私の親友が百合ハーレムを作ってるわけないじゃん! 作:木下てれん
地獄絵図はからあげによって収められました。さっきまでのごちゃごちゃがなんだったかのように、甘織姉妹はお母さんのからあげに夢中になってるみたいです。あとご厚意で私もちゃっかり頂いている。久々の手料理、身体に染みるぜ。
ぱくぱくと全ての皿を平らげ食事を終えたあと、結局私はまたれなの部屋に戻り話を進めることになった。どうせ私相手にれなは引かないので、仕方なくである。
色々と紆余曲折はあったが、最終的には放課後れなと一緒に帰るってことに落ち着いた。王塚さんが何かアクションを起こしてきた時が少し怖いが、それだけならいつもしてることだしなぁとギリギリ了承。でも何かあったら全然逃げるつもりではある。れなにはもちろん言ってない。
そこから少し飛んで、戦いが始まって3日目くらいかな。一向に髪を結んでこない王塚さんにれなはめちゃめちゃ腹を立てていた。本当に勝負する気はあるのかー!って。流石にちょっと可哀想に思えてきたので、お昼休みに宥めにいこうとA組に訪れたのだが……。
「ひょえっ!?」
「でもな、そうなんだよ」
教室を覗いてみれば、王塚さんが背後かられなのお腹に手を回すように抱きつき耳元に顔を寄せている場面が視界に飛び込んできた。
「最近、れな子が私の推しなんだ」
ぜぇはぁと荒い息をつきながら胸を押えているれなを目視した私は、早速逃亡のコマンドを使うことにした。というか、王塚さんがこちらに気づいていたような感覚がして逃げざる負えなかった。れなとは目あってたし、名前も呼ばれたような気がしたが、そんなことは関係がない。あれらには絶対に巻き込まれたくないのだ。
即座に画面を開き、今日は予定があるから先に帰るねと一報してから廊下を歩く。次に連絡を確認するのは明日とかでいいだろう。ブルブルとスマホが振動しまくっているが、まぁなんかバッテリーの武者震いとかだろう。そんなことを考えながら私はB組の教室に踏み入った。
「あら、零さん。先程A組に用があると仰ってませんでした?」
「あ、高田さん。用事はね、勘違いだったんだ。」
扉を開け入室すると、B組のカースト上位集団5déesseのリーダーである高田卑弥呼さんが声をかけてきた。高田さんは容姿端麗で運動神経も抜群。さらには家がお金持ちで、学業では王塚さん、琴さんに次ぐ学年3位と、まさにB組の王塚真唯かのような存在である。
どうして私がそんな人と関わりがあるのかって? それはね……。
「それなら、零さんも一緒にお昼でも如何ですか?」
「いいの? それならお言葉に甘えさせて貰おっかな」
「是非是非!」
シンプルに友達だからでした〜。まぁそりゃそうだよね、そんなポンポンエピソードなんて出てこないって。
私は高田さんたちと近くの机をくっつけて、バッグから菓子パンを取り出した。
高田さんはクインテット……というか王塚さんかな? その話になると人格が変わったみたいに勢いづくんだけど、普段はどちらかと言えばお嬢様って感じで、今みたいに色んな人に気さくに話しかけては交流を増やしたりと、まさにトップカーストのリーダーって感じでとっても良い子なんだよね。
「そういえば零さん。先程王塚真唯さんは居ましたか? 」
「あ、あー……。うん、居たよ。居た居た、すっごい居た」
まぁとんでもない執着があるのか、だいたい王塚さんの話しているんだけども……。
「最近よく目で追っているようですが、あまり執着なさらないように。あの女に熱心になると、ろくなことが起こりませんから……」
何故だろうか、数多の言葉と比べても特に心に響いた。最近王塚さんに人生を狂わされた人しか見てないからだろうか。私は高田さんと目を合わせた。
といっても私が見てるのは、その王塚さんに執着されてる甘織れな子とかいう女なんだけど。
「大丈夫だよ、接触するつもりはないから。それに王塚さんもわざわざ私になんか関わりにこないって」
「それはそうかもしれませんが……」
「心配してくれてありがとうね、気をつけるようにするよー」
私がそう笑いかけると、何故だか目を逸らされた。笑顔下手くそだったのかな……得意科目なんだけどな……。
謎の自信を砕かれたそのあとは、特に何事もなくお昼休みを終えた。一応れなからの連絡を確認すると『ねぇ!声掛けてよ!』『こっち気づいてたでしょ!?』『というか目合ってたよね!!!』『絶対未読してるだろ!!!!』『真唯に勝手に放課後の予定作られたから今日は大丈夫……あと助けてくれなかったの恨む』と書いてあった。私は最後のメッセージにだけ筋肉の絵文字のリアクションを付けて画面を閉じた。
まぁれなだしなぁと、私はずっと雑な扱いを続けてきた。その大量のツケがすぐに回ってくるとは知らずにね……。
◇
