王宮の取調室では、昨晩捕らえられたバコタの尋問が行われていた。
「――して、バコタよ。なぜそのようなことをやった。小心者のお前ができることと言ったら、小銭を盗むのがせいぜいのはずだ」
「いや、顔はよく見えなかったんですがね。なんでも大金をくれるっつーんでさ。酒に酔った男を殺すぐらい、俺にだってできっかなぁと思ってよ」
「お前が襲ったのは、この城の指南役カムイ殿と、オルデガ様のご子息アルタ様だぞ!これは重罪だ。たかがコソ泥が考え付くことではない。国家を揺るがす大惨事ぞ!」
「ま、待ってくれ! そんな大物だとは知らなかったんだ。俺は、覆面の男に頼まれて……」
「泣き言を言うな! それが人を襲った罪だ。たとえ指南役様やご子息様じゃなくても、重罪に問われるのだぞ!今回は未遂に終わったので、しばらくの間は投獄ののち、罪は必ず償ってもらう。ところで、その男の背丈はどのようなものであった?」
近衛兵たちに囲まれた尋問室を見渡すバコタだったが、ふと視線を止めた。
屈強な肉体に鋭い眼光――昨夜の男と、背丈も容姿もそれに酷似した男が、近衛兵の中に混ざっていた。
「あ……」
バコタは答えようとしたが、その男の殺気立った眼差しに恐れおののき、ぐっと下をうつむいた。
「では、覚えがないということだな。思い出すまで牢屋に入っていれ!」
尋問官はそう吐き捨てると、席を立った。
近衛兵がバコタを連れて牢に向かう途中、近衛隊長とすれ違った。
「隊長! ご苦労様です!」
敬礼する兵の背後に、バコタは身を隠すように縮こまる。
「この者がバコタか……。少し話をしたい。私が牢まで連れて行こう」
牢とは別の方向へ、バコタを連れて歩き出す近衛隊長。人目につかない一角で、隊長は冷徹に言い放った。
「しくじったな……。この落とし前、どうつけるつもりだ。私がここでお前を斬ったら、私に疑いがかかってしまうからな。しかし、お前がいついつその軽い口をしゃべるのかもわからぬ。いっそのこと、ここでその舌を抜いてやろうか……」
迫りくる殺気に、バコタはおびえて地に足を震わせた。
「旦那、つぎは必ず仕留めます! だから俺を投獄してくだせぇ。そして、俺は脱獄して奴の息の根をとめてきます。そうすれば旦那は疑われないし、俺もしゃべらない。どうか、命だけはお助けを……!」
「ふん。ネズミ風情が私に指示をするとはな。だが、いいだろう。脱獄に必要なものがあったら、お前の食事に混ぜて送り届けてやろう。とりあえず、お前は牢屋に入っていろ」
隊長はバコタを暗い牢に押し込み、看守へと低く言い残した。
「――あやつの食事の時間は、私自らが運ぶ。時間が来たら必ず私に知らせるように」
一方その頃、アリアハンの訓練場では――。
「カムイさん! 昨日は大変だったんですよ! 僕のマヌーサがなければ、カムイさん死んじゃってますからね!」
二日酔いの頭を押さえながら、カムイは重い木刀をしっかりと握り直した。
「これだけお前に剣術を授けているというのに、なぜ呪文に頼るのだ……。まだまだ鍛錬が足りん証拠だな」
「えーっ!」
「……ところで、アルタ。そろそろお前にも、本物の剣の使い方を教えねばな」
ふと手を止めて、カムイは真剣な眼差しでアルタを見た。
「訓練が終わったらポポスの店に行こう。多少だが給金が出たのだ。お前に、ちゃんとした剣を買ってやろう」
「ほんと!? ありがとう、カムイさん!」
アルタの顔にパァッと満面の笑みが広がった。