ウルトラマンゼロ/iDOLM@STER CINDERELLA GIRLS   作:わたあめ丸

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踏み躙られたLIVE

宇宙科学フェスティバル――LIVE当日

 

 プラネタリウムのドームには、無数の星々が瞬いていた。

天井いっぱいに広がる銀河。ゆっくりと流れる星雲。まるで本当に宇宙空間へ飛び出したかのような光景の中、開演を待つ観客たちの期待に満ちた声が響いている。

 

 今日開催されるのは、宇宙科学フェスティバルの特別企画。

新田美波とアナスタシア――アイドルユニット、ラブライカによる、プラネタリウムを舞台にした特別なLIVEだ。

 

「音響、照明、映像……全部問題ありません。予定どおり進められそうです」

 

 舞台袖で進行表を確認していた美波が、ほっと息をついた。

その隣では、アナスタシアがドームを見上げている。

 

「……ハラショー。きれいな星、いっぱいです。まるで本当の宇宙みたい……」

 

「ふふっ。私たちも、初めてこの会場を見たときは驚いたものね」

 

「ダー。今日、来てくれたみんなにも、この景色を好きになってほしいです」

 

 アナスタシアの言葉に、美波は力強くうなずいた。

 

「そうね。私たちの歌で、少しでも宇宙を身近に感じてもらえたら嬉しいわ」

 

 二人の表情には、緊張と、それ以上の期待があった。

今回のLIVEは、普段のステージとは大きく違う。ドーム全体を使った映像演出、科学解説との連動、音楽に合わせて変化する星空。関係者たちは何度も打ち合わせを重ね、細かなタイミングまで調整してきた。

 

 その準備を、シンも間近で見ていた。

 

「シンさん、そちらの確認は終わりましたか?」

 

武内Pに声をかけられ、シンは手元の資料を軽く持ち上げる。

 

「おう。進行表とスタッフの配置は確認したぜ。映像の切り替えも、さっき担当者と最終確認してきた」

 

「ありがとうございます。慣れない仕事にもかかわらず、助かっています」

 

「へっ。これくらいどうってことねえよ」

 

 口では強気に答えながら、シンは舞台袖から会場を見回した。

開演直前まで、スタッフたちは忙しく動き回っている。音響担当が最後の調整をし、照明担当が合図を確認し、舞台進行のスタッフが出演者と何度も段取りをすり合わせていた。

 

 美波とアーニャも、多くの話し合いを繰り返している。

自分たちの歌だけではなく、来場者に宇宙の魅力を伝えるための演出まで考え、スタッフの意見を聞き、何度も練習を重ねてきた。

 

 シンは、そんな彼女たちの姿をずっと見ていた。

こいつら、今日のために本気で頑張ってきたんだ。

なら、今日という日を最高のものにしてやりたい。

それは、今のシンにとっても大切な仕事だった。

 

「それでは、まもなく開演です」

 

 武内Pの言葉に、美波とアナスタシアが顔を見合わせる。

 

「アーニャちゃん、行きましょう」

 

「ダー。みんなに、星の素晴らしさを伝えましょう」

 

 二人はステージへ向かって歩き出した。

 

「おう、行ってこい!」

 

 シンが声をかけると、美波は振り返って笑った。

 

「はい! 行ってきます!」

 

 アナスタシアも小さく手を振る。

 

「シンさんも、見ていてくださいね」

 

「ああ。楽しみにしてるぜ」

 

 二人の姿が舞台袖の向こうへ消える。

やがて会場の照明が落ち、観客たちのざわめきが静まっていった。

 

そして――LIVEが始まった。

 

ーーーーーーー

 

「皆さん、今日は宇宙科学フェスティバルへようこそ!」

 

 美波の明るい声が、ドームいっぱいに響き渡る。

 

「今日は私たちと一緒に、星空の向こうに広がる世界を旅していきましょう!」

 

