「 」
響き渡るカップの割れる音。
公園の一角、ベンチ前の砂の地面に、最高級茶葉で淹れたての紅茶が滲みゆく。
公務で疲労し、また親友に息抜きを強制され、晴天の公園にティーセットを構え、さて一口とカップを手に持ち、正面を向いた―――
「えいっ、ほっ、はっ!
ふぅ〜、少しは様になってきたでしょうか!!」
―――全身を黒と赤の落ち着きの無いピチピチ服に身を包ませ、同じ色の旗を威風堂々とはためかせてご機嫌に踊る友人(希望的観測)、阿慈谷ヒフミさんの姿があった。
「あ...あ...あぁ...」
旗に刻まれし校章は、その校風を表すように堂々とデカデカと刻まれている。
見間違えようもなく、ゲヘナの校章だ。
「?...あ、ナギサ様!! こんにちは!!」
それらを携え、カップの割れた音に反応したヒフミさんが駆け寄ってくる。
服が、旗が、近づいてくる。視界の殆どを占めてくる。
「だ、大丈夫ですか!?ナギサ様、お怪我は...!?」
「ひ、ヒフミさん...その...」
「とりあえず片付けますね!! えっと、手袋と袋と...」
「...その、旗は...?」
旗を指差す右手が震えているのがわかる。このような指でティーカップなんて持てるわけがない。
「旗...? あっ! これはですね!! ゲヘナの...ゲヘナの...えっと、その...!! 違うんです!!」
ヒフミさんの顔から笑顔が消えていく。
そして言いづらそうな空気。
しぼんでいく声。
泳ぐ目元。
「ご、ごめんなさいいいいいい!!!」
「ヒフミさん!! お待ち下さい!! 待って!!」
遂には走り去って行ってしまいまして。
足まで震え出した私には、追いかけることはできそうもなく。
思い浮かぶのは、最悪の想像。
―――ゲヘナって自由でいいところですよね〜!!
―――やっぱりペロ...ペロン...様よりもマコト様ですよね!! 今日もディナーのお約束を...♪
―――あはは...それなりに楽しかったですよ、トリニティでの生徒ごっこ♪
―――フレー!! フレー!! ゲヘナ♪ トリニティに負けるな、ゲヘナ♪
「はっ...!?」
口から泡が出かけたところで何とか現実に帰ってこれました。危険でした...頭の中に、ゲヘナの悪魔が...!!
「ふぅ〜...! ふぅ〜...!
一度、事実確認を...!」
未だ震える手で何とかスマホを取り出します。どなたに聞きましょうか。ミカさん? セイアさん? それよりもヒフミさんにより親しい方に...
「桐藤ナギサ...?」
突然、スマホの画面に影が差しました。
見上げれば、まさにヒフミさんに親しい方のお姿が―――
「すまない、ヒフミを見なかったか? 周囲を警戒していたら遅くなったのだが」
―――同じくゲヘナの装束に身を包んだアズサさんの姿が。
―――ヒフミ、ゲヘナは自由でいいところだな。
―――モモフレンズよりもゲヘナフレンズのほうがカッコいいな。
―――私はトリニティの裏切り者ではない。最初からゲヘナだっただけだ。
―――勝て勝てゲヘナ!! 負けるなゲヘナ!! 私の大好きなゲヘナ!!
「...きゅう〜...」
「ナギサ!?」
またもや駆け巡る存在しない記憶。
スマホが手から滑り落ち、ベンチに倒れそうなところをアズサさんの羽根に包まれるまでが、意識の限界でした。
あっ...良かった、アズサさんはまだ暖かいですね...
▲▲▲
「すみませんナギサ様!! その、あの時はナギサ様の前でゲヘナのことをお話していいものかと思ってしまって...!!」
「私からもすまない。無神経に話しかけてしまったようだ」
「いえ...お気になさらず...良かったです...」
その後、公園にド迫力の着地で現れたミネさんに救護され病院送りとなり、お見舞いに来てくれたヒフミさんとアズサさんから詳細を聞くまで、それはそれは目も当てられない表情だったとミカさんに聞き、追加で一週間の休養をいただきました。
先生...私はただ、穏やかに紅茶が飲みたいだけなんです...!!