 ガシィッ!

 

「う、嘘だろ……!?」

 

 運転席から逃げ出した男性が、呆然とその光景を見上げる。

クレージーゴンはトラックを持ち上げると、まるで荷物でも放り込むように腹部へ収納した。

続いて、近くに停車していた乗用車へ腕を伸ばす。

 

 車体が持ち上がり、タイヤが空転する。

そして、そのまま機体の内部へと吸い込まれていった。

破壊だけではない。

 

 このロボットは、街のあらゆるものを回収しているのだ。

しかし、逃げ惑う人々に、そんなことを考える余裕はなかった。

彼らにとって、目の前にあるのは、ただひとつ。

理由も分からぬまま街を破壊する、正体不明の巨大な怪物だった。

 

 クレージーゴンは、さらに大きく腕を振り上げた。

その先には、人々が避難しようとしている商業ビルがそびえ立つ中

鋼鉄の巨体が、ゆっくりと前進する。

 

 ゴォォォ……!

 

 そして、次の一撃を放とうとした。

平穏だった街が、悲鳴と轟音に包まれていく。

 

ーーーーーーー

 

 ガガガガガッ!!

 

 耳をつんざく轟音とともに、巨大なロボットの腕がビルの壁面を削り取った。

 

「きゃああああっ!!」

 

 舞い上がる粉塵。砕け散るガラス。道路を覆い尽くす瓦礫。

悲鳴を上げながら逃げ惑う人々の中に、三人の少女の姿があった。

 

「う、嘘でしょ!? 何なの、あれぇぇぇっ!?」

 

 本田未央は、目の前にそびえ立つ鋼鉄の巨体を見上げながら叫んだ。

 

 その隣では、渋谷凛が険しい表情で周囲を見渡している。そして、島村卯月は二人の手を握りしめ、震える足を必死に動かしていた。

 

「未央ちゃん、凛ちゃん! とにかく逃げましょう! ここにいたら危ないです!」

 

「わ、分かってる! 分かってるけどさぁ……!」

 

 未央の声が裏返る。

 

 当然だった。

 

 つい先ほどまで、三人はいつもと変わらない街を歩いていたのだ。仕事の予定について話したり、帰りにどこへ寄ろうか相談したり。そんな、ごく普通の日常を過ごしていた。

 

 それが、ほんの数分で一変してしまった。

 

 突然現れた巨大ロボットが、街を破壊している。

映画や特撮番組の中でしか見たことのないような光景が、今まさに自分たちの目の前で繰り広げられていた。

 

「……あれ、怪獣じゃないよね?」

 

 凛が思わず呟く。

 

「いやいやいや! どう見てもロボットでしょ! 怪獣ってゴジラみたいなやつじゃ無いの!?」

 

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですよぉ!」

 

 三人は、倒壊しかけた建物を避けながら走り続けた。

 

 しかし、街の混乱は想像以上だった。

 

 道路は逃げ出す人々で溢れ返り、車はあちこちで衝突している。遠くからはパトカーや消防車のサイレンが聞こえてくるものの、肝心のロボットは一向に動きを止める気配がなかった。

 

 むしろ、破壊は激しさを増していた。

ロボットが長い腕を振り回すたびに、建物の壁が剥がれ落ち、道路に巨大な亀裂が走る。

 

 そして――。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

「きゃっ!?」

 

 ひときわ大きな衝撃音が響き渡った。

 

 三人のすぐ近くにあったビルの一角が、ロボットの攻撃を受けて崩れ落ちたのだ。

大量の瓦礫が、土煙を巻き上げながら道路へと降り注いでくる。

 

「卯月! 危ない!」

 

 凛が叫ぶ。

 

「えっ……?」

 

 振り返った卯月の視界いっぱいに、巨大なコンクリート片が迫っていた。

 

 逃げなければ。

 

 そう思った。

 

 けれど、足が動かない。

 

 恐怖で身体が強張り、声すら出てこない。

 

 頭上から落ちてくる瓦礫の影が、卯月の小さな身体を覆い尽くしていく。

 

「卯月ぃぃぃっ!!」

 

 未央の叫び声が聞こえた。

凛がこちらへ手を伸ばしているのも見えた。

 

 けれど、二人の手は届かない。

 

 ――ああ。

 

 こんなところで。

 

 せっかく、これからもっと頑張ろうって思っていたのに。

 

 もっと、みんなと一緒にいたかったのに。

 

 卯月が思わず目を閉じた、その瞬間だった。

 

 キィィィィィン……!!

