季節が変わり、孤島に慰霊塔が完成した頃――。
塔の最上階の部屋では、オリビア、エリック、そしてオルデガの魂を鎮めるための神事が行われていた。
参列しているのはアリアハン王をはじめ、エンダルフ老人、ポポス、カムイ、アルタ、イル、そして数名の護衛の兵士たちだった。
「エンダルフ老人、アリアハンの地にこうして勇者オルデガの慰霊碑を建てていただき、心より感謝いたします。これで工事は終わりではありますが、ぜひともアリアハンの街に残っていただきたく思う」
王は静かにエンダルフ老人に葡萄酒を差し出した。
「王様、大変ありがたきお言葉……。しかし、ワシは孫娘に対してまだ許されておりませぬ。この慰霊塔の中で、ワシは生涯を終えようと思っておりますじゃ」
老人は穏やかに首を振る。
「この神事が終わり次第、抜け穴の洞窟を閉ざし、ワシを一人にしてくだされ。命尽きるまで、ワシはこの塔と共に過ごしますじゃ」
「なんと、エンダルフ殿……ここで余生を過ごされると……」
王が息を呑む中、老人はふと視線を上げ、ピシリと空気を変えた。
「この塔を作ったところで、自分の犯した罪からは逃れられませぬ。ましてや、犯した過ちを隠し通せるほど、できた人間ではありますまい……。のぉ、近衛兵隊長」
エンダルフ老人の鋭い目が、一人の男を射抜いた。
「一度汚れた物は、どんなに償いを尽くしても拭えぬものじゃ。そなたにも、心当たりがあるのではないのかね?」
すかさず、王が重々しい声で引き継いだ。
「そうだ。お主がバコタを使い、アルタとカムイを死に至らしめようとしたこと。いつまでも隠し通せると思っていたのか? ……バコタが持っていた金貨の麻袋、あれは城の給金を受け取った者しか手に入らぬ特製の麻袋じゃ。お主の犯した悪事は、とうに調べがついている」
「王様! 私には身に覚えのない……何を根拠にそのような……!」
焦りを隠せない隊長に、王は冷ややかな目を向けた。
「このエンダルフ老人の懺悔の塔が出来上がるまでに、己の過ちを悔い改め、自首してくることを密かに祈っておったのだがな……」
「くっ……!」
追い詰められた隊長は顔を歪め、ついに声を荒げた。
「王様! 私は決して王国を脅かすような真似をしたわけではない! 私はただ、このどこの馬の骨とも知れぬカムイから国を守ろうとしたまでだ! たまたまアルタ殿がカムイと一緒に居合わせてしまっただけで……って、はっ……!」
(しまった……!)というように、隊長は自分の口を両手で塞いだ。
しかし、時すでに遅しであった。
「それでは、罪を自ら認めるというのだな。これよりお前を近衛兵隊長の任を解き、国家反逆の罪により死罪を命ずる!」
「なっ……! なんと厳しいお裁き……! ええい、王まですっかり腐り果てたか! 私は無実だ!」
狂乱した近衛兵隊長は、そのまま塔の窓枠を乗り越え、荒波に向かって身を投げ出した。
――ざばーんっ!
アリアハンの泉に、大きな水飛沫が容赦なく巻き上がった。
「王様! 城に戻りましょう! 私たちが隊長の行方を追います!」
カムイや兵士たちがすぐに下へ駆け降り、周辺を必死に捜索したが、隊長が再び水面に浮いてくることは二度となかった。
「また1つの命が、こうして失われてしまった……」
エンダルフ老人は悲しげに呟くと、自らの手で重い最上階の扉を静かに閉ざしたのだった。