「アナスタシアです。みなさんと一緒に宇宙を見られること、とても嬉しいです。今日は、よろしくお願いします」

 

 二人が頭を下げると、観客席から大きな拍手が湧き起こった。

やがて音楽が流れ始め、ドームに広がる星空がゆっくりと動き出す。

美波とアナスタシアの歌声が、静かな宇宙の映像に重なった。

 

一曲目に選ばれたのは、二人のデビュー曲『Memories』。静謐でありながら情熱的な旋律とともに、ドームの天頂には透き通るような白鳥座の翼が大きく広がった。

 

「いま見えているのは、夏の夜空を彩る大三角のひとつ、白鳥座です」

 

曲の合間、美波が優しくドームを見上げながら語りかける。

 

「ギリシャ神話では、神々の王ゼウスが美しい妃に逢うために姿を変えた白鳥と言われています。その胸元で一際強く輝いているのが、一等星デネブ。はるか遠く、約1400光年もの彼方から、今も私たちに光を届けてくれているんですよ」

 

「スパシーバ……とても優しくて、美しい光です」

 

アナスタシアが宙へ手を差し伸べると、映像のデネブから一筋の光が零れ落ち、今度は冬の星座である『オリオン座』へとシームレスに星座が移り変わっていく。

 

「そしてこちらは、力強いハンターの姿を描いたオリオン座。その右肩で赤く妖しく揺らめいているのは、超赤色巨星ベテルギウスです」

 

アーニャが流暢で柔らかな声で星の説明を継ぐ。

 

「ベテルギウスは、星の命の終わりに差し掛かっている『赤色超巨星』です。神話では狩人オリオンの勇猛さを表していますが……この星はいずれ、空いっぱいに輝く『超新星爆発』を起こして、新しい星たちの命の糧になると言われています」

 

 星の誕生と終わり、神話に秘められた古代の人々の祈り。

 

 二人の丁寧で温かなナレーションと、壮大な星空のグラデーションに、観客たちは固唾を飲んで見入っていた。

歌がセカンドナンバーへと差し掛かると、ドームの星々はさらに激しく動き始め、太陽系を飛び出して遥か彼方の銀河系アンドロメダ銀河の渦巻く光へと変わっていく。美波とアナスタシアのクリアなデュエットが、光の粒子となって満天の星と混ざり合っていくようだった。

 

 星々の間を駆け抜けるような演出。

遠くの銀河を旅するような映像。

そして、音楽の盛り上がりに合わせてドームいっぱいに広がる光の帯。

 

 観客たちは、まるで本当に宇宙を旅しているかのような気分に包まれていた。

舞台袖で見守るシンも、思わず感心していた。

 

「へえ……こいつはすげえな」

 

 隣に立つ武内Pが、わずかに視線を向ける。

 

「はい。スタッフの皆さんが、何度も調整を重ねてきた演出です。お二人も、その期待に応えようと努力されてきました」

 

「だろうな」

 

 シンはステージへ目を戻した。

美波は観客一人ひとりに語りかけるように歌い、アナスタシアは星々に手を伸ばすような仕草を見せている。

その姿は、ただ歌を披露しているだけではなかった。

二人は本当に、観客たちに星空を好きになってもらいたいのだ。

 

「……いいLIVEじゃねえか」

 

 シンは小さくつぶやいた。

LIVEは順調に進み、歌も、映像も、照明も、すべてが予定どおり進んでいる。

観客たちの笑顔を見れば、この日のために重ねてきた努力が報われていることは明らかだった。

 

「皆さん、楽しんでいただけていますか?」

 

 美波の問いかけに、客席から割れんばかりの拍手と歓声が返ってくる。

 

「ありがとうございます! 次がいよいよ、本日最後の曲になります。この特別な星空の下で、私たちの想いを込めて歌います……聞いてください、『夕映えプレゼント』」

 

