ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 作:わたあめ丸
――緊急特別番組。
夕方のニュース番組が終わった直後、テレビ画面には、普段とは異なるスタジオの様子が映し出されていた。
背景の大型モニターに表示されているのは、崩れたビルと、街の中心で向かい合う二つの巨大な影。
一方は、無機質な金属の身体を持つ巨大ロボット。
もう一方は、銀色の身体に赤と青の模様を持つ、謎の巨人だった。
画面下には、赤い文字でこう表示されている。
『緊急検証! 巨大ロボット襲来と謎の巨人――その正体に迫る』
『本日は、先ほど市街地で発生した巨大ロボットによる破壊事件について、現場の映像を交えながら詳しくお伝えします』
スタジオの中央に座る女性アナウンサーが、落ち着いた声で番組を進行していた。
『突如として街に現れた巨大ロボットは、複数の車両を回収しながら建物を破壊。その後、現場に出現した正体不明の巨人との戦闘に発展しました』
モニターに、視聴者から提供された映像が流れる。
ビルの間を歩くロボット。
逃げ惑う人々。
そして、崩れ落ちる瓦礫の向こうから姿を現す銀色の巨人。
『この巨人は、ロボットの攻撃を受けながらも反撃。両腕を切断した後、胸の前で両腕を構え、光線のようなものを発射しました。ロボットはその攻撃を受けて爆発し、巨人はその直後、光の粒子となって姿を消しています』
映像が停止した。
画面いっぱいに映し出されたのは、銀色の巨人の姿だった。
『今回、専門的な観点から事件を分析していただくのは、生物学と機械工学の両方に精通し、特撮作品にも造詣が深い評論家のカネダさんです。そして、特別ゲストとして、アイドルの南條光さんにもお越しいただきました』
「よろしくお願いします!」
紹介された南條光は、いつもより少し背筋を伸ばしていた。
その表情は真剣だったが、目には隠しきれない興奮が宿っている。
何しろ、今日の事件は彼女にとって、夢にまで見た光景だったのだから。
現実の街に巨大なロボットが現れ、それと戦うために銀色の巨人が空から降り立った。
そんな出来事が、実際に起きたのだ。
『南條さんは、今回の事件をどのようにご覧になりましたか?』
「そ、それはもう……!」
光は思わず身を乗り出しかけ、慌てて座り直した。
「すっごく興奮しました! だって、あのロボット……クレージーゴンですよね!?」
『……クレージーゴン?』
アナウンサーが聞き返す。
隣に座っていたカネダが、静かにうなずいた。
「ええ。映像を見る限り、今回の巨大ロボットは、かつて特撮番組『ウルトラセブン』に登場したロボット怪獣、クレージーゴンによく似ています」
モニターが切り替わる。
そこには、今回のロボットと、テレビ番組に登場したクレージーゴンの姿が並べられていた。
「もちろん、外見が似ているからといって、同一の存在だと断定することはできません。ただ、頭部や胴体の形状、腕の構造、そして車両を回収するという行動には、無視できない共通点があります」
『つまり、今回のロボットは、テレビ番組に登場した怪獣を模倣して作られた可能性があるということでしょうか?』
「その可能性はあります。もっとも、私はむしろ、逆の可能性も考えるべきだと思っています」
カネダは、モニターに映るロボットを見つめた。
「つまり、私たちがテレビ番組の中の存在だと考えていたものに、実際のモデルが存在するのではないか――という可能性です」
スタジオに、わずかな沈黙が落ちた。
アナウンサーが慎重に言葉を選ぶ。
『それは……私たちが知っている特撮作品と、現実の事件がつながっているということでしょうか?』
「少なくとも、今回の事件は、そう考えるきっかけにはなるでしょう」
カネダは手元の資料をめくった。
「そもそも、クレージーゴンは『ウルトラセブン』に登場したロボット怪獣です。車両を回収するという特異な行動を見せ、ウルトラセブンと戦いました。今回のロボットも、街に現れて車両を集めていた。これは、偶然の一致と片づけるには興味深い点です」
光が、勢いよくうなずいた。
「そうなんです! アタシも映像を見た時、すぐにクレージーゴンだって思いました!」
彼女は拳を握りしめる。
「でも、テレビの中でしか見たことがなかった怪獣が、本当に街に現れるなんて……。もちろん、実際に被害が出ているんだから、喜んでばかりはいられません。だけど、それでも……!」
