歌姫の親友は、主人公機をぶっ殺したい   作:三宅繭

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その一撃で失うのは、装甲か。エナジーか。

魔石を炉心に、刻印を制御回路に。

全ての機動が、全ての被弾が、次の一手を左右する。

機体構築型ハイスピード魔導機アクション『RUNE FRAME』。

共和国に雇われた外部傭兵となり、帝国の英雄たちが立ちはだかる戦場を駆け抜けろ。

2028年12月発売予定。


前編

序章 序盤でぶっ殺し大作戦

 

Q.ゲームの悪役、悪の帝国に生まれて、ロボットに乗って好き勝手やってたらラスボスと親友になりました。あなたがすべきことは何ですか?

 

A.主人公を序盤でぶっ殺せ!!!

 

当然である。

 

『RUNE FRAME』。

 

前世で私がそれはもう、馬鹿みたいに遊び倒したロボットアクションゲームだ。

 

魔石を炉心に、刻印を制御回路に用いた人型兵器、魔導鎧《ルーンフレーム》。その機体を組み立て、戦場を飛び回り、帝国の英雄たちを片っ端から叩き落とす。

 

傑作だった。人生であれほど夢中になったゲームはない。最高難度を制覇し、あらゆる機体構成を試し、被弾なしのボス攻略にも挑戦した。

 

そして私は今、その世界にいる。残念ながら共和国ではなく、帝国に生まれた。しかも貴族である。

 

共和制に対する不当な侵略、横暴な貴族政治、腐敗した宮廷。知れば知るほど、ゲームで悪役を務めていた理由がよく分かる。革命でも何でも起こされてしまえ、と言いたいところだが、困ったことに私はこの国で相当楽しく暮らしていた。

 

なにしろ魔導鎧が実在する。

 

操作盤を握れば本当に動く。ブーストを吹かせば本当に飛ぶ。魔石炉が唸りを上げ、刻印が青白く輝く。画面の向こうで眺めていたものが、こちらでは全部本物なのだ。おまけに私は、操縦の天才だった。

 

いや、自分で言うのも何だが本当に。

 

帝国最精鋭の北方艦隊で、皇国のエースどもを散々に叩き落とした。勲章も貰った。報酬もたんまり稼いだ。

 

そして何より。

 

「あなた、さっきから何を笑っているの?」

 

目の前の女が、ゲームのラスボスである。

 

銀髪を後ろで束ね、白い軍服の上に北方艦隊司令官の肩章を付けている。涼しげな青い瞳も、背筋をまっすぐ伸ばして書類をめくる仕草も、ゲームの立ち絵にそっくりだ。ただし、その立ち絵が机に置いた茶器をわざわざ私の方へ寄せてくれることまでは、ゲームには載っていなかった。

 

帝国最後にして最大の英雄、歌姫【DIVA】。本名はイリス・ヴァルデン。そして、私の親友だ。

 

「いやあ、人生って素晴らしいなと思って」

 

「あなたがそう言うとき、大抵ろくなことを考えていませんね」

 

「失礼な。善良な傭兵に向かって」

 

「善良な人間は、わざわざ善良だと名乗りません」

 

そう言って、イリスは私の机から書類を一枚抜き取った。

 

「……南方方面軍への臨時派遣願?」

 

しまった。

 

「あなた、何を考えているんですか」

 

「出稼ぎ」

 

「北方での報酬はどうしました」

 

「使った」

 

「先月、半分以上は貯蓄に回すと」

 

「人生って色々あるよね」

 

イリスは私の机に散らばった部品の請求書を一枚つまみ上げ、数字を見てから眉間を押さえた。艦隊全体の予算を扱う司令官なのに、私個人の金遣いとなると妙に細かい。いつもの説教が始まる前に、私は話題を変えることにした。

 

「南方の共和国軍に、妙に腕の立つ傭兵が現れたんだって?」

 

「ええ。鉄槍【LANCE】を討ち取ったと聞いています」

 

「興味あるなあ。ちょっと腕試しに」

 

「私の艦隊にいるだけでは不満ですか?」

 

「まさか。北方艦隊は最高の職場だよ。飯はうまいし、給料はいいし、司令官は美人だし」

 

「最後の一つは評価してあげます」

 

「ただ、その司令官が私の腕を独占するのも、帝国全体から見れば損失というか」

 

「却下します」

 

イリスは私の顔を見もせず、書類の端へ指を置いた。退却命令を出すときもこんな調子だったから、相手が傭兵でも一個艦隊でも変わらないらしい。

 

「まだ何も言ってない!」

 

「言いました」

 

だが、私にも事情がある。その共和国の傭兵というのが、ほかならぬ『RUNE FRAME』の主人公なのだ。ゲーム中では本名も素顔も明かされない。プレイヤーの分身だから当然である。したがって、共和国に雇われる前に探し出して始末するという、最も簡単な方法は取れなかった。しかし今や、主人公機は共和国軍に出現している。

 

第1章に相当する国境戦で、帝国の鉄槍【LANCE】ことオスカー・ヴァイセンを撃破した。あの将軍を倒したのだから、相当な腕前には違いない。

 

それでも、今ならまだ弱い。魔石炉も装甲も安物。武装も初期装備に毛が生えた程度。共和国の支援を受け始めたばかりで、潤沢な改造予算もない。一方こちらは、前世でゲームを極め、今世では皇国のエースを何人も墜とした歴戦の傭兵。負ける要素がない。

 

序盤で始末すれば、帝国の英雄たちはその後も生き延びるだろう。共和国には悪いが、帝国との戦争は別の形になるはずだ。

 

そして何より、イリスが死なずに済む。

 

だから殺す。

 

主人公には何の恨みもないが、悪く思わないでほしい。悪の帝国に私が生まれたのが、主人公の運の尽きだったのだ。

 

「……聞いていますか?」

 

「もちろん。帝国への忠誠を胸に、南方の危機を救うべく出撃いたします!」

 

「今さら軍人のふりをしないでください。あなた、私の部下ですらないでしょう」

 

「契約書の上ではね」

 

「まったく……」

 

イリスは書類を机へ戻した。

 

「北方艦隊との専属契約を一時変更する必要があります。南方軍の受け入れ先も探さなければなりません」

 

「そこは司令官殿の権限でひとつ」

 

「便利に使わないでください」

 

「いつも感謝してるよ?」

 

「言葉だけならいくらでも」

 

イリスは書類をもう一度読み、署名欄を指でなぞってから椅子にもたれた。私が北方の船団護衛契約を受けている限り、彼女には私を拘束する理由がある。けれど契約が切れれば、傭兵は行きたい戦場へ行く。それを分かっているから、嫌な顔をしつつも抜け道を考えてくれるのだろう。

 

やがて、彼女は諦めたように口を開いた。

 

「仮に許可するとしても、あなたの愛機は持っていけませんよ」

 

「……えっ」

 

「《ヴェスペル》は現在、北方艦隊の即応戦力に組み込まれています。機体だけでなく専任の整備班も必要ですし、南方への移送を認めるわけにはいきません」

 

私は少し考えた。

 

《ヴェスペル》は確かに惜しい。北方戦役で散々世話になった、私の最高傑作だ。だが、相手はまだ序盤の機体にまちがいない。

 

「まあ、量産機でも借りるよ。ちょっと顔を出して、片付けて、帰ってくるだけだし」

 

そこでイリスは、とうとう本気で嫌そうな顔をした。

 

「……本気で言っているんですか?」

 

「もちろん」

 

「常日頃からあれだけ装備にこだわっていたあなたが?」

 

「北方の連中とは事情が違うって」

 

イリスは私の顔をじっと見た。北方の戦況を報告する参謀には向けない、親しい人間の嘘を見抜くときの目だ。私は茶杯を持ち上げ、わざと呑気な顔で笑ってみせた。

 

「お土産、何がいい?」

 

「あなたの無事な帰還です」

 

「重たいなあ」

 

「では、南方の焼き菓子を」

 

「了解。山ほど買ってくる」

 

結局、派遣許可は下りた。書類に署名するイリスの手元を眺めながら、私は大人しく礼を言う。条件の細かな確認まで聞き終えてから退室したのは、さすがにこれ以上、彼女を心配させたくなかったからだ。

 

まったく、持つべきものは権限を持った親友である。

 

*

 

三週間後。

 

帝国南方、工業都市ヴァルツ郊外。

 

貸与された量産型魔導鎧《ケストレル》の操縦席は、私の身体に合わせて作られた《ヴェスペル》よりも狭かった。肩を一度回して拘束具の位置を直し、操縦桿の重さを確かめる。安物だの量産機だのと悪口を言うつもりはない。兵器に必要なのは、決められた仕事を確実にこなすことだ。

 

標準型魔石炉、帝国軍制式ライフル、短剣、肩部誘導弾。整備記録も正常で、初期化した制御刻印に変な癖はない。強いて言えば、全部が普通だった。《ヴェスペル》なら三割は速く動けるし、EN回復にも余裕がある。だが、序盤の主人公機を相手にそこまでしては、こちらの装備が豪華すぎるではないか。

 

私はイリスが歌唱試験でよく口ずさむ一節を鼻歌にしながら、点検画面を呼び出した。

 

炉心出力、正常。

 

防御刻印、正常。

 

予備魔石、二個。

 

「……二個かあ」

 

