今回は桜庭薫×天王寺璃奈です!
同じ理系の天才でありながら一匹狼な薫と友達想いの璃奈。
個人的ですが、作者としてはこの組み合わせが一番美味しいと思ってます。
315プロダクションとの合同ライブに向けた合同レッスン期間中、事務所の廊下にはいつものように賑やかな声が響き渡っていた。
輝「おい桜庭!偶には息抜きも必要だろ!ほら、みんなで一緒に美味いラーメンでも食いに行こうぜ!」
薫「断る。僕には次のステージへ向けたデータの分析と、完璧なパフォーマンスの準備がある。君のような無計画な言動に付き合っている暇はないんだ、天道」
輝「なっ……!無計画とは何だ!俺はリーダーとしてチームの親睦をだな……!」
薫「うるさい。声を張るな」
バタン!と控え室のドアを容赦なく閉め、廊下へ吐き出された天道輝の抗議の声をシャットアウトした男――DRAMATIC STARSの桜庭薫は、深くため息をついた。
薫「全く……君は相変わらず、僕を何処かに連れ出そうとして……一人がいいんだ……」
ポツリと溢れ出た独り言。いつものように上から目線の、冷徹に見える一匹狼主義。
けれどその声には、何処か寂しげな響きが混ざっていた。
実の姉を病気で亡くした過去を持ち、誰よりも命と音楽にストイックな薫は、無意識のうちに他人と深い線を引き、一人で全てを背負い込もうとする癖が抜けないのだった。
???「……一人だと、寂しくない?」
静かな廊下に、ぽつりと小さな声が響いた。
薫「……っ!?」
薫がハッと振り返ると、そこにはスケッチブックを胸に抱えた小さな少女――天王寺璃奈が立っていた。
『璃奈ちゃんボード』を装着していない素顔の彼女は、無表情ながらも瞳は何処か不安そうに、けれど真剣な眼差しで薫を見上げていた。
薫「君は……虹ヶ咲の、天王寺璃奈か……盗み聞きとは悪趣味だな」
璃奈「盗み聞きじゃない……偶々通りかかっただけ……でも、桜庭さん、すごく寂しそうな顔をしてたから……」
薫「……余計なお世話だ。僕には僕のペースがある。君たち子供のように、群れて安心する気はない」
薫はフンと鼻を鳴らし、冷たい言葉を吐き捨てて立ち去ろうとした。
大人として、そして常に完璧を求めるアイドルとして、自分よりも遥かに若い高校生の少女に弱みを見せるわけにはいかない。
璃奈(相手は大人だし、すごく賢い人……。私みたいな子供が口を出したら、嫌がられるかも……)
璃奈の胸に、小さな怯えが走る。
薫は理知的で厳しい大人の男性だ。
自分とは住む世界も、経験してきた時間も違いすぎる。
それでも――友達思いの璃奈には、薫が自分を押し殺して孤独を選ぼうとしているようにしか見えなかった。
璃奈「待って……!」
璃奈はトントンと手早くスケッチブックをめくると、それを顔の前にパッと掲げた。
そこには手書きで可愛らしく描かれた、笑顔の表情のイラストがあった。
『璃奈ちゃんボード「にっこりん」』
薫「……なんだ、それは」
璃奈「璃奈ちゃんボード。私、表情を作るのが苦手だから……これを使って、自分の気持ちを伝えるの……今の私は、桜庭さんに笑顔になってほしい」
薫「……」
璃奈「桜庭さんは、すごくカッコよくて、プロ意識が高くて、完璧。でも……一人で全部背負おうとすると、心が痛くなっちゃうよ。天道さんも、桜庭さんのことが大切だから声をかけてたと思う……私も……桜庭さんに、みんなと一緒に笑ってほしい」
ボードの裏から聞こえる璃奈の声は、幼く、無機質ながらも、少し震えていた。
けれど、そこには誤魔化しのない、真っ直ぐで温かい思いやりが溢れていた。
感情表現が苦手だからこそ、相手の痛みに敏感で、不器用ながらも全力で心を通わせようとする小さな少女。
薫はそのボードと、その後ろから覗く真剣な瞳をじっと見つめた。胸の奥の冷たい氷が、少しずつ溶けていくような感覚に襲われる。
薫「……愚かだな」
璃奈「え……?」
薫「君自身も、感情を出すのが苦手で苦労しているんだろう。それなのに、なぜ他人……それも歳の離れた僕のことなど気にするんだ」
璃奈「だって……桜庭さんが、大切な仲間だから……ダメ、かな?」
素朴で、あまりにも純粋な問いかけ。
薫は溜め息をつき、メガネのブリッジを指で押し上げた。
その表情は、先程までの刺々しさが消え、何処か僅かに和らいでいた。
薫「……本当に、調子が狂うな。君という人間は」
薫はゆっくりと歩み寄ると、璃奈の前にかがみ込み、目線を合わせた。
大きな大人の手が、璃奈の頭の上にそっと乗せられる。
璃奈「っ……!」
薫「僕は大人だ。子供に心配される筋合いはない。だが……君のその余計な気遣いは、嫌いではないよ」
璃奈「桜庭さん……」
薫「……天道たちの誘いも、今回は受けてやるとしよう。ただし、君も一緒だ。僕にアドバイスをした責任は取ってもらう」
璃奈「……!うん!璃奈ちゃんボード『わくわく』!」
頭に乗せられた薫の手の温もりと、少し照れくさそうに微笑む薫の横顔に、璃奈の胸がキュンと甘く跳ね上がった。
璃奈(大人で、冷たいと思ってた桜庭さん……本当は、すごく優しくて温かい人……私、もっと桜庭さんの力になりたいな)
不器用な二人の心が、ボードという小さな架け橋を通じて、確かに重なり合った瞬間だった――