戦いが始まってから4日目。私はれなとはいつも一緒に登校しているので、出会い頭にめちゃめちゃ恨み言を吐かれた。あとなんか照れながら『鼻にち、ちゅーとかもされちゃったし……!』とかほざいてたのでそうなんだ怖かったねーとか返しといた。惚気聞くとは言ってない。
それと何やら意気込んでいるみたいだったので話を振ってみると、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに今日の計画を語り出してきた。
『昨日真唯にいいようにやられて決めたんだ、今日は私が親友の面白さを叩き込んでやる!って』
『いつまでもそっちのペースには乗せられるのは癪だからね……ふっふっふ……』
別に親友モードだからってれなが王塚さんより強く出れるわけではなくない?と思いながらも、そうだねぇ頑張ってねぇととりあえずの全肯定で送り出したのが今朝までの話だ。
私は休み時間が来る度れなと王塚さんを覗いては逃亡を繰り返していた。高田さんにはジト目を何度も送られたが、無事放課後にたどり着けたのでよしとする。
チャイムが鳴り終わった頃に教室を出ると、手元のスマホから振動が伝わってきた。画面を見てみれば、れなからのメッセージが。
『真唯のこと家に誘った!別に親友だしおかしなことじゃないよね?よね?』
……こいつはもう、本当に自覚がないのだろうか。私はため息が出てきた。
王塚さんのビジュアルは確かに目を見張るものがある。そこは認めるが、だがこれが本当に異性愛者を謳っていた人間の発言だろうか。零は訝しんだ。
「でもまぁ……」
正直、最近のれなはこの状況を本気で嫌がっているわけではない気もしている。むしろ心の中では少し楽しんでいるような。
確かに諸々踏まえて色んなことが障害物になっているとは思うんだけど、それでも結局れなは王塚さんのことが好きなんだろうね。それが親愛でも恋愛でも。
昔からあの子の親友やってる身としては、れなが学校で誰かとああいう風に遊んで楽しんでるって言うのは、本当に心から嬉しかったりするのだ。
だからまぁ、少しくらいなら迷惑かけられてもいいかなーなんて思っちゃったりしてるんだよね。あーあ、こういう所が甘いって言われてるとこなんだろうなぁ。
放課後一人の帰り道。街を照らす夕焼けは、なんだか他人の気がしなかった。
……そうして日も落ち街も静かになった頃。
私はれなが昔一緒に始めようと誘ってきたとある格闘ゲームをプレイしていた。れなはあまりゲーム性が合わなくて続かなかったみたいだが、誘われた私が思ったよりもハマってしまい未だに一人で遊び続けていた。
「今日はレート盛る……私のコンボで全員殺す……」
トレーニングモードでの肩慣らしが終わったので、ランク戦に移行しようとメニューを開いた。
このゲームのランクは一番上まで到達するとレート性になる仕様で、今期最高ランクまで踏んでいた私はその四桁の数字に囚われていた。勝つのは当然、負けるのは論外である。ラグは例外とする。あ、あとクソキャラ対面も例外。あんなの使わないと勝てないんですかってぇ〜、はい私悪くない〜。
「あ、もう飲み終わっちゃった。」
ゲームで遊ぶ時のお供であるエナドリ君が空になってしまった。しかしご安心を、こんなこともあろうかと冷蔵庫の中身の八割は同じエナドリで埋めてある。
私は大量に地面に散りばめられているカップ麺のゴミや空き缶を器用に避けながらキッチンに向かった。お気に入りのエナドリを一本手に取り、一直線にモニターの前に戻る。
そうしてカーソルをマッチング開始の枠に合わせボタンを押そうとしたその時のこと。ピンポーンと軽快な音が耳に入ってきた。
「ん? チャイム……? なんか頼んでたっけ……」
部屋の惨状を見ての通り、気の知れた友人でさえ招き入れることは憚られるような家だ。ましてやこんな夜に人が来るなんて宅配くらいしか考えられない。少しの違和感は拭えなかったが、気づいてしまったからには無視もしづらい。
私は一度コントローラーを起き、一応ボールペンを片手に扉に向かうことにした。
「はいはーい、お待たせしまし……た……」
「やぁ、夜分遅くにすまない。少し頼みがあってね、れな子の親友である君にし」
私は扉を思い切り閉めた。
何故ならこれは幻覚だからだ。
まず王塚さんがここに居ること自体が有り得ない。関わりはほぼと言っていいほどないし、そもそも私は友人を家に招き入れたことがない。故に家の場所を教えたこともない。だからこの状況は現実ではないのだ。
私は扉を思い切り開けた。
「やはりいきなり私が目の前に現れるというのは不味かったか……? もう少し身の振り方を考えるべきだろうか……」
……甘織れな子さんへ。
今まで不遜な態度を取ってしまい大変申し訳ございませんでした。本当反省していますので、これから尊敬の念を込めて丁寧に接しますのでマジでお願いしますこの状況を何とかしてください!!!!!れなさぁん!!!!!