私の親友が百合ハーレムを作ってるわけないじゃん! 作:木下てれん
私、
「ど、どうしよ零。結局昨日からずっと緊張しちゃって全然寝付けなくってなんか頭が回らなくってあああどうしよこれでまた何か人様の前で粗相を起こしてうわ何この人高校生にもなってろくに会話も出来ないの?もう関わってこないでくれない?とか言われちゃったらぁ!ねぇ零どうしよぉ!!!」
私の肩をがっしりと掴みながらマシンガン被害妄想で心の自傷行為を繰り返しているこいつ。甘織れな子、という少女のことだ。(以降、れなと呼ぶことにする)
れなとはバスケ部の体験入部で知り合った。といっても彼女は部活の雰囲気が合わずにすぐやめてしまったのだけれど。ただ、たまたまクラスが一緒だったのでそのまま二人で過ごすことが多くなっていった。
あの時はもう、超平穏な日々を過ごせていた。れな自身もこんな自己肯定感がゴミカスのネガティブモンスターではなかったし、お互い少なくはないくらいに仲の良い友人も居たと思う。
しかし、入学してからそこそこ経ったある日のこと。とある一件でれなはクラスのみんなから無視されるようになっていた。まぁ、いわゆるいじめというやつである。
結局どこもかしこもカーストってやつは存在していて、決して高い地位についていなかったれなは、もろにその影響を受けてしまっていた。弱者には元から発言権なんてないし、いつその強者の牙が自分に剥くかも分からない。そんな状況で彼女を救おうと努力出来るやつは、天使と揶揄されるくらいの善人か、周りが一切見えてない盲目の馬鹿のどっちかだろう。
そうだね、結論を言えば私は周りが一切見えてない盲目の馬鹿だった。
不登校になってしまったれなに一度は拒絶されたが、それでも家に通い続け、めげずにれなと関わった。関わり続けた。
一緒に学校に行こうって、執拗に誘ったわけではなかった。ただ、何があっても私はれなの味方だからねって、知って欲しかったから。
そうして2年くらい経ったある日のこと。何か大きなきっかけがあったのか、この努力が功を奏したのかは分からないが、れなは私とれなの妹である遥奈にとある頼み事をしてきた。
『私を陽キャにしてくださあい!!!』
あまりにもド直球すぎるお願いに、苦笑したものだ。遥奈に関しては色んな感情が混ざりに混ざってすごい顔になってたし。気持ちは分かるけどね。
だからといって、当時のれなの勇気を踏みにじる様なことは絶対にしたくなかった。むしろ、私はその場で飛び跳ねたいくらいには嬉しかった。そうして遥奈と私はお互いに見合ったあと、れなの手を取ることにした。
かくして私たちの"引きこもり人生とはもうおさらば!甘織れな子無敵の陽キャ化計画〜あの頃の私はもういない〜"が始まったのであった。
いやぁ、あの日々は本当に大変だった……。目も合わせれないくせにいざ喋るとなるとボソボソと早口で捲し立てるように話すし、姿勢も長年の引きこもりゲーム生活のせいで常時猫背だったし、そもそも見た目も…………い、一旦いいか。まぁれながすっごく頑張ったってことだ。
しかーし!その努力のおかげか、れなはスーパー陽キャJKに大変身することに成功したのだ!
「ねぇぇぇぇ零ぃぃぃぃぃどうして無視するのぉぉぉぉ」
……見てくれだけな!!!
結局人間は変わらない生き物だった。れなの"それ"はもう深く深くに根付いてしまったあとだった。いや結果は最初から見えていたんだけども。
まぁそれでも多少なりとも気の知れない人相手に会話出来るよう矯正したつもりだ。見た目だけはかなりの上澄みなのだから、その美貌と笑顔を武器に立ち向かえば、普通の学園生活は送れるだろう。
そんな安易なことを考えながら、れなを適当に宥めて入学式に向かってしまった。そう、私は舐めていたのだ。この甘織れな子という女を。
彼女のやると決めた時の行動力が抜きん出ていることは理解していた。実際引きこもりからあそこまでの劇的な変化は目を見張るものがあったから。……いや、だとしてもだよ。だとしてもまさか入学初日であの"王塚真唯"に話しかけるとは思わないじゃん!!!
王塚真唯といえば、容姿端麗で文武無敵! 実家もQueen Roseというアパレルブランドを経営していて、母親が有名デザイナー、そして真唯本人も有名モデルとまさに王族のような経歴をしている超絶人間!!!そんなスパダリにれなが!?あの!?!?なんの冗談ですか!!!
