ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 作:わたあめ丸
「……なあ、ひとつ聞いていいか?」
ソファーに腰掛け、ようやく一息ついたゼロが、卯月たちへ視線を向けた。
「なんだよ、ゼロ?」
未央がすぐさま反応する。
「俺たちウルトラマンって、そんなに有名なのか?未央がよく知ってくれているのはよく分かったが余り知らなそうな卯月や凛も名前は知ってるんだろ」
「うーん、この世界だと有名というか……少なくとも日本なら名前だけなら誰もが知っているヒーロー、って感じかな?」
「誰もが知ってる、ねえ……」
ゼロは複雑そうな顔で頭をかいた。
そんな彼を見て、卯月が少し考え込む。
「でも、ゼロさんって、思っていたより普通にお話しするんですね」
「……は?」
「いえ、あの、その……」
卯月は慌てて両手を振った。
「ウルトラマンって、もっとこう、落ち着いていて、誰に対しても丁寧な言葉で話すイメージがあったので……!」
「あー、それ、私もちょっと思った!」
未央も納得したように手を叩く。
「もっと『人間諸君、安心したまえ』とか、『私が来たからにはもう大丈夫だ』とか、そういう感じかと!」
「お前、俺を何だと思ってんだよ!?」
ゼロが思わず声を上げた。
「いやいや、だってウルトラマンだよ!? 宇宙の平和を守るヒーローだよ!? もっとこう、威厳とか、神秘的な雰囲気とかあるじゃん!」
「……未央、あんたがさっきから一番失礼だと思う」
凛が呆れたように指摘する。
「えーっ!? 褒めてるんだよ、褒めてる!親し雰囲気あってウルトラマンらしさ無いなぁって」
「どこがだ!」
ゼロは大きくため息をついた。
「いいか、俺たちウルトラマンだって生き物なんだ。いろんな奴がいる。礼儀正しい奴もいれば、無口な奴もいるし、俺みたいに多少口が悪い奴だっているんだよ」
「多少……?」
凛が小さくつぶやいた。
「おい、聞こえてんぞ!」
「ふふっ……」
卯月は思わず笑ってしまった。
テレビで見ていたヒーローが、実際にはこんなふうに冗談を言い、怒り、仲間のように接してくれる。
そのことが、なんだか不思議で、少し嬉しかった。
「……でも、ゼロさんが助けてくれた時は、本当に格好よかったです」
卯月が真っ直ぐにそう言うと、ゼロは一瞬だけ目を丸くした。
「……お、おう。そりゃどうも」
そして、照れ隠しのように顔をそらす。
「ま、目の前で誰かが危ねえ目に遭ってたら、助けるのは当然だろ」
「ゼロって、そういうところは本当にヒーローだよねえ」
「そういうところは、って何だよ!」
未央の言葉に、またしてもゼロのツッコミが響いた。
その時だった。
コンコン、と事務所の扉がノックされた。
「……あれ? 誰だろう?」
卯月が立ち上がり、扉へ向かう。
「はーい!」
扉を開けた先にいたのは、一人や二人ではなかった。
「卯月ちゃん! 未央ちゃん! 凛ちゃん! 大丈夫!?」
最初に飛び込んできたのは、ツーサイドアップの髪を揺らした赤城みりあだった。
「さっきのロボット、すっごく大きかったよね!? みんな、怪我してない!?」
「みりあちゃん……! うん、私たちは大丈夫だよ!」
卯月が笑顔で答える。
「よかったぁ……!」
みりあはほっと胸をなで下ろした。
その後ろから、銀色の髪を揺らしたアナスタシアが顔をのぞかせる。
「卯月、未央、リン……無事で、よかったです。あのロボット、とても大きくて……アーニャ、少し怖かったです」
「心配かけちゃってごめんね、アーニャ!」
未央が手を合わせて謝る。
「でも、三人とも無事で何よりです」
アナスタシア続いて、神崎蘭子が深刻そうな表情で口を開いた。
「混沌の機械兵が街を蹂躙し、天より舞い降りし銀の巨人がそれを討ち果たした……。彼の者は果たして、いかなる深淵より来たりし存在なのだ……!?」
「えっと……蘭子、いつもよりちょっと気合いが入ってない?」
