”この世界が滅んだのは忍野メメのせいだ。”
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードにより滅んだ世界で、忍野メメは手紙を書いていた。
その最中、彼は自身のこの数日の経験談を、そして失敗談を物語る。

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異物語

001 

 

 手紙を書くなんて何年ぶりだろう。

 

 電話もメールも持っていない癖に、僕は愛着さえ覚える学習塾跡地でそう思った。

 

 やあ読者のみんな、「はじめまして」と言うべきなのかな?

 

 如何せんこれまで「語り手」という重労働を全て阿良々木君に丸投げしていたから、君達と語り合う機会を得られなかった。

 

 加えて僕は、君達の知る「忍野メメ」ではない。

 

 君達のよく知る世界の「忍野メメ」ではない。

 

 けれど恐らく、アロハ服でちゃらんぽらんで情けないオッサンなのは変わらないだろうし、ここはフレンドリーに「やあ、待っていたよ。待ちかねたよ」と言わせてもらおうかな。

 

 さて、僕は今「阿良々木君」に手紙を書いている。申し訳ないけれど追悼文じゃない。世界を救ってもらうための嘆願文だ。

 

 僕はこの手紙をこの街で知り合った八九寺真宵さんに預けようと思うのだけど、そして既に大方の構成はまとまっているのだけど、一文だけ迷っている──と言うより決めあぐねている。

 

 僕の予想だと、忍ちゃんと仲良くなれた阿良々木君は夏休みの宿題をするためにタイムスリップしたものの、間違って11年前の母の日に飛んでしまいそれを利用して死ぬはずだった──死んで幽霊になり現世を迷い続けるはずだった八九寺さんを助けたのだと思うのだけれど、それをそのまま書くべきか、それとも八九寺さんを助けるためにタイムスリップしたと「勘違い」するべきか、そこで迷っている。

 

 僕と阿良々木君の仲なのだし親しみやすく予想をそのまま書いて彼らしいツッコミをしてもらおうか、それともあくまでも「嘆願文」なのだし気づかない程度の媚びを入れるべきか、世界の存続がかかっている故にいやでも悩まざるおえない。

 

 さて、このまま延々と汚らしいオッサンの右往左往とする姿なんて誰も興味を持たないだろう。

 

 なので、ここからは僕にしか語れない物語を君達に語ろうと思う。

 

 僕らにとっては運命の日、特異点である6月14日──「阿良々木暦君が死んだ日」の後の物語だ。

 

 まあ〇日〇時〇分A国滅亡、みたいにこと詳しくは語らない。

 

 言うならば僕の失敗談であり、その失敗をどうやって取り戻そうとしているのか、君達の知る物語とは異なるルートの物語を、僕は語らなければならない。

 

 

002

 

 まず最初に言うべきことがある。

 

 この世界が滅んだのは忍野メメのせいだ。

 

 阿良々木君や忍ちゃんは自分達のせいだと思うかもしれないけれど、それは全くの勘違いだ。

 

 世界を滅ぼすという大罪を犯し、その上友人であり未来ある子供である阿良々木君を死なせ、ご家族に顔も出さない最低最悪の人間、それが僕「忍野メメ」だ。

 

 いやはや、本当に情けない。一番情けないのはこれまでの失敗から何一つ学んでいなかった故の大罪であることだ。

 

 ゴールデンウィーク初日、僕は軽はずみに阿良々木君を羽川さんの家に向かわせたことで彼に重症を負わせてしまった。

 

 貝木の言葉を借りるならば、僕はこの時「阿良々木君を怪異に巻き込ませてはならない」という教訓を得るべきだった。

 

 しかし僕は猫に、蟹に、猿に、蛇に彼を巻き込ませてしまった。バランサーと言う立場に胡座をかき、楽な道を行った。それらを阿良々木君は解決して行き、僕も彼なら大丈夫だと調子に乗ったのだ。

 

 そして来る6月14日、悲劇は起こった。

 

 僕は忍ちゃんが家出した時点でピンと来たよ、遂に和解の日が来たのだと。

 

 別ルートでも同じように、ここでも阿良々木君は忍ちゃんを見つけ出し、事態を解決させるのだと、そして僕は──ブラック羽川を解き放ってしまった。

 