いやもう、あとから聞いて本当に驚いたよ……。私はれなとは違うB組に配属されていたから、教室に入ってから何をしでかすかは分かりようがなかったし……。クラスが違うって判明した時、絶望したかのように俯せになっては、立ち上がってやる気に満ち満ち出したと思ったらこれだよ。初期ブーストだけの気力でこの先本当にやってけるのだろうか、あいつは……。
◇
「もう無理……耐えれない……結局陰キャが2ヶ月でスクールカースト最上位の人外魔境なんかに適応出来るわけなかったんだよ……だいだいみんなの会話スピード早すぎるし……それでいて面白いし気も遣えるし空気も読めるしそもそも私なんかが居ていい場所じゃないよねごめんね死ぬね……」
さて、学校が始まって2ヶ月。この有様である。
悲しいことにたまたまこうなっているわけではない。入学してから1ヶ月……いや2週間…………やっぱり1週間くらい経ってからだいたいこんな感じだった。そこからずっと右肩下がりで未だに留まることを知らないらしい。
「いつまでぐだぐだ言ってるのさ……分かりきってたことでしょ?」
「だってぇ……あんなキラキラしてるグループに所属するのが憧れだったんだもん……」
「そんな超陽キャグループ所属の甘織れな子さんが、お家ではこの有様ですか」
「なんでそんなこというの!!!ねぇ!!!ねぇー!!!」
「だって事実だし」
私はれなのMP切れがなんだかで、毎度放課後になっては家に呼ばれて話を聞くのが日課になっていた。クインテットという、王塚真唯率いる1年A組の陽キャ5人グループに所属してからずっとこれだ。どうやら本人たちはそう呼ばれていることを知らないらしいけれど。
本当、れなのこういうところはどうにかならないのだろうか。私と関わる時に限りなんというか……子供すぎない? 妹を相手にしてる気分だよ。妹なんていないんだけどさ。
「せめて零が同じクラスだったらなぁ……」
「そしたら私から離れなくなるでしょ、独り立ちのいい機会だったって」
「べ、別に少しくらいは自分から話しかけに行くし……紫陽花さんとか……」
「れなって安牌ばっか取るよね」
「なんで今日そんな辛辣なの!?私なにかした!?」
自覚のないところがまたタチの悪い……。あ、ちなみに紫陽花さんとは、れなと同じクインテットに所属している瀬名紫陽花さんのことである。れな曰く一切の穢れがない大天使だとか何とかほざいていたが、まぁ要するに誰にでも優しい女の子ってことだろう。れなが好きそうなタイプだ。
(れなをガン無視しながら)そんなことを考えていると、不意に裾を引っ張られたような感覚がした。ふとそちらに視線を向けてみれば、そこにはうぅ……と涙目になりながら上目遣いでこちらを覗いているれなを見て私は……
「はいはい、れなはいつもがんばってるよー」
「えへへ……へへ……」
頭を撫でながら慰めてしまった。こいつ、顔がいいんだよ。結局甘やかしてしまうのが私の悪いところだ……でもチョロすぎるれなも悪いと思う……マジで……。
涎をこぼしそうな程顔がふにゃふにゃになっているれなを撫で続けていると、ガチャと扉が開く音がした。
「あー、お姉ちゃんまた零さんに迷惑かけてるの?」
「うぇ!?遥奈!? ってま、またじゃないし!たまにだし!」
「たまに……? 本当か……?」
入学してからの記憶が全て飛んでしまっているのだろうか。
「というかノックしろぉ!!!私お姉ちゃんだぞぉ!!!」
「これがあたしのお姉ちゃんかぁ……」
「遥奈ァ!!!」
部屋を覗いてはれなのことを蔑んだ目で見下ろしているピンク髪の女の子、甘織遥奈がそこに居た。れなの陽キャ育成計画(省略)を一緒に行った仲であり、私自身中学時代からよくれなの家に訪れていたので、その過程で仲良くなった友人の一人でもある。れなとは違って陽キャだ。重ねて言うが、れなとは違って陽キャだ。
「零さん、18時からバイトの面接があるって言ってましたよね、そろそろ遅れちゃうかもなって。お姉ちゃんのことはもう置いてっても大丈夫ですよ」
「え、もうそんな時間!? 全然気づいてなかったよ、ありがとう遥奈ちゃん!」
「い、いえ! 零さんにはいつもお世話になってるのでこれくらいは……」
「遥奈ちゃんのお世話をした記憶はあんまりないけどなぁ」
「いつもお姉ちゃんがご迷惑をおかけしてます……」
姉とは打って変わってよく出来た子だ。
「私もう今日は布団から出ない!!! 出ないから!!!うぅ……もう私のことを愛してくれるのはフォー君だけだよ……へへ……へへへ……」
本当によく出来た子だ。
部屋にあるPS4の電源を付け添い寝をし始めた哀れな少女を横目に、私は遥奈と玄関に向かった。
「本当、毎日毎日すいません……」
「いやいや! そんな改めて言うことでもないよ!」
