ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS   作:わたあめ丸

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テレビのヒーロー

「ゼロ、ウルトラマンゼロ。セブンの息子だ」

 

「えええええっ!? セブンの息子ぉおおおおっ!?」

 

 突然、事務所に未央の絶叫が響き渡った。

 

「うおっ!? な、なんだよ、いきなり!」

 

 ゼロが思わず身を引く。

 

 しかし、未央はそんなことなど気にも留めず、目をキラキラと輝かせながらゼロへ詰め寄った。

 

「ちょ、ちょっと待って!? ウルトラセブンの息子ってことは、あのセブンの息子ってこと!? アイスラッガーの!?ワイドショットの!?エメリウム光線の!?、ウルトラ兄弟三男で真紅のファイターである、あのウルトラセブン!?」

 

「お、おう……そうだけどよ」

 

「うわあああっ、マジで!? すっご! えっ、じゃあ、セブンって本当にお父さんなの!? 親子なの!? 血のつながった親子!?」

 

「だから、そう言ってんだろ!?」

 

 あまりの勢いに、ゼロがたじろぐ。

未央は両手で顔を覆い、ソファーの周りを落ち着きなくうろうろし始めた。

 

「やばいやばいやばい! まさか本物のウルトラマンに会えるなんて! しかもあのセブンの息子! どうしよう、これ、ぴかるんに話したら絶対羨ましがるよ! いや、羨ましがるどころじゃないかも!?」

 

「……未央ちゃん、落ち着いて?」

 

 卯月がおそるおそる声をかける。

 

「これが落ち着いていられる!? しまむー! だってセブンだよ!? ウルトラセブン! あのウルトラマンシリーズの中でも有名なヒーローじゃん!」

 

「う、うん。そうなんだね……?」

 

「凛もそう思うでしょ!?」

 

「いや、私はそこまで詳しくないから……」

 

 凛は困ったように眉を寄せた。

 

 実際、凛はウルトラマンについてそれほど詳しいわけではない。テレビで見かけたことはあるし、巨大な怪獣と戦うヒーローという程度の知識はあるが、作品ごとの設定まで把握しているわけではない一般的な日本人だ。

 

 一方、未央は違う。

 

 特別に詳しいファンというほどではないものの、幼い頃から父や兄、弟と一緒にウルトラマンの番組を見ていた。歴代のウルトラマンの名前や、代表的な怪獣、印象的な必殺技などは、それなりに覚えている。

 

 少なくとも、目の前にいる青年が何者なのかを知るには十分だった。

 

「……おい」

 

 そんな未央を、ゼロはじっと見つめていた。

 

「なに?」

 

「いや、さっきから気になってたんだが……」

 

 ゼロは腕を組もうとして、左腕のブレスレットを見てから、軽く頭をかいた。

 

「なんでお前ら、そんなにウルトラマンのことを知ってるんだ?」

 

「……え?」

 

 三人がそろって首をかしげた。

 

「いや、だからよ。俺のことをウルトラマンだって分かったのは、まあいい。この宇宙にもウルトラマンが居たんだろうからな。けど、セブンだの、ウルトラ兄弟だの、親父の技名だの……なんでそんなことまで知ってんだ?」

 

「えっ、なんでって……」

 

 未央はきょとんとした顔をした。

 

「テレビで見てたからだけど?」

 

「…………は?」

 

 ゼロの表情が固まった。

 

「テレビ?」

 

「うん! ウルトラマンって、特撮番組でしょ?」

 

「………………はぁ?」

 

 ゼロの口から、間の抜けた声が漏れた。

 

 卯月と凛は顔を見合わせる。

 

「えっと……ゼロさん?」

 

「待て待て待て待て!」

 

 ゼロは片手を突き出し、三人を制止した。

 

「今、なんつった?」

 

「え? ウルトラマンは特撮番組だって……」

 

「どういうことだよ!?」

 

 ゼロは思わずソファーから身を乗り出した。

 

「お前らの世界じゃ、ウルトラマンはテレビ番組なのか!?」

 

「えっ? うん、そうだけど……」

 

「そうだけど、じゃねえだろ!?」

 

 ゼロは頭を抱えた。

 

 自分は宇宙警備隊の一員だ。

 

 宇宙の平和を守るため、怪獣や宇宙人と戦ってきた。もちろん、戦いがテレビ番組として放送されているなどという話は聞いたことがない。

それなのに、この世界では自分たちの戦いが番組として知られているという。

しかも、目の前の少女たちは、それを当たり前のこととして受け入れているのだ。

 

「……待て。ちょっと待て。じゃあ何か? 俺たちの戦いが、誰かに撮影されて、テレビで放送されてるってことか?」

 