光は一度、言葉を切った。
「特撮の中で見ていたヒーローと怪獣が、本当にこの世界にいるかもしれないんです。そんなの、夢みたいじゃないですか!」
彼女の声には、抑えきれない熱がこもっていた。
その一方で、アナウンサーは少し心配そうに尋ねた。
『南條さんは、特撮作品がお好きなんですね』
「はい! 大好きです!」
光は即答した。
「特撮って、ただ強いヒーローが怪獣を倒すだけじゃないんです。怖くても逃げずに立ち向かう人がいたり、誰かを守るために自分にできることを探したり……。そういうところが、すごく好きなんです!」
「なるほど」
カネダが興味深そうにうなずいた。
「南條さんは、特撮作品の中に描かれるヒーローの精神に魅力を感じているのですね」
「はい! だからこそ、今回の巨人も気になるんです!」
光の視線が、再びモニターへ向けられた。
そこには、銀色の巨人がクレージーゴンの前に立ちはだかる姿が映っていた。
「この巨人……見た目もそうですけど、戦い方にも、どこかウルトラセブンに近いものを感じるんですよ」
『ウルトラセブンに、ですか?』
「はい!」
光は身振りを交えながら説明した。
「まず、頭についている刃みたいなもの! あれを飛ばして、ロボットの腕を切り落としていましたよね! ウルトラセブンにも、アイスラッガーっていう武器があるんです!」
モニターに、巨人が頭部の刃を飛ばす瞬間が映し出される。
「それに、最後の光線! ウルトラセブンも、エメリウム光線やワイドショットみたいな技を使います。もちろん、今回の巨人が同じ技を使っていると決まったわけじゃないですけど……」
光は、そこで少しだけ声を落とした。
「なんていうか……似ているんです。強いだけじゃなくて、戦い方にも、誰かを守ろうとする姿にも」
彼女はモニターを見つめた。
「だから、アタシ……あの巨人のことを、もっと知りたいです」
その言葉を受け、カネダが小さく息を吐いた。
「南條さんの指摘は、興味深いですね」
彼はモニターの映像を止めた。
「ただし、ここで一つ、重要な点があります」
『重要な点、ですか?』
「はい。私たちは今、目の前で起きた出来事を、すでに知っている物語の枠組みに当てはめて理解しようとしています」
カネダは、今回の巨人とウルトラセブンの画像を並べた。
「人間は未知のものに遭遇した時、既知のものと比較することで理解しようとします。今回の巨人をウルトラマンに似ていると感じるのも、クレージーゴンを『ウルトラセブン』の怪獣と結びつけるのも、自然な反応です」
そして、彼は二つの画像を指し示した。
「しかし、似ていることと、同じ存在であることは別です。今回の巨人がウルトラマンなのか、クレージーゴンが本当に私たちの知るロボット怪獣なのか。それは、まだ分かっていません」
『では、カネダさんは、今回の事件をどのように考えていらっしゃるのでしょうか?』
「生物学と機械工学、それから特撮作品の研究という三つの視点から、考えてみたいと思います」
カネダは、まずクレージーゴンの映像を拡大した。
「最初に、巨大ロボットについてです」
画面には、ロボットが腕を伸ばし、路上の車両をつかみ取る場面が映し出されている。
「この動作を見てください。対象を認識し、腕を伸ばし、つかみ、回収する。少なくとも映像上では、動作に一貫性があります。単純な暴走機械というより、何らかの目的に沿って行動しているように見えます」
『つまり、誰かが操作していた可能性があると?』
「ええ。もちろん、自律制御で動いていた可能性もあります。ですが、いずれにせよ、何らかの判断機構が備わっていたと考えるのが自然でしょう」
カネダは別の映像を表示させた。
今度は、クレージーゴンが銀色の巨人と戦う場面だ。
「次に、機械としての構造です。あれほどの大きさで、あの速度で動き、さらに巨人の攻撃を受けても一定時間は戦闘を続けていました。現代の工学技術を基準に考えるなら、動力源、関節の強度、熱の処理、そして機体の重量をどう扱っているのか。解明すべき点は山ほどあります」
『現在の技術では、実現が難しいということですか?』
「少なくとも、私たちが一般に知っている技術だけでは説明が困難です」
カネダは慎重に言い直した。
「だからこそ、未知の技術が使われている可能性を考える必要があります。地球外の技術なのか、それとも私たちがまだ知らない技術なのか。それは、今後の調査を待たなければなりません」
