…一夜明け。
僕は強奪によって得られた能力の把握に努めていた。…相手は何も知らずに奪われたのだから、その能力を全てとはいかなくても知らなければ、知ろうとしなければ失礼だろうと思った。自分勝手だな…とは自分でも思うが。
まず、強奪とは言っても相手のステータス…素の能力を奪うことは出来ないらしい。奪うのは技能だ。ステータスも奪っているのならば50人分の50%、25人分+自分…つまり26人分のステータスがある訳だが、現状力が常人の26倍ある訳では無いし、頭の回転だって常人の26倍もない。
ただし、どちらも26倍どころか10倍にも満たないが、素の自分よりは明らかに向上している。これは技能としてカウントされたもの…ゲーム的に表すならスキル「スポーツlv1」や「勉強lv1」のような物を奪った結果だろう。それぞれの技能にステータス補正が少しあるって感じだろうか。スポーツには力+3賢さ+1みたいな。
現時点ではおそらく素の自分より約2倍、動けるし考えられる。100メートル走でもしてみれば元々18秒だったのが9秒になった。これは既に世界記録を超えているらしい。公式記録外でもっと速い記録があったりもするかもしれないが、それでもただの中学生に出せるような記録じゃないのは確かだ。
……ただ走るだけでこれとなると、出来る事というのは無数にあるということだ。これでは実測による奪った技能の確認は出来ない。何をやろうが規格外の記録になる。
ならば、「自己把握」の技能ないしそれに近しい物を知らぬ間に奪っているのではと考えた。そんな技能があるかは知らんし、そんな技能に優れた人が居るかも知らない。だが、50人分の自己把握能力の積み重ねがあればそれなりに効果を期待出来るのではないかと考えたのだ。
結果としては成功した。なんとなく、朧気に自分のできることが浮かんでくる。だがその浮かぶ「できること」は瞬間に数を増していく。
多い多い…50じゃきかない、1000は優に超えるそれらを僕はあの人達から無理やりに奪ったのだと思い知らされる。
だが流石にこんな数ではまともに技能の把握が…と思っていたところ、ちょうど良いのを見つけた。
「思考整理」か。
考えをまとめ簡潔にすることが得意な人間はそれなりに居る。多人数から奪ったそれらが重なり複合された結果、技能として十分な活躍を期待出来るほどには魅力的に見える。
思考整理……対象は自己把握によって浮かんできた技能群。
………
……
…む、
整理には1分とかからなかった。便利だ…正直この能力だけでも食っていける。
思考整理によって弾き出された結果は、ゲームみたいな百にまとめられた技能。ありがたい事にレベルなる指標まで付けてくれたみたいだ。
『EX:強奪lv2』『EX:勘lv1』『勉学lv62』『運動lv30』『コミュニケーション能力lv46』『観察lv40』『思考整理lv20』『集中lv38』『精神統一lv22』『自己把握lv15』『デジタルゲームlv18』『クリエイターlv10』『記憶力lv45』『記憶整理lv4』『威圧lv5』『所持技能抹消lv1』『所持技能確認lv2』…等。
技能熟練度…lvは自分の個人的な感覚でしかないが、本来『lv10』が人間の限界値であると仮定している上でのこの数値。
中でも勉学のlv62というのは人類として流石に規格外だ。ミレニアム懸賞問題とか解けそう。ちなみに一般的な中学生はlv2かlv3くらいだと思う。
運動lv30…は様々なスポーツ技能を複合して総合した結果なのでそれぞれのスポーツ技能がピッタリlv30という訳では無い。だが、複合の結果様々なスポーツのセンスが1本の線となり、どれもlv30相当の動きは出来そうだ、ということで思考整理くんはこの数字を叩き出したみたい。これも一般的な中学生はlv2からLv3と考えている。
コニュニケーション能力に観察、記憶力に威圧?…さて、他にも様々な技能が気になるのだが、それらよりも更に気になる物があった。
『EX(エクストラ)技能』…つまり特殊能力の域に分類される物だ。他のlv11以上の技能や思考整理のような凄そうなのですら到達しようが無い、通常の人間に真似の出来ない領域。
僕の考える中だと『強奪』がそれにあたる。というかこの世界には強奪しか特殊能力は存在しないものと思っていた。
『EX:勘lv1』
堂々とEXを冠しているこれ。……勘ってそういう概念なのか?