 その結果はみんなも知っての通りだ。阿良々木君はブラック羽川に殺害され、激情したキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードにより世界は滅んだ。

 

 察するに、八九寺さんが最初に忍ちゃんを見つけ、それを阿良々木君に報告したのだろう。

 

 僕がせめて失敗から学んでいれば、八九寺さんが彼と出会わない意味を考えていれば、ブラック羽川を拘束し続けていれば、こんなことにはならなかった。

 

 阿良々木君を殺したのは、僕なのだ。

 

 

003

 

 さて、ここからは阿良々木君の死語について語ろう。

 

 僕はとにかく被害を最小限にするため、出来うる限りの人々を避難させた。

 

 ヒーローであればハートアンダーブレードとの最終決戦へ出向き彼女を止めるのだろうけれど、僕では彼女の前に立つことさえできない。圧倒的な殺意を持つハートアンダーブレードが相手では、春休みの時のような不意打ちなんて目の前でコサックダンスを踊るようなものだろう。

 

 手の届く限りの人を避難させ、お米を撒くという対処法を世界中に公開した。けれどそんな努力も虚しく、世界は七日足らずで滅んだ。

 

 ドラマツルギーやエピソード達吸血鬼退治の専門家達も為す術なくやられてしまった。単独行動が基本である吸血鬼が群れをなして襲ってくるなんて、経験も前例もあるはずがない。

 

 彼らは一騎当千の吸血鬼一体と戦う専門家であって、千体の吸血鬼を相手取る想定なんてしていないのだ。

 

 世界はこのまま終焉を迎える、恥ずかしながら僕はそう諦めていた。救いは無く終わりも無い。最早人類はこの星の霊長では無くなったのだと。

 

 別ルートの阿良々木君のことを、僕は思いつけなかった。──いや、一応頭の片隅程度にはあったのかな?これでも八九寺さんと出会った時から阿良々木君同士がバッティングした時の対処法は考えていたし。けれどその仮説はあくまでも希望的観測であると、僕は考えてなかった。

 

 だから最初に別ルートの阿良々木君に世界を救ってもらうことを考えついたのは、恐らく臥煙先輩だ。

 

 全てを知るあの人はハートアンダーブレードの復活直後から、自身の持つコネというコネを使って各地に影響を与えていた。

 

 けれどその影響というのは、如何にして二次被害や暴動を起こさず人々を「吸血鬼に変える」かというものだった。

 

 僕は二日目にそれを見てやっとピンと来たよ。

 

 阿良々木君は高確率でこの世界に来ること、そして彼によって鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの自殺を完遂してもらうという計画を。より多くの人々が救われるには、全人類を可能な限り吸血鬼になるしか無いと。

 

 余接のその身を犠牲にした探索により、ハートアンダーブレードが生きていることはわかっていた。

 

 ならばもし、彼女が阿良々木君と忍ちゃんに倒されるという形で自殺を完遂すれば、不完全な吸血鬼である全人類は人間に戻れるのだ。

 

 いやはや、本当に恥ずかしい。

 

 臥煙先輩からは大学生時代から未熟だなんだと言われ続けていたが卒業して8年経ってもまだまだ研鑽が足りないようだ。

 

 これに気づいた時は「北白蛇神社に物騒な御札を貼った伏線がついに回収されたか!?」と興奮ものだ。色々枯れ果てたオッサンでも、どうやらゲーム脳は健在だったらしいね。

 

 そして僕は、この街に戻ってきた。最終作はゾンビが初めて発生したオリジンに立ち返るというのも、長期ゲームシリーズっぽくて楽しかったよ。

 

 後は阿良々木君へのメッセージ──つまり僕が今書いているこの手紙をどう渡すかだ。

 

 何十通も作って旧阿良々木家や戦場ヶ原家羽川家神原家千石家、もしくはミスタードーナツや私立直江津高校、学習塾跡にばら撒くのも手だったが、吸血鬼たちによって破壊される危険性が高い。だからより確実な一手を打つことに決めた。

 

 そう、八九寺さんだ。

 

