塔の建設が着々と進められている頃、王宮の地下牢でもまた、大きな「工事」が行われていた。
深夜になると、バコタは牢獄の石畳を剥がし、持ち込んだ熊手でコツコツと土を掻き出し、穴を掘り進める。そして昼間は何食わぬ顔で牢に戻るという日々を繰り返していた。
――そうして何日か掘り進めていくと、ふと手応えが変わり、広い空間へと突き抜けた。
薄暗い通路をゆっくりと光の方へ進んでいくと、なんとそこは、いま正に建設中の「塔」へと入るために掘られていた工事用の抜け穴だったのだ。
「おい! お前! 何をサボっている!」
作業中の棟梁に大声で叱責されるバコタ。どうやら作業員の一人と勘違いされたらしく、どさくさに紛れて、その日は何食わぬ顔で労働に加わることになった。
そこで隙を見ては、針金や頑丈な鉄の棒、麻の紐などを懐に隠し、バコタは夜の帳に紛れて牢へと戻っていった。
しばらくすると、近衛兵隊長が冷ややかな食事を持って独房に現れた。
「……服が汚れておるな。脱獄の準備はそろそろか? カムイを片付けるまで、俺はお前を見張っているぞ」
冷ややかな空気だけを残し、兵隊長は去っていった。
一方でバコタは、久しぶりの労働による思わぬ疲労と、どこか奇妙な充実感を覚えていたのだった。
翌日も、その翌日も、彼は作業員に混ざって塔の建設に携わり、そこで集めた素材を巧みに加工して――ついに1つの「鍵」を作り上げたのだった。
だが、そんなある日。
建設中の塔の進み具合を見に来ていたエンダルフ老人の前に、あろうことか抜け穴からひょっこり顔を出したバコタが遭遇してしまう。
「お、おい……! お前は囚人か!?」
警戒した老人は、懐のナイフを握りしめる。
「しっ、静かにしてくれ爺さん! 殺さないでくれ、俺が牢屋を開けて出ようとした、この鍵! なくした鍵や開かない扉も、ある程度のものであれば簡単に開けることができる。いわば盗賊の鍵だ。これやるから見逃してくれよ!」
慌てたバコタは、懐から取り出したその「鍵」を老人に手渡した。
「あいにく、ワシに泥棒の趣味はない。こんなものもらっても……。まぁよい。お前さん、この鍵でまた盗みを働くのかね? お前さんからの被害が減るのであれば、それも善良な行為か。わしが預かっておこう。で、なぜここにおるのだ?」
老人は鍵を受け取ると懐にしまい、バコタに尋ねた。
「穴を掘って逃げようとしたんだが、現場の親方につかまってな。いざ仕事をしてみると、やりがいっつーかなんというか……。塔の完成を、俺も楽しみにしてるんだ」
老人は、けなげな囚人の言葉を胸に受け止め、ふっと心をほころばせた。
「まぁ、兵に見つかったら大事じゃ。気を付けなされよ」
一旦その場を後にし、塔を見上げる老人の胸には、複雑な感情が渦巻いていた。
自分の犯してきた深い罪の意識を償うために、この塔を建てているはずの自分。その一方で、罪人であるはずの男が、この過酷な労働に泥まみれになりながら身を投じ、結果として塔の完成を支えている。
(わしの拭えない罪の意識……。きっとこの男も、後悔の念にかられておるのであろうな……なぜか、それが重なって見える……)
獄中の囚人でありながら、図らずも塔作りに関わり汗を流すバコタの姿に、老人は自分自身の内面を見るような奇妙なシンパシーを覚えたのだった。
やがて二人は言葉を交わすようになり、打ち解けていくうちに、バコタの口から衝撃の事実が語られる。
オルデガの息子(アルタ)とカムイ指南役を襲うよう自分に命じたのは、ほかならぬあの「近衛兵隊長」であるということを――。
自身の罪の意識と向き合う老人は、その話を聞くやいなや、この巨悪の企みを直接アリアハン王に告発することを決意するのだった。