夏休み前まで、私は北くんとどんなふうに接していただろう。
一年生のとき、私たちは同じクラスだった。クラスでは静かな人だったけれど、練習がきついと有名なバレー部員だったから、みんなから一目置かれていた気がする。
一度、ノートを貸してほしいと言われたことがあった。それ以来、よく字を褒めてくれた。
二年生ではクラスが別で、三年生になってまた同じクラスになった。
三年になったらの北くんはバレー部のキャプテンになっていた。厳しい練習についていけず部員が減っていく中でも続け、ついにはキャプテンにまでなった努力の人。
背の高いバレー部員たちをまとめる姿は、何というか……猛獣使いのようだった。たまに廊下ですれ違うと、北くんの後ろを体の大きな男バレ部員たちがぞろぞろ付いて歩いていて、本当に引率中なのかと思ったくらい。
成績も優秀で先生たちからの信頼も厚い。騒がしいバレー部の猛獣たちの真ん中にいても、北くんだけはいつも落ち着いていて、不思議なくらい堂々としていた。
クラスでは密かに「ミスターパーフェクト」と呼ばれている。
当然、女子が放っておくはずもない。特に下級生からの人気は高かった。でも浮いた話はほとんど聞かなかった。ブラスバンド部やチア部の子たちとも話しているけれど、どれも一定の距離感を保っている印象だった。
そういえば、一学期にまたノートを貸してほしいと言われたことがある。
バレー部は公式戦や遠征で授業を休むことがあった。休んだ分をきちんと取り戻そうとするのも、いかにも北くんらしい。
ノートを返してもらったとき、また言われた。
「字、綺麗やな」「ありがと…書道部だからかな」
照れ隠しみたいにそう返した私に、北くんは少しだけ笑った。
「なるほどな。納得や」
その穏やかな声まで、不思議と今も覚えている。当時は何とも思っていなかったはずなのに。今思い返すと、その短いやり取りでさえ胸の奥がくすぐったくなる。
そして今、夏の応援以来、北くんと話す機会は少しずつ増えた。
宮兄弟から絡まれることが増えたから、自然に北くんも話に加わる。
気づけば二人で雑談を交わすようになっていた。
教室で二人きりになることだって、一度や二度ではなかった。
それなのに。
向かい側で資料をめくる横顔を見るだけで、どうしてこんなにも落ち着かなくなるんだろう。
そんな彼と教室で二人、机を挟んで向かい合っている。
文化祭の資料に視線を落としながら、彼の大きな手をのぞき見する。私はそっと熱くなってしまった耳に触れた。
自分でも知らないうちに、北くんは特別な存在になっていたのかもしれない。