アナウンサーがうなずく。
『では、銀色の巨人についてはどうでしょうか?』
カネダは、そこで一度、言葉を切った。
「こちらは、さらに興味深い」
モニターには、巨人がクレージーゴンの両腕を切断する瞬間が映し出されていた。
「この巨人は、巨大な機械を相手に、極めて高い運動能力を発揮しています。単純な筋力だけではなく、戦闘中の姿勢制御や、攻撃を受けた際の対応にも注目すべき点があります」
「それって……」
アナウンサーが口を挟んだ。
「生き物みたいに、自分で考えて動いているってことですか?」
「少なくとも、映像からは、そのように見えます」
カネダは答えた。
「もし機械であるなら、これほど自然な動きを再現するためには、非常に高度な制御技術が必要でしょう。一方、生物であるなら、あの巨大な身体をどうやって支え、どのようにエネルギーを得ているのかという問題が生じます」
『生物か、機械か。それすらも分からないのですね』
「ええ。あるいは、私たちの知っている生物や機械という分類だけでは、説明できない存在なのかもしれません」
カネダは真剣な表情で続けた。
「ただ、一つだけ言えることがあります。あの巨人は、少なくとも今回の戦闘において、クレージーゴンを破壊することだけを目的に動いていたわけではないように見えました」
『といいますと?』
「戦闘の最中、周囲には逃げ遅れた人々がいました。巨人はロボットを攻撃する一方で、周辺への被害を抑えるように動いていたようにも見えます。もちろん、映像だけで意図を断定することはできません。しかし、もしあの巨人が自分の意思で行動していたのなら……」
カネダは、巨人の姿を見つめた。
「彼は、街の人々を守るために戦っていたのかもしれません」
光の表情が、ぱっと明るくなった。
「そうです! アタシもそう思います!」
彼女は勢いよく身を乗り出した。
「だって、あの巨人はロボットを倒した後、街を壊したり、周りの人を攻撃したりしませんでした。最後には光になって消えちゃいましたけど……少なくとも、街を守ろうとしてくれたんだと思います!」
光は拳を握りしめた。
「だから、あの巨人はヒーローなんじゃないかなって!」
その言葉に、アナウンサーが微笑んだ。
『南條さんは、あの巨人をヒーローだと考えているのですね』
「はい!」
光は、迷わずうなずいた。
「もちろん、まだ何も分かっていません。どこから来たのかも、何のために戦ったのかも。でも、少なくとも、あの時のあの巨人は、街の人たちを助けてくれました」
彼女の声が、少しずつ力強くなっていく。
「ヒーローって、特別な力を持っている人だけのことじゃないと思うんです。強いからヒーローなんじゃない。誰かを助けようとするから、ヒーローなんです!」
光は、正面のカメラをまっすぐに見た。
「特別な才能がなくたって……神様に選ばれてなくたって! 正誰かの笑顔のために戦える人、それがヒーローだ!」
言葉が途切れた。
光は一瞬、言い間違いに気づいたように口を閉じたが、すぐに顔を上げる。
「だから、誰だってヒーローになれるんだ!」
スタジオが静かになった。
アナウンサーは、少しの間を置いてから、穏やかに口を開いた。
『……南條さん、ありがとうございます』
カネダも、静かにうなずいていた。
「今の言葉は、今回の事件を考えるうえでも大切な視点だと思います」
『といいますと?』
「特撮番組『ウルトラマン』では、巨大な宇宙人が怪獣と戦い、人々を守ります。しかし、作品が描いているのは、巨大な存在が敵を倒す場面だけではありません」
カネダは、モニターに過去の特撮番組の映像を映し出した。
「人間には、人間にできることがある。科学者は科学者として、隊員は隊員として、そして一般の人々も、それぞれの立場から危機に立ち向かう。ウルトラマンが戦う一方で、人間たちもまた、自分たちにできることを探していくのです」
画面には、怪獣に立ち向かう科学特捜隊の姿が映っていた。
「巨大な力を持つ存在だけが、世界を救うわけではない。そうした考え方が、作品の根底にはあるのだと思います」
カネダは、改めて今回の巨人の映像へ視線を向けた。
「そして、今回の事件で私たちが目撃したのは、現実の街で巨大な存在が人々を守るために戦ったかのように見える光景でした」
『それは、まさに特撮番組の世界が現実になったような……』