「うーん……そういうわけじゃないと思うけど」

 

 未央は少し考えてから答えた。

 

「ウルトラマンって、昔から続いてるシリーズなんだよ。最初のウルトラマンが放送されて、それからセブンとか、ジャックとか、エースとか……いろんなウルトラマンが出てきてさ」

 

「……ジャック……エース」

 

「そうそう! タロウとか、レオとか、80とか! 平成に入ってからはティガ、ダイナ、ガイア、コスモス、ネクサス、マックス、メビウス……って感じ!」

 

「ちょ、ちょっと待て! なんだ、その名前の羅列は!?」

 

 ゼロは完全に混乱していた。

 

 自分が知っている、共に戦った事がある奴らの名前だけが出てくる。だが、未央の口から出てくるそれらは、まるでテレビ番組の歴代主人公を紹介しているような調子だった。

 

「しかも、お前……今、メビウスって言ったか?」

 

「うん。ウルトラマンメビウス! 私、あれも見てたよ。お兄ちゃんと弟と一緒に!」

 

「メビウスまで……?」

 

 ゼロは目を見開いた。

 

 メビウスは、自分が知るウルトラマンの一人だ。

数千年前、彼が地球で戦ったことも、仲間たちとともに数々の危機を乗り越えたことも知っている。

しかし、それがこの世界ではテレビ番組になっているというのか。

 

「……おいおい、冗談だろ」

 

 ゼロは額に手を当てた。

 

「じゃあ、何か? メビウスが地球で戦ってたことも、テレビで見てたってのか?」

 

「そうそう! メビウスが地球に来て、GUYSのみんなと一緒に怪獣と戦うんだよね! あと、歴代のウルトラ兄弟も登場してさ!」

 

「…………」

 

「特に最終回とか、すっごく熱かったよね! みんなが力を合わせるところとか!」

 

「………………」

 

「あと、映画もあったよね! ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟!」

 

「………………おい」

 

「ん?」

 

「お前、ちょっと黙ってくれ」

 

「ええっ!? なんで!?」

 

「頭の整理が追いつかねえんだよ!!」

 

 ゼロの叫びが、事務所に響き渡った。

卯月はびくっと肩を震わせ、凛は思わず耳を押さえる。

未央だけは、なぜか楽しそうだった。

 

「えー、でも、ゼロがびっくりするのも分かるけどさ。私たちからしたら、ゼロの方がびっくりだよ?」

 

「何がだよ!?」

 

「だって、テレビの中のヒーローが本当に目の前にいるんだもん!」

 

「……あ」

 

 ゼロは言葉に詰まった。

 

 確かに、逆の立場で考えればそうなるのかもしれない。

この世界の人間にとって、自分たちは物語の中の存在なのだ。

怪獣と戦い、地球を守り、宇宙の平和を守るヒーロー。

 

 そのはずの自分が、今こうして一人の青年の姿でソファーに座っている。

しかも、よりによってアイドルの事務所で。

 

「……なんつー世界だよ、ここは」

 

 ゼロは深々とため息をついた。

 

 だが、ふと彼の脳裏に、かつて聞いた話がよみがえった。

メビウスが、以前、別の可能性を持つ世界について話していたことがあった。

ウルトラマンと怪獣が、テレビ番組や映画の登場人物として扱われている世界。

 

 ウルトラマンたちが実在する世界とは異なり、彼らの存在がフィクションとして受け入れられている世界。

確か、そんな話だった。

 

「……そういや」

 

 ゼロは顔を上げた。

 

「メビウスが、似たような世界の話をしてたな……」

 

「えっ?」

 

 未央の目が、再び輝いた。

 

「それって、もしかして……」

 

 彼女は少し身を乗り出し、確信めいた表情で尋ねた。

 

「『大決戦!超ウルトラ8兄弟』のこと?」

 

「――はぁっ!?」

 

 今度こそ、ゼロは素っ頓狂な声を上げた。

 

「お前、なんでそれまで知ってんだよ!?」

 

「えっ、映画だからだけど!?」

 

「映画ぁ!?」

 

「うん! ウルトラマンティガとか、ダイナとか、ガイアが出てくるやつ! あの世界では、ウルトラマンがテレビ番組として放送されてるんだよね!」

 

「………………」

 

 ゼロは口を開けたまま、しばらく固まった。

 

 まさか、メビウスから聞いた話にまで、この少女がたどり着くとは思わなかった。

 

「……お前、何者だよ」

 

「えっ、私? 本田未央だけど?」

 

「名前を聞いてんじゃねえよ!」

 

 ゼロが思わずツッコミを入れる。

 

 未央は「えへへ」と笑いながら、悪びれもせずに続けた。

 