 

 眩い光が、彼女の視界を包み込んだ。

 

「……え?」

 

 轟音が途切れる。

 

 身体に衝撃はない。

 

 代わりに、卯月は何かに守られているような、不思議な感覚を覚えた。

 

 恐る恐る目を開く。

 

 そこにあったのは、巨大な銀色の手だった。

 

 いや、手だけではない。

 

 目の前に、青と赤のラインが走る銀色の巨人が立っていた。

その巨人は片腕を掲げ、落下してきた大量の瓦礫を受け止めていたのである。

卯月を押し潰すはずだったコンクリートの塊は、巨人の腕に支えられたまま、彼女の頭上で止まっていた。

 

「…………」

 

 卯月は、ただ呆然とその姿を見上げた。

巨人はゆっくりと腕を動かし、瓦礫を人のいない道路脇へと放り投げる。

 

 ドォンッ!!

 

 地面が揺れた。

それから、巨人は卯月へ視線を向けた。

 

 黄色く輝く瞳。

 

 鋭い顔立ち。

 

 額には、二本の刃のような突起が伸びている。

 

 まるで、テレビの中から飛び出してきたヒーローのようだった。

 

「た、助けて……くれたんですか?」

 

 思わず口からこぼれた言葉。

もちろん、返事はない。

しかし、巨人は卯月の無事を確認するかのように一瞬だけ彼女を見つめると、静かに身体を起こした。

 

 そして、彼女とロボットの間に立ちはだかった。

 

「……っ!」

 

 その背中を見た瞬間、卯月の胸に、ほんの少しだけ温かいものが込み上げた。

 

 怖い。

 

 今でも、全身が震えている。

 

 それでも。

 

 目の前に立つ巨人の姿は、確かに自分を守ってくれていた。

 

 ーーーーーーー

 

「う、卯月ぃぃぃっ!!」

 

 少し離れた場所から、未央が駆け寄ってきた。

 

「卯月! 大丈夫!? 怪我してない!?」

 

「は、はい! 私は大丈夫です!」

 

「よかった……! ほんっとによかったぁ……!」

 

 未央は卯月の肩を掴み、何度も無事を確かめる。

 

 その後ろから、凛も息を切らしながらやってきた。

 

「卯月、無事なんだね……よかった」

 

「凛ちゃん、未央ちゃん……!」

 

 三人は互いの無事を確かめ合った。

 

 けれど、安堵に浸っていられたのは、ほんの一瞬だった。

 

「……ねえ、二人とも」

 

 凛が、目の前の光景を見つめたまま呟く。

 

「あれって……」

 

 未央と卯月も、ゆっくりと顔を上げた。

そこには、街を破壊していた巨大ロボットと、それに対峙する銀色の巨人がいた。

 

「ウルトラマン……?」

 

 未央が、信じられないというように呟く。

 

「えっ? ウルトラマンって、あのテレビの?」

 

「だって、あの姿……どう見てもウルトラマンじゃん!」

 

 未央は思わず興奮気味に声を張り上げた。

 

「ほら、昔テレビでやってた特撮番組の! ウルトラマン! 怪獣と戦う、あの!」

 

「う、うん……。私も知ってるけど……」

 

 卯月は戸惑いながら頷いた。

 

 ウルトラマンという名前なら知っている。

子供の頃、テレビで見かけたこともあった。家族と一緒に見た記憶も、かすかに残っている。

 

 しかしそれはフィクションの物語だ。

だからこそ、目の前の光景が信じられなかった。

テレビの中にいるはずのヒーローが、現実の街に立っている。

しかも、自分を助けてくれたのだ。

 

「……本当に、ウルトラマンなんでしょうか?」

 

「いやいやいや、卯月! 今さらそこ疑う!?」

 

「だ、だって……!」

 

「未央、声が大きい。今は……少しでも此処から離れよう」

 

 凛はそう言いながらも、巨人から目を離せなかった。

 