 満を持してイントロが流れ出した。ドーム全体が色鮮やかなオーロラと星雲の光に包まれ、ステージの二人がいっそう力強くマイクを握りしめた、まさにその最高のタイミングだった。

 

  その瞬間までは。

 

 ドームの天井に映し出された星空が、突然、奇妙な色に染まった。

 

「……ん?」

 

 シンが顔を上げる。

美しい星雲の映像がノイズのように乱れ、怪しく明滅する白と黒の幾何学模様へと塗り替えられていく。

天に煌めく星々の間を、見慣れない光が走った、演出の一部かと思った観客たちが不思議そうに天井を見上げる。

だが、舞台袖のスタッフたちは困惑していた。

 

「えっ、今の映像、予定にありましたか?」

 

「いや、そんな指示は聞いてないぞ!」

 

 次の瞬間、光が鋭く収束した。

 

「危ねえっ!」

 

 シンが叫ぶより早く、ドームの奥から放たれた謎の光線が観客席へと降り注いだ。

光線を浴びた観客たちの身体が、瞬く間に縮んでいく。

大人も、子供も、誰も例外ではない。

人間たちが、わずか数十センチほどの小さな姿へと変えられてしまったのだ。

 

「な、なんだこれ!?」

 

「身体が……小さくなってる!?」

 

「いやあああっ! 誰か助けて!」

 

 観客席から悲鳴が上がった。

椅子の上に取り残された人々。床へ転がり落ち、周囲を見上げる人々。自分の身体に何が起きたのか理解できず、逃げ惑う人々。

 

 会場は瞬く間にパニックに陥った。

 

「皆さん、落ち着いてください! スタッフの指示に従って、ゆっくりと――」

 

 武内Pはすぐさま観客席へ向かおうとしたが、その足が止まった。

舞台の上に、一人の男が立っていたからだ。

筋骨隆々の身体、派手な仕草。

そして、どこか芝居がかった笑み。

男は自分の顔を撫でながら、うっとりとした声を上げた。

 

「ああ……なんて美しい光景なのかしら! この混乱、この絶望、この人間たちの無様な姿……! ワタシの美学を飾るには、あまりにも素晴らしい舞台じゃない!」

 

「だ、誰……?」

 

 美波が身構える。

アナスタシアも警戒しながら、彼と観客席の間に視線を走らせた。

男は二人を見て、にやりと笑う。

 

「そして、あなたたち! ステージの上で輝く美しい二人のヴィーナス…。ええ、決めたわ。あなたたちもワタシのコレクションに加えてあげる!」

 

「コレクション……?」

 

「そうよ! 人間標本! 小さくして、永遠に美しい姿のまま保存するの! 素晴らしいでしょう?」

 

 男が二人へ手を伸ばす。

その瞬間――。

 

「おい」

 

 低い声が、ステージに響いた。

男が振り返る、そこには、舞台袖から飛び出してきたシンと武内が立っていた。

二人は男とラブライカの二人の間に立ち、静かに告げる。

 

「人のLIVEを台無しにしておいて、何勝手なこと言ってやがる」

 

「これ以上、出演者や観客の皆さんに危害を加えることは許しません。直ちに行為を中止してください」

 

「……あら? 誰かと思えば、ずいぶんと威勢のいい男達ね」

 

男はシンを上から下まで眺め、鼻で笑った。

 

「でも、残念。ワタシは美しいものを集めるのに忙しいの。あなた達みたいな暑苦しそうな男もむさ苦しい男も趣味じゃないのよ」

 

「そうかよ。なら、さっさと帰りな」

 

シンが一歩踏み出す。

武内Pも、相手との距離を詰める。

そして男も挑発的な笑みを浮かべながら武内に近づく。

 

「聞こえませんでしたか。これ以上は――」

 

 言葉の途中で、武内Pの拳が男の胴へと叩き込まれた。

鈍い音が響く。

しかし。

 