思考整理によれば吉兆とか凶兆を感知する能力は人間誰しもちょぴっとは備わっていてそれらを50人から強奪し、複合することで特殊能力の域に達している…という事だ。
勘…言い換えればそれは予知に似た概念。うーん…どれ程使える能力なのだろう。
僕は検証の為にスマホに入っていたアプリゲームを開いてみる。これは半年前くらいにやめて放置していたリズムゲームだ。可愛い女の子が出てくるような…
ガチャ石は…40連分くらいあるな。これで今のピックアップキャラクターが引けるかどうか『勘』が応えてくれるだろうか。
強奪と同じように『勘』を使う、『勘』よはたらけと念じてみる。
「んおっ…………おお……」
ビビッと来た。『勘』は発動したのだ。
"このガチャは引くべきではない"と勘が言っている。
…いや、これは……便利だ。
便利すぎる。強奪と違って直接他者を不幸にはしない。だが…他者を不幸にはしないというのは僕の認識ではそうってだけで正確には違うのかもしれないが。
まだlv1なのでちょっとした個人的で曖昧な運勢に関わる勘しかはたらかないのかもしれないが、そもそもlvは熟練度。使い続ければ伸びてしまうのだ。強奪だって1ヶ月しか使っていないのに既にlv2になってしまっている。
もし『勘』が勘の域を超え『予知』に等しい能力となった場合、僕は事件や災害を把握出来ることになる。自分の発信によって数多の人間の未来を左右できる立場に立つという事だ。
それはつまり、強奪と同じ。人の命を左右するという苦しみを味わう事にほかならない。……この能力も封印か。
というかだ、特殊能力という物は持っているだけで苦しみが生じるような能力なのではないだろうか。大いなる力にはなんとやらだ。EX能力は今後目覚めたとしても使うべきでない禁忌の能力…という分類にしてしまおう。
……だが便利だぞ、『勘』は。ギャンブルの類いがギャンブルじゃ無くなる、一生を左右するような選択にもおそらく勘がきく。勘だけを頼りに生きていくダメ人間まっしぐらだ。
「いっそ、好き放題生きてみるのもありかもしれない。」
言葉にしてみれば軽い。だがその末路は僕の持つ技能の補助が入った脳が示しているんだ。僕の肩に多くの命の責任がのしかかると。
……
別のこと考えよう。
技能『技能抹消』。
この技能は1度使用した、前首相の演説力を抹消した時だ。
強奪の可能性に気づいた時は前首相から奪った全てをドブに捨ててしまった…とも思ったが、それは違ったらしい。技能抹消は綺麗に『演説力』の技能自体を抹消した。
つまり前首相の全てが消えた訳では無いし、あったかは知らないが他の人から奪った演説力もまとめて消えてしまったという訳だ。
演説力とはプレゼン力。多分だがサラリーマンから奪った分も確実に存在はしていただろう。それも消した。余計に…申し訳なくなってきた。
技能抹消なんてのがあるなら自分に悪影響を与えるであろう『強奪』も『勘』も消してしまえば…とも思ったが…
『技能抹消lv1』は『EX技能』を抹消出来ない。少なくともlv1の段階では。
なら突然生えてきた強奪は兎も角、勘はその構成要素である吉兆感知や凶兆感知を抹消すれば良いのではと思ったが…技能とは僕の認識による影響が大きいみたい。
1度でもEX技能の域に達してしまったそれは構成要素ですら分類としてEX技能に昇格してしまうようだ。思考整理でまとめたから表示されていないだけで。思考整理で技能をまとめたってのはちょっと余計な事をしたかもしれない。
(EX技能を図らずも生んでしまう『思考整理』を抹消するか…?)