凛が苦笑する。
「闇に生きる者として、あの巨人の正体は看過できぬ! その真意を見極めねば……!」
「つまり、あの巨人が何者なのか気になるってことだよね!」
城ヶ崎莉嘉が元気よく割り込んだ。
「アタシも気になる! あんなに大きいのに、すっごく速かったし! ロボットの腕をシュバッて切り落として、最後はビームでドカーン! って!」
「莉嘉ちゃん、説明が擬音ばっかりだよ……」
多田李衣菜が苦笑する。
「でも、あの戦いはすごかったよね。あんな巨大な相手に、あれだけ正面から立ち向かえるなんて……ロックだなあ」
「李衣菜ちゃん、ロックってそういうことなのかな……?」
新田美波は苦笑しながらも、部屋にいる三人の姿を確かめた。
「それより、みんな本当に大丈夫? 建物もかなり壊れていたし、怪我をしていないか心配だったの」
「はい! 私たちは大丈夫です!」
卯月が答える。
すると、美波の隣から、杏がひょこりと顔を出した。
「いやー、無事でよかったよかった。杏としては、こういう時こそ家で寝ていたかったんだけどねえ」
「杏ちゃん、心配して来てくれたんでしょ?」
「まあねー。みくが『みんなの様子を見に行くにゃ!』ってうるさかったから」
「うるさくないにゃ!」
前へ出てきた前川みくが、ぴしっと杏を指さした。
「みくは仲間のことが心配だっただけにゃ! それに、あんな大事件が起きたら、誰だって気になるでしょ!」
「はいはい。みくは優しいねえ」
「その言い方、絶対に思ってないにゃ!」
その横では、三村かな子が心配そうに卯月の手を取っていた。
「卯月ちゃん、未央ちゃん、凛ちゃん……本当に無事でよかった。何かあったらどうしようって、ずっと心配していたんだよ」
「かな子ちゃん……ありがとう!」
かな子のすぐ後ろから、不安そうにおどおどと顔を出したのは緒方智絵里だった。胸の前で両手をギュッと握りしめ、安堵に瞳を潤ませている。
「あの……私、四つ葉のクローバーのお守りにお祈りしてたんです……三人とも、怪我ひとつなくて……本当によかった……っ」
「智絵里ちゃん……! 心配かけてごめんね、お祈りしてくれてありがとう!」
卯月が優しく微笑みかけると、智絵里はホッと胸を撫でおろし、小さく笑みをこぼした。
そして最後に、諸星きらりが長身をかがめながら、部屋の中へ入ってきた。
「うきゃー! みんな無事でよかったにぃ☆ きらり、すっごく心配したんだよぉ!」
「きらりちゃん!」
卯月たちが笑顔で迎える。
総勢十四人。
それぞれ心配そうな表情を浮かべていたが、三人が元気にしていることを確かめると、少しずつ安堵の空気が広がっていった。
――ただし。
「……ん?」
みりあが、ふと首をかしげた。
「ねえ、みんな。あそこにいるお兄さん、誰?」
「……あ」
卯月たち三人の動きが、ぴたりと止まった。
全員の視線が、部屋の奥に座っている青年へと集まる。
どう見てもこの事務所の関係者には見えない見慣れない服装に、左腕の奇妙なブレスレットを付けた黒髪の青年へ。
「……確かに」
美波が慎重に口を開いた。
「卯月ちゃんたちのお知り合い?」
「えっと、それは……」
卯月が答えに迷う。
ゼロは、そんな彼女たちの様子を見て首をかしげた。
「……なんだ? 俺のことか?」
「うん! そうだよ!」
みりあが遠慮なくうなずいた。
「お兄さん、誰なの?」
「俺は――」
ゼロは口を開きかけた。
ただ休ませてもらっているだけだ。そう説明すればいい。
そう考えた、その時。
「実はね!」
未央が、ぱんっと手を叩いた。
「この人、さっきのロボット騒動の時に、しまむーを助けてくれたんだ!」
「えっ!?」
卯月が目を丸くする。
「ちょ、未央ちゃん……!?それ言っちゃ…」
「瓦礫に押し潰されそうになった卯月を助けてくれたんだよ! それで、その時に怪我をしちゃったみたいでさ!」
「未央、お前……」
