「あっ、宮侑……ツムくん……! あの、サーブの時、一人でガサガサして本当にごめんなさい! 目障り…耳障りだったでしょう……!」
宮侑くんがサーブを打つときは、彼の合図に合わせて応援団全体がピタリと音を止めるのがお決まりだった。
そんな張り詰めた静寂の中で、ルールを知らないない私が一人だけ「ガサガサッ」と場違いな音を立ててしまっていたのだ。それも、何度も。
チア部からも「一人だけ動いてる子がいた」と注意されたばかりだった。
私の必死の謝罪に、宮侑くんが呆れたようにため息をつく。
「侑はこっちや。おいツム、また怖がられとるよー。」
「侑は俺です〜。なんや一生懸命間違って治に話しかけて…なかなかおもろい先輩やな…」
「あっ…こちらが宮侑さんですか。ごめんなさい!ごめんない…!」
私がぺこぺこと頭を下げると、その横で様子を見ていた尾白アランくんが苦笑した。
「そんな謝らんでも大丈夫やって。侑と治、すぐ見分けられる方が珍しいからな」
「アランくん…背番号あればわかるんだけどね…」
「あはは、ほな次から背番号つけて登校するわ。治、お前もな」
「嫌や。なんで俺まで巻き込まれなあかんねん」
「なんか一人動きがおかしいのがおると思ったら、あんただったんか」
心臓がドクリと跳ねる。
そこに立っていたのは、私と同じクラスの北信介くんだった。
この強豪男子バレー部の主将であり、クラスでは成績優秀で誰に対しても分け隔てなく接するミスターパーフェクト。
「書道部なのに駆り出されてきたんか。……応援、ありがとうな」
真っ直ぐに見つめられて、胸の奥がぎゅっとなる。
彼は試合に出る時間は短かったけれど、コートに入ったときのあの圧倒的な安心感は、素人の私が見てもわかるほどだった。
「ううん! 準優勝おめでとう……! 最後の試合、負けちゃったけど……悔しいかもしれないけど、おめでとうだよ!」
彼のこれまでの努力を少しでも称えたくて、私は手に持ったままだった稲荷崎カラーのポンポンを、胸の前でシャカシャカと振ってみせた。
「おん……。ありがとうな」
その声音が優しくて耳が熱くなる。
北くんは私の顔をじっと覗き込む。
「自分、声枯れてるやないか。そんなに応援してくれたんやな。……もう帰るから、早う着替えてこいや。そんなミニスカートでこんな野獣の前歩いとったら、さらわれるで」
「あはは!野獣って…! なんか北くんって、…おもしろいこと言うね!」
真面目な顔で過保護なことを言う彼がおかしくなって、緊張がふっと解ける。
「じゃあ後でね~!」と最後にもう一度だけポンポンを振って、私は逃げるように更衣室へと走り出した。