いや……するべきではない。
…そもそも僕は奪った技能を捨てたくは無い。奪われた側に失礼すぎる…と考えているからだ。
人に言えばそれだって考え方次第だ、ただの自己満足だ…とか言われそうだが、少なくとも今の僕がそう考えているのには理由がある。だっていつか急に『返還』の技能が生えてきて、技能を返す機会が得られる…なんて事が有り得ない訳ではないかもしれないのだから。
強奪が突然生えてきたのだから、その他に特殊能力が生えることもあって然るべき…と思っている。
能力に目覚めるのが自分である必要も無い。返す為なら『奪う』事も視野に入る。
…必要なのは相手がどんな技能を持っているか確認する技能…所謂『鑑定』だろう。これも特殊能力ではお馴染みのあれだ。
『鑑定』…『観察』の技能をもっと極めれば辿り着く領域だろうか。もしくは既に『観察』の時点で出来るのだろうか。だって観察はlv40。人類の最高位の4倍もある訳だし。
試しに僕はその辺の物に『観察』をかけてみる。
…………なるほど。
…これは人に試してみる価値は大いにある。
翌日。
僕は登校し席につくと前の席に座っている人物を『観察』してみることにした。
名前は確か早川千瀬。銀縁の眼鏡をかけている委員長気質の子。学力は良いが運動は苦手ってタイプだった気がする。テスト成績や体育祭を見るに多分。
特に普段から気にとめていた訳ではない女子だ。これで様々な情報が得られたなら『観察lv40』はかなり優秀であるということになる。
(『観察』+『思考整理』発動。)
観察で得られる情報は多い。多すぎる。物でさえそうだったのだから生物相手には思考整理の助けがないときつい。そういう判断から思考整理を併用することにした。
(ぐっ…なんで……)
頭が痛い。
そうか…思考整理は一度頭の中に入ってきた情報を整理する技能。観察によって得られた情報量自体は整理されず、当然そのまま負荷が襲いかかってくるようだ。きつい。
だが、耐えられない程じゃない。これなら…
情報が頭に入ってきてから10秒ほどで、思考整理が観察の結果を出してくれた。
【早川千瀬…性別女、年齢15、身長147、体重45、バスト77、ウエスト57、ヒップ76、カップ数B、】
…そういうことを知りたいんじゃないんだが……いや、観察ってのはそもそも目測だから分かるのはサイズと推定体重くらいなのか…?…と、まだあるようだ。
【貧血気味、寝不足気味、眼鏡の度が合ってない、左肩の動きが悪い(筋肉痛?)、スカートのポケットの中に携帯電話を隠し持っている、友達が早く登校してくるのを待っている、後ろの席の人に無言でずっと見られていて居心地が悪い】
おお…こういう感じか。結構僕の分かってなかった情報ばかりだ。…最後のはなんとなく分かっているから放っといてくれ。
所持技能は残念ながら分からないか。まぁ、仮に特殊な能力を持っている人が居たなら観察を使ってその不自然さを見極められるってくらいか。
まぁ…lv40と言えど通常の技能だ、所持技能なんて僕の思考にしか存在しない概念を相手に適用して全ての情報を開示する…なんてのは無理だな。
「あの…中谷くん…髪にゴミでも付いてた?ずっと見てるけど。」
なんて『観察』の考察に耽っていれば、早川さんが後ろ髪を弄りながら僕に話しかけてきた。…本当にずっと見たままだったな。
「ごめんね。なんとなく見てただけなんだ。特にゴミとかは付いてないから大丈夫だよ。」
「へぇー…そう。………なんとなくでずっと見てた?それってどんな理由だよ…」
不気味がられてないか不安ではあるが、彼女に不気味がられたところで別にどうでも良いような気はしていた。
達観していると言うには違う気もするが、ある種の全能感が僕をずっと肯定してくれているからか心に余裕がある…簒奪者たる責任と罪を忘れた訳では無いけど。
でも喉元過ぎればってやつで僕はまだ一昨日の出来事なのに、強奪によって奪った物のでかさに対する感情が薄れかけているのだ。これではまずい。
あぁ…もっと…罪を自覚できる出来事…ずっと罪を自覚し続けられるような事件が欲しい。
「中谷くんは私に興味が…?」
▲『勘』…
他人の吉兆や凶兆を感知する能力が嵩んで生まれた特殊能力。選択の場面で進むべきか引くべきかがなんとなく分かる。また、宿主の危機を感知すると宿主に警告を伝える機能が常に発動している。
▲『所持技能抹消』…
宿主が所有する他の技能を抹消することが出来る技能。『強奪』と同タイミングで目覚めた能力。抹消にコストはかからないが、抹消で得られるリターンは無い。