ゼロが嫌な予感を覚えた時には、すでに未央は満面の笑みを浮かべていた。
「しかもね、実はこの人……記憶喪失なんだって!」
「…………は?」
ゼロの顔が固まった。
「ちょっと待て」
「自分の名前以外、何も覚えてないんだって。だから、私たちで保護してあげようって話になったんだよ!」
「おい、未央! 俺はそんなこと一言も――」
「ええっ!? 記憶喪失!?」
莉嘉が大声を上げた。
「じゃあ、お兄さん、自分がどこから来たのかも分かんないの!?」
「いや、だから――」
「それは……大変ですね」
美波が真剣な顔になった。
「自分の名前以外、何も思い出せないなんて……不安でしょう?」
「……いや、別に俺は……」
「ううっ、かわいそうにゃ……」
みくが胸の前で両手を握りしめる。
「安心するにゃ! みくたちがきっと力になるにゃ!」
「そうだよ! お兄さん、困ったことがあったら何でも言ってね!」
みりあも元気よく言った。
「うんうん! きらりたちが、いーっぱいお手伝いするにぃ☆」
きらりまで大きくうなずく。
「いや、だから、俺は記憶喪失なんかじゃ――」
ゼロは未央を睨んだ。
未央はその視線を受け止めると、こっそり小声で耳打ちした。
「いいから、今は話を合わせて!」
「はぁ!?」
「ゼロって、この世界で身分証とか持ってる? 住む場所は? お金は? そもそも、ここが別の世界だって分かってるんでしょ?」
「……っ」
ゼロは言葉に詰まった。
確かに、ない。
身分証もなければ、住む場所もない。そもそも自分はこの世界の人間ですらないのだ。
宇宙警備隊の隊員証を見せたところで、彼女たちに理解できるはずもない。
「……それは、そうだが」
「でしょ? だったら、ひとまずこういうことにしておいた方が後々都合がいいって!」
「お前なぁ……!」
「それにさ」
未央は声をさらに小さくした。
「本物のウルトラマンが目の前にいるんだよ? このまま帰しちゃうなんてもったいないじゃん!」
「お前、そっちが本音だろ!」
「えへへ!」
「えへへ、じゃねえ!」
ゼロは頭を抱えた。
目の前の少女は、どうやら自分の想像以上に図太いらしい。
だが、未央の言い分にも一理はあった。
今の自分には、この世界で頼れる相手がいない。
ひとまず彼女たちの世話になりながら、アリギアの行方を追う。それも悪い選択ではないだろう。
もっとも――。
(……記憶喪失ってことにされるとは、思わなかったぜ)
ゼロは心の中でため息をついた。
「……えっと、みんな?」
卯月が困ったように笑いながら、仲間たちへ向き直った。
「この人、今は休んでもらっているところなんです。だから、あまり気にしないでくださいね」
「うん! そういうこと!」
未央が大きくうなずく。
「名前以外は覚えてないみたいだから、私たちで少しずつ手伝ってあげようと思って!」
「そっかぁ……」
みりあは納得したようにうなずいた。
「じゃあ、お兄さんのこと、みんなで助けてあげようね!」
「そうだね。まずは、体調を確認した方がよさそうだ」
美波は青年の様子を観察した。
顔色は悪く、疲労も見て取れる。無理をしているのは間違いなさそうだった。
「病院には行かなくて大丈夫なんですか?」
「いや、俺は――」
「ええと、本人は少し休めば大丈夫だって言ってるんですけど……」
卯月が助け舟を出す。
「でも、無理はしないでくださいね?」
「……ああ。分かった」
ゼロは渋々うなずいた。
少なくとも、この場で記憶喪失という設定を否定しても、話がややこしくなるだけだ。
何より、目の前の少女たちは本気で自分を心配してくれている。
嘘をついていることに、多少の後ろめたさはあった。
もっとも、嘘をつき始めたのは未央なのだが。
ーーーーーーー
「……あまねく衆生よ、刮目せよ!」
ひとまず青年の事情を聞いたところで、蘭子が両手を広げて神秘的に口を開いた。
「我らが眼前に降臨せし、あの銀の漆黒を払う閃光……! 彼の者は果たして、いかなる界層より来たりし存在なのだ……!?」
