義体ってカッコイイよね。
生まれて自我を持った年頃から、自分の身体を恨んでいた。
ひ弱で病弱。世界の人口の7割が『個性』という超常的な力を手に入れ、文化が発展しても尚治せない病を患ってしまった。
金を掛けてもどうにもならない事を覚えた両親は、病気の症状を抑える事を念頭に置いた。
四肢が動かせない。原因は知らない。先天性のものなのか、個性の発現による後天的なものなのか。
そんな僕に与えられたのは『機械肢』という個性だった。
何処までも皮肉だった。この腕と足が嫌なら個性で機械の四肢を作って生きろと個性は言う。
打って変わって、僕には姉がいた。一つ上の姉だ。
姉は凄かった。僕よりも自由自在に動けて、身体能力がずば抜けていた。何でも個性が『信号操作』だった。
体に伝わる電気信号を神経に早く伝える事で、本来では少し反応が送れるような動きも人二倍素早く反応出来たり、肉体へアクティブに明確な信号を伝えるからプロの選手顔負けの動きが出来た。
力も強くて脚も早い、オマケに親に似て顔も整っていた。
姉が眩しく見えた。自分では遥か上にいて、何処までも煌びやかに光っている。
そんな姉は、僕にも優しい。誰にだって優しいから、自由に身体を動かせない僕の車椅子を押してくれる。
一方僕の個性は、腕や脚が病や事故によって切除してしまった人を助ける事が出来る。
義手をより人間の腕らしく摸した義手のものに組み替える事で、普通の腕と変わらない動きが出来た。そこに姉が信号操作で直接信号を送れるようにする事で自分が本来持っていた腕のように扱う事が出来ると。
……この様な事をし始めてから、つぐつぐ思う。自分は誰かの助けを貰わなければ生きれない事を。
義肢を付ける気にはならなかった。人のものでは無いものを受け入れる気が起きなかったから。
機械の四肢を、人は何故自分のモノの様に動かせているのか。
身体は温もりがあるのに、その機械の腕も脚も温度なんてない。僕が組み替え、姉が信号操作をした義手も見た目が人間の腕の様に見えるだけで冷たいままだ。
四肢が動かせない事を恐怖し、涙を流したのも数十回を数えてからやめた。
その度に姉に信号操作で恐怖が伝わる力を抑えてもらった回数も、もう覚えていない。
それを憂いに思った両親が、とある人に頼み込んだ事で起きた事件により僕らは二度と出会うことはなくなった。
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入試試験の説明を受けた。妙に騒がしい先生だった。
金髪のサングラスを付けていて、首元の大きなスピーカー装置が気になった。あれは個性を伸ばす為の道具だと考えて、目の前に集中する。
今受けている、国内でもトップと名高い高等学校である『雄英高校』の実技試験に挑む。
恐怖はある。何せ、自分は他の人と比べて身体の動きに慣れていない。
この
それでも……目的がある。
その為にこの実技試験を挑む。不慣れなこの身体を動かしてでも。
「ねぇ、あの子……」
「大丈夫かしら……」
……周りがざわつくのも、理由は分かる。
『はいスタートォ!』
瞬間、始まりの合図が身体の神経に情報を伝達させる。
気付いた時には飛び出していた。
灰色や青のビル群を駆け抜けながら、一気に踏み込んで翔ける。
『標的発見!ブッコロス!』
「……!」
早速、標的ロボに見つけられた。あれが説明にあったものだ……こちらを見つけたようだが、こちらも見つかる為にわざと見つかる事も出来た。いい経験だ。
あれを討伐し、得点を得る。それが本筋だ。
僕の両足を三日月形の機械の鉤爪の様に変質させ、ビルの壁に張り付きながら両腕を変形させる。
「
脚部の鉤爪をしまい、ビルの壁を蹴って突っ込んでいく。
『仲間!?』
「そうかもしれない、かな……はっ!」
勝負は一瞬。両足に取り付けられたスラスターを展開、急加速してロボの首部分に刃を押し当てて引き裂いた。
見事なまでに転がり落ち、ロボットは討伐判定とされた。
すぐに脚部のスラスターで上空に飛び、両腕の機構を変形させる。
「生械義肢、オウル」
音を一切出さず、飛行する鳥の翼を模した義手が展開される。
その瞬間、腕と頭に痛みが走る。
「ぅ……!」
僕の個性には、明確なデメリットがある。