「…………」

 

 男は、まるで何事もなかったかのように立っていた。

武内Pの拳を受けても、身体は微動だにしない。

 

「……なっ」

 

 武内Pがわずかに目を見開く。

男はゆっくりと視線を落とし、拳を受けた自分の胴を眺めた。

そして、口元を歪める。

 

「……今、ワタシを殴ったの?」

 

「……はい」

 

「フ、フフ……アハハハハハハハ!」

 

 男は腹を抱えて笑い出した。

 

「人間如きが! このワタシに拳を振るったですって!? ああ、なんて愚かで、なんて滑稽なのかしら!」

 

 男の顔が変わった。

皮膚の質感が崩れ、人間の姿が剥がれ落ちていく。

現れたのは、白黒の模様に覆われた異様な宇宙人だった。

 

「ワタシはダダ星人、ダーリダ! 人間のような下等生物とは、存在の格が違うのよ!」

 

 その姿を目にした観客の一部が、恐怖の中で叫んだ。

 

「ダ、ダダだぁぁぁっ!」

 

「ウルトラマンの宇宙人だ! ダダ星人だぁ!」

 

「なんで本物がいるんだよぉぉっ!?」

 

 先ほどまでの混乱に、さらなる恐怖が重なる。

ダダ星人ダーリダは、その反応を聞いて満足げに笑った。

 

「オーッホッホッホ! そうよ、ワタシを知っているのね! ならば話は早いわ。あなたたち人間がどれほど無力なのか、たっぷりと教えてあげる!」

 

ダーリアは武内に鋭い蹴り繰り出し、武内は後方に吹き飛ばされる

 

「……っ!」

 

 壁に打ち付けられ傷つきながらも武内Pが再び身構える。

だが、ダーリダはその姿を見て、あざ笑った。

 

「まだやるつもり? 人間如きがワタシに勝てるわけないでしょう!」

 

「……人間だからといって、見くびらないでいただきたい」

 

 武内Pは一歩も退かなかった。

 

「私は、ここにいる皆さんを守ります」

 

 その言葉を聞き、シンは一瞬だけ武内Pを見た。

無茶だ。相手は地球の人間とは違う、宇宙人だ。さっきの一撃で、それは十分に分かっているはずだった。

それでも武内Pは逃げなかった。観客を守るため。

アイドルを守るため。そして、この場にいるスタッフたちを守るため。

 

「……ったく。無茶しやがるぜ」

 

 シンは武内Pの前へ出た。

 

「おい、ダダ星人。てめえの相手は俺だ」

 

「……あなた、まだいたの?」

 

 ダーリダは面倒くさそうに顔をしかめた。

 

「いい加減にしてちょうだい! ワタシの邪魔をするなら、あなたも標本にしてあげるわ!」

 

「やれるもんなら、やってみな!」

 

 ダーリダが腕を振り上げる。

次の瞬間、シンの姿が消えた。

 

「なっ――!?」

 

ダーリダが驚いたときには、シンはすでに懐へ潜り込んでいた。

 

「遅え!」

 

 腹部へ一発。

体勢を崩したところへ、顔面へ一発。

さらに振り向きざまの蹴りが、ダーリダの身体をステージの端まで吹き飛ばした。

 

「ぐああっ!?」

 

 床を転がるダーリダ。

その顔から、先ほどまでの余裕が消えていた。

 

「な、何なのよ、あなた……!?」

 

「ただの人間じゃねえってことだよ!」

 

 シンは拳を握り直した。

 

「てめえ、何をしやがったのか分かってんのか?」

 

「な、何を……?」

 

「今日のために、こいつらがどれだけ頑張ってきたと思ってやがる!」

 

 シンの声が、ステージに響いた。

 

「美波も、アーニャも、スタッフの連中もだ! どうすりゃみんなに楽しんでもらえるか、どうすりゃ最高のLIVEになるか、ずっと考えてきたんだぞ!」

 