 目の前にいるのは、間違いなく人間ではない。

 

 それでも、あの巨人が卯月を助けてくれたことだけは、確かな事実だった。

 

 そして、巨人の前に立つロボットが、再び動き出した。

 

 ーーーーーーー

 

 クレージーゴンの頭部が、ギギギギ……と不気味な音を立てながら動く。

赤く光る目が、目の前の巨人を捉えた。

そのまま、両腕を大きく広げる。

 

 まるで、侵入者を排除しようと威嚇する動物のように。

ゼロは、そんなロボットを見据えた。

 

「……ったく。こっちに来て早々、面倒な仕事を押しつけてくれるじゃねぇか」

 

 身体の奥から、じわじわと力が抜けていく。

先ほどまで時空の渦に巻き込まれていた影響は、まだ残っていた。

胸のカラータイマーは、赤く点滅したままだ。

 

 ピコン……ピコン……ピコン……!

 

「おまけに、エネルギーまでギリギリときたもんだ。……笑えねぇな」

 

 ゼロは軽く肩を回した。

普段なら、こんなロボットを相手にするのに大した時間はかからない。

 

 しかし、今は状況が違う。

ここが地球ではある様だが、どこの宇宙なのかも分からない。自分の知っている星なのか、それとも未知の世界なのかすら判断できていない。

そのうえ、エネルギーは大きく消耗している。

無駄な戦いは避けたいところだった。

 

 だが。

ゼロは、背後にいる三人の少女へちらりと目を向けた。

そのうちのひとりは、つい先ほど自分が助けた少女だ。

彼女たちの周囲には、まだ逃げ遅れた人々がいる。

ここで戦わずに逃げれば、被害はさらに広がるだろう。

 

「……ま、見捨てるわけにもいかねぇよな」

 

 ゼロは小さく呟き、拳を握り締めた。

 

「来な、鉄くず野郎。相手になってやるぜ!」

 

 その言葉に反応したかのように、クレージーゴンが動いた。

 

 ズゥンッ!!

 

 巨大な足がアスファルトを踏み砕き、ロボットの身体が前進する。

長い腕が、ゼロ目掛けて振り下ろされた。

 

「おっと!」

 

 ゼロは軽やかに横へ跳ぶ。

直後、クレージーゴンの腕が道路に叩きつけられ、舗装された地面が大きく陥没した。

 

 ドゴォンッ!!

 

「うわぁっ!?」

 

 離れた場所にいた未央が、思わず悲鳴を上げる。

 

「ちょ、ちょっと待って! 今の、地面が割れたよ!?」

 

「未央ちゃん、危ないです! もっと離れましょう!」

 

「分かってる! 分かってるけど……あんなの、どうやって戦うのか気になるじゃん!?」

 

 三人は崩れかけた建物の陰へと移動し、戦いの行方を見守った。

 

 ゼロはロボットの腕を避けながら、素早く距離を詰める。

 

「そらよっ!」

 

 鋭い蹴りが、クレージーゴンの胴体に叩き込まれた。

 

 ガキィィンッ!!

 

 金属同士がぶつかり合うような音が響き渡る。

しかし、ロボットは倒れない。

巨体がわずかに揺れただけだった。

 

「……へぇ。ヘンテコな見た目の割に、頑丈じゃねぇか」

 

 ゼロが感心したように呟く。

その瞬間、クレージーゴンの長い腕が、反対側から迫ってきた。

 

「っと!」

 

 ゼロは両腕を交差させて受け止める。

 

 ガギギギギギッ!!

 

 凄まじい力が腕にかかり、ゼロの足元の道路がひび割れていく。

 

「ぐっ……! こいつ、パワーも相当なもんだな……!」

 

 押し返そうとするが、身体に力が入りきらない。

時空の渦で消耗したエネルギーが、ここにきて重くのしかかっていた。

クレージーゴンは、その隙を逃さなかった。

ゼロの身体を押し飛ばし、長い腕を振り回す。

 

「ぐおっ!?」

 

 ゼロの身体が宙を舞った。

ビルの外壁に背中から叩きつけられ、そのまま道路へと落下する。

 

 ドォォンッ!!

