「かぁさん! 今戻ったよ。
カムイさんが……。カムイさんが……っ」
「ここが君のお家ってわけねぇ。
どうも、はじめまして。アッサラームで踊り子をしてました、ミーニャと言います。みんな遊び人って言うけど、結構真面目なんですよ」
「はぁ……アルタ、この方は?」
「僕、ほんのさっきレーベの村を出たんだ。歩いてここまで来ようとしたんだけど、このお姉さんが馬に乗せてくれて……」
母親のイルはびっくりした顔をして目を丸くしたが、「息子がお世話になりました」と頭を下げる。
せめてものお礼を……と言いかけた途端にミーニャが遮った。
「お母さん、お礼なんていりませんよ。私もアリアハンに来たかったですから」
「かぁさん、この人バハラタ行きの船に乗り遅れたんだって。船は1ヶ月もこないし……」
「この人なんてやめてよ……名前なんだっけ?」
「アルタ……」
「あーそうだ! アルタ! 私はミーニャ。改めてよろしくね」
「かぁさん! 僕、こんなことしてる場合じゃないんだ。満月草を探しに行かないと。
ミーニャさん、かぁさん、ごめん、僕行くよ!」
アルタはアリアハンの街中へ満月草を探しに家を飛び出した。
「ポポスのおじさん! 満月草ある?」
「おぉ、アルタ! 戻ったのかい? 満月草……聞いたことない草だな。教会の神父様ならわかるかもしれないよ! ちょっ……アルタ!」
アルタは急いで教会に向かった。
「神父様、満月草はどこにありますか?」
「おぉ、アルタ! 今お帰りかね。レーベの護衛はどうだったね?」
「神父様、急いでいるんです! 満月草は?」
「確かアッサラームから来た商人が売っておったような気がするが……アリアハンでは別の呼び名なのかもしれんなぁ。アッサラームの人でもおれば見分けがつくんじゃが。薬草屋に行けばいろんな薬草があるぞい」
「ありがとう!」
(アッサラームの人なんてもう帰っちゃったのに……どうしよう、カムイさん……)
「アルタ? どうしたのよ、そんな険しい顔して」
「薬草がわからないんだ。満月草と外国で呼ばれている薬草は、アリアハンではなんて言うのか……アッサラームの人でもいてくれたら……」
「何言ってるのよ……目の前にいるじゃない」
「え? どこに?」
「アルタ! 人の話聞かないタイプね! その薬草屋さんに連れて行きなさい!」
アルタとミーニャは薬草屋に行った。
「おじさん! アッサラームから仕入れた満月草はどれ?」
「満月草? 聞いたことないけど、アッサラームから届いた薬草はこの5種類。ケツメイシ、シオン、ゲッケイジュ、ヨモギ、ドクダミだ。満月草なんてないぞ」
ミーニャが割って入る。
「待って! そのシオンの葉っぱ、効能は?」
「あぁ、これかい? 身体の強張りをほぐし、血の巡りをよくする薬草だが……」
「アルタ! 間違いない! これが満月草よ!」
「おじさん、これいくら?」
「あぁ……これは意外と高かったんだ。金貨5枚は欲しいなぁ」
「わかった! 預かってきたお金じゃ銀貨100枚足りなかったらまた払いにくるよ! これ全部とっておいて!」
「じゃあね!」
アルタはありったけの満月草を袋に入れて店を出た。
「ミーニャさん、ありがとう。これでカムイさんもよくなるよ。さて、かぁさんに挨拶して僕はレーベに向かうよ」
「アルタ! あなた今からレーベに向かう気? もう暗くなってきたじゃない!」
「行かなきゃいけないんだ」
アルタは母への挨拶をするため一旦家に戻った。
「かぁさん! 満月草手に入ったよ! これで僕はレーベに向かう」
「コラ、アルタ、落ち着きなさい。父・オルデガはいかなる時も冷静に、今見えているもの全てを救わんとする人です。レディーが行くあてもなく困っているのがわかりませんか?」
母・イルはアルタの周りが見えていない行動を叱責した。
「馬に乗せてもらい、薬草も見極めてもらった女性が家に帰れなくて困っているのですよ。あなたはそれをほったらかして自分の目的を全うするのですか?」
「ミーニャさん……ごめん。僕、周りが見えてなかった……。本当ならまだアリアハンにも着いていなかったかもしれないのに……」
「いいのよアルタ、お母さんもそんなに怒らないで……私はどうにでもなるし……」
「ダメだよミーニャさん! かぁさん、彼女を泊めてあげてください。僕の恩人なんです。彼女はミーニャさん。頼れる旅の踊り子さんです。よろしくお願いします」
「やっとちゃんと紹介してくれたわね。もちろん息子の恩人だもの、ゆっくりしていってくださいね。
――アルタ、いい? 今あなたはカムイさんのことしか目に入っていなかったのよ。あなたは勇者オルデガの息子です。常に周りで困っている人に目を向けるのです」
「えっ、オルデガ様!? 子供の頃アッサラームからサマンオサに売り飛ばされそうになった私を助けてくれた……あのオルデガ様のご子息と奥方様なんですかっ!」
「アルタ、母はあなたの事情もよくわかっています。ミーニャさんを部屋まで案内して、戻ってきなさい」
「はい! ミーニャさん、僕の部屋を自由に使って!」
「あぁ……ありがとうございます。ありがとう、アルタ!」
「こちらこそ! ミーニャ!」
アルタはミーニャを部屋まで案内すると、母の元へ戻ってきた。
「アルタ! 旅の支度はできてるの?」
「うん!」
「では、外に出なさい」
「えっ!?」
母・イルはアルタを外に連れ出した。
母の急な要求に目を丸くするアルタをよそに毅然と目のまえに立つイル。
「何があっても目を開けてはいけませんよ。心が乱れるとどこに行くかわかりません。ただカムイさんのことを願い、レーベの事を心に念じなさい」
「この呪文は危険とされていて息子には使いたくないのだけど……」
母は深く息を吸い込むと、静かに詠唱を始めた。
――時空の使者よ。今この空間を切り開き、この者の肉体と魂を彼の地へ誘いたまえ。
イルが詠唱を唱えると、アルタの足元が神々しく輝き始めた。
「バシルーラッ!」
うぁぁーっ!
アルタの身体は光の粒となり、イルの前から消えていったのだった。