「えーっとね!」
みりあがすかさず笑顔で通訳に入った。
「『改めてだけど、さっき助けてくれたあの大きな巨人さんは、一体何者なんだろう?』って言ってるんだよ!」
「そうそう! あのロボットを倒した人!」
莉嘉が身を乗り出す。
「テレビで見たウルトラマンにそっくりだったけど、あんなの本当にいるんだね!」
「いや、テレビで見たって……」
杏が気の抜けた声を出した。
「そりゃあ、テレビのヒーローなんだから、いるわけない……って言いたいところだけど。さっきの騒ぎを見ると、そうも言ってられないか」
「でも、実際に街を守ってくれたんだよね?」
かな子が尋ねた。
「はい……」
かな子の隣で、智絵里が小さく胸の前で両手をギュッと握りしめた。
「とっても怖かったけど……あの大きな人が守ってくれなかったらと思うと……感謝しても、しきれません」
「そうですね。あの巨人が来てくれなかったら、被害はもっと大きくなっていたでしょうから」
美波が真剣な表情で答える。
「ロボットの腕を切り落として、最後は光線で倒していた。あれだけの力があるのに、街の人たちを巻き込まないように戦っていたように見えましたから」
「うんうん! すっごく格好よかったにぃ!」
きらりが両手を胸の前で合わせた。
「大きいのに、みんなを守ってくれるなんて……きらり、あの巨人さんとお話ししてみたいなぁ☆」
きらりが夢見るように両手を合わせると、莉嘉も勢いよくうなずいた。
「わかるー! アタシもお話ししてみたい! あんなに強いんだもん、絶対カッコいいよね!」
「でも、本当にすごかったよね。あんな大きなロボットを相手に、最後まで諦めずに戦って……」
「そうね。あれほどの力があるのに、周囲への被害を抑えようとしていたように見えた」
凛も腕を組みながら、窓の外へ目を向ける。
「少なくとも、私たちを助けてくれたのは確かだし」
「……あの巨人は、いったい何者なんでしょうね」
美波が考え込むようにつぶやいた。
「うーん、そんなの分かんないで良いんじゃない?」
杏はソファーの背もたれに体を預け、気の抜けた声を出した。
「とりあえず、あの巨人が悪い奴じゃなかった。今はそれでいいんじゃない?」
「杏ちゃん、ざっくりしてるにゃあ……」
みくが呆れたように言う。
「でも、確かにそうだね。あの巨人さんは私たちを助けてくれたんだから!」
みりあが元気よくうなずいた。
「いつか、また会えるといいな!」
「……へっ」
その会話を聞いていた青年が、小さく笑った。
ソファーに腰掛けたまま、彼はアイドルたちの話に耳を傾けていた。
自分のことを、まるで遠い場所にいる憧れのヒーローのように語る少女たち。
その姿は、少しくすぐったくもあり、悪い気はしなかった。
「……なあ」
青年が口を開くと、少女たちの視線が一斉に集まった。
「もし、またあの巨人が現れたら、お前らはどうするんだ?」
「えっ? そりゃあ、もちろん応援するよ!」
未央が即答した。
「頑張れー! って!」
「未央らしいね」
凛が小さく笑う。
「でも、そうだね。私も応援したいかな。あんなふうに誰かを守るために戦っているなら、少しでも力になりたいし」
「私もです!」
卯月が続いた。
「何もできないかもしれないけど……助けてもらったお礼くらいは、ちゃんと伝えたいです!」
「私も……お礼を伝えたいです」
智絵里がほんのり頬を染めながら、意を決したように声を小さく上げた。
「もしまた大変な戦いになっても……私たちが応援することで、少しでも勇気をあげられたらなって……」
「我が咆哮、星天の護り手に届かる!」
突如、蘭子がバッと手を天に差し出す様に伸ばし前へ躍り出た。
「深淵の暗雲が世界を覆い、彼の者が孤高の刃を振るう時……我らは言の葉の聖歌を紡ぎ、魂の光輝を捧げん! 彼の護りし平和の園より、祈りの風を送り出すのだ!」