それは想定以上の出力に身体が追いつかない時、明確に痛みや苦しみとして出力されること。
僕の個性『機械肢』は機械だ。当然メンテナンスだって必要だし、出せる出力は限られる。それ以上のオーバーフローは、想定されていないし想定してない挙動をすれば当然壊れる。
僕はこれに『神経』を繋いでいる。だから、無理をすれば神経が痛みを伝播させて体中に痛覚を走らせる。
「まだ、一体目でしょ……!」
それでも、この試験を痛み程度で終える気はなかった。
滑空しながら少し低空飛行。地面スレスレとは行かずとも、飛ぶには如何せん心もとない地面までの距離。それでも飛ぶ理由は、明確にある。
無駄に動き回ると、当然僕の義肢は消耗する。これは僕の『個性』で作ったものだ……とある事故によって、
命を繋ぎ止める為に、僕を治療した医者の人が個性を使った程の大怪我を両手両足……それと、
当然、最初こそ拒絶反応等でアナフィラキシーショックを起こすなど思われてたが……素体が良かった。おかげで、僕の命は繋ぎ止められている。
『飛ンデイルゾ!?』
『鳥カ!?』
「フクロウだよ!」
2体見つけた。2ptと記されたロボを急降下しながら脚部から鉤爪を再展開して掴み壊す。すぐに上昇して滑空。これを繰り返す。
そうしている合間に、一つの発見を果たす。
「……!」
巨大ロボット。試験の説明では、お邪魔ロボットと言われていた。
あれは不味い。僕の義肢でも倒そうとは思えない。
だからと言って……
あんな怪物が他の人達を踏み潰そうとするならば、それを止めなければならない。この学校に入るなら、それが必要だ。
「生械義肢、ホーク!」
両手両足が変形。鷹の翼と鉤爪を展開する。
今一番強い、この武装で行こう。
痛みがジクジクと両手両足に走って、首の方にも伝わってくるけれど。
「間に合え!」
鷹の飛行時の速度は時速80Km。僕の機械肢はそれを限りなく再現するように作る。ただし劣化したり、破損が激しい。機械四肢なんて普通の機械と比べて時に、その破損時間は圧倒的だ。
それを即座に修復しながら、僕は飛ぶ。
『……!』
飛んで加速していき、遂に辿り着いた。目の前に飛ばれたら、当然巨大ロボットも僕を対象にするだろう。
それでいい。
「生械義肢、ピグレット!スタッグ!」
右手を鋭いキツツキの嘴に、左手をキツツキの鉤爪に。
両足をクワガタムシの鋏に変えて、一気にロボットの膝元に飛び……挟み込む!
「ぐ、ぅぅっ……!」
無茶振りな方向転換から、降下。更に巨大ロボットの膝関節部分を腕の嘴で攻撃する。
キツツキの啄みは1秒に20回。木の硬さは作る巣にも寄るがそれに穴を開ける強さは他の鳥とは一つの領域を違う何かを感じさせる。
それを機械でやるなら、連続した刺突攻撃を行うアームになる。人にやったら蜂の巣になるのは間違いない。
機械の装甲の一つがへしゃげ、鉤爪でそれを思い切り引き剥がし……その部分に片足を掛ける。
流石に、クワガタムシの様な体重の数十倍以上のパワーを出せる訳ではない。だが、補助には丁度いいパワーは出力できる。
「切れろ、切れろっ……!」
鉤爪の腕、両足の鋏で一気に力を込める。
周囲を一度、即座に見渡す。多くの人が逃げている。
そんな時に足がもつれている人が地面に倒れたのが見えた。
「!……っ、ぐぅぁぁぁあ……!!!!!」
ひしゃげる様な金属音が聞こえる。一秒でも早く、こいつの足を止めたい!
両手両足の痛みが連続する。痛い、痛い、もう離してしまいそうなくらい、痛い……けど……!
「(あの時の痛みと比べたら……っ!)」
刹那、僕の過去が少しだけ彷彿とされる。
両手両足が吹き飛び、身体の半分が失われた感覚。
遅くから伝わってくる痛みと喪失感。
焼け落ちていく病棟と、焦げたシーツの匂い。
涙が止まらず、叫ぶ自分。
そして……
『―――いい個性だね。君のも、貰おうか』
あの時聞こえた、僕を追い込んだ声。
あれの正体は、自分でも分かっていない。
だからこそ知りたい。ヒーローになってでも。
あれは、僕が戦わなくちゃならない相手だから。
あれを倒せなければ……
「僕の、家族の仇…が取れない…っ……!」
挟み込む力が、最高潮に達した時。
SMASH!!!!!!!!!