まあ、量産機ならこんなものだろう。魔石炉が生み出すエナジー、通称ENは、ブーストにも武装にも使う。もちろん被弾時の防御刻印にも必要で、どれほど装甲が厚かろうと、ENを使い切ればまともな防御も機動もできなくなる。だからこそ、予備魔石がある。炉心とは別に持ち込む小型の魔石で、緊急時には刻印回路へ接続し、ENを一気に補充できる。刻印破断からの復帰にも使える便利な代物だが、使い捨てで、装填数も限られている。

 

『RUNE FRAME』では、こいつの使いどころを覚えてからが本番だった。ただし、予備魔石を投入する瞬間には制御が一拍遅れる。その隙を狙われれば、回復したENごと叩き潰されかねない。私は二個の予備魔石を確認し、画面を閉じた。予備魔石の装填口は座席の左下にあり、緊急投入用の操作は指一本で届く。訓練で何度も使った配置だし、万一の場合の手順も身体に染みついている。

 

もっとも、今回は使わないだろう。

 

序盤の主人公機を相手に、そこまで追い詰められたらびっくりだ。廃工場の壁に機体の背中を預け、戦術画面を確認する。共和国軍は既に帝国の工業地区を制圧しつつあり、撤退する友軍は橋を渡って東の輸送路へ向かっていた。こちらの契約目標は、撤退部隊の援護。

 

ついでに、共和国の厄介な傭兵を一人殺す。完璧な計画だ。

 

警戒線に反応が走った。頭上を越えた風が、砕けた工場の屋根から錆びた鉄片を落としていく。私は反射的に視線を上げた。

 

瓦礫の向こうから現れたのは、一機の魔導鎧だった。中量二脚に共和国制式の装甲。右手にライフル、左腕には小型の防護装置。装備は見慣れた初期構成で、わざわざ照合するまでもない。

 

ゲームで何百、何千回と見た、あの機体の輪郭だった。

 

来た。

 

来てしまった。

 

心臓が跳ねる。

 

怖いからではない。ようやくこの瞬間が来たのだ。

 

私は操縦桿を握り直し、外部通信を開いた。

 

「やあ。君が噂の共和国の傭兵?」

 

返答はない。

 

まあ、そうだろう。ゲーム中でも主人公機は寡黙だった。

 

「いやあ、助かるよ。こっちも仕事でね。悪いけど、少し付き合ってもらえるかな」

 

敵のライフルが持ち上がった。

 

よろしい。こちらも付き合おう。

 

ただし。

 

主人公をぶっ殺す、なんて息巻いてみろ。主人公に殺意マシマシの謎の敵、そんなゲームにあるような展開にしてみせるか。軽口だ。軽口で油断させるんだ。笑顔の裏で剣を握って、確実にぶっ殺す。

 

私はライフルを構えた。

 

「それじゃ、始めようか」

 

初弾。

 

敵は右へ跳んだ。

 

知っている。

 

この距離なら、主人公機の初期ブースターは右方向への加速がわずかに遅い。

 

二発目を、その着地点へ置く。

 

命中。

 

防御刻印が青く発光した。

 

敵の装甲は大して削れていない。だがENは減ったはずだ。

 

三発目、四発目。

 

相手は後退しながら防御する。

 

私は遮蔽物の角を蹴り、低空ブーストで左側へ回り込んだ。着地の直前、短い逆噴射を挟む。慣性を殺し、照準だけを先に向ける。

 

誘導弾を発射。

 

敵が回避したところへ、さらにライフルを撃ち込む。

 

当たる。当たる。

 

いける。

 

相手のEN残量を推定する。こちらが七割、向こうは半分以下だろう。

 

このまま防御を強いれば、装甲を削るより先に刻印破断まで追い込める。

 

やはり序盤で正解だった。

 

敵が建屋の裏へ逃げた。

 

私は追わない。

 

出口は二つ。どちらへ出ても射線が通る位置を確保し、肩部誘導弾を再装填する。

 

三秒。

 

四秒。

 

来た。

 

右の出口。

 

予測どおり。

 

私はライフルを撃った。

 

外れた。

 

……あれ?

 

敵は建屋から飛び出した直後、ブーストを止めていた。

 

通常なら慣性で流れる機体が、壁の残骸を蹴って急停止する。

 

続く誘導弾も、空になった倉庫の壁へ吸い込まれた。

 

「……へえ」

 

ちょっと面白い。

 

私は機体を回し、次の射撃を用意した。

 

敵は再び接近してくる。

 

今度はブーストを小刻みに吹かしている。こちらのライフル発射間隔を測っているらしい。

 

私はわざと一拍遅らせて撃った。

 

それも避けられた。

 

おい。

 

次弾を撃つ。

 

今度は敵が防御した。

 

ENを削れた。問題ない。

 

だが、敵の接近は止まらない。

 

敵が防御刻印を立ち上げるタイミングと、ブーストを吹かす長さが、射撃を重ねるたびに変わっていた。最初のうちは横へ大きく飛び、着地してから照準を合わせ直していたのに、今では弾の軌道から半歩だけずれ、こちらの照準が追いつく前に次の姿勢へ移る。

 

こちらのENが減っていく間も、奴の魔石炉は回復を続けている。初めは当てられた防御射撃が、いつの間にか私の行動を制限するための道具に変わっていた。

 

その変化に気づいたときには、既に距離が詰まっていた。

 

百二十。

 

九十。

 

六十。

 

私は短剣を引き抜いた。

 

この距離ならこちらが先に届く。敵はライフルを構えている。切り替えには一瞬かかる。

 

私は踏み込んだ。

 

その瞬間、敵がライフルを捨てた。

 

「は?」

 

敵機の左肩が沈む。

 

ブーストではない。

 

足首と膝関節だけを使って、機体をこちらの突進から半歩ずらした。

 

短剣が肩部装甲をかすめる。

 

直後、敵の腕部に装備された小型ブレードが、こちらの脇腹へ突き刺さった。

 

警報。

 

防御刻印作動。

 

EN急減。

 

嘘だろ。

 

私は逆噴射で距離を取ろうとした。ところが、身体が座席に押し戻された直後、敵がこちらと同じ分だけ踏み込んでくる。操縦桿を倒しても、視界の中央からあの機体が消えない。

 

相手も同時に前進する。

 

それでは追いつかれる。

 

右へ急旋回。

 

敵も来る。

 

ならば上へ。

 

ブーストに必要なENは――

 

『警告。刻印駆動残量、危険域』

 

何でだよ!

 

私は機体を工場の外壁へ叩きつけるように着地させ、無理やり銃口を向けた。

 

敵の機体が視界に入る。

 

左腕がこちらを向いた。

 

防護装置だと思っていたそれが、一瞬だけ開く。

 

近距離用の小型射出機構。

 

そんなの、初期装備に付いてたっけ。

 

発射。

 

衝撃。

 

視界が白く染まった。

 

『刻印破断。主制御系統、緊急停止』

 

「あっ、まず――」

 

次の瞬間、操縦席の周囲で爆発が起こった。

 

自動脱出装置が作動する。私は砕けた天蓋ごと上空へ射出され、三秒遅れて開いた減速膜に包まれた。

 

眼下で、ケストレルが崩れ落ちる。

 

共和国の魔導鎧は、もうこちらを見ていなかった。

 

任務目標の工業地区へ向かって、何事もなかったように走り去っていく。

 

私は減速膜の内側で、しばらく宙ぶらりんになっていた。安全装置の作動音だけが妙に大きい。さっきまで握っていた操縦桿はもうなく、膝の上には使いもしなかった作戦図が折れ曲がっていた。

 

点検した予備魔石は、二個とも機体に残っている。

 

使う暇すらなかった。

 

……。

 

…………。

 

量産機じゃ流石に無理でした。……って、それで納得してたまるか。何だよ、あれ。

 

戦闘中に進化すんなや。

 

第一章 北方の勝ち組

 

「それで、量産機を一機潰して帰ってきたと」

 

イリスは私の診断書を眺めながら言った。

 

「潰したのは共和国の傭兵だよ」

 

「あなたが持っていった機体でしょう」

 

「貸与品だから、私の所有物じゃない」

 

「経理部にはそう説明してあげなさい」

 

北方艦隊旗艦《グラン・セレーネ》の医務室で、私は毛布を膝まで引き上げていた。右肩の打撲に左手首の捻挫、全身の擦過傷。派手に吹き飛ばされた割には軽傷で済んだので、減速膜と衝撃緩和刻印の設計者には一生足を向けて寝られない。

 

とはいえ、薬を塗られた肩はまだ熱を持っているし、身体を起こすたび首の付け根が鈍く痛んだ。枕元の水差しへ手を伸ばすだけでも顔が歪むので、イリスには平気なふりが通用しそうにない。

 

イリスは診断書を返し、椅子を寝台へ寄せた。

 

「本当に、何をしに行ったんですか」

 

「強い奴と戦いに」

 

「負けたではありませんか」

 

「勝てる相手としか戦わないなら、強くなれないでしょ」

 

「そう言うと思いました」

 

イリスは紙袋を一つ、私の膝へ置いた。荷札には南方の菓子店の名前があり、その隅に艦隊の補給印が押されている。私が買い損ねた土産を、律儀に取り寄せたらしい。

 

「……あれ?」

 

「あなたが買ってこないと思ったので、補給担当に取り寄せさせました」

 

「イリス」

 

「何です」

 

「結婚しよう」

 

「お断りします」

 

即答だった。ひどい女だ。

 

「それに、私のことをそんなふうに持ち上げても、次の派遣許可は出しませんからね」

 

「ちぇっ」

 

「反省すること」

 