「えっ……えっと、蘭子ちゃん、どういうこと……!?」
李衣菜が目を白黒させながら頭を抱える。
「あはは、蘭子ちゃんはね!」
みりあがニッコリ笑って翻訳に入った。
「もし巨人さんがピンチになっても、私たちが歌で応援して、元気をいっぱい送ってあげよう!って言ってるんだよ!」
「なるほど! そういうことか!」
李衣菜はパッと表情を明るくさせ、拳をギュッと握りしめた。
「それってさ……ヒーローのピンチを私たちの歌で支えるってことでしょ? めちゃくちゃ熱いし、すっごくロックじゃん!」
「ふふ、アーニャも賛成です」
アーニャが静かに微笑み、胸に手を当てる。
「歌は、言葉が届かない遠くへも、心へも届きます。だから……スパシーバの気持ちを込めて、歌いたいです」
「きらりもー! いっぱいお礼を言って、ぎゅーって……」
そこまで言って、きらりは首をかしげた。
「……あっ。でも、あんなに大きかったら、ぎゅーってするのも大変かなぁ?」
「きらりちゃん、それ以前に相手がびっくりしちゃうと思うよ……」
かな子が苦笑する。
「大丈夫! きらり、優しくぎゅーってするもん☆」
「そういう問題じゃないと思うにゃ……」
みくのツッコミに、事務所の空気が和やかな笑いに包まれた。
青年は、そんな彼女たちを眺めながら、心の中でつぶやく。
(……まったく、調子が狂うぜ)
戦いの最中には、こんな穏やかな時間を過ごす余裕などなかった。
だが、彼女たちはあの戦いを恐ろしい出来事としてだけではなく、誰かが自分たちを守ってくれた出来事として受け止めている。
それが、少しだけ嬉しかった。
ゼロが照れくさそうにしていると、事務所の扉がノックされた。
コン、コン。
「……失礼します」
落ち着いた男性の声が響いた。
「プロデューサーさん!」
卯月が声を上げる。
扉を開けて入ってきたのは、346プロダクションのプロデューサー、武内だった。
「皆さん、ご無事で何よりです。先ほどの騒動について、心配しておりました」
「ご心配をおかけしてすみません!」
卯月が頭を下げる。
「いえ。皆さんが無事であれば、それで十分です」
武内は短く答え、部屋の中を見渡した。
そこで、ソファーに座る見知らぬ青年に気づく。
「……失礼ですが、そちらの方は?」
「あっ、そうだった!」
未央が勢いよく手を挙げた。
「プロデューサー! この人のことで、ちょっと相談があるんだけど!」
「相談、ですか?」
「うん! 実はね、この人、さっきの騒動の時にしまむーを助けてくれたんだ!」
「……そうなのですか?」
武内は青年へ視線を向けた。
「はい。瓦礫が落ちてきた時に、シンさんが助けてくれたんです」
卯月も続けて説明する。
「その時に怪我をしてしまったみたいで……。それで、今は事務所で休んでもらっているんです」
「なるほど。島村さんを助けてくださったのですね。ありがとうございます」
武内は青年に向き直り、丁寧に頭を下げた。
「いえ、別に礼を言われるようなことじゃねえよ」
ゼロは少し面食らいながら答えた。
厳つい顔をした男が、これほど真面目に礼を言うとは思っていなかったのだ。
その時、未央が思い出したように付け加えた。
「それでね、プロデューサー。この人、記憶喪失なんだって!」
「……記憶喪失、ですか?」
「そう! 自分の名前以外、何も覚えてないんだって!だからさ、プロデューサー。このまま一人にしておくのも心配だし、うちで面倒を見てあげられないかなって!」
「……面倒を見る、ですか」
「うん! せっかく卯月を助けてくれたんだし、記憶が戻るまで、私たちで力になってあげたいんだよ!」
「それは……どの様にでしょうか」
武内は静かに考え込んだ。
「それでね!」
未央はさらに勢いを増した。
「サブプロデューサーとして、雇ってあげるのはどうかな?」
「……は?」
ゼロの口から、今度こそ間の抜けた声が漏れた。
サブプロデューサー?
雇う?
何の話だ?