 シンは、周囲を見回した。

床に散らばった機材。停止した映像。混乱する観客。

そして、呆然と立ち尽くすラブライカの二人。

 

「それを……てめえは!」

 

 拳を握る力が強まる。

 

「自分のくだらねえ趣味のために、全部ぶち壊しやがった!」

 

 ダーリダは思わず後ずさった。

シンの目には、怒りが燃えていた。

単に地球を侵略する宇宙人だからではない。

 

 自分が手伝ってきた仕事を。

二人のアイドルが抱いていた願いを。

今日のために力を尽くした人々の努力を。

それらを踏みにじったことが、許せなかったのだ。

 

「ひ、ひいいっ! 何なのよ、この男……!」

 

 ダーリダは慌てて立ち上がると、ステージから逃げ出した。

 

「覚えていなさい! このワタシにこんな屈辱を与えたこと、絶対に後悔させてやるわ!」

 

「待ちやがれ!」

 

 シンはすぐさま追いかけた。

 

「シンさん!」

 

 美波が叫ぶ。

 

「シンさん、待ってください!」

 

 アナスタシアも続いて走り出す。

 

「美波さん、行きましょう! シンさんが危ないです!」

 

「はい!」

 

二人は、シンの後を追ってステージ袖へ駆け込んだ。

 

「皆さん‼︎…っ」

 

傷ついた武内は外に飛び出した3人をゆっくりと追いかける

 

ーーーーーーー

 

 プラネタリウムの外へ飛び出したダーリダは、建物から離れた広場で足を止めた。

 

「ハァ、ハァ……! なんなのよ、あの男! 人間のくせに、このワタシをあそこまで……!」

 

「おい、逃げてんじゃねえぞ!」

 

 シンが追いつく、ダーリダは振り返り、憎々しげにシンを睨んだ。

 

「もう許さないわ……! このワタシを怒らせたこと、後悔させてやる!」

 

 次の瞬間、ダーリダの身体が光に包まれた。

その身体が、みるみるうちに巨大化していく。

建物よりも大きな身体。長い手足。

地上を見下ろす、白黒の異様な巨体。

 

巨大化したダーリダが、地面を揺らしながら立ち上がった。

 

「アーッハッハッハ! どう? これが本来のワタシの姿よ! さあ、踏み潰してあげるわ!」

 

「……チッ。やっぱりそう来るか!」

 

 シンは見上げた。

ダーリダの巨大な足が持ち上がる。

 

 そして――。

 

「潰れなさい!」

 

 巨大な足が、シンめがけて振り下ろされた。

だが、その直前、シンは腕に装着されたウルティメイトブレスレットへ手を伸ばした。

 

「こいつは……ちょっと派手にやる必要がありそうだな!」

 

 ブレスレットが輝く。その中から、見慣れた銀色のアイテムが現れた。

 

 ウルトラゼロアイ。

 

 シンはそれを手に取ると、迷いなく顔へと装着した。

その瞬間眩い光が広場を包み込んだ。ダーリダの足が地面を踏み抜く。

だが、そこにシンの姿はなかった。

代わりに、光の中から銀と赤の巨人が立ち上がった。

 

 胸には青く輝くカラータイマー。

頭部には鋭く伸びた二本のゼロスラッガー。

そして、全身から放たれる圧倒的な存在感。

 

 その名は、ウルトラマンゼロ。

 

「……セェアッ!」

 

 ゼロはダーリダの足を押し返し、勢いよく立ち上がった。

その姿を、建物の出入口から追いかけてきた美波とアナスタシアが目撃していた。

 

「……えっ?」

 

 美波は息を呑んだ、目の前にいるのは、あの日、街を守った銀色の巨人。

そして、その巨人へ変身したのは――。

 

「シン、さん……?」

 