イリスは最後に私の額を指で弾くと、診断書を抱えて医務室を出ていった。扉が閉まるのを見届けてから、私は紙袋へ手を伸ばした。包み紙を剥がすと、砂糖をまぶした小さな焼きタルトが顔を出す。かじった端から生地がぽろぽろと崩れ、毛布の上に白い粉が散ってしまった。

 

……うん。うまい。

 

イリスはこういうところがある。別に世話焼きというわけではない。自分の部下には厳しいし、艦隊司令官として無理な命令も出す。それでも昔から、私がつまらない失敗をしたときに限って、何か食べ物を持ってくる。今だって、肩の具合を確かめるついでに説教して帰ればいいものを、わざわざ南方の菓子まで手配している。そういう気遣いを指摘すると、決まって嫌そうな顔をするので、私も黙っていただくことにしていた。

 

このあまりにもいじらしい女と出会ったのは、もう何年も前のことだった。タルトの砂糖を指先から払ったところで、私は初めて彼女と顔を合わせた日のことを思い出した。

 

*

 

生まれ変わったと気づいたのは、七歳のときである。帝国の地方貴族、クラウゼン家の次女。

 

名前はエルザ。

 

父は帝国軍の退役士官、母は屋敷の経営に口うるさい実務家。兄が家を継ぐ予定だったため、私には比較的自由な将来が用意されていた。前世の記憶は幼い頃からあった。ただ、ここが『RUNE FRAME』の世界だと確信したのは、父の書斎にあった魔導機械の図面を見たときだ。

 

魔石炉。

 

刻印回路。

 

そして、人型の軍用機械。

 

「……ルーンフレーム?」

 

その図面に、思わず指を伸ばした。

 

父は驚いていた。

 

「エルザ、お前はこの字が読めるのか?」

 

読めるも何も。前世では、その組み合わせだけで何百時間も遊んだ。図面の端に小さく書かれた炉心の符号を見れば、制御系統の用途までおおよそ分かる。父は感心していたけれど、私にとっては見慣れたメニュー画面が紙になったようなものだった。

 

翌年、私は父の伝手で帝国軍の演習場に連れていってもらい、生まれて初めて実物の魔導鎧を見た。全高八メートルほどの、無骨な二脚機。厚い装甲板の継ぎ目から鈍い青色の刻印が覗き、背面の魔石炉には何本もの冷却管が巻かれている。整備兵が工具で外装を叩くたび、私の胸ほどの高さまである脚部から重い音が返ってきた。

 

美しかった。

 

いや、本当に。

 

前世ではゲーム画面に映る機体を眺めて、コントローラーを握っていただけだった。それが今、目の前に立っている。

 

「触ってもいい?」

 

「駄目だ」

 

「ちょっとだけ」

 

「駄目だ」

 

「足首だけでも」

 

「駄目だと言っているだろう」

 

父に引きずられて帰った。

 

初めて操縦席に座れたのは、十二歳のとき。貴族家の子弟向けに開放された訓練機だった。私は意気揚々と起動手順を済ませ、教官の指示を待たずにブーストを吹かした。

 

結果、五秒で壁に激突した。

 

……思っていたのと違った。

 

画面越しなら、機体が急停止しても自分の身体は動かない。現実では違う。加速すれば身体が座席に押しつけられる。旋回すれば内臓が引っ張られる。魔石炉の出力を上げすぎると、背中の奥から骨まで震えるような振動が伝わってくる。しかも刻印の制御には、指先の操作だけでなく、操縦者自身の魔力感応が必要だった。私の知っているゲーム操作とは、まるで違う。だが、魔導鎧の原理は同じだ。

 

どうすればENを節約できるか。

 

どの瞬間にブーストを切れば慣性を利用できるか。

 

被弾で防御刻印が働いた後、魔石炉の出力が安定するまでどれほどかかるか。

 

そういったことなら、私は知っていた。知識を実際の操作に落とし込むまで、何度も転び、ぶつかり、吐いた。教官に怒鳴られ、父に呆れられ、母には訓練服を何着破るつもりかと叱られた。脚部の接地を早く覚えたくて、雨上がりの訓練場でわざと滑りやすい場所へ踏み込んだこともある。教官には大目玉を食らったが、三度目には転ばずに済んだ。

 

画面でボタンを押していた頃には知らなかった手応えが、少しずつ身体に残るようになった。それが楽しくて、訓練の予約表に空きがあれば片っ端から自分の名前を書き込んだ。十八になる頃には教官の魔導鎧に一対一で勝てるようになり、二十歳で北方艦隊の傭兵募集に応募した。

 

父は仕官を勧めたが、断った。軍人になれば、階級も命令系統もある。装備の自由にも制限がかかる。その点、傭兵はいい。仕事を選べるし、金も稼げる。何より、自分の機体を好きなように組める。これ以上の職業があるだろうか。母からは「クラウゼン家の娘が傭兵など」と散々言われたので、私は実家の名前を伏せて契約した。

 

もちろん、貴族の家名にはそれなりの使い道がある。軍の購買部門との交渉とか、特殊な部品の入手とか。清廉潔白な家名の使い方とは言えないが、そこはまあ、帝国貴族ということで。傭兵としての識別符号を決める際にも、家名を使うつもりはなかった。そこで戦場用の全面遮蔽式ヘルメットを選び、素顔を隠して戦うことにしたのだが、いつの間にか兵士たちは私を鉄仮面【FULLFACE】と呼ぶようになった。

 

もう少し格好いい名前をつけてほしかった。せめて何か、鋭い鳥の名前とか。けれど識別符号の変更は面倒だったし、艦隊内ではすっかり定着してしまっていた。

 

まあ、いい。

 

名前より腕前で覚えてもらえばいいのだ。

 

*

 

北方皇国の魔導騎士は強かった。魔石の品質がよく、刻印技術も優秀。何より、寒冷地での長期戦闘に熟練していた。一方で、彼らは魔導鎧を騎士の延長として扱う傾向が強かった。整然とした隊形。正面からの突撃。装甲と防御刻印を信頼した、堂々たる戦法。強い。実際、正面からぶつかれば大抵の帝国兵は負ける。

 

だから私は、正面からぶつからなかった。

 

敵の重装機が接近してきたら、距離を保って旋回する。砲撃を受ける直前に短くブーストを切り、着弾位置をずらす。防護刻印が作動したら、その回復が終わる前にもう一発叩き込む。敵のENが尽きたら、機体の背後へ回り込んで魔石炉の接続部を撃ち抜く。

 

面白いように勝てた。もちろん、最初からすべてが上手くいったわけではない。

 

雪原での初陣では、敵の重装機を追い詰めたつもりが、凍った地面に脚を取られて転倒しかけた。脚部の接地警報が鳴るより早く、操縦席が横へ傾く。皇国騎士はその隙を逃さず、こちらの頭上から大剣を振り下ろしてきた。

 

私は機体を転がすように横へ倒し、辛うじて回避した。敵の刃が雪を砕き、凍土を深く抉る。砕けた氷が外部装甲を叩く音を聞きながらライフルを撃ち込んだが、皇国騎士は分厚い盾を上げて受け止めた。

 

防御刻印が作動する。その瞬間、盾の裏側で青白い光が走るのが見えた。ああ、なるほど。こいつらは装甲が厚いだけじゃない。魔石炉の出力も、防御へ相当量を割り振っている。

 

だったら、そこを削ればいい。

 

私は距離を取り、敵の攻撃を避けながら射撃を重ねた。敵が盾を構えるたび、ENが消費される。防御に余裕がなくなったところで脚部へ突進し、姿勢を崩した機体の背面へ回り込む。敵の魔石炉を撃ち抜いたときには、こちらのENもほとんど残っていなかった。危ないところだった。

 

だが、面白かった。

 

それから私は、皇国騎士の刻印構成を研究するようになった。戦利品の装甲から回路を調べ、敵の防御が得意な距離と、苦手な方向を少しずつ覚えた。ゲームで皇国騎士と戦うことはなかったから、それはもう入念に。

 

二度目の戦闘では、同じ構成の敵を半分の時間で撃破した。三度目には、ほとんど被弾しなくなっていた。やがて皇国側にも、妙な戦い方をする帝国の傭兵がいると知られるようになった。正面からの勝負を避け、EN切れを狙い、相手の得意な武装を使わせない。騎士らしくない戦法だと、随分嫌われたらしい。

 

結構なことだ。必勝メタを騎士道で縛ってくれるなら、こちらとしてはありがたい限りである。だが、北方戦役で私の名前を一躍有名にしたのは、戦いの上手さそのものではなかった。

 

皇国第二近衛騎士団との戦闘。あの日、私は初めてイリスと同じ戦場に立った。皇国軍の精鋭十四機が、帝国軍の輸送船団へ襲いかかっていた。護衛部隊は既に壊滅寸前。私が到着したときには、三隻の輸送艦が火を噴いていた。そしてその上空で、無数の光点が旋回していた。

 

歌声が聞こえた。艦隊共通回線を通して、女の声が響いている。

 

高く、澄んだ声。

 

けれど、その歌に合わせて動く無数の魔導端末《ピット》は、まったく可愛らしくない。

 

一機の皇国騎士が、光の輪に取り囲まれた。歌が一節進む。四方から光条が走り、騎士の防御刻印を同時に叩いた。そのまま魔石炉が破裂する。

 

うわあ。

 

ラスボスだ。

 

『RUNE FRAME』の最終決戦で散々苦しめられた、あの攻撃そのものだった。

 

歌姫【DIVA】。

 