「いやー、でもすごいなあ! まさかあの映画みたいな世界が、本当にあるなんて!」

 

「いや、俺からすりゃ、こっちの方がよっぽど信じられねえよ……」

 

 ゼロはソファーの背もたれに身を預け、天井を仰いだ。

自分の認識では、ウルトラマンは実在する。

宇宙には無数の生命が存在し、怪獣や宇宙人が現れれば、誰かが立ち向かわなければならない。

 

 それが自分たちの生きる世界だ。

 

 だが、この世界では違う。

 

 ウルトラマンはテレビの中のヒーローであり、怪獣との戦いは物語として人々に知られている。

それなのに、今この世界には、現実の怪獣ならぬ巨大ロボットが現れ、自分はそれと戦った。

 

 つまり――。

 

「……俺がアリギアを逃しちまったからこの世界は狙われる事になっちまったんだよな」

 

 ゼロのつぶやきに、卯月は不安そうに眉を下げた。

 

「ゼロさん……?」

 

「いや、何でもねえ。ちょっと考え事だ」

 

 そう言ってから、ゼロは未央へ視線を向けた。

 

「……なあ、未央」

 

「ん? なになに?」

 

「この世界じゃ、ウルトラマンはメビウスまでしか知られてねえんだよな?」

 

「えっ? うん。少なくとも、テレビで放送されていた作品ならね。どうして?」

 

「……いや」

 

 ゼロは自分の左腕に目を落とした。

 

 ウルティメイトブレスレットが、静かに光を反射している。

 

 自分の名前も、戦いも、そしてこれから出会うことになるかもしれないウルトラマンたちのことも、この世界では知られていない。

少なくとも、テレビの中では。

ならば、この世界で自分がどんな存在になるのかは、自分自身の行動次第ということになる。

 

 ゼロは小さく笑った。

 

「……ま、いいさ。どんな世界だろうと、やることは変わらねえ」

 

「やること?」

 

 凛が尋ねた。

 

「ああ。困ってる奴がいたら助ける。悪い奴がいたらぶっ飛ばす。それだけだ」

 

 ゼロは不敵に笑った。

 

「それがウルトラマンってもんだろ?」

 

 その言葉に、卯月たちは顔を見合わせた。

 

 そして、三人そろって笑顔になった。

 

「……はいっ!」

 

 卯月が力強くうなずく。

 

「うんうん! いやー、いいこと言うねえ、ゼロ!」

 

 未央が感心したように手を叩く。

 

「……でも、その前にちゃんと休んで。さっきからふらふらしてるんだから」

 

 凛が冷静に釘を刺した。

 

「だーっ! 分かってるっての!」

 

 ゼロは思わず声を上げた。

こうして、異世界からやってきたウルトラマンゼロは、地球のアイドルたちに囲まれながら、しばらく休息を取ることになった。

 

 

――同時刻・市街地郊外

 

 

 街から遠く離れた廃工場。

ひび割れた壁の隙間から、夕暮れの光が差し込んでいた。

かつて人々の生活を支えていたであろうその場所は、長い間放置されていたらしい。錆びついた機械が並び、天井からは無数のケーブルが垂れ下がっている。床には使い道の分からない部品が散乱し、建物の奥からは時折、何かが作動する低い音が響いていた。

 

 その一角に、一人の宇宙人が立っていた。

赤い髪。人間に似た体格。そして、どこか人を食ったような笑み。

そうアリギアである。

 

「……ふう。まさか、こんなに早く四次元空間を突破するとは」

 

 彼は手元の小型端末を操作しながら、独り言をこぼした。

端末の画面には、先ほどまで彼がいた街の映像が映し出されている。

崩れた建物。散乱する車両。避難する人々。

そして、その中心に映っていたのは、銀色と赤、青の巨人だった。

 

「ウルトラマンゼロ……か」

 

 アリギアは画面を指先で弾いた。

映像の中のゼロは、巨大ロボットを相手に一歩も引かず、最後には必殺光線で撃破している。

だが、その姿には明らかな異変があった。

胸のカラータイマーが赤く点滅していたのだ。

 

「ふふっ。やっぱり、無理をしていたらしい」

 

 アリギアは楽しげに笑った。

 

「時空の歪みを突っ切ったうえに、あのクレージーゴンと戦ったんだ。いくらゼロでも、消耗しないわけがない」

 

 彼は映像を停止させ、ゼロの姿を拡大した。

 

「それにしても、しつこい男だ。普通なら、あの時空の渦に飲み込まれた時点で諦めるだろうに」

 

