TS転生幼魔女かえで、1ちゃい、ゆーちゅーぶch始めました   作:茨木野

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01.TS転生してユーチューバーはじめました

 エックシ(旧ツブヤイッター)に、一本の動画がアップロードされた。

 

『転生幼魔女(おさなまじょ)かえで、1ちゃい、ユーチューブch始めましたっ』

 

 サムネイルは、一歳半くらいの女の子が、カメラの前で無邪気な笑顔で立っている様子を切り取っている。

 

 転生幼魔女。なんだそれは。ただ、カメラの前の女の子が、あまりに愛らしい笑顔を浮かべているものだから、つい興味を引かれてワンクリックしてしまう。

 

『こんばんかえー♡ 幼魔女(おさなまじょ)のかえでだよぉ……っ』

 

 驚くべきことに、一歳半。まだ、舌ったらずに『まま』や『ぱんまん(※アンパ○マン)』と発音するのが精一杯の時期だろう。

 

 そんな年齢の子供が、淀みなく流暢に喋ったのである。

 

『はじめましてだよね。かえでは、かえでっていいますっ。異世界からこっちの世界に転生してきた、魔女なんですっ』

 

 突然のカミングアウト。誰もが、何を言っているんだこいつは、となったはずだ。どうせ精巧なフェイク動画だろう。

 

 一歳半の幼い女の子が、こんな風にハキハキと自己紹介できるわけがないのだ。

 そう思って画面を眺めていると。

 

『【飛翔(フライ)】っ』

 

 ぷかぷかと、かえでの小さな体がふんわりと宙に浮き出したのである。

 

 画面の向こうの視聴者たちは、思わず息を呑む。誰もが、高度な編集技術でそう見せているのだろうと、最初は疑うはずだ。

 

『これ、スマホで撮ったのそのままアップしてるんだぁ。だから……よいしょ』

 

 かえでは小さな両手でカメラを手に取ると、レンズを反転させる。そして、開け放たれたベランダから、風を切ってふわりと外へ飛び出した。

 

 眼下にはひしめき合うマンションや、小さな家屋が広がっている。米粒のような道行く人たちの姿もはっきりと見えた。

 

 カメラはそのまま、鳥のように空を飛ぶ。高性能なドローンで撮影したような、ひどくリアルで滑らかな飛行映像だ。

 やがて、カメラが再び自撮りモードへと切り替わる。

 

 どアップになったかえでの愛らしい顔と、その背後に流れる本物の街並みが映し出されていた。

 

『これでちょっと信じてもらえた?』

 

 明らかに嘘のような映像。誰もが、最新のAI生成だと疑うだろう。

 

 昨今、ユーチューブやトックティックでは、AIで精巧に作られたフェイク動画が溢れ返っている。アニメの世界に入り込んでみた、といった現実離れした映像も、AIの技術なら簡単に作れてしまうのだから。

 

 風に銀糸の髪を揺らしながら、かえでは町内をぐるりと一周して、元のベランダへと舞い戻ってきた。

 

『多分AIだと思われてるよね。うん、しょうがないね。そういうのが流行ってるんだもんね、今は。それに幼女がこんな流ちょうにしゃべってたら』

 

 かえではよいしょっとカメラを元の三脚に設置し、とてとてと歩いて最初の立ち位置に戻る。

 

『AIじゃないことを証明するのって、むずかしいのはわかってる。だから……っ。かえでのこれからの動画を通して、判断してもらえると……うれしいなっ。それじゃ、ばいばーいっ』

 

    ☆

 

 転生幼魔女、かえで。

 初投稿のその奇妙な動画は、瞬く間にエックシでバズり散らかした。

 

【転生幼魔女の動画、みた?】

【見た、てか転生で幼女で魔女って、要素もりすぎだろw】

【どーせAIでしょ】

 

【いやAIくささなくない……?】

【そう? 最近じゃAIで作った素材と、リアルな映像素材とを組み合わせて、まるで異世界に実際に来たっていう映像をアップしてる人もおるやん】

 

【こいつもどうせ40分睡眠野郎と一緒だろ? フェイクに決まってら】

【いや、フェイクでもいい。あんな可愛いんだもん。可愛いはせいぎ】

 

 主な論点は、あれがAIによる作り物なのか、それとも現実の映像なのか、という一点だ。

 

 しかし現代日本を生きる者たちが見れば、あれは巧妙な作り物だと誰もが理屈で理解できるだろう。

 

 現実の世界では、魔法なんて存在しない。空飛ぶ少女なんているわけがない。そんなファンタジーは、この世界には存在しないのだから。

 

 でも、それがもし本当だったらいいなと夢見る人たちも確かにいる。

 

 否定派と肯定派。その二者がいるからこそ激しく対立し、対立は熱を帯びた議論を生み出す。こうして『転生幼魔女』は、あっという間にネット界隈で時の有名人となったのだった。

 

    ☆

 

「おお。すげー」

 

 朝の柔らかな日差しが差し込む部屋の中。寝ている母親のスマホを小さな両手で持ちながら、かえではぽつりと呟いた。

 

 彼女がいるのは、古びたワンルームマンション。オートロックなんてもちろんない。母子二人で暮らすにしても、ひどく手狭な部屋だ。

 

 家賃の安い木造アパートにしなかったのは、赤ん坊がいるからだ。壁の薄いアパートだと隣人に赤ん坊の泣き声が響き、余計なトラブルになる可能性があった。

 

 母親は、自分のせいでかえでが周囲から心無い言葉で責められるのに耐えられなかったのだ。だから、生活費を多少無理してでも、防音性の高いマンションでの生活を選んでくれたのである。

 

「めっちゃバズってるじゃん。動画」

 

 エックシに載せた切り抜き動画がバズり、そこからリンクを踏んだ大勢の人たちが、ユーチューブのメイン動画へと怒涛の勢いで流れ込んできていた。

 

 動画の再生数はすでに一万を優に超え、そこから指数関数的に凄まじい数字を叩き出し続けている。

 

「よし、出だしは順調」

 

「んんぅ……かえかえ……ごめんねぇ……おなかすいたよねぇ……」

 

 朝だというのに、ベッドに横たわる母はひどく眠そうだ。目の下には薄く隈ができている。

 

 それも仕方ない。ついさっきまで夜勤の仕事をして、朝日と共にやっと帰ってきたばかりなのだ。それでも、寝言でかえでのことを一番に心配してくれている。

 

「大丈夫、まだお腹すいてないから、母さん」

 

「うえ? かえかえ? 今……しゃべった……?」

 

「あー……うー……」

 

 かえではとてとてと母親の枕元に近づき、ぽん、と小さな手でその頭を優しく撫でた。そして、そっと『睡眠(スリープ)』の魔法を発動させる。

 

 こわばっていた母親の表情がふっと和らぎ、すぐにスースーと安らかな寝息を立て始めた。

 

「大丈夫、母さん。俺が。ううん、わたしが頑張るから」

 

 天竜川(てんりゅうがわ)かえで、一歳半。

 性別:元・男。

 職業:元・異世界勇者。

 

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