ゲーム中で帝国最後にして最大の英雄と呼ばれる女。私はそのとき初めて、彼女の戦いを味方側から見た。率直に言って、笑ってしまうほど強かった。ただし万能ではない。歌唱による多重刻印制御は、制御対象が増えるほど操縦者の負荷も増す。しかも敵に肉薄されれば、本体の防御まで手が回らなくなる。皇国の騎士たちは、それを理解していた。

 

三機が散開し、彼女の魔導鎧へ一直線に突撃する。私はブーストを吹かした。

 

一機目の進路にライフル弾を撃ち込む。

 

敵が盾で受ける。

 

その瞬間、盾を保持していた腕部のEN消費が増えた。

 

私はさらに二発撃ち、相手の加速を鈍らせる。二機目がこちらへ向かってきたので、すれ違いざまに脚部を切りつけた。

 

三機目は――

 

「DIVA、右へ避けて!」

 

私は通信で叫んだ。歌姫の機体が右へ跳んだ。

 

そのすぐ横を皇国騎士の槍が突き抜ける。

 

私は槍を持つ腕に照準を合わせ、引き金を引いた。

 

命中。

 

敵の機体がよろめく。

 

そこへ、歌姫のピットが五機、同時に殺到した。

 

爆発。

 

一拍遅れて、彼女から通信が入った。

 

『あなた、誰の指揮下ですか?』

 

「傭兵、FULLFACE。今は船団護衛の契約中」

 

『では、私の前に出ないでください。射線が塞がります』

 

「助けてもらった人の言い草か、それ」

 

『助けていただいたことには感謝します。ですが、私の射撃を邪魔するなら別です』

 

あ。こいつ、思っていたよりずっと性格が悪い。

 

私は笑った。

 

「じゃあ、邪魔にならないように手伝うよ。次の連中、右へ追い込めばいい?」

 

わずかな沈黙。

 

『……できますか?』

 

「やってみる」

 

『右三十度。高度を二百落としてください。私が逃げ道を塞ぎます』

 

「了解、DIVA」

 

『それから、勝手に私の識別符号を使わないでください。まだ正式登録前です』

 

「えー、似合ってるのに」

 

『FULLFACE!』

 

私は聞いていなかった。敵の重装機二機へ向かって、全力でブーストを吹かしていたからだ。右の敵へライフルを連射する。

 

盾が上がったところで射撃を止め、敵に向かって一気に接近した。皇国騎士は反撃しようと槍を構えるが、私はその一歩手前で急制動をかける。

 

敵の槍が空を切った。

 

その背後に、ピットが三機。

 

歌の拍子に合わせて光条が走り、防御刻印を叩く。

 

敵は左へ逃げようとしたが、そこには既に私がいる。ライフルを向けられて進路を変えた瞬間、今度は右側からピットの射撃を浴びた。

 

「いいね!」

 

私は思わず声を上げた。

 

相手に回避を強制する。

 

その回避先を、もう一人が塞ぐ。

 

単純な話だ。

 

しかし、それをやるには二人の呼吸が合っていなければならない。私が撃つべきところで撃たなければ、敵は包囲を抜ける。歌姫のピットが半拍遅れれば、私の機体が逆に孤立する。にもかかわらず、なぜか上手くいった。初めて組んだ相手とは思えないほど、こちらの狙いを汲み取ってくれる。私も、彼女の歌唱に合わせて機体を動かせた。

 

最後の一機が爆発したとき、私は操縦席の中で笑っていた。

 

『FULLFACE。今の誘導、見事でした』

 

「そっちこそ。なかなかやるじゃん」

 

『なかなか、ですか?』

 

「褒めてるんだって」

 

『そうは聞こえませんが』

 

「気のせい気のせい」

 

通信の向こうで、彼女が何か言い返した。私はその声を聞きながら、久しぶりに本気で楽しい戦闘だったと思っていた。

 

*

 

共同戦闘が終わると、彼女は私の操縦技術を褒めた。正確には、褒めてから説教した。

 

作戦室にはまだ戦闘終了直後の慌ただしさが残っていた。通信兵が撃墜記録を整理し、負傷者の搬送先を尋ねる声が廊下から届く。そんな中で歌姫は私を椅子へ座らせ、報告書に目を通すなり、眉をきりりと吊り上げた。

 

「技量は認めます。ですが、あなたは命令系統を無視しすぎです」

 

「傭兵だからね」

 

「それで済むと思っているんですか?」

 

「契約は達成したよ。輸送船も守ったし、敵も撃破した」

 

「そういう話ではなくて」

 

「ねえ、それよりさ」

 

「まだ話は終わっていません」

 

「歌ってるとき、最後の一小節だけ拍子がずれるの、わざと?」

 

イリスは口を閉じた。

 

「……何ですって?」

 

「制御対象が切り替わるとき。あそこだけちょっと遅れるでしょ。もっと早くできないの?」

 

顔色が変わった。怒ったのかと思った。だが、彼女は椅子を引き寄せ、私の隣へ座った。

 

「あなた、あの刻印の切り替えが見えたんですか?」

 

「そりゃ、まあ」

 

「どうやって?」

 

「どうやってって……」

 

ゲームで死ぬほど見たから。とは言えない。私は机上の空のカップを引き寄せ、指先で三つ並べた。

 

「こいつらが同じ魔石炉を使ってるとして、一機目から三機目まで順番に出力を渡すと、最後の奴が動き始めるまで待ち時間があるでしょ」

 

「ええ」

 

「だから二機目が撃つ前に、三機目へ少し流しておけばいい。ほら、ここ」

 

私は三つ目のカップを指先でずらした。イリスはまだ怒っているのか、唇を結んだままその動きを見ていたが、次の瞬間には私の手首を押さえて位置を戻し、机の引き出しから紙を取り出していた。

 

そのあとが長かった。紙の余白は細かな式で埋まり、空のカップは邪魔だと端へ追いやられ、私は途中から相槌しか打っていない。夕食の時間を告げる鐘が鳴っても、彼女は一度も顔を上げなかった。腹が減った私は、席を立つときにだけ声をかけて食堂へ向かった。

 

翌日、イリスは私を探し出すなり言った。

 

「昨日の案、使えました」

 

「よかったね」

 

「ですが、実際の制御では共鳴の遅延が問題になります。そこをどう解決するつもりですか?」

 

「えっ。そこはそっちが考えるところじゃない?」

 

「あなた……!」

 

机の上には徹夜で書き上げたらしい計算用紙が積まれ、前夜と同じカップが冷めた茶で汚れていた。イリスの目の下には薄い隈ができ、いつもきっちり留めている制服の襟も少し曲がっている。本人はそんなことに気づかず、紙の端を押さえて私が覗き込むのを待っていた。

 

「……寝た?」

 

「問題ありません」

 

「いや、絶対問題ある顔してるけど」

 

「昨夜の制御試験では、切り替え時間を四分の三まで短縮できました」

 

「へえ、すごいじゃん」

 

「ただ、あなたの言うところの『もっと早く』には届きませんでしたので」

 

「いや、あれは適当に言っただけで」

 

「ですから、今から再試験を」

 

「寝ろ!」

 

後に帝国最大の英雄となる女は、この頃からとんでもなく負けず嫌いだった。

 

*

 

イリスと仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。彼女は艦隊司令部の期待を一身に背負う天才で、私は気楽な外部傭兵。階級はおろか食堂の席も違ったが、魔導鎧の話を始めれば、夜中に誰かが灯りを消しに来るまで付き合えた。

 

私が刻印回路の無駄を指摘すると、イリスはその場で計算を始める。彼女が新しい歌唱制御を完成させると、私は真っ先に試験運用へ駆り出された。そんな付き合いが続いたある朝、調整中のピットに背後から制服の襟をつままれ、艦隊の食堂まで運ばれたことがある。原因は試験運用をすっぽかして寝坊した私への仕返しで、廊下ですれ違った兵士が驚いて敬礼するのが、腹立たしいことに一番恥ずかしかった。

 

「人間を荷物みたいに運ぶな!」

 

「定刻に集合すればよかったのでは?」

 

「お前のピットは軍用兵器だろ!」

 

「ええ。だから、あなたのような厄介な傭兵を輸送するには便利でしょう」

 

食堂の兵士たちは大笑いしていた。私を吊るしていたピットが律儀に床へ降ろすと、イリスは何食わぬ顔で向かいの席へ座って朝食を始める。私の分のパンまで取ってきていたので、怒鳴り続けるわけにもいかなかった。

 

腹いせに、その夜はイリスの端末へ勝手に朝五時の警報を設定してやった。

 

翌朝、私の部屋の前には六機のピットが待っていた。

 

仲良くなったのだと思う。たぶん。北方戦役が終盤に差しかかる頃には、艦隊の誰もが私たちをひとまとめに扱っていた。イリスが無茶を言えば私が文句をつける。私が勝手に出撃しようとすればイリスが止める。二人とも納得しないときは、だいたい整備長が怒鳴った。それで艦隊はうまく回っていた。

 

皇国最後の大規模艦隊戦でも、私たちは一緒に戦った。海上を覆う低い雲の下、波間を走る皇国の装甲艦。その上空では両軍の魔導鎧部隊が激しく交錯し、砲撃のたびに海面から巨大な水柱が上がっていた。イリスの歌声に合わせてピット群が動き、私たちの機体がその隙間を駆け抜ける。皇国艦隊の防御刻印が次々と破断し、そのたびに帝国側の砲撃が敵艦の装甲を捉えた。私は敵旗艦の砲塔を三つ潰し、イリスは残る艦隊を半包囲して降伏を迫った。降伏勧告の通信が届くまで、彼女は歌をやめなかった。敵艦隊の動きが止まったところで、ようやく歌が終わる。