 アリギアにとって、ゼロは厄介な相手だった。

腕が立つ。執念深い。そして何より、悪事を見過ごすという選択肢を持たない。

商売の邪魔をするには、これ以上ないほど面倒な相手である。

だからこそ、アリギアはこの世界に潜伏する必要があった。

 

「まあ、いいさ。今すぐ相手をする必要はない」

 

 彼は端末を操作し、別の画面を呼び出した。

そこに表示されたのは、地球の地図だった。

街の周辺に複数の地点が示されている。さらに、地図の上には奇妙な数値が並んでいた。

アリギアは、その数値を眺めながら満足げにうなずいた。

 

「やはり、この星は当たりだな」

 

 彼がこの世界に目をつけた理由。

それは、この地球に満ちている、異様なまでのプラスのエネルギーだった。

人々が抱く希望。誰かを思いやる気持ち。明日を信じる心。

そうしたものが、この世界では目に見えない力となって蓄積されているらしい。

アリギアには、その正体までは分からなかった。

しかし、利用できるエネルギーがあるのなら、細かい理屈など後回しでいい。

 

「この力を抽出して、兵器に転用できれば……」

 

 彼は唇をつり上げた。

 

「宇宙中の連中が、俺の商品を欲しがることになる。武器を売り、戦争を起こし、また武器を売る……。いやあ、実に素晴らしい循環じゃないか」

 

 自分で言って、自分で笑う。

 反省する様子など、微塵もなかった。

 そのとき、端末が短い電子音を発した。

 

「おっと、待たせちまったか」

 

 アリギアは画面を切り替えた。

 そこには、複数の通信先が表示されている。

 どれも、かつて彼が商売を通じて知り合った宇宙人たちだった。

 武器商人。傭兵。侵略者。そして、どこの星にも居場所を失ったならず者たち。

 まともな連中とは言い難いが、腕の立つ者も少なくない。

 アリギアは通信回線を開いた。

 

『……おい、アリギア。いきなり通信を寄越すとは、どういう風の吹き回しだ?』

 

 最初に応答したのは、荒々しい声の宇宙人だった。

 

「久しぶりだな。ちょっと面白い話があってね」

 

『面白い話だと? また厄介な仕事じゃないだろうな』

 

「まさか。今回は、もっと儲かる話さ」

 

 アリギアは笑った。

 

「ちょっとした星を見つけたんだ。エネルギー資源が豊富で、しかも今のところ、俺たちのような連中に対する備えが甘い」

 

『……ほう?』

 

「おまけに、地元の連中は妙な力を持っているらしい。これを研究すれば、今までにない兵器が作れるかもしれない」

 

 通信の向こうで、相手が低く唸った。

 

『なるほどな。それで、俺たちに何をしろって?』

 

「簡単さ。こっちへ来て、俺の仕事を手伝ってほしい。報酬は弾むぜ」

 

『場所は?』

 

「座標を送る。時空の歪みが少し不安定だから、移動には気をつけろよ」

 

『お前が言うと、妙に信用できねえな……』

 

「ははっ! ひどい言い草だ」

 

 アリギアは笑いながら通信を切った。

続けて、別の回線を開く。

今度は、低く落ち着いた声が返ってきた。

 

『アリギアか。珍しいな。お前から連絡してくるとは』

 

「そっちも相変わらずだな。元気そうで何よりだ」

 

『世間話はいい。用件を言え』

 

「新しい商売の話だ。とびきり大きな獲物が見つかった」

 

 アリギアは、地図に表示された地球を指でなぞった。

 

「今回は、少しばかり大きな騒ぎになるかもしれない。だから、腕の立つ連中を集めておきたいんだ」

 

『……ウルトラマンがいるのか?』

 

 その質問に、アリギアの笑みが深くなった。

 

「おや、察しがいいねえ」

 

『お前がわざわざ人を集める時点で、普通の星ではないだろう』

 

「ご明察。しかも、追いかけてきたのは、あのウルトラマンゼロだ」

 

『……ゼロ?』

 

 通信の向こうで、声の調子が変わった。

アリギアはその反応を楽しむように、わざとらしく肩をすくめた。

 

「そう。あの有名なウルトラマンゼロ。まったく、厄介な奴に目をつけられたものだよ」

 

『ならば、なおさら慎重に動くべきだ。奴を敵に回して、ただで済むとは思えん』

 

「だからこそ、仲間が必要なのさ。俺一人で相手をするつもりはないよ」

 

 アリギアは通信を終え、満足そうに息を吐いた。

これで、何人かは来るだろう。

彼らが到着すれば、地球の混乱はさらに大きくなる。

街が騒がしくなればなるほど、人々の目はそちらに向く。警察も軍も、目の前の事件への対処に追われるはずだ。

その隙に、自分は本来の目的を進めればいい。

 

 

 

 

 

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