「ええ。ですが、だからといって、私たちがただ見守っていればいいということにはなりません」
カネダの声が、少しだけ厳しくなった。
「今回の事件では、実際に建物が破壊され、車両が巻き込まれ、多くの人々が危険にさらされました。巨人が現れてロボットを倒したからといって、それで全てが解決したわけではありません」
光も、真剣な表情でうなずいた。
「……そうですね」
先ほどまでの興奮は、少し落ち着いていた。
「アタシも、あの巨人がまた来てくれたらいいなって思います。でも、できれば、あんな危険なことはもう起きてほしくないです」
彼女は膝の上で拳を握った。
「もし、あのロボットを誰かが操っていたのなら、そいつを止めなきゃいけません。あの巨人がいなかったら、もっとたくさんの人が危ない目に遭っていたかもしれないんですから」
『南條さんは、犯人がいるとお考えですか?』
「分かりません。でも、あのロボットが何のために街へ来たのか、どうして車を集めていたのか。それを調べる必要はあると思います」
光は、モニターに映るクレージーゴンを見つめた。
「怪獣や宇宙人が相手だとしても、怖がっているだけじゃ何も変わらない。まずは、何が起きたのかを知ること。それも、ヒーローになるために必要なことだと思います」
「その通りですね」
カネダは同意した。
「そして、もう一つ。今回の事件で、私が非常に気になっていることがあります」
アナウンサーが彼へ顔を向けた。
『それは何でしょうか?』
「銀色の巨人が、なぜこのタイミングで現れたのか、ということです」
モニターには、時系列を整理した図が表示された。
「ロボットが街に出現し、破壊活動を開始した。その後、巨人が現れて戦闘を行い、ロボットを撃破した。ここまでは、映像から確認できています」
カネダは、巨人が現れた瞬間の映像を指した。
「しかし、巨人はどこから来たのでしょうか。なぜ、あの場所に現れたのでしょうか。そして、戦闘が終わった後、なぜ光の粒子となって消えたのでしょうか」
彼は、三つの疑問を指折り数えた。
「これらは、まだ何一つ解明されていません」
『確かに、謎は多いですね』
「ええ。ですが、私は今回の事件が、単なる巨大ロボットの暴走と、それを止めた正体不明の巨人の戦いで終わるとは限らないと考えています」
その言葉に、スタジオの空気がわずかに緊張した。
『といいますと……?』
「クレージーゴンが何者かによって送り込まれたのだとすれば、今回の事件には明確な目的があった可能性があります。そして、もしあの巨人がそれを阻止したのだとすれば……」
カネダは、そこで言葉を止めた。
「私たちは、まだ事件の全体像を見ていないのかもしれません」
アナウンサーが、ゆっくりとうなずいた。
『つまり、今回の出来事は、今後も続く事件の始まりである可能性があるということですね』
「可能性の一つです。断定はできません。ただ、少なくとも、あのロボットがどこから来たのかを調べなければ、今回の事件を本当に理解することはできないでしょう」
光は、真剣な表情で話を聞いていた。
やがて、彼女は静かに口を開いた。
「……もし、またあの巨人が現れたら」
アナウンサーが光を見る。
「アタシ、今度はちゃんと伝えたいです」
『何を、でしょうか?』
「ありがとう、って」
光は、まっすぐに答えた。
「街を守ってくれてありがとう。戦ってくれてありがとう、って。それから……」
彼女は、少しだけ笑った。
「もし困っていることがあるなら、アタシたち人間にも、何かできることがあるかもしれないって伝えたいです」
その言葉に、カネダは小さくうなずいた。
「それは、とても大切な考え方だと思います」
「だって、ウルトラマンだって、ずっと一人で戦っているわけじゃないですよね?」
光は、テレビ番組で見てきたヒーローたちを思い浮かべる。
「科学特捜隊やウルトラ警備隊の人たちだって、みんな自分にできることをしていたじゃないですか。だから、あの巨人が本当にウルトラマンのような存在なら……アタシたちだって、ただ守られるだけじゃなくて、何かできるはずです!」
光の瞳には、強い意志が宿っていた。
アナウンサーは、その姿を見つめて微笑んだ。
『南條さんらしい、力強い言葉ですね』
「えへへ……。でも、本当にそう思うんです!」
光は照れくさそうに頬をかいた。
「だって、ヒーローが戦う理由って、誰かの笑顔を守るためじゃないですか。だったら、守ってもらう側だって、その笑顔を大切にしなきゃいけないと思うんです」
