昼間の戦いが嘘のようにアリアハンの城下町は静まり返っている。
皆早々に店を閉め新しい指南役のカムイの激励会をルイーダの酒場でおこなっている。
「カムイさんお疲れ様!あんなにきれいな太刀筋初めて見たよ。」
城の兵士たちはカムイを囲み大盛り上がりである。
そこには自分の兄弟子を誇りに思うアルタの姿があった。
しかしそこには近衛隊長の姿はなかった。
酒場の窓から漏れる賑やかな笑い声やジョッキのぶつかる音とは裏腹に、そこから一歩離れた城下町の薄暗い路地裏は、鉛のように重い静寂に包まれていた。
怪しい影が冷たい月明かりに照らし出されている。
「ダンナ!こんなにいいんですかい?酔っ払いを仕留めるだけですぜ?」
麻袋に入ったゴールドを盗賊に差し出すマントの男の姿がある。覆面をしていて顔はわからないがどうやら体格はすごいようだ。
「バコタよ。それは半分だ。カムイの暗殺が成功したらもう半分を手渡そう。奴は今ルイーダの酒場で飲んだくれている。仕事もスムーズに進むだろう」
薄暗い路地裏へ、マントの男は音もなく消えていった。
「こんな楽な仕事で金はたんまり。りゃあ、ただ者じゃねぇな」
盗賊が不敵に笑う。
さらに夜も更けて皆が陽気に酔いつぶれて各々の家に帰った後のこと。
カムイも千鳥足になりながら城に戻る。
「カムイさんちゃんと歩いてくださいよ」
アルタがカムイを支え何とか歩いている。
「アルタ……、俺がお前を守ってやるからなぁ……」
まどろみの中カムイの声を聴いたアルタは、やれやれと思いつつもとてもうれしかった。
その時、暗がりから冷気を帯びた声が響いた。
「まちな!そのデカ物を置いてさっさとうちに帰ぇりな」
気づけば、数名の男たちに囲まれていた。
「カムイさん。起きて!怪しい男たちに囲まれた!」
しかしカムイは眠っている。
じりじりと詰め寄る盗賊たちにアルタは落ちていたヒノキの棒を構えた。
「小癪なガキめ。俺が盗賊バコタと知って構えるのかね?」
――盗賊バコタとは、アリアハンでは「小さな子どもが言うこと聞かないとバコタに連れ去られるよ」と大人たちが子どもに言い聞かせる、子どもにとって怖い存在の総称だった。
「バコタ?そんなの絵本に出てくる盗賊だろ?怖くなんかないぞ」
「ガキのくせに生意気な!かかれ、二人まとめてやっちまえ!」
盗賊がいっせいに襲いかかってきたところ、アルタは静かに詠唱を始める。
大地に宿る精霊よ、その霧により我を守り給え――。
「マヌーサ」
あたりから霧が立ち込めて、盗賊たちは幻影の霧に包まれる。
「なんだこりゃ!前がみえねぇ」
右往左往するバコタの子分を後ろから、ボカリボカリとアルタのヒノキの棒がうなりをあげる。
「どうだ!まいったか!」
「このガキめ!ゆるさねぇぞ!」
バコタはナイフから長い銅の剣に持ち替えた。
(あっちは剣。こっちは棒。防いだとしてもきっと折れて致命傷だ。どうしよう……)
「アルタ!そいつをよこせ!」
目を覚ましたカムイが、アルタからヒノキの棒を受け取り、バコタめがけて投げつけた。ヒノキの棒は垂直に伸びていき、恐ろしいうねりを伴ってバコタの喉元に直撃した。
「ぐっ……!」
気絶するバコタ。すると見回りの兵士たちが騒ぎを聞きつけた。
「これはこれは指南役!ご無事でしたか!……って、お前はバコタ!?こんなただのコソ泥が人を襲うなんてどういうことだ……?おい、しょっ引いて詳しく話を聞かせてもらおうではないか!」
静かになったアリアハンの夜道を月明かりが照らし、虫の声に混ざりカムイのいびきが響いていた。