階段を下る途中、遥奈がまた声をかけてきた。余程あのれなの情景がキツイらしい。気持ちは分かる。遥奈目線、実の姉が親友にベタベタに甘えながら抱きついて慰めてもらって……改めて言うことかもな……これ……。
ぶっちゃけ気はあまり乗らないが、一応れなを思い擁護をするだけすることにした。
「学校ではちゃんとやれてるみたいだし、昔のことを考えたら本当に頑張ってはいるから。だから今みたいな話聞かされるくらいなら全然大丈夫だよ。」
「零さん……!」
遥奈から凄くキラキラした目で見られているが、正直トントンかマイナスだと思っている。ただ、だからといって嘘ではない。全部本音だ。
気疲れはあっても楽しくないわけではないだろうから。れなから聞くクインテットのみんなの話はとっても面白いし、いい子達なんだなって伝わるから。だからこのままの関係で進むなら、私にとっては超最高なことなのだ。
そう、このままの"関係"で進むなら……。
あれから数日後のこと。私はいつも通りれなと帰宅するのだと、1年A組に訪れていた。そこは放課後だというのに教室は明るく照らされていて、初夏を感じれるような情景だった。しかしそこにれなの姿はない。
どこに行ったのだろうか、れなの行動パターンはたまに読めないからなぁと頭を捻らせていると
「れなちゃんのお友達の子?」
「えっ、せ、瀬名さん!?」
れなが散々私に持て囃してきた女の子、瀬名紫陽花さんがそこにいた。
「そんなに驚かなくても大丈夫だよぉ」
「す、すいません。こう、天使が急に話しかけてきたって感じがしたっていうか……」
「ふふ、れなちゃんと似たようなこと言ってる」
「れなと!?」
私は深く傷ついた。
い、いやでもこれは確かに……理解できてしまう。なんかこう、いるだけで周りの雰囲気がふわふわしてくるっていうか、存在が癒し?みたいな……くそぉ!誇張じゃなかったのか、あれ。
「そういえば……私のこと知ってたの?」
瀬名さんは首をこてんと傾げながら聞いてきた。いちいち可愛くて困る。
「あ、ああ。れなからよく話は聞いていたので……口癖が伝染るくらいには……」
「そっかぁ。じゃあせっかくの機会だし、私とも仲良くしよ? お名前聞いてもいいかな?」
「あっはい!心山零です!特技はかくれんぼです!」
緊張して変なことを口走ってしまった。これじゃあれなのことを馬鹿にできない。しかしこの可愛すぎる顔面も悪いと思うのだ、私は……。
「ふふっ、なあにそれ。零ちゃんだね、私は瀬名紫陽花。タメ口でも大丈夫だよ」
「わ、分かった。よろしくね、瀬名さん」
私の変なボケにも笑って返してくれた。しかも名前で呼んでくれた。もう好きかもしれない。いや私はチョロくないよ?瀬名さんが悪いよね、うん。ワタシワルクナイ。
「えっと、それで零ちゃんはれなちゃんを探してる……で合ってたかな?」
「あ、そうそう。いつもなら教室に居るんだけど、今日に限ってはいなくて。」
瀬名さんが天使すぎて忘れていた。そういえば私はれなを探していたんだった。
「それならさっき上の階に向かうのを見たから、そっちを探してみるといいかも」
「え!本当? ありがとう瀬名さん!すっごく助かる!」
「ふふ、どういたしまして。」
「この御恩はいつか返すね! また!」
振り返ってみると私の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた、そういうとこすぎて好感度が天元突破した。全人類が紫陽花さんだったら戦争という単語は生まれなかっただろうな……。
そんな馬鹿なことを正当なことかのように考えながら、屋上へと歩を進めていった。
少し前にれなが、疲れた時はここで休んでると言ってた記憶があるのだ。先生からの好感度をコツコツと上げて鍵を借りれたとかなんとか。まぁ、今回もどうせクインテット案件だろう。昨日の放課後は王塚真唯と大親友になれるかもー!とか幻覚じみたことを言っていたし、きっととっても嫌なことがあったんだ。今日は存分に慰めてやろう……。
さて、着いた着いた。さっさと連れ戻して帰るか。そんなことを考えながら、屋上の扉に手をかけようとしたその時だった。
扉に着いている小窓を見てみれば、そこにはれなと王塚真唯の姿が。
えっ、れな……? 何やらかしたの……? もしかして結構大惨事起こしてる……?
私は恐る恐る扉に耳をくっ付け、聞き耳を立てることにした。
少し嫌な記憶が過ぎってしまったから。良くないことだとは分かっている、分かっているが!これもれなを守るため……王塚真唯と言えどれなに仇なすなら許さないぞ……!
そう意気込みながら耳を傾けると、王塚真唯と思える声が耳に入ってきた。
れなを正面に見据えながら、何か大きな告白でもするかのように、彼女は声を出した。
「すまない。どうやら私は、君をひとりの女性として好きになってしまったようだ。」
「…………」
…………。
「「は?」」
あいつマジで何やらかした!?!?!?!?