水平線から陽が昇ると、波を割るように2隻の貿易船の影が迫ってくる。
祭りで浮かれるアリアハン大陸に、今年も収穫祭の朝が訪れたのだ。
大道芸人や商人たちが船から次々と降り立ち、波止場は一気に活気づく。孤島であるアリアハンにとって、異国の布や食材、そして技術はどれも大変貴重なものだった。
「さぁ、まだら蜘蛛の糸だよ!」
「こっちはルビーの指輪だよ!」
「銅製品しかないアリアハンにうってつけだ、鋼の剣だよ!」
「こっちはダーマの泉で汲んできた、ルビス様の加護を纏った聖水だよ!」
ポポスも珍しい武器や品を仕入れるため、仕入れた黒胡椒を売っては買い、売っては買いと大忙しだ。アリアハン中が大賑わいを見せる中、一方その頃、レーベの村でもバニーガールやピエロによる大道芸、ベリーダンスの踊り子たちによる華やかな催しが開かれていた。
「アルタ、気を抜くなよ! 収穫祭に乗じて、どんな輩が紛れ込んでいるかわからんからな」
自分より少し小さな子供たちがはしゃいでいるのを見ると、アルタも遊びたい衝動にかられるが、ここはぐっと我慢する。
すると、異国の旅の家族から「宿に案内してほしい」と声をかけられ、アルタはカムイの許可を経て、その家族を宿へと案内してあげた。
「へぇ、おにいちゃん、僕と背丈そんなに変わらないのに兵隊さんごっこなの?」
と茶々を入れる少年にも、目もくれず任務に戻る。
(年は近くても、僕は昨日怪物を倒したんだ。もう子供じゃない……)
そう自分に言い聞かせて、きりっとした趣きで任務に戻るアルタだった。
その家族はエジンベアから来た貴族の家系だそうで、どうも高飛車なところが鼻につく。
「ちぇ、貧乏人は子供まで働かなきゃいけないのかよ……」
「こらこら、兵隊さんをいじめるんじゃないの」
母親らしき人が子供をあやしながら、不満げにつぶやいた。
「でも、何もないところだね。何か楽しいことはないのかな?」
「ここへは黒胡椒の買い付けに来たのよ。貴族の間では高級品なのよ。そんなことでもない限り、こんな貧しい村に遊びに来るものですか」
どんないわれようをされても、レーベの人たちは顔色を一つ変えずに笑顔で応対するのだった。毎年のことなのだから。
「僕、遊びに行ってくるね!」
子供は、人ごみの中に消えていったのだった。
やがてアルタが護衛に戻ると、カムイにふと愚痴をこぼす。
「どうした、アルタ。不機嫌そうな顔をして」
アルタは頬をふくらませて口を開いた。
「カムイさん、外国の人ってあんなに嫌味なのかい? 僕、腹が立っちゃったよ」
めずらしく感情をあらわにするアルタに、カムイは腹の底から笑った。
「はっはっは。きっとエジンベアの人だろう。お国柄がああだからしょうがない。エジンベアの王様もそんなお方らしいぞ。気にするな。我々には誇り高き黒胡椒と、オルデガ様がいるのだからな」
祭りの賑わいは日の入りまで続き、広場では大きな木枠が組み立てられて、その炎を囲む収穫を祝うダンスパーティーが行われる。
そのころには、酒に酔いつぶれる若者、木陰に潜むカップル、女の子を口説く若者やら、皆が羽目を外し始める時間である。
「みんな笑顔で楽しそう。もう何も起きないよね……」
そうつぶやくアルタを、カムイは鋭く叱責した。
「アルタ! ここからが護衛の仕事の始まりだぞ」
日がどっぷりと落ちるころ、やぐらに火が放たれて、周りを民衆たちが囲む。軽快な音楽やアリアハンに伝わる伝統舞踊などが披露され、みなやいのやいのと喝采していた。
そんな中、民衆の人ごみをかき分けて、エジンベアの奥方が血相を変えてやってきた。
「あの子が! あの子がどこにもいないの!」