 

「ウルトラマン!!」

 

 卯月の口から、思わず叫び声が飛び出した。

自分を助けてくれた巨人が、目の前で倒された。

それだけで、胸の奥がぎゅっと締めつけられるようだった。

 

「そ、そんな……!」

 

 未央も、凛も、言葉を失っていた。

 

 あの巨大なロボットに立ち向かえる存在がいる。

そう思ったばかりだった。

けれど、現実は甘くなかった。

クレージーゴンは、倒れたゼロへ向かって歩き出す。

 

 その腕を大きく振り上げた。

 

「くっ……!」

 

 ゼロは素早く転がり、どうにか攻撃を回避する。

直後、地面が再び砕け散った。

ゼロはクレージーゴンの攻撃を確認し、胸のカラータイマーを一瞥する。

点滅の間隔が、さらに短くなっている。

 

 ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……!

 

「チッ……。長引かせるわけにはいかねぇな」

 

 クレージーゴンが、再び腕を伸ばす。

けれど今度は攻撃ではない。

その長い腕の先端が、近くの建物へと向けられた。

 

 ガシィッ!!

 

 鋭い爪が建物の外壁を掴む。

そして、ロボットは無造作に腕を引いた。

 

 バキバキバキッ!!

 

「え……?」

 

 卯月は、自分の目を疑った。

建物の壁が、まるで紙のように剥がされていく。

ロボットは、その破片を腹部の収納区画へと運び込んだ。

さらに、道路に放置された車両へと腕を伸ばす。

次々と車を持ち上げ、機体の内部へと回収していった。

 

「……あいつ、何をしてるの?」

 

 凛が眉をひそめる。

 

「街を壊すだけじゃなくて、車まで集めてる……?」

 

 その疑問に答える者はいなかった。

しかし、ゼロは違った。

目の前のロボットが、単なる破壊兵器ではないことに気づき始めていた。

 

「なるほどな……。物資の回収機能まで備えてるってわけか」

 

 ゼロは拳を握り締めた。

 

「誰の差し金かは知らねぇが、ずいぶんと悪趣味なことをしてくれるじゃねぇか!」

 

 再び、ゼロが走り出す。

クレージーゴンの腕が伸びてくる。

ゼロはその腕を掴み、勢いを利用して身体を捻った。

 

「そらぁっ!!」

 

 強烈な投げ技。

鋼鉄の巨体が宙に浮き、地面へと叩きつけられた。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

 道路が大きく揺れ、周囲の瓦礫が跳ね上がる。

 

「やった……!」

 

 卯月は思わず声を上げた。

けれど、喜びも束の間だった。

クレージーゴンはすぐさま起き上がると、頭部をゼロへ向けた。

その目が、ひときわ強く輝く。

次の瞬間、ロボットは両腕を広げ、凄まじい勢いで突進してきた。

 

「なっ……!?」

 

 ゼロは咄嗟に身構えた。

しかし、回避が間に合わない。

 

 ガガガガガッ!!

 

 鋼鉄の巨体がゼロを押し込み、そのまま道路を突き進む。

 

「ぐああああっ!!」

 

 ゼロの身体が建物に激突した。

外壁が崩れ、巨大な瓦礫が周囲へと降り注ぐ。

クレージーゴンはゼロを押さえつけたまま、さらに力を込めた。

 

「ぐっ……! この野郎……!」

 

 ゼロは両腕でロボットを押し返そうとする。

だが、力が足りない。

胸のカラータイマーは、危険を知らせるように激しく点滅していた。

 

 ピコン、ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……!

 

「ウルトラマン……!」

 

 卯月は、祈るように両手を握り締めた。

どうしてだろう。

ついさっきまで、彼女にとってウルトラマンはテレビの中の存在だった。

子供の頃に見たことがある、正義のヒーロー。

 

 それだけのはずだった。

けれど、今は違う。

目の前で戦っている巨人は、確かに自分を助けてくれた。

見ず知らずの自分を守るために、危険なロボットへと立ち向かってくれている。

 

 だからこそ。

 

「頑張って……!」

 

 卯月の声が、震えながらも響いた。

 

「負けないでください……! ウルトラマン……!」

 

 もちろん、その声が届くかどうかは分からない。

それでも、卯月は叫ばずにはいられなかった。

目の前の巨人が、誰かを守るために戦っているのなら。

自分も、精一杯の声で応援したかった。

 