 彼女はこの街に残ることは既に僕は聞いていた。そして彼女がこの先も力強く生きていくことを、阿良々木君は世界が滅んでいても決して人と会うことを諦めないことを、そして彼が八九寺さんを一目見ることを何よりも望んでいることを、僕は信じている。

 

 まあ最後のに関しては、阿良々木君自身は気づいていないかもしれないけれどね。

 

 

004

 

 さて、これで荒はあるが粗方語り終えた。やはり僕じゃ語り手は荷が勝ちすぎたね。その辺阿良々木君は正真正銘プロだったと今ヒシヒシと感じているよ。

 

 手紙の内容については、「八九寺さんを助けるため」の方にしつつ冗談という形で夏休みの宿題をやり損ねたという予想を書くことにした。真剣さと親しみを量取りした中途半端、優柔不断、どっちつかずのバランサーとしては実に名案だと思う。

 

 書きたいことは書き終えた。鼓舞もしたし阿良々木君ならやってくれるはずだ。

 

 後は最後に「草草不一」────────いいや、それよりも追伸としてあの事を聞いておこう。

 

 ずっと気になっていたという程のことでもないたった今突発的に思った事だ。しかし「草草不一」の四字に込めるには余りにも大きい。

 

「ところで、このルートXの阿良々木君は意外なことに戦場ヶ原さんと付き合っていたんだけど、そっちの世界では誰と恋人同士になっているのかな?」

 

 ああ、これでいい。ようやく書き終えた。

 

 まあ別ルートでも阿良々木君と戦場ヶ原さんはお付き合いしているだろうけれど、二人が結ばれたのは確か母の日だ。向こうでは八九寺さんが二人のカップリングに関係しているのだとしたら、阿良々木君もそのことについて不安に思っているかもしれないしね。

 

 まあ、目の前の事に必死すぎて一切考えて無い可能性も結構あるけれど。

 

 そして僕は手紙を封筒に入れて、八九寺さんが住処にしているであろう民家へ向かった。

 

 こんな手紙いらないかもしれない。

 

 わざわざ嘆願なんてしなくても、阿良々木君は勝手に世界を救ってしまうかもしれない。

 

 けれど、こっちの阿良々木君が頑張ったことも、彼らが決して一人ではないことをわかって欲しい。

 

 ちなみに手紙を渡したあとの僕の予定は、大学卒業以来手紙も出さなかった同期である貝木と影縫さんの幻のオカ研タッグで──あ、この場合はトリオなのか、しまった普段一人でしか行動してないから手紙でもちょっとミスっちゃったよ──ハートアンダーブレードが潜伏している可能性のある場所に決死の特攻をする感じだ。

 

 二人には別ルートの話はしていないけれど、臥煙先輩が人々を吸血鬼化させるという決断を下したことから何かしらは察しているだろう。

 

 ちなみにオカ研幻のフォースマン手折正弦には、申し訳ないけれど一旦現世から締め出させてもらった。彼のスタンスを考えると計画の全てを明かしても不死身の怪異である吸血鬼を退治し続けただろうからね。まあ三ヶ月後にはふらっと戻ってくるだろう。

 

 それと決死とは言ったが決してわざと命を捨てるつもりは無いよ。

 

 阿良々木君がこっちのルートに来ることは僕もほぼ確信しているけれど、だからといって何もしない訳には行かない。確率がゼロでも奇跡を信じ、行動しない理由はどこにもないのだから。

 

 とりわけ僕は、何がなんでも必死にならなければバランスが取れない。

 

 さて、最後にもう一つだけ語ろう。

 

 結果だけ見れば僕は最低最悪の大失敗を犯し、阿良々木君は殺され、世界は滅ぼされてしまった。正直今でも後悔に押しつぶされてしまいそうだ。

 

 けれど僕は春休みの最終日、阿良々木君にキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを生かす方法を──全員が不幸になる選択を教えたことを一度たりとも後悔したことはない。

 

 だってさ、出来るなら誰も死なないエンディングの方を目指したいじゃないか。

 

 そうは思わないかい?




追伸
 あっちのルートだと忍ちゃんはまだあのヘルメットを被ってくれているかな?

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