 

北方皇国は敗北した。帝国は北方戦線の制圧を成し遂げた。そしてイリスは、帝国史上最大の英雄となった。

 

ただし、皇国軍の降伏は戦争の終わりを意味しなかった。降伏命令を拒否した騎士たちは山岳地帯へ潜り、旧騎士領の住民や敗残兵とともに抵抗を続けた。線路を爆破し、補給船を襲い、占領軍の魔石貯蔵庫へ夜襲を仕掛ける。魔導鎧を失った騎士が歩兵を率いて帝国軍の輸送路へ突撃したという話も、珍しくはなかった。

 

敵ながら大した覚悟である。

 

いや、故国へ侵略してきた連中に従いたくないのは、至極真っ当な話か。北方を制圧したはずの帝国軍は、その後も補給路の警備と港湾防衛に戦力を割かれた。イリスの艦隊もまた、皇国沿岸の海上輸送を守るため、北方に留まり続けることになる。

 

『RUNE FRAME』でも、北方艦隊が南方へ出撃しなかった理由として語られていた事情だ。ゲームでは短い戦況報告で済んだが、現実の占領地では、毎朝のように輸送船の遅延や橋梁の破壊が報告されていた。私はそうした報告を聞くたび、皇国の騎士たちが敗北を認めていないことを思い知らされた。

 

*

 

凱旋式は盛大だった。帝都では連日祝賀会が開かれ、イリスは勲章を山ほど貰った。私はそのうち一つを借りて胸につけてみたが、重くて肩が凝った。

 

「よくそんなもの毎日つけてられるね」

 

「義務ですから」

 

「一個くらいくれてもいいじゃん」

 

「自分で貰いなさい」

 

「私の勲章より格好いいんだよなあ」

 

「ならば次は私より活躍することです」

 

「無茶言うな」

 

帝国史上最大の英雄。その称号に偽りはなかった。北方皇国という国家を相手に、戦争の趨勢を覆した女である。彼女を北方の重しとして残せれば、共和国との戦争が始められる。帝国はその武威を南方へ向けることが可能になる。

 

そしていずれ、共和国の外部傭兵が帝国の英雄たちを次々と撃破する。最後にイリスが立ちはだかり、母艦と融合して、自分の脳を焼き切るまで歌い続ける。

 

私は『RUNE FRAME』の結末を知っていた。知った上で、彼女と仲良くなった。当初は、少しだけ罪悪感があった。だが、何年も一緒に戦って、飯を食って、くだらないことで喧嘩をしていると、そんなことを考える余裕はなくなる。私は彼女が好きだった。彼女も、たぶん私のことを相当気に入っている。

 

少なくとも、艦隊司令官が休日にわざわざ傭兵宿舎まで押しかけて、一緒に新作の焼き菓子を食べたがる程度には。

 

だから、決めていた。帝国がどうなるかは知らない。共和国が正しいのも知っている。北方皇国に攻め込んだ帝国が、南方でも戦争を始めるなら、いつか痛い目を見るのは当然だろう。でも、イリスが死ぬのは嫌だった。

 

そのためには、主人公機を早いうちに殺してしまえばいい。主人公がいなければ、少なくとも『RUNE FRAME』と同じ結末にはならない。あとは何とかなる。

 

そう思っていた。

 

*

 

医務室の窓から、北方の海が見えた。桟橋に停泊する《グラン・セレーネ》の随伴艦。その間を小型輸送艇が忙しく行き来している。

 

私は食べかけの焼き菓子を皿へ戻した。空になりかけた包み紙を折り畳み、膝の上の砂糖を払ってから端末を引き寄せる。

 

画面には、南方での初戦の記録が映っていた。主人公機は、私の射撃間隔を二度見ただけで把握した。ブーストの癖も、着地位置も、最終的には読み切っていた。しかも、こちらが予備魔石を使う隙さえ与えなかった。そんなものは知っていたはずだった。『RUNE FRAME』の主人公は強い。帝国の名だたる英雄を、ほとんど一人で倒してしまう怪物だ。

 

だが、私はゲームを極めた。北方皇国の精鋭を相手にして、実戦でも勝ち続けてきた。今回負けたのは、機体が悪かったのだ。

 

そうに決まっている。私は端末を閉じ、医務室の内線を呼び出した。

 

「整備長? 私の《ヴェスペル》、まだ北方にあるよね」

 

『あるに決まってるだろうが。また何を企んでやがる』

 

「ちょっと南方まで運んでほしいんだけど」

 

受話器の向こうで、盛大に何かが落ちた。

 

『お前、今どこにいる!』

 

「医務室」

 

『寝てろ!』

 

切られた。私はもう一度かけた。今度は出てくれなかった。仕方ない。イリスに頼もう。

 

次こそ殺す。

 

ぶち殺す。

 

第二章 次こそ殺す。ぶち殺す。

 

《ヴェスペル》が南方の基地に到着したのは、それから一か月後だった。輸送用の固定具を外すとき、機体を吊ったクレーンの鎖が甲高く鳴った。外装を一度取り外しているので、組み上げたばかりの右肩にはまだ新しい塗装の匂いが残っている。

 

輸送費は私持ち。整備費も私持ち。北方艦隊の補給物資を横取りするわけにはいかず、交換部品の大半も自分で買い直した。机に並ぶ請求書は一枚で済む量ではない。皇国のエースを三機墜としたときの特別報酬が、見事に吹き飛んだ。

 

「……高っか」

 

私は請求書を睨んだ。

 

「戦争って金かかるんだねえ」

 

『それを今さら言う人がいるとは思いませんでした』

 

通信端末の向こうでイリスが呆れている。

 

「だいたい、どうしてそこまであの傭兵にこだわるんです?」

 

「女には負けられない戦いというものがあるのです」

 

『あなたはその戦いに、私の整備班まで巻き込んだんですよ』

 

「北方一の整備班だって褒めといて」

 

『実際、北方一です。だからこそ、南方へ出張させる必要があったのかと聞いているんです』

 

私は黙った。

 

イリスはため息をついた。

 

『……その相手、本当にそんなに強いんですか?』

 

「強いよ」

 

『あなたより?』

 

「次は勝つ」

 

答えになっていないことは、私にも分かっていた。

 

イリスはしばらく何も言わなかった。

 

『でしたら、勝って帰ってきなさい』

 

「もちろん」

 

『あと、機体は壊さないこと。整備長が泣いていました』

 

「善処する」

 

『それは信用できない返事です』

 

通信が切れた。

 

私は《ヴェスペル》を見上げた。

 

濃紺の装甲。細身ながら十分な積載能力を持つ中量二脚。背面には高循環型魔石炉を二重の冷却刻印が取り囲み、機体の重心に合わせて調整したブースターが収まっている。右手には精密ライフル、左手には折り畳み式ブレード。右肩には予備のブレードを、左肩には小型誘導弾発射機を積んだ。射撃戦ではライフルを使い、近接戦へ移るときは右肩のブレードを引き抜いて二刀流へ切り替える。

 

何年もかけて組み上げた、最高の愛機だ。整備長がああでもないこうでもないと文句をつける横で、私は刻印の配置を何度も変えた。腕部の応答を速くすれば炉心の負担が増し、装甲を厚くすれば空中での制動が鈍る。妥協してよい部分と、絶対に譲れない部分を決めるのがアセンブルという遊びの一番面白いところである。

 

『RUNE FRAME』なら終盤にようやく完成するような贅沢な構成で、武装をこれだけ積んでもEN回復には十分な余裕があり、機動性も犠牲にしていない。対人戦なら文句なし。我ながら惚れ惚れする出来栄えだ。いや、通用しない方がおかしい。

 

序盤から中盤にかけての『RUNE FRAME』で、これほど高性能な機体を用意できるプレイヤーなどいない。もっとも、相手は普通のプレイヤーではなさそうだったが。

 

私は機体の脚部へ手を触れた。

 

手のひらに冷たい装甲が触れる。輸送のために取り外された補助装甲は元の位置へ戻り、そこから覗く刻印回路の縁には、整備長がつけた小さな確認印が残っていた。点検票にも赤い字で「壊すな」とある。あの人、仕事は本当に丁寧なくせに、こういうところはまるで子供だ。

 

「今度こそ頼むぞ、相棒」

 

足場を上がり、操縦席へ乗り込んだ。

 

*

 

帝国南方軍の反攻は、大規模なものだった。基地へ到着したその日から、作戦図の上では赤と青の駒が何度も動かされ、補給担当が飛び込んでくるたび、地図に書かれた予定が塗り替えられていた。

 

共和国軍が奪還した都市を再占領し、主要な補給路を断つ。帝国はそのために、残存する機甲部隊をかき集めていた。ここへ至るまでに、帝国はいくつもの重要拠点を失っている。中央戦線では、不落【AEGIS】ことグスタフ・ベルナーが、自らの要塞を守り抜こうとして戦死した。北方艦隊で面識のあった蒼鷹【HAWK】エリア・シュトルムも、空中戦で主人公機に撃墜され、共和国軍の捕虜になった。

 

ゲームで見たとおりだった。

 

私はグスタフの要塞へ補給物資を送り、エリアの部隊には共和国軍の対空戦術を伝えていた。その甲斐あって、撤退に成功した兵士もいたらしい。しかし、肝心の二人を救うことはできなかった。だからこそ、ここで主人公機を殺すのだ。

