夏休みが明け、二学期が始まった。
始業式を兼ねた全校集会の体育館は、まだ蒸し暑さが残っている。
その壇上で、男子バレー部員たちはインターハイ準優勝の表彰を受けていた。
全校生徒からの割れんばかりの拍手の中、キャプテンの北くんはいつも通りの涼しい顔で凛と立ち、賞状を受け取っている。
そのすぐ後ろでは、宮兄弟がこれ見よがしに片手を挙げて歓声に応えていて、体育館のあちこちから「ツムくーん!」「サムー!」と黄色い声が上がっていた。
(……やっぱり、遠い世界の人たちだなあ)
少しだけ好きになった稲荷崎カラーのポンポンとチアのユニフォームは、もうチア部に返却してしまった。私はまた、静かな書道部員に戻ったのだ。
壇上の北くんを見上げながら、私は小さく息を吐いた。
「北くん、準優勝おめでとう!」
「最後の試合、すっごい格好良かったよ!」
集会が終わり体育館を出ると、北くんの周りにはすぐに人だかりができた。
クラスの男子だけでなく、数人の女子たちも顔を少し赤くしながら彼を褒めちぎっている。
北くんは「ありがとう…。みんなが頑張ってくれたおかげや」と、教室に向かって歩きながらいつも通り淡々と、けれど丁寧に返事をしていた。
その光景を少しうしろから見つめていると、胸の奥がなんだか、モヤモヤと小さくザワついた。
応援の時は、あんなに近くで言葉を交わしたのに。今は近づくことすら躊躇われてしまう。
教室のロッカーに着くと、次の授業の準備を始めた。
奥に引っかかってしまった歴史の教科書をやっと引っ張り出し、ロッカーをバタンと閉めた。その横で、ほとんど同じタイミングでロッカーを閉めた北くんが、ふと私を視界に捉えた。ドキリとして心臓が跳ねる。
「応援、来てくれてありがとうな。……あの場でも言うたけど、改めてお礼や」
「ううん! 応援、すっごく楽しかったよ! ぶっつけ本番でボロボロだったけど……」
私は少し照れくさくて、はは、と笑った。
「でも、男バレのみんなも、実は面白い人たちだったんだね。アランくんは去年同じクラスだったけど、二年生はみんな大きいしもっと怖い人たちかと思ってたから」
通路での賑やかな大騒ぎを思い出して言うと、北くんはほんの少しだけ口元を緩めた。
「ああ、騒がしいけど試合では頼もしい奴らや」
そこまでは、いつもの「主将としての優しい顔」だった。
けれど、北くんは一歩だけ、私の方へときゅっと距離を詰めると、少し声を潜めてこう続けた。
「……あんたの姿見て、みんな結構騒いんどるよ」
「えっ? わたし…?な、何かまた不手際が…??」
「おん。チアの服、似合っとったって。特に侑と治が、またあの先輩に応援されたい言うて、うるさいくらいや」
そう言って、北くんは私の顔をじっと覗き込んできた。
その瞳の奥にある温度が、いつもよりほんの少しだけ熱を帯びている気がして、私は思わず息を呑む。
「……まぁ、もうあんなミニスカート、あいつらの前でさせられへんけどな」「えっ……!?」
冗談のようには聞こえない、低くて独占欲の滲む声。北くんは動揺する私を見て、いつもの涼しい顔で教室へと入っていった。取り残された私は、熱を帯びてゆく顔を必死に手の甲で冷やそうとした。
予鈴のチャイムはとっくに鳴り終えた後だった。