カネダは、しばらく何も言わずに彼女の言葉を聞いていた。
そして、最後にこう述べた。
「今回、私たちの目の前に現れた巨人が、本当にウルトラマンと同じ存在なのか。それは、まだ分かりません。クレージーゴンも、私たちがテレビで知っているものと同じなのか、現時点では判断できません」
モニターに、銀色の巨人がクレージーゴンの前に立ちはだかる姿が映し出される。
「しかし、もし今回の巨人が、自分の意思で街の人々を守るために戦ったのだとすれば――その行動は、私たちが特撮番組を通して学んできたヒーローの姿と、確かに重なるものがあります」
カネダは、正面のカメラを見つめた。
「私たちが今、考えるべきなのは、あの巨人の正体を決めつけることではありません。何が起きたのかを調べ、被害に遭われた方々を支え、次に同じような事態が起きた時、どうすれば人々を守れるのかを考えることです」
アナウンサーが、静かに言葉を引き継いだ。
『正体不明の巨人。そして、突如として街に現れた巨大ロボット。今回の事件には、まだ多くの謎が残されています』
彼女は一度、モニターへ目を向けた。
『しかし、あの巨人が街を守るために戦ったという事実は、多くの人々の心に残ったことでしょう』
画面には、戦闘の最後の瞬間が映し出されていた。
巨人が両腕を構え、光線を放つ。
クレージーゴンが爆発する。
そして、巨人は光の粒子となって消えていく。
『銀色の巨人は、いったい何者なのか。そして、巨大ロボットは、なぜこの街に現れたのか。私たちは今後も、事件の真相を追っていきます』
アナウンサーは、深々と頭を下げた。
『以上、緊急特別番組「銀色の巨人は何者なのか?」をお伝えしました』
◇
番組終了後。
スタジオの照明が少しずつ落とされ、スタッフたちが片づけを始めていた。
光は椅子から立ち上がると、最後までモニターに残っていた巨人の映像を見つめた。
銀色の身体。
赤と青の模様。
頭部から飛び出した刃。
そして、街を守るために戦う姿。
「……ウルトラセブンに、似てたなあ」
光は、小さくつぶやいた。
もちろん、あれが本当にウルトラマンなのかどうかは分からない。
ただ、あの巨人の姿を見た時、光は不思議な懐かしさを覚えていた。
初めてテレビでウルトラセブンを見た時のような。
強くて、格好よくて、それでいて、どこか自分たちのことを見守ってくれているような――そんな感覚だった。
「……また、会えるといいな」
光は、そっと拳を握った。
その時、背後から声がかかった。
「南條さん。お疲れさまでした」
振り返ると、カネダが資料をまとめて立っていた。
「あっ、カネダさん! お疲れさまです!」
「今日は、ありがとうございました。あなたの話を聞いて、私も改めて考えさせられました」
「えっ? そ、そんな! アタシは、好きなことを話しただけですよ!」
「好きなことだからこそ、伝わるものもあるのでしょう」
カネダは、穏やかに微笑んだ。
「ただ、これからは慎重に見守る必要があります。あの巨人が何者であれ、次に何が起きるのかは分かりませんから」
「……はい!」
光は、力強くうなずいた。
「でも、もしまた危ないことが起きたら……アタシも、何かできることを探します!」
その言葉を聞いて、カネダは静かにうなずいた。
「ええ。それが大切なのだと思います」
光は、もう一度モニターを振り返った。
画面の中で、銀色の巨人は何も語らない。
自分の名前も、どこから来たのかも、何のために戦ったのかも。
ただ、街を守り、そして消えていった。
だが、光には分かる気がした。
あの巨人は、きっとまた誰かを守るために戦うのだろう。
たとえ誰にも知られなくても。
たとえ、感謝の言葉が届かなくても。
誰かが困っているのなら、きっと。
「……待っててくれ!ウルトラマン」
光は、モニターの向こうにいる巨人へ語りかけるようにつぶやいた。
「もち会えたら、アタシも、ヒーローとして胸を張れるようになるから!」
スタジオの照明が、最後の一つまで消えた。
その頃、彼女の事務所でもある346プロダクションの事務所では、当の銀色の巨人――ウルトラマンゼロが、ソファーに座って大きな欠伸をしていた。
自分の戦いが、テレビで特集されているとも知らずに。
そして、自分をヒーローと呼んだ少女が、いつか自分と出会うことを心待ちにしているとも知らずに。
ただ、今は休むことを優先していた。