 

一度目の敗北から、私は敵の戦闘記録を何度も見返していた。主人公機の強さは、単純な反射速度ではない。相手は攻撃を受けるたび、こちらの行動を一つずつ理解していた。

 

最初のブーストでは、私の射撃をぎりぎりで避けた。

 

二度目では、射撃の瞬間を読んでいた。

 

三度目には、私が着地位置へ銃口を向けることまで理解したらしい。

 

気に入らない。実に気に入らない。だが、対策は立てた。敵が学習するなら、学習させる内容をこちらで選べばいい。

 

私は《ヴェスペル》の射撃刻印に、三種類の発射間隔を登録していた。一定の拍子で撃つように見せかけ、途中で間隔をずらす。相手がその遅れに反応するなら、今度は射撃そのものを取りやめて接近する。さらに、予備魔石は三個。《ケストレル》より一個多い。今度は、ENが底をつく前に補充できるだけの余裕もある。

 

《ヴェスペル》の魔石炉が低く唸った。

 

私は右手のライフルを試射し、照準器を確認した。

 

戦場は帝国南部の平原。

 

赤茶けた地面には放棄された装甲車が散らばり、その向こうで共和国軍の砲撃が始まっている。

 

司令部から通信。

 

『契約傭兵FULLFACE、敵高機動機を確認。迎撃を要請する』

 

「了解。お客さんには私が挨拶するよ」

 

レーダーに反応。

 

一機。

 

待っていた。

 

「やあ。また会ったね」

 

私は共通回線を開いた。

 

「前はちょっと格好悪いところを見せちゃったけど、今日はいい機体を持ってきたんだ」

 

主人公機が銃口を上げる。

 

「前と同じだと思わないでよ?」

 

最初の交差。

 

私はライフルを二発撃ち、短いブーストで右へ移動した。

 

敵も右へ。

 

予想どおり。

 

私は三発目を撃たず、急加速した。

 

敵が回避する前に距離を詰め、左腕の剣を振るう。

 

命中。

 

装甲が散った。

 

よし。

 

主人公機が後退する。

 

追わない。

 

代わりに誘導弾を二発だけ撃つ。

 

敵が左へ避けたところで、もう一発。

 

防御刻印作動。

 

EN消費。

 

そう、それでいい。

 

一度目の戦いで、敵は私の射撃間隔を覚えた。

 

今度は、わざとその間隔をばらばらにしている。

 

一秒で三発。次は二秒待つ。距離を詰めたと思わせて後退し、敵がこちらの隙を突こうとしたところで、逆に攻撃を仕掛ける。

 

機体性能はこちらが上。

 

操縦技術だって、負けていない。

 

実際、戦闘開始から一分足らずで、主人公機の右肩装甲は半分ほど失われていた。

 

敵がライフルを撃った。

 

私は機体を左へ滑らせた。

 

二発目。

 

盾で受ける。

 

防御に使ったENは、すぐに回復する。

 

《ヴェスペル》の高循環型魔石炉は、連続機動を前提に設計してある。相手の射撃を防いでも、次の加速まで余裕がある。

 

そして敵は今、こちらが使わせたENを取り戻せていない。

 

私は右手のライフルを背面の固定具へ預け、肩部の予備ブレードを引き抜いた。

 

左右の刃が同時に展開する。

 

「もらった!」

 

突進。

 

敵が回避する。

 

私は左の剣を振り下ろし、その先へ右の剣を重ねた。

 

刃が敵機の腰部を捉えた。

 

火花。

 

主人公機が大きくよろめく。

 

私はそのまま肩で相手を押し込み、右手の剣を背部へ戻した。代わりにライフルを引き抜き、逃げようとする敵機へ至近距離から連射を浴びせる。

 

三発目。

 

敵の防御刻印が明滅する。

 

四発目。

 

青白い光が消えた。

 

『敵機、刻印駆動停止を確認』

 

刻印破断。

 

勝った。

 

私は左腕を振り上げた。

 

この距離で防御刻印が停止すれば、もう逃げられない。

 

刃を振り下ろす。

 

その瞬間、敵の胸部装甲が開いた。

 

「――っ!」

 

予備魔石。

 

一個を強制投入したのだ。停止していた刻印が再点灯する。

 

だが、まだ間に合う。

 

予備魔石の接続には、一拍の遅延がある。その瞬間を狙えば、回復したばかりの相手を再び追い詰められる。私は剣を引き戻し、主人公機の胸部へ突きつけようとした。ところが敵は、回路の安定を待たなかった。

 

防御刻印が完全に復帰する前に、脚部ブースターだけへ出力を集中させてきたのだ。

 

機体が半歩、前へ出る。

 

私の振り下ろした腕の内側へ潜り込む。まずい。この距離では剣を振り直せない。

 

敵の左腕がこちらの胸部へ触れた。

 

小さな音。

 

装甲が内側から跳ね上がった。

 

「……おい」

 

近距離射出機構。

 

一度目の戦闘でも見た、あの小型武装だった。

 

私は逆噴射したが、既に遅かった。

 

至近距離で射出された杭が《ヴェスペル》の胸部装甲を貫通する。衝撃で身体が座席に叩きつけられた。装甲は一撃で剥がれたが、魔石炉はまだ生きている。操縦席の右側で表示板が弾け、焼けた樹脂の匂いが鼻を刺した。機体の傾きを補正しようと操縦桿を動かしたものの、いつもなら返ってくる反応が半拍遅い。

 

私は右へ回避し、追ってくる敵を振り切ろうとした。

 

ライフルを撃つ。

 

避けられる。

 

さっきまで当たっていた弾が、もう当たらない。敵の動きが変わっていた。私の射撃間隔を、また読み始めている。こちらの照準器が敵の肩へ追いつく一瞬前に、主人公機が先に身体を沈める。引き金にかけた指の動きまで見えているような避け方で、私はますます腹が立った。

 

「くっそ……!」

 

私は肩部誘導弾を全弾発射した。

 

爆煙が広がる。

 

敵の反応が消えた。

 

いや、消えたのではない。煙の内側で、あえて魔石炉の出力を落としている。次にどこから出てくる?

 

右か。

 

左か。

 

私は機体を後退させた。

 

そのとき、足元の地面が爆ぜた。敵が地面へ撃ち込んだ砲弾で、土砂が跳ね上がったのだ。

 

視界が塞がる。

 

一瞬だけ。

 

たったそれだけで十分だった。煙の向こうから、主人公機が飛び出してきた。さっき私がやったのと同じ、短い加速からの近接突撃。

 

左腕のブレード。

 

私は剣で受け、そのまま反撃しようとした。

 

だが敵は、こちらの剣が振り上がる前にブーストを切った。

 

あ。

 

その動き。

 

私が最初の戦闘で使った、着地直前の逆噴射。

 

《ヴェスペル》の剣が空を切る。

 

敵のライフルが、こちらの胸部を向いた。

 

「――ふざけ」

 

発射。

 

魔石炉の固定具が砕けた。

 

出力急減。

 

主制御系統停止。

 

私は迷わず脱出装置を叩いた。

 

操縦席が射出される。

 

その直後、愛機《ヴェスペル》が爆発した。

 

*

 

二度目の敗北である。しかも、よりにもよって。敵は私の戦法を真似していた。ただ真似しただけではない。私が仕掛けた戦術の弱点を理解し、自分の機体に合わせて使い直していた。

 

「……何なんだよ、あいつ」

 

脱出艇の狭い座席で、私は頭を抱えた。前世で『RUNE FRAME』を遊んでいた頃、私は対戦相手の癖を読むのが得意だった。一度見た攻撃への対処。ENの消費量から、相手が次にできる行動を予測すること。そういう小さな積み重ねで、腕前に差が出る。私はそれを何千時間も続けてきた。そして今世では、実戦を何年も経験した。

 

なのに。

 

「お前、何時間プレイしたんだよ……」

 

ゲームの主人公機は、何も答えてくれなかった。

 

*

 

北方へ戻ると、イリスが待っていた。

 

艦隊司令官の執務室。

 

私は彼女の机の前に立ち、二度目の戦闘報告書を提出した。

 

イリスは書類を最後まで読んだ。

 

それから顔を上げた。

 

「……《ヴェスペル》も失ったんですか」

 

「はい」

 

「あなたの?」

 

「はい」

 

「北方艦隊の整備班が二か月かけて仕上げた、あの?」

 

「はい」

 

「……」

 

私は目を逸らした。説教は覚悟していた。殴られても文句は言えない。

 

イリスは立ち上がった。

 

机を回り込み、私の前まで来る。私は身構えた。

 

彼女は私の肩を掴んだ。

 

「怪我は?」

 

「……え?」

 

「怪我はないんですか」

 

「いや、まあ、ちょっと打ったけど」

 

「本当に?」

 

「本当」

 

「医務官の診断は受けたんでしょうね」

 

「受けたよ」

 

彼女は私の肩から手を放した。握られた場所がじんと痛んだので顔をしかめたが、イリスは気づかなかったらしい。椅子へ戻る途中で一度机の縁に指をつき、それからようやく腰を下ろす。

 

「よかった……」

 

私は何も言えなかった。

 

そこは怒るところだろう。愛機を失って、戦いにも負けて、帝国の反攻まで失敗したのだ。

 

イリスは書類を閉じた。いつもならこれから契約違反の項目を読み上げるところなのに、紙をきちんと揃えると、そのまま机の端へ避けてしまった。

 

