二学期、書道部にとって年に一度のビッグイベント、文化祭が近づいてきている。
書道部は毎年恒例、大きな紙に大きな筆で文字を書く「ライブパフォーマンス」がある。基本的に週一回のお気楽部活だけど、この時期だけは打ち合わせや練習に慌ただしくなる。
クラスの文化祭実行委員にいつの間にか北くんが選ばれていた。運動部は文化祭に出し物はないからちょうど良いと笑ってた。
そのおかげで、クラスの出し物の進捗や、部活動ごとのタイムスケジュールの調整など、放課後の教室で北くんと自然に話す機会がぐっと増えていた。
「高梨さん、書道部の展示場所の件やねんけど……」
「あっ、うん。そこなんだけどね――」
夕日の差し込む教室。机を挟んで、北くんの綺麗な横顔がすぐ近くにある。
彼はいつも通り真面目に資料に目を通しているけれど、気のせいか二学期になってからよく目が合う気がする。
ふとした瞬間に、あの真っ直ぐな瞳がこちらを捉えて離さないのだ。
……気のせい? もう、心臓がうるさすぎる……!
自分の胸の鼓動が北くんに聞こえてしまうんじゃないかと、私は内心冷や冷やしていた。
チアの応援の時から、彼の前だとどうしてこんなに余裕がなくなってしまうんだろう。
北くんは資料から視線を上げると、ふっと柔らかく目を細めた。
「書道部のパフォーマンス、去年の先輩らのも凄かったけど……今年は、あんたがセンターなんか」
「うん! だから、気合い入れて準備してるんだよ」
褒められたのが嬉しくて、私は少し胸を張って笑顔を見せた。
でも、その後に続く言葉を口にするとき、少しだけ寂しさが胸をよぎる。
「……これが終わったら、部活引退だから」
三年生の私たちにとって、この文化祭が最後の晴れ舞台。
それが終われば、受験勉強に専念することになる。北くんたちバレー部も、春高が終われば引退だ。
「……そうか。これで引退か」
北くんは私の言葉を繰り返すように、小さく呟いた。
その瞳が、じっと私の顔を見つめる。
いつも冷静な彼の瞳が、ほんの少しだけ揺れたように見えた。
「全力で準備しとる人の姿は、格好ええよ。……当日、ちゃんと特等席で見とくからな」「えっ……? 見に来てくれるの?」
実行委員の仕事で忙しいはずなのに。
「……委員の仕事、ちょっと抜け出して行くわ。あんたの一番カッコいい姿、ちゃんと見たいんよ」
夕日の赤さのせいだけじゃない。
私の顔は一瞬で耳の裏まで真っ赤に染まってしまった。
北くんはクールな印象だけど、実は結構優しい。誰にでも。それなのに今の言葉だけは、少し特別に聞こえてしまった。