 アナスタシアの声が震えた。

先ほどまで自分たちと話し、LIVEの準備を手伝ってくれていた青年。

彼が今、巨人の姿となって目の前に立っている。

二人は、すぐには言葉を発することができなかった。

一方、ゼロはそんな二人の存在に気づいていなかった。

目の前の敵から視線を外さず、構えを取る。

 

「ったく……せっかくのLIVEをぶち壊しやがって。覚悟しろよ、ダダ星人!」

 

「なっ……!?」

 

 ダーリダは、目の前の巨人を見上げた。

 

「う、嘘でしょう……!? そのお父さま譲りのスラッガー……まさか!?……!」

 

 ゼロは口元を吊り上げた。

 

「そうだ。俺がウルトラマンゼロだ!」

 

「ウ、ウルトラマンゼロですってぇぇぇっ!?」

 

 ダーリダの顔が引きつった。

地球へ来る前、アリギアから聞かされていた情報が脳裏をよぎる。

 

 この世界は、怪獣や宇宙人への対策が劣った星だ。

好きに暴れるが良いと…しかし、目の前に現れた銀色の巨人は――。

 

「そんな、私聞いてないわよ、こんな…こんなのってぇ!?あいつ、ワタシを騙したわね!?」

 

「なんだぁ、俺の事は聞いてなかったって、面だな。」

 

 ゼロは拳を構えた。

 

「だがな、関係ねぇ。行くぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! ワタシは話し合いを――!」

 

「問答無用だ!」

 

 ゼロが踏み込んだ。

ダーリダは慌てて両腕を振り回すが、ゼロは軽々と身をかわす。

大振りの攻撃を潜り抜け、ゼロの拳がダーリダの胴へ叩き込まれた。

 

「ぐはっ!」

 

 さらに、体勢を崩したダーリダの腕を掴み、その巨体を横へと投げ飛ばす。

地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がった。

 

「な、なんなのよぉぉぉっ! どうしてワタシが、こんな目にぃぃぃっ!」

 

「お前が悪いことばっかりしてるからだろうが!」

 

 ゼロは一歩も引かなかった。

ダーリダは恐怖に顔を歪めながら、後ずさる。

 

「くっ……! ならば、これでも食らいなさい!」

 

 ダーリダが両手で構えたのは、奇妙な形状の光線銃だった。

両手で持つ大型の銃器。その銃口には、異様な光が収束している。

 

 ミクロ化機。

 

 人間を小さくする光線を放つ、ダダ星人お得意の得物だ。

 

「あなた一人に負けるくらいなら……この街の人間も、まとめて標本にしてやるわ!」

 

 ダーリダは銃口を街へ向けた。

 

「やめろ!」

 

 ゼロが叫ぶ。だが、ダーリダは引き金を引いた。

光線が、街へ向かって放たれる。

その瞬間、ゼロの姿が青い光に包まれた。

銀と赤の身体が、青い光を帯びた姿へと変化していく。

 

 ルナミラクルゼロ。

 

ゼロは両腕を構え、放たれた光線へと意識を集中させた。

 

「ウルトラ念力!」

 

 見えない力が光線を包み込む。

街へ向かっていた光線が、空中で大きく歪んだ。

 

「なっ……!?」

 

 ダーリダが目を見開く。

光線は軌道を変え、発射した本人へと向かっていった。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! それはワタシの――」

 

 光線がダーリダの身体を直撃した。

 

「ギャアアアアアッ!?」

 

 巨大な身体が、瞬く間に縮んでいく。

 

 数十メートル。

数メートル

そして、ほんの数十センチほどの大きさにまで縮小された。

 

ゼロは、地面に落ちた小さなダーリダを見下ろした。

 

「へっ。自分の武器でやられるとはな」

 

「な、何をするのよ! ワタシを誰だと思って――!」

 

「うるせぇ!」

 

 ゼロはダーリダをつまみ上げると、彼が持っていた複数の標本器を見つけた。

中には、先ほど小さくされた観客たちが閉じ込められている。

 