「次は、もう南方へ行かないでください」

 

「……イリス」

 

「お願いします」

 

その言い方はずるい。私は抗議したかった。次こそ勝つ、と言いたかった。けれど、彼女の机には南方の戦況報告が積み上がっていた。その横には北方皇国の抵抗活動に関する報告書もあり、今週だけで三本の鉄道橋が破壊されたと記されている。北方の補給路を確保するだけでも、艦隊は手一杯だった。そのうえ、帝国の大反攻は失敗した。共和国軍は防衛線を押し返し、帝国本土への侵攻準備を始めている。

 

『RUNE FRAME』で見たとおりだった。

 

私は唇を噛んだ。

 

二度戦った。二度とも負けた。このままでは、イリスが死ぬ。それだけは嫌だった。

 

「……分かった」

 

私はそう答えた。

 

イリスはほっとした顔をした。

 

だから私は、嘘をついたことを少しだけ後悔した。

 

第三章 攻略不能

 

北方皇国との戦争に勝利した直後、私は一度だけ帝都へ赴いたことがある。帝国が南方共和国への侵攻を計画していると知ったからだ。ただ、少しでも侵攻の時期がずれれば、傭兵である主人公は共和国に雇われないかもしれない。

 

貴族家の伝手を使って軍部の会議に潜り込んだ。華美な会議室の壁には北方戦役の勝利を祝う絵が掛かり、長机の上にはまだ未開封の酒瓶まで置いてあった。私はその隣へ北方占領地域の統治費用、艦隊の整備状況、南方での兵站能力についての書類を並べた。出席者の何人かは見慣れない傭兵に首を傾げたが、北方で貰った勲章を机へ置くと、少なくとも発言を遮る者はいなくなった。侵攻は延期すべきだ。少なくとも、北方戦役で消耗した戦力を回復するまでは待つべきだと主張した。

 

事実、北方の状況は、とても安定しているとは言えなかった。

 

皇国の近衛騎士団は既に降伏したことになっているが、その残党は山岳地帯で抵抗を続けている。輸送列車は襲撃され、橋梁は爆破され、海上補給路でも小型艇による夜襲が相次いだ。国を奪われた人間の覚悟というものは恐ろしい。魔導鎧を失った騎士が、銃と爆薬を持って輸送隊へ襲いかかってくるのだ。何人倒しても別の場所で現れるし、帝国軍が村を一つ制圧すれば、山向こうの村で新たな抵抗組織が結成される。

 

北方艦隊を南方へ動かせば、占領軍の海上補給は止まる。そうなれば帝国は、せっかく占領した北方皇国を維持できなくなる。私はそのことを軍部の会議でも説明した。北方へさらに兵を送るのなら、南方侵攻の準備はどこから捻出するのか。補給船を一隻動かすにも護衛が要るし、鉄道は昨日直した橋を翌朝にはまた爆破されている。空白の地図を相手に戦争はできない。

 

長机の向こうの将官は頷きながら聞いてくれた。だが私が説明を終えると、別の将官が北方戦役の戦果を引き合いに出し、帝国の勢いを今こそ南方へ向けるべきだと語り始めた。宰相府の役人は議事録を閉じる際、私の戦功を大いに褒め称え、若い将来を期待しているとまで言ってくれた。

 

それで会議は終わった。

 

帝国は、予定どおり共和国へ侵攻した。

 

まあ、そんなものだ。

 

だから私は、共和国に現れるはずの主人公機を殺すことだけを考えた。それで何とかなると思っていた。二度目の敗北から半年。帝国の戦況は、日に日に悪くなっていた。

 

*

 

帝国本土への侵攻が始まった。帝国が迎撃に投入した英雄たちは、次々と主人公機に敗れていく。皇立魔導工学局の機匠【SMITH】ことヨハン・エベルは、試作兵器を携えて戦ったものの捕虜となった。紅刃【BLAZE】マレーネ・アルトは、敵部隊の中央へ斬り込み、最後には機体ごと爆炎に呑まれた。どちらも、ゲームで見た結末だった。

 

私は二人にも事前に働きかけていた。

 

ヨハンには共和国軍の侵攻路を伝え、試験部隊を後方へ退避させるよう勧めた。マレーネには、彼女が最も得意とする近接戦闘へ主人公機を誘い込まない方がよいと忠告した。

 

返事は散々だった。

 

ヨハンからは、どうして未公開の試験兵器について知っているのかと問い詰められた。

 

マレーネには、傭兵風情が自分の戦い方に口を出すなと怒鳴られた。

 

それでも、ヨハンの部隊からは何人かが撤退できたらしい。

 

マレーネの随伴兵も、彼女の突撃に巻き込まれずに済んだ。

 

だが、二人の英雄そのものは敗れた。

 

主人公機がいたからだ。

 

私はそれを知っていた。知っていたから、何かを変えられると思っていた。現実は、もう少し厄介だった。

 

*

 

「この補給路、三日後に共和国軍が来ます」

 

帝国軍の地図を広げ、私は補給将校へ説明した。

 

「そんな報告は入っていませんが」

 

「来ます。だから、今のうちに移動させてください」

 

「根拠は?」

 

「私の勘」

 

「……」

 

「当たるんだ、これが」

 

当然、信じてもらえなかった。補給倉庫の事務室は狭く、濡れた外套を干す場所さえなかった。私が広げた地図の端には、書類を押さえる代わりに空の弾薬箱が置かれている。

 

向かいに座る補給将校はまだ若く、階級は少尉だった。鼻の上にずり落ちた眼鏡を指で押し上げ、こちらの戦功証明書を何度も確認している。私の肩章が見当たらないのが、どうにも落ち着かないらしい。やがて彼は、申し訳なさそうに言った。

 

「あなたが北方艦隊のFULLFACEであることは分かりました。ですが、部隊を動かすには上官の承認が必要です」

 

「上官は?」

 

「今朝から前線視察へ」

 

「帰ってくるのは?」

 

「明後日の予定です」

 

「……なるほどね」

 

間に合わない。私は地図に目を戻した。この道路は、ゲームでは何の変哲もない補給拠点だった。第6章で共和国軍の一部隊が奇襲し、帝国の輸送車両を焼き払う。主人公機が直接関与する戦場ではない。けれど私は、その出来事を覚えていた。何度も同じマップを走ったからだ。

 

「少尉、荷物は何がある?」

 

「魔石と医療物資、それに工廠向けの交換部品です」

 

「車両は?」

 

「輸送車十二両、護衛が三機」

 

「いいね。全部運ぼう」

 

「ですから、許可が――」

 

「車両と人員は私が手配する。少尉は荷物の引き渡しだけ何とかして」

 

彼は困った顔をし、机の端に置かれた印章へ目を遣った。倉庫から荷を出すにはその印が要るし、私に頼まれたという理由で押せば、責任を問われるのは彼だ。私はその事情を無視して怒鳴りつけるほど、世間知らずではないつもりだった。

 

だから机へ身を乗り出し、声を落とした。

 

「頼む。三日後、ここの道路は使えなくなる。荷物だけじゃない、護衛も整備兵も巻き込まれるんだ」

 

「……どうして、そこまで分かるんですか」

 

「それを説明すると長いんだよねえ」

 

「では、私は何を信じれば?」

 

私は胸元から北方戦役の勲章を取り出し、彼の机に置いた。

 

「私の腕前と、これまでの戦歴。少なくとも、適当なことを言うために南方まで来たわけじゃない」

 

少尉は勲章を見つめた。弾薬箱の角へ当たる光が、机に置いた金属の表面をちかちかと照らしている。彼はようやく眼鏡を外して目元を揉み、もう一度地図を見た。

 

ずいぶん長く考えてから、小さく頷いた。

 

「……移送命令が届いた形にはできません。ですが、臨時の整備点検として荷物を移すことなら」

 

「十分!」

 

私は彼の肩を叩いた。

 

「じゃあ、さっそく始めようか」

 

*

 

自腹で輸送車両を雇い、補給物資の移送を始めた。十二両分の荷物を、たった二日で運び出さなければならない。

 

一日目は車両が足りず、積み替えだけで夕方になった。魔石を詰めた箱は重く、乱暴に扱えば刻印を傷つける。整備兵が荷台に板を敷き、運転手たちが不安そうに積荷の数を数える横で、私は壊れた昇降機を手動で回した。少尉も帳簿を片手に走り回り、夜には眼鏡の片方のつるが曲がっていた。

 

二日目は、近道に使うはずの橋で足止めされた。前夜の雨で路面が崩れ、輸送車が一台でも乗れば桁が落ちかねない。仕方なく私は魔導鎧に乗り込み、現場の工兵が指示する場所へ補強材を運んだ。戦場で装甲を切り刻むより、むしろ神経を使う仕事だった。

 

「何で傭兵が道路工事してんだよ……」

 

機体の腕で鋼材を支えながらぼやくと、通信の外で誰かが笑った。少尉も泥まみれになって働いており、濡れた帳簿を懐へ押し込みながら工兵へ工具を手渡している。私が砲を撃つのと違って、鋼材の数センチのずれは彼らの命に直結する。今日は誰の指図にも文句をつけずに従った。荷物の移送が終わったのは、襲撃予定日の前夜だった。私は輸送車の最後尾に立ち、荷台から降りてきた少尉と握手した。

 

「助かりました」

 

「本当に来るかどうかは、明日にならないと分からないけどね」

 

「もし来なければ、輸送費の件は私の方から報告します」

 

「いいよ。どっちにしても、物資は前線で必要だったんでしょ」

 