 そのときだった。

 

 ウルトラマンの口元が、わずかに吊り上がった様に感じた。

 

「……へっ」

 

 鋼鉄の巨体を押し返しながら、ゼロは小さく笑う。

 

「そうこなくっちゃな……!」

 

 そして、両腕に力を込めた。

 

「いつまでも、やられっぱなしでいると思うなよ!」

 

 ゼロの身体から、眩い光が迸る。

クレージーゴンの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。

ゼロはその隙を逃さず、ロボットの腕を振りほどく。

 

 そして、大きく跳躍した。

青空を背に、銀色の巨人が舞い上がる。

太陽の光を受けた身体が、眩しく輝いた。

 

 その姿を見上げながら、卯月たちは息を呑む。

ゼロは空中で身体を捻り、両腕を広げた。

 

「さぁて……ここからが本番だぜ!」

 

  空中へと跳躍したゼロは、クレージーゴンを見下ろしながら両腕を広げた。

 

「へっ! 図体ばっかりデカくたって、動きが単調じゃ話にならねぇぜ!」

 

 ゼロの頭部に備わった二本の刃が、陽光を受けて鋭く輝く。

 

「行くぜ、ゼロスラッガー!」

 

 シュバッ!!

 

 頭部から分離した二本のゼロスラッガーが、青白い光を纏いながら飛び出した。

二つの光刃は空中で軌道を変え、左右からクレージーゴンへと迫る。

 

 ギュオオオオッ!!

 

 クレージーゴンは迎撃しようと長い腕を振り回した。しかし、ゼロスラッガーはその動きを嘲笑うかのように旋回し、鋼鉄の腕を正確に捉えた。

 

「そらよっ!」

 

 ゼロが右腕を振る。次の瞬間――。

 

 ガギィィィンッ!!

 

 二本の光刃が、クレージーゴンの両腕を切断した。

切り離された鋼鉄の腕が宙を舞い、火花を散らしながら道路へと落下する。

 

 ドゴォンッ! ドゴォンッ!

 

「……えっ!?」

 

 卯月は思わず目を見開いた。

 

 あれほど巨人を苦しめていたロボットの腕が、一瞬で切り落とされてしまったのだ。

 

「うっそぉ!? あんなに硬そうだったのに!?」

 

 未央も、信じられないといった様子で声を上げる。

 

「未央、見て! まだ終わってない!」

 

 凛が指差した先では、ゼロスラッガーが再びゼロの頭部へ戻ろうとしていた。

 しかし、ゼロはそれを待たなかった。

 

「隙だらけだぜ!」

 

 両腕を素早く交差させ、すぐさま必殺の構えを取る。

 胸のカラータイマーは、相変わらず赤く点滅している。

 

 ピコン、ピコン、ピコン、ピコン……!

 

 残された時間は、決して多くない。

 それでも、ゼロの動きに迷いはなかった。

 

「こいつで決める!」

 

 両腕から放たれた光が、右腕へと集束していく。

 眩い光が一点に凝縮され、凄まじいエネルギーを生み出した。

 

「ワイドゼロショット!!」

 

 ズドォォォォンッ!!

 

 ゼロの右腕から、強烈な光線が放たれた。

青白い閃光が空間を貫き、クレージーゴンの胴体へと直撃する。

逃げることも、反撃することもできない。

両腕を失った鋼鉄のロボットは、光線の直撃を受けて激しく震えた。

全身の装甲が閃光に包まれ、内部の機械が次々と火花を散らす。

 

 そして――。

 

 ドゴォォォォォォンッ!!