「ちょ、ちょっと待て! 俺はそんな話、聞いてねえぞ!?」
「えー? だって、シンさん、これからどうするの?」
「どうするって……!」
ゼロは言葉に詰まった。
確かに、今の自分には帰る場所がない。
この世界に身分もなければ、頼れる知り合いもいない。アリギアをブッ飛ばすまでは、どこかで身を寄せる必要があるだろう。
だが、だからといって、いきなりアイドル事務所で働くことになるとは思わなかった。
「……お前、俺を何だと思ってんだ?」
「困ってる人!」
「ざっくりしすぎだろ!」
ゼロのツッコミが事務所に響いた。
その様子を見て、みりあがくすくすと笑う。
「シンさん、おもしろーい!」
「いや、面白がってる場合じゃねえだろ……!」
ゼロは額に手を当てた。
しかし、未央は真剣な表情で武内へ向き直った。
「もちろん、無理にとは言わないよ。でも、シンさんは私たちを助けてくれたんだし、何かお返しがしたいんだ。それに、記憶が戻るまでの間だけでも、安心して暮らせる場所があった方がいいと思うんだよね」
先ほどまでの軽い調子とは違う、まっすぐな言葉だった。
武内はしばらく黙っていたが、やがて青年へ向き直った。
「差し支えなければ、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……ああ」
ゼロはひとまずうなずいた。
「まずは、お名前を教えていただけますか?」
「モロボシ・シンだ」
「モロボシ・シンさん、ですね。私は武内と申します。346プロダクションで、こちらの皆さんを担当するプロデューサーを務めています」
武内は丁寧に頭を下げた。
「改めまして、島村さんを助けていただき、ありがとうございました」
「……おう。気にすんな」
ゼロは照れくさそうに顔をそらした。
「それで、モロボシさん。今後についてですが……」
武内は慎重に言葉を選んだ。
「もし本当に記憶を失っておられるのであれば、身元の確認や生活の支援が必要になるかと思います。ただ、私の一存で雇用を決めることはできません。仕事内容や待遇についても、きちんと確認する必要があります」
「……まあ、そりゃそうだな」
ゼロはうなずいた。
この男は、安易に引き受けるとも、できないと突き放すとも言わない。
できることと、できないことを分けたうえで、真剣に考えている。
その態度は、ゼロにも好ましく感じられた。
「ですが、モロボシさんが希望されるのであれば、記憶が戻るまでの一時的な雇用について、検討することは可能です」
「本当!?」
未央が身を乗り出す。
「はい。ただし、正式に決まったわけではありません。ご本人の意思を確認したうえで、必要な手続きを進めたいと思います」
武内はゼロへ視線を向けた。
「モロボシさん。こちらで働くことについて、どうお考えですか?」
「…………」
ゼロは黙り込んだ。
働く。
アイドルのプロデューサー。
自分は宇宙警備隊の一員であり、これまで数え切れないほどの敵と戦ってきた。
そんな自分が、まさか地球の芸能事務所で働くことになるとは。
(…UFZの奴らにに知られたら、何て言われるか分かったもんじゃねえな)
特にグレンが腹を抱えながら笑っている所を想像しただけで、頭が痛くなった。
だが、今は元の世界へ戻る手段がない。アリギアの企みを探るにも、この世界で活動するための拠点があった方が都合がいい。
それに――。
ゼロは、周囲にいる少女たちを見渡した。
卯月は心配そうに自分を見つめている。凛は静かに様子をうかがい、未央は期待に満ちた顔でこちらを見ていた。
それ以外のみんなも、ついさっき会ったばかりの自分のことを本気で心配してくれている。
ならば、その気持ちに応えるのも悪くない。
「……分かった。しばらく世話になる」
「本当!?」
未央がぱっと笑顔になった。
「ただし、俺はプロデューサーなんて素人だからなできる範囲でだ。細かい仕事の話は、あとでちゃんと聞かせてもらうぜ」
「もちろんです。ありがとうございます、モロボシさん」
武内が丁寧に頭を下げる。
「こちらこそ、よろしく頼む」
ゼロも軽く頭を下げた。
その時、きらりがぱっと手を挙げた。
「はーい! きらり、ひとつ気になることがあるんだけどぉ!」
「……何だ?」
ゼロが顔を向ける。
「シンちゃんって、モロボシっていうお名前なんだよねぇ?」
「ああ、そうだが」
「きらりも、諸星きらりっていうんだよぉ! 名字が一緒だにぃ☆」
「……おお、確かに」
「うきゃー! なんだか親近感わいちゃうねぇ☆」
きらりは嬉しそうに両手を合わせた。
「シンちゃんって呼んでもいい?」
「……別に構わねえよ」
「やったぁ! じゃあ、シンちゃんだにぃ!」
きらりが満面の笑みを浮かべる。
その笑顔につられるように、みりあや莉嘉も楽しそうに笑った。
「シンさん、よろしくね!」
「おう。よろしくな」
ゼロは少し照れくさそうに頬をかいた。
こうして、異世界からやってきたウルトラマンゼロ――モロボシ・シンは、346プロダクションのアイドルたちと、思いがけない形で関わることになった。