「……やっぱり、ここにいたか」

 

 ゼロは空の標本器の蓋を開け、小さくなったダーリダを中へ放り込んだ。

 

「な、なによこれ! 出しなさい! このワタシを、こんな狭い場所に閉じ込めるなんて――!」

 

「人間を標本にするのが趣味なんだろ? だったら、自分も標本の気分を味わってみな!」

 

 ゼロは蓋を閉じた。

 

「ちょっとぉぉぉっ! こんなの聞いてないわよぉぉぉっ!」

 

 標本器の中で騒ぎ続けるダーリダを横目に、ゼロはミクロ化機を拾い上げた。

 

「さて……こいつらを元に戻さねえとな」

 

 ミクロ化機を調べ、操作を試みる。

ほどなくして、ゼロは銃口を標本器へ向けた。

 

「よし。今度は逆だ!」

 

 引き金を引く。

柔らかな光が標本器の中を満たした。

小さくなっていた観客たちの身体が、次々と元の大きさへ戻っていく。

やがて、標本器の中は空になった。

ゼロはミクロ化機をそっと地面へ置き、周囲を見回した。

 

「……これで、ひとまず大丈夫だな」

 

ーーーーーーー

 

 街のあちこちから、歓声が上がった。

 

「ウルトラマンだ!」

 

「あの巨人が助けてくれたんだ!」

 

「ありがとう、ウルトラマン!」

 

 逃げてきた観客たちは、巨大な銀色の巨人を見上げていた。

先ほどまでの恐怖は、少しずつ希望へと変わっていく。

ゼロはその声に応えるように、片手を軽く掲げた。

 

「おう! もう大丈夫だ!」

 

 その姿を、ラブライカの二人は離れた場所から見つめていた。

美波は胸に手を当て、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……シンさんが、ウルトラマンだったなんて」

 

 アナスタシアは、ゼロの姿をじっと見つめていた。

 

「……シンさん……。あなたは、ずっと……」

 

 言葉の続きを、彼女は口にできなかった。

自分たちの仕事を手伝い、宇宙の話をしてくれた青年。

宇宙には知らない星がたくさんあり、そこには自分たちとは違う暮らしをする者たちがいる――そう語った彼の言葉。

 

 あれは、単なる夢や想像ではなかったのだ。

彼は本当に、星々の向こうを知っている。

そして今、その力を使って人々を守っている。

やがて、背後から足音が響いた。

 

「新田さん、アナスタシアさん!」

 

 武内Pが駆け寄ってきた。

 

「お二人とも、ご無事ですか?」

 

「プロデューサーさん……! はい、私たちは大丈夫です」

 

 美波は答えたが、視線はゼロから離せなかった。

武内Pも、二人の視線を追って空を見上げる。

そこには、街を守る銀色の巨人が立っていた。

 

「……あの巨人が、また助けてくれたのですね」

 

 武内Pは静かに呟いた。彼はまだ知らない。

つい先ほどまで自分の隣にいた青年こそが、その巨人だったということを。

 

 ゼロは最後にもう一度、観客たちへ手を振った。

そして、空を見上げる。

 

「……さて。こいつの後始末も必要だが……」

 

 彼の脳裏に、アリギアの姿がよぎった。

今回の事件を起こした宇宙人は、アリギアが地球へ呼び寄せた者たちの一人にすぎない。

ならば、ほかにも地球を狙う宇宙人がいるはずだ。

 

「アリギア……。てめえ、いったい何を企んでやがる?」

 

 ゼロは拳を握りしめた。

この星の人々には、守りたいものがある。

 

 夢を叶えようとするアイドルたちがいる。

彼女たちを支えるスタッフたちがいる。

そして、今日という日を楽しみに集まった大勢の人々がいる。

 

そのすべてを踏みにじらせるわけにはいかない。

 