少尉は、ようやく肩の力を抜いて笑った。泥の跳ねた頬には眼鏡の跡がくっきり残っている。雑談のついでに年齢を聞くと、まだ二十二だという。

 

私より年下だった。こんな場所で印章の責任まで背負わせたのかと思うと、少し申し訳なくなった。

 

翌日、共和国軍がその補給路を襲撃した。

 

残されていた空の倉庫と、囮に使った車両二台が炎上した。移送しなければ、そこには少尉と輸送兵たちがいたはずだ。報告を聞いた私は、久しぶりに気持ちよく笑った。

 

やった。これは変えられた。主人公機を殺せなかった。英雄たちも救えなかった。だが、少なくとも今回は、私の知識がちゃんと役に立った。

 

数日後、少尉から礼状が届いた。折り目のついた便箋には小さな文字がぎっしり並び、移送した医療物資のおかげで前線の負傷兵を多数収容できたこと、部隊の者たちも全員無事だったことが記されていた。署名の横には、あの橋を補修した工兵たちからの礼まで書き足してある。

 

私は二度も読み返し、便箋を丁寧に折った。私はその手紙をイリスに見せた。

 

「ほら、やればできるんだよ」

 

「ええ。よくやりましたね」

 

「もっと褒めてもいいよ」

 

「では、あなたが無断で支出した輸送費については、経理部へ報告しないでおきましょう」

 

「それが一番嬉しい」

 

イリスは笑った。私も笑った。

 

*

 

それから私は、同じような工作をいくつも続けた。皇立魔導工廠から試作魔石を移送する。撤退の遅れた部隊を救出する。共和国軍の進軍経路に偽の橋梁を用意し、一日だけ足止めする。帝国軍が出した焦土命令を、貴族の権限で一時停止させる。

 

成果はあった。実際に救えた人間もいる。礼を言われたことだって、少なくない。

 

だが、戦争の趨勢は変わらなかった。

 

数週間後、私は別の作戦区域へ向かう途中で、例の補給少尉の所属部隊が再編成されたことを知った。移送した魔石と交換部品は前線へ送られ、彼ら自身も補給隊として再び共和国軍の進撃路へ投入されたという。

 

嫌な予感がした。

 

私は部隊記録を調べた。彼らの輸送隊は、帝国本土の防衛戦に参加していた。補給路で共和国軍と遭遇し、護衛の魔導鎧が撃破された。

 

車両の半数を失い、死傷者も出た。生存者名簿を確認すると、少尉の名前はそこにあった。

 

重傷。後方の野戦病院へ搬送。

 

私はそこで、ようやく息を吐いた。

 

……生きてる。

 

よかった。本当によかった。

 

ただ、その報告書の下には、見覚えのある名前がいくつも並んでいた。移送作業で私と一緒に橋を補強した整備兵。輸送車の運転手。あの夜、皆へ温かいスープを配っていた軍属の女性。全員が無事だったわけではない。私は名簿を閉じた。机の引き出しには、少尉から届いた礼状がまだ入っている。あの橋で一緒に泥だらけになった連中の顔を、私は一人ずつ思い出せた。書類に記された氏名が、そのまま声や仕草を連れてきてしまう。

 

しばらく机の前から動けなかった。助けたことは、無駄ではなかった。

 

少尉は生きている。彼らが運んだ医療物資で助かった人間もいる。それなのに、私が一度救った部隊が、また戦場へ送られていく。戦線を一つ救えば、別の場所で崩れる。私の働きで撤退できた兵士たちも、後方で再編成され、やがて別の戦場へ送られていった。

 

私は一人の傭兵だ。腕前には自信がある。それでも、戦争全体を動かせるわけではない。

 

『RUNE FRAME』には、帝国を勝たせる攻略法なんて載っていなかった。そもそも共和国が勝つゲームなのだから、当たり前である。しかし、笑って済ませるには、私はこの国で長く生きすぎていた。

 

*

 

共和国軍の主人公機は、さらに戦功を重ねていた。私は何度も戦闘記録を見返した。見れば見るほど腹が立った。

 

「……あっ、こいつ」

 

皇立魔導工廠での戦闘映像。敵の防御刻印を削るため、主人公機がわざと射撃間隔をずらしていた。その動きには見覚えがある。私が《ヴェスペル》で使った戦術だった。

 

三発続けて撃つと見せかけ、二発目で止める。

 

相手がその間隔に対応したところで、逆に一拍早く撃つ。

 

敵の防御刻印を無駄に作動させ、ENを消費させるための技術だ。

 

主人公機は、それを別の武装で使っていた。

 

模倣ではない。使っている武装も、機体重量も違う。

 

だが、考え方が同じだった。

 

一撃で倒せない相手には、まずENを使わせる。自分は回復の余裕を残し、相手だけに消耗を押しつける。それができれば、装甲の厚さなど大して問題にならない。私が奴に教えてしまったのだろうか。

 

馬鹿な。

 

そんなわけがない。

 

いや、でも。

 

「……クソッ」

 

私は端末を閉じた。昔は戦闘が楽しかった。敵を倒すと気分がよかった。新しい機体を組むたび、早く実戦で試したくて仕方なかった。最近は、整備場へ向かうのも少し億劫になっていた。主人公機が戦闘を重ねるたび、その操縦は洗練されていく。私が使った技術さえ、敵の強さの一部になっている。これでは、本当にゲームの主人公ではないか。消えた画面には、疲れた顔をした私が映っていた。端末の縁を指で叩いても、答えは出ない。結局、手を伸ばして次の作戦地図を開く。部隊の位置、物資の量、道路が残っているかどうか。まだ確認しなければならないことが山ほどあった。

 

考えていても仕方がない。できることからやるしかないのだ。

 

*

 

北方艦隊だけは、依然として健在だった。イリスは北方占領地域の防衛と、敗残兵の収容を続けている。帝都からは何度も南下命令が届いたが、彼女はそのたびに北方の防備が崩れる危険を説明した。北方皇国の残党は、いまだに武装を解除していない。帝国軍が守備隊を一つ撤収させただけで、近隣の鉄道が爆破されることもあった。艦隊を南へ動かせば、海上補給路を失った占領軍は孤立し、皇国全域で蜂起が起こるだろう。ただの可能性ではない。既に何度も、そうなりかけていた。それに、北方艦隊が南へ到着する頃には、戦況そのものが変わっている。

 

イリスは何度もそう説明した。正しい判断だった。おかげで北方艦隊は戦力を保ち、北方に取り残された帝国兵や敗走してきた部隊を収容できた。

 

だが、南方では英雄たちが敗れ続けた。

 

共和国軍が帝都へ迫る。

 

そしてついに、帝国元帥、将帥【MARSHAL】ことシグルド・ライネルが降伏した。

 

帝都陥落。帝国中央政府は崩壊した。

 

私はその報告を、北方軍港へ向かう輸送船の中で聞いた。

 

艦内放送が、低い声で読み上げる。

 

『帝都守備軍は本日、共和国軍に対して正式な降伏を宣言しました。帝国政府の所在は現在確認されておらず――』

 

誰も喋らなかった。船倉には、帝都から逃げてきた兵士と民間人がいた。肩を落とした軍人の隣で子供が泣き、その向こうでは老人が両手で荷物を抱えていた。毛布を分け合う家族もいる。誰かが小さく咳き込んだ。

 

通路は荷物で狭くなっており、私は人の肩を避けながら船倉を歩いた。船酔いで顔色の悪い少年に水を渡し、毛布の端を引きずっていた老人には持ち上げ方を教えられた。礼を言う声はどれも小さかったが、しばらく耳に残った。

 

この人たちは、ゲームでは見たことがなかった。共和国軍に襲撃される輸送路も、炎上する工廠も、帝都の陥落も、私には見覚えがある。だが、こうして目の前にいる人間たちは違う。一人ひとりに名前があり、家族があり、帰る場所がある。

 

私は自分の部屋へ戻り、机上の地図を開いた。

 

北方軍港。帝国最後の大規模軍事拠点。そこにはイリスがいる。

 

帝都が陥落した以上、皇国の占領を維持する意味はなくなった。政府の命令で北方の領土を守る必要も、もはやない。イリスは各地の守備隊へ撤収を命じ、占領軍の残存戦力を北方軍港へ集め始めていた。ただし、撤収そのものも簡単ではない。皇国の抵抗組織にとって、帝国の敗北は故国を取り戻す好機である。退却する帝国軍の後ろから騎士たちが襲いかかり、鉄道と道路を寸断する。その一方、敗残兵や帝国軍に協力した住民、家族を連れた軍属たちは、何とか軍港まで辿り着こうとしていた。守るべき占領地は失われた。代わりに、守るべき人間が軍港へ集まっている。

 

だからイリスは、最後の拠点から動けない。『RUNE FRAME』の最終章は、ここで始まる。私は知っていた。共和国軍が攻めてくる。主人公機が現れる。イリスが戦う。そして、負ける。彼女は母艦と自分の魔導鎧を融合させ、無数のピットを操る。脳が焼き切れるまで歌唱魔術を行使し、それでも主人公機を倒せない。

 

最後には死ぬ。

 

「……冗談じゃない」

 

私は地図を睨んだ。主人公機を二度も殺し損ねた。帝国の敗北も防げなかった。だが、まだ終わっていない。

 

北方艦隊は健在だ。イリスも生きている。主人公機だって、まだ北方軍港には到着していない。

 

だから、まだやれる。まだ何かあるはずだ。

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