上空で衝撃音と、僕の方に伝わる振動が身体を揺さぶる。
「え―――」
バチン、と引き裂く音と共にロボットがこちら側に倒れ込む様な軋む音が聞こえると同時に、両足の換装をスラスターが取り付けられたものに変更する。吹き出た勢いが加速させて倒れ込む巨大ロボットを回避する。
思い切り地面に倒れ、土煙が周囲に舞散り衝撃波も飛んでくる。土煙と衝撃波で姿勢を崩し、思い切り地面に叩き付けられる。
「痛、たっ…!」
さっきまで過酷に使いすぎた両手両足の痛み、更に叩き付けられた時の痛みが重なってもう僕は動けなかった。
地面に大の字になって、空が見える。
晴天。何一つ曇りはなかった。澄んでいて、太陽に目が眩む程。
「…………はぁ」
少し息を吐き、義手で目元を隠す。
ちゃんと合格になったかな。正直、筆記は自信があってもそこが不安だ。
僕にとっての問題はそこだけ。後は、地道にコツコツとやるしかない。
この身体になったのも、この四肢と身体を受け入れたのも。
「おや、あんたも怪我してるねぇ」
「え?」
感情に浸っていると、突然話しかけられた。顔をあげると、そこには腰を低くして杖をつく初老の女性がいた。
「怪我してるみたいだね。はい、チユ〜!」
と、いきなり頬にキスされた。しかしそれによって僕の身体が妙に疲れと同時に癒されていく気がした。
「……おや?あんた、
「分かるんですか?」
「随分ボーイッシュだと思ったけど、回復能力が少し遅いね。女の子は皆そうだよ。男の子と違って、女の子は色んな別のとこで体力使ってるからねぇ……」
「は、はぁ…」
「随分男の子みたいな女の子だこと。ま、少ししたら動けるようになるから……その両手両足、ちゃんとメンテナンスしてから帰りなさいな。試験は終わってるけど、帰るまでがテストだからねぇ」
そう言って、初老の女性は去ってしまった。
「……」
暫く周囲を見渡し、一人酷い怪我の男性を見つけた。
緑色の癖っ毛が特徴的で、何より腕と足の色が変質していた。誰が見ても、痛々しいと思う。
だが、僕はそれ以上に……さっきの一撃が『彼』の仕業だと勘づいた。
あの強大な一撃の代償がその身体、とは。確かに見合わないものである。
座っていた様子から、立ち上がろうとする彼に対して接近し肩を背負う。
「あ……」
「大丈夫?ヒーローさん」
「え」
「足元で止めようと頑張ってたんだ。けど、止めれなかったから……君の一撃がなかったら、酷い事故が起きてたかもしれない」
そう言って、彼の顔を見つめる。
困惑しているような、驚愕された顔を浮かべている。
多分僕の腕や足、顔を見ているんだろう。
分かるさ。この身体は、この為体は……
「ごめんね、驚かせて。僕はこういう体で、こういう個性で成り立ってるから心配しなくていいよ。
僕は……
君と同じ、ヒーロー志望だ」
僕だけじゃない、誰かのお陰で成り立っている。
・悠機 永禾(ゆうき とわ)
首元、両腕、両足が義体で構成された主人公。
過去に病によって両手両足が不自由になっており、それらをある事故によって失い義体に変えた。
目元を隠す黒い前髪と、赤色の瞳が特徴的。
声が男の子の様な声音なのに、肉体は女の子とどうもチグハグの様子だが……?
・個性『機械肢』
肢体を義体に出来る。
ただし生身の肢体がある場合、それを書き換えるように義体が生えてくるので腕や足を欠損したような人でなければ使用できない。
永禾が作る義体は非常に高性能で、殆ど人の腕や足と変わらない程の精密性と機械であるが故の頑丈さ、激しい動きにでも軽い破損までに抑えられる耐久性を兼ね備えている。
永禾の姉の個性『信号操作』を使った義体は、人ならざる超感覚を兼ね備えた義体として未だに効果を発揮し続けている。
機械肢は人間の四肢だけでなく、動物や昆虫の四肢を代わりに生成することも出来る。ただし、それらを直感的に動かすセンスや義体の耐久力なども考えて想定以上の無理な使い方は出来ないようだ。