 

 巨大な爆発が、街の一角を明るく照らした。

 

「きゃっ!?」

 

 卯月たちは、思わず顔を覆った。

爆風が道路を吹き抜け、舞い上がった粉塵が空へと広がっていく。

 

 しばらくして、轟音が止んだ。

そこに、クレージーゴンの姿はなかった。

残されていたのは、黒く焦げた道路と、ロボットが破壊した建物の残骸だけだった。

 

 街を襲っていた脅威は、ついに消え去ったのである。

 

「……や、やった?」

 

 未央が、おそるおそる顔を上げた。

 

「倒した……んだよね?」

 

「……うん」

 

 凛が静かに頷く。

卯月も、呆然としたまま空を見上げていた。

青い空の中に、銀色の巨人が浮かんでいる。

 

 その姿は、まるで何事もなかったかのように堂々としていた。

けれど、卯月は気づいていた。

 

 巨人の胸で赤く点滅する光が、先ほどよりも弱々しくなっていることに。

 

「……ウルトラマン?」

 

 卯月が小さく呼びかける。

もちろん、返事はない。

巨人はゆっくりと地上へ視線を向けた。

 

 その視線の先には、救助を待つ人々がいる。崩れた建物の陰で、互いの無事を確かめ合う人々がいる。

そして、彼らを見上げている三人の少女がいた。

ゼロは、彼女たちの姿を認めると、ほんのわずかに顔を傾けた。

まるで、無事でよかったと伝えるように。

 

「……っ!」

 

 卯月の胸が、じんわりと温かくなる。

先ほどは恐怖で何も考えられなかった。

けれど今は、伝えたいことがあった。

 

「ありがとう……!」

 

 卯月は両手を口元に添え、精一杯の声で叫んだ。

 

「助けてくれて、ありがとうございました!」

 

 未央と凛も、彼女に続いて声を上げる。

 

「ありがとー! ウルトラマン!」

 

「……ありがとう」

 

 その声が届いたのか。

 巨人は一瞬だけ、穏やかな雰囲気を見せた。

 

 そして、次の瞬間だった。

 

 ピコン……ピコン……ピコン……。

 

 カラータイマーの点滅が、さらに弱くなった。

 

「……っ、やべぇな」

 

 ゼロの身体が、わずかに揺らぐ。

時空の渦で消耗し残ったエネルギーも、戦闘によってほとんど底をついていた。

これ以上、この姿を維持するのは難しい。

 

「まさか、こんなに早く限界が来るとはな……」

 

 ゼロは小さく息を吐いた。

 

「……ま、いいか」

 

 ゼロは、もう一度だけ地上を見下ろした。

逃げ惑っていた人々は、少しずつ落ち着きを取り戻しつつある。

少女たちも無事だ。

それを確認したゼロは、静かに目を閉じた。

 

「えっ……!?」

 

 卯月が驚きの声を上げる。

巨人の輪郭が薄れていく。

 

 青と赤の身体が光の粒子へと変わり、空中に溶け込むように消えていった。

 

 やがて、最後の光が地上へと降り注ぐ。

そこに、巨人の姿はもうなかった。

 

「……消えちゃった?」

 

 未央が呆然と呟いた。

 

「ウルトラマン……どこに行ったんだろう?」

 

 凛は周囲を見回したが、それらしいものは何も見当たらない。

まるで、最初から巨人など存在しなかったかのようだった。

 

 けれど、目の前の惨状が、先ほどの出来事が現実だったことを物語っている。

崩れた建物。

砕けた道路。

そして、巨大ロボットが残した無数の傷跡。

あの巨人は、本当にここで戦っていたのだ。

 

「……あれ?」

 

 そのとき、卯月は地面に目を留めた。

先ほどまで巨人が立っていた場所。

そこから、淡い光が一筋、道路脇の路地へと伸びていた。

 

「未央ちゃん、凛ちゃん! あそこ……!」

 

「えっ、何?」

 

「光が……?」

 

 三人は顔を見合わせる。

淡い光は、まるで何かを導くように、路地の奥へと続いていた。

 

「……もしかして、ウルトラマンの光?」

 

 卯月が呟く。

 

「追いかけてみよう!」

 

 未央が即座に言った。

 

「ちょっと、未央! まだ危ないかもしれないよ!」

 

「でも、あの光……さっきのウルトラマンと関係あるんじゃない? もしかしたら、あの人がいるかもしれない!」

 

「…それは…確かに、気になるね」

 

 凛も、光の先を見つめた。

 

 もちろん、危険がないとは言い切れない。

 

 街はまだ混乱しているし、警察や救助隊が到着するまで、どこに危険が残っているかも分からない。

それでも、三人には確かめたいことがあった。

自分たちを救ってくれた、あの巨人のことを。

 

「行きましょう!」

 

 卯月は頷き、光の続く路地へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

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