「……ったく。地球ってのは、どこの世界でも騒がしいもんだな」
ゼロはそうつぶやき、再び目を閉じた。
しかし、彼が救ったこの街には、まだ誰も知らない危機が迫りつつあった。
銀色の巨人が再び立ち上がる時は、そう遠くないのかもしれない。
『ウルトラマンゼロのウルトラ徹底解説⭐︎』
暗転した視界が明けると、そこは果てしなく広がる神秘的な光の空間だった。
足元には星屑のような粒子が漂い、幾重もの幾何学模様が幻想的なグラデーションを描いている。その中心で、腕を組んで仁王立ちしているのは、青と赤のボディを誇る光の戦士・ウルトラマンゼロ。その隣には、少し緊張した面持ちで、けれど持ち前の笑顔を輝かせる島村卯月が立っていた。
「よう! ここはウルトラマンゼロと仲間たちが、襲来した危険な怪獣や宇宙人をバッチリ解説していく特別コーナーだ! メインナビゲーターはもちろんこの俺、ウルトラマンゼロ!」
ゼロが親指を立てて決めポーズをとると、卯月もパッと表情を明るくして隣で小さく頭を下げた。
「そして今回のゲストアイドルは私、島村卯月です! ゼロさん、よろしくお願いします!」
「おう、よろしくな卯月! にしても、ここは落ち着くな。地球のレッスンスタジオも悪かねぇが、やっぱり俺にはこういう光の空間の方がしっくり来るぜ」
「ふふ、とっても綺麗な場所ですね! なんだか宇宙の真ん中にいるみたいで、少しドキドキしちゃいます」
卯月が周囲の輝きに目を細めていると、ゼロが前方へと視線を向け、空間に浮かび上がる巨大なホログラムを指し示した。
「よし、じゃあ早速本題に入るとするか! 今回解説するのは……先日、お前たちの街を騒がせたあの鋼鉄のデカブツ! 『ロボット怪獣 クレージーゴン』だ!」
ホログラムが立体的に実体化し、無機質な電子音を響かせながら巨大なハサミ状の両腕を振りかざすクレージーゴンの姿が映し出される。その特異なフォルムに、卯月は思い出して思わず背筋を伸ばした。
「わあ……! 近くで見ると、やっぱりすごく大きくて大迫力ですね。全身が金色で、なんだかロボットというより巨大な工事用の機械みたいです」
「目のつけどころがいいじゃねぇか。クレージーゴンは、全身が特殊な合金で固められた頑丈なロボット怪獣だ。胸のシャッターが開いて強力な破壊光線を撃ち出すし、何よりあの巨大なハサミで自動車やら建造物を丸呑みにしちまうのが最大の特徴だな」
「車まで吸い込んじゃうんですか!? それじゃあ、街で暴れられたら大変なことになっちゃいますね……! あ、でもゼロさん。今回のクレージーゴンは赤髪の宇宙人……アリギアって人が送り込んできたんですよね?」
卯月が首をかしげると、ゼロはふっと不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「鋭いな、卯月! そう、今回俺たちの前に立ちはだかった奴は、アリギアが俺の気を引くためのデコイとして起動させた個体だ。だが……本来、クレージーゴンを操っていたのはアリギアじゃねぇ」
「えっ? アリギアさんとは別の宇宙人がいるんですか?」
「ああ。元々は**バンダ星人**っていう強奪宇宙人が、地球の鉄資源を強奪するために送り込んできた侵略兵器なんだよ。バンダ星人は自分たちの星で鉄が不足したからって、クレージーゴンを使って地球の車を片っ端から回収しようとしたわけだ」
「鉄を集めるために……!? 理由がすごく具体的というか、ちょっと意外です。でも、兵器を横取りして自分のお使いにするなんて、アリギアさんって人も相当な曲者ですね……」
卯月の実直な感想に、ゼロは大きく頷いて頭をかいた。
「まったく、他人の兵器を悪用して目くらましにするたぁ、相変わらず手前勝手な野郎だぜ。……まあ、バンダ星人のクレージーゴンも、アリギアの改造機も、俺の相手じゃねぇってことに変わりはねぇけどな!」
ゼロが右手を力強く握りしめると、ホログラムのクレージーゴンが光の粒子となって弾け飛んだ。その頼もしい姿に、卯月はパーッと笑顔を咲かせる。
「ゼロさん、とっても格好いいです! 敵の正体や背景を知ると、ゼロさんがどれだけ大変な戦いをしているのかすごくよく分かりました!」
「へっ、これくらい当然だろ! この地球の平和と、お前たちの笑顔は俺がしっかり守り抜いてやるからな!」
「はい! よろしくお願いします、ゼロさん!」
光の空間に、二人の明るい声が心地よく響き渡っていった。