「何人来ようが、関係ねえ」

 

ゼロは力強く空を見上げた。

 

「この星を狙う奴らは、俺がまとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

 銀色の巨人は、街に残る人々の歓声を背に、空へ飛び立った。

その姿を見つめながら、美波とアナスタシアは、胸の中に生まれた大きな秘密を抱きしめる。

シンがウルトラマンゼロだった。その事実が、これから二人と彼の関係をどのように変えていくのか――。

 

それを知る者は、まだ誰もいなかった。

 

 

 






「よう! ここはウルトラマンゼロと仲間たちが、地球を脅かすヤバい奴らを徹底的に解説する『ウルトラマンゼロのウルトラ徹底解説⭐︎』の時間だぜ!」

カメラに向かってウィッシュポーズを取るウルトラマンゼロ。その隣には、先ほどまでのライブ衣装に身を包んだ新田美波とアナスタシアが、少しきょとんとした表情で立っていた。

「あの……シンさん、私たち、さっきまでライブ会場に……」

美波が周囲を見回しながら不思議そうに首をかしげる。

「ダー。ここ、どこですか? とっても綺麗ですけど……」

アーニャも青く輝く空間を物珍しそうに見つめていた。

「ははっ、驚かせて悪かったな! ここは本編の時間軸とは一切関係ねえ、俺たちが自由に怪獣や宇宙人について語り合う特設空間だ! 気にするな、ここではリラックスしていこうぜ!」

ゼロは豪快に笑い飛ばすと、パッと表情を引き締めてホログラムのモニターを指し示した。

「さて、今回のゲストはラブライカの二人だ! そして解説するターゲットは、さっきお前たちのライブを盛大にぶち壊してくれた、あいつだ!」

ゼロが指を鳴らすと、空間に不気味な白黒の模様を持った宇宙人のホログラムが映し出された。顔が三種類に切り替わる、お馴染みの姿である。

「あ……! あのとき、私やみんなを小さくしようとした……!」

美波が思わず身構えると、アーニャも青い目を細めてうなずいた。

「ダー。あの、顔が変わる怖くて変な宇宙人です……」

「そうだ、こいつの名前は『三面怪人ダダ』」

ゼロが腕を組んで解説を始める。

「ダダはな、どういう理由かはわからんが、人間の標本を作るために地球にやってくる厄介な宇宙人だ。最大の特徴は何と言っても、あのサイケデリックな全身の模様と、顔を3パターンに変える能力、そして何より人間を数センチのミニサイズに縮めちまい、『ミクロ化機』だな!」

「人間を小さくしてしまうなんて……そんな恐ろしい道具を持っているんですか……?」

美波がゾッとしたように胸元に手を当てる。

「こわいです……。あんな風に小さくされたら、何もできなくなってしまいます……」

アーニャも少し震えながらホログラムを見つめた。

「まあ、今回あいつが使ったのもまさにそれよ。人間を標本にしてコレクションにするなんて、悪趣味野郎だぜ!」

ゼロはフッと鼻を鳴らし、鋭い眼光を光らせた。

「だがな、いくらあいつがミクロ化させようが、卑怯な手を使ったりしようと関係ねえ……!」

ゼロはビシッとカメラを指差し、力強く言い放った。

「俺の前で人間に手を出そうなんて、2万年早いぜっ!!」

その圧倒的な自信と力強い宣言に、美波と思わず笑顔がこぼれる。

「ふふっ……さすが、ゼロさんですね」

「ダー。とても頼もしいです。シンさん――いえ、ゼロさんなら、どんな宇宙人が来ても安心ですね」

「おう、任しとけ! この地球のアイドルたちの笑顔と平和は、この俺が完璧に守り抜いてやるからな!」

ゼロが親指を立ててニヤリと笑う。

「さて、今回はここまで! 次回はどんな奴が飛び出してくるのか、お楽しみにしとけよ!」
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