millsageのキャラが出てきますが時系列に関してはオリジナルて事でお目溢しを。
始まりは家の倉庫でギターを見つけたあの日。
暇を持て余して家の倉庫に何かないかと探検している時に偶然見つけた。少し埃っぽくてたくさんのなんなのかもわからないものが多く重なっている中で何故だかそれに無性に惹かれた。
その時の感情に任せてそれがなんなのか考えることもせずそれを持って父の元へと急いだ。無邪気に興味津々で父にギターを見せびらかしてこれは何!?と問いかける。
父はギターを見た瞬間に懐かしむような視線を向けて自分の手からギターを持ち上げた。そうして父は軽くギターを鳴らす。
ギターの響かせる振動が空気を揺らして鼓膜を震わせた。これまで感じたことのない高揚感に感情が揺さぶられる感覚を覚える、未知との遭遇。心の底から何かが弾けるような気がした。
これだと。
これに出会うために生まれたと、理由なんてない。
運命だとでもいうのだろう。
そうして取り憑かれたようにギターの練習にのめり込んでいくのに不思議はなかった。
父が昔バンドを組んでいたのもありよく練習に付き合ってくれていた。
見せてもらった父の昔のビデオ。バンドでギターを鳴らす姿に胸が躍って自分もステージに立ちたいと心の底から願って両親はきっと出来ると応援してくれた。
初めて自分だけのギターを買ってくれた時のことをよく覚えている。
本当に嬉しくてはしゃいでギターを抱いて寝てしまうくらいに心が躍った。学校で友達に自慢して放課後にみんなの前でよく演奏するのが楽しみで毎日が楽しい。
そんな日々の中気づけばバンドメンバーも集まっていた。初めてのバンド仲間、音楽で繋がった友達。
毎日が幸せだった。心の底から。
その日は雨だった。
初めてのバンドを組んでの演奏会。
自分がボーカルを務めるバンド。当然両親を呼んだ。この日のために練習を続けて2人にいいところを見せると意気込んで。
けれど両親は来なかった。
演奏会は止まらない。
残念に思ったけれどみんなと一緒にやり切った。
本当なら父さんと母さんが居てくれればと思ったけれどまだ次がある。その時にはいっぱいかっこいい姿を見せよう。
それが叶わないことを知ったのはそれからすぐだった。
飲酒運転による事故。
即死だったらしい。
事実を飲み込むこともできず全て灰色に染まった。
葬儀の時、祖父母や皆んなは必死に慰めてくれた。
君は悪くないと。ルールを破った身勝手な運転手のせいだと。
自分もそうだと、全部その運転手が悪いのだと……。けれど両親を演奏会に呼んだのは自分じゃないかと自責の念が苦しめてくる。
ギターを握ることも歌うことも怖くなって遠ざけた。
中学に上がっても後悔は完全には消えない。
あの日からバンド自体を遠ざけるようになった日からずっと胸に穴が空いたように何かが足りない日々。
そんな日々がずっと続いていて乾いた目をして世界を見る日々だった。友達はいた、たわいのない雑談は嫌いじゃなくてくだらない事で一喜一憂する事もあってでも何処か足りない大切なものが欠けている日々。
それが続いていく。
朝起きてご飯を食べて支度を整えて学校に向かう。
慣れた道のり。見知ったコンビニやスーパーを通って友達と合流する。
昨日見たテレビの話題で盛り上がってどんな番組のどんなシーンが良かったとか面白い芸人がいただとか、そんなよくある話題。一緒にやってるゲームの話。そんなありきたりの日常。
乾いた日々。
それでも構わない、そう思っていた。
けどあの日、あの音を聞いて止まっていた時間が動いた気がした。何気ない帰り道、聞き慣れた曲のピアノが聞こえて足を止める。父が昔やっていたバンドの曲だとすぐに気づいた。
最初にギターの音を聞いた時と同じ感覚を思い出す。
体が勝手にその音源に向かっていた。そこにはストリートピアノに座りながら周りに集まるオーディエンスと盛り上がるミント色のショートヘアをした同い年くらいの少女がいた。
ピアノを弾きながら周りの人々と楽しむ姿。
懐かしさを覚えて自分も混じって純粋にその音楽を楽しんでいた。不思議と口が動いて歌詞を口ずさむ。
周りに邪魔にならない程度に彼女の刻むリズムに合わせて口を動かして音に言葉を乗せていく。
満たされた瞬間だった。
あの日からずっと胸に空いていた穴が埋まるような感覚。やっぱり好きなんだと何処か暖かくて泣きそうになる。気づけば曲は終わって拍手が鳴り響いていた。
もう充分だと背を向けてその場を後にしようとする。
次に聞いた言葉で少し足を止めた。
「おーい!そこの可愛い男子!」
……気のせいだろう。そんな奴がいても自分じゃない。
関係ないなと判断して足早にさろうとする。
それを許さないというように先ほどまでピアノを弾いていた少女が駆け寄ってきて腕を掴んだ。
「おい!無視するなよ!」
「……人違いです」
聞く耳持たず、というように目を輝かせてこちらを見つめる少女。腕をガッツリ掴み絶対離さないという意志を感じる。面倒な人に捕まったとため息を漏らす。
簡単に逃がしてくれそうにないなと諦めた。
「いいや、私が用があるのはお前だ!」
「なんで」
「さっき歌ってたろ私のピアノに合わせて!」
確かにそうだけれどそれがどうして引き止められる理由になるのかわからない。圧が強くて若干怖い。
向こうはそんな事おかまいなしというような感じでグイグイくる。逃げたい切実に。
「……だったら何」
「お前の歌すごく良かった!私は沢海奏多!よくここでピアノ弾いてるんだ。なあもう一回一緒にやってくれよ」
これが彼女、奏多との出会いだった。
最初はその明るさが苦手で避けようとした。
でも。
あの感覚を忘れられなくて彼女がいるストリートピアノのある場所に足を運んでいる事が増えた。
最初は歌だけ。
いつからかギターも持っていくようになった。
久しぶりに楽しいと、欠けていた何かが埋まる感じがして世界が色づいて見えるその時間が好きになっていた。
苦手に感じていた奏多にもその感情は無くなって一緒にいて笑うことも多くなる。
懐かしくて本当の自分が戻った気がして。
けれど昔のように夢を見れない自分もいる。あの日の後悔が完全に消えたわけじゃない。何処かいつも引っかかる。
本当にこのまま続けていいのか?
そんな事を考えているのは奏多には直ぐにわかったらしい。いつも何処か本気になっていないと、ギターもボーカルも何処か一歩引いていて魂がないと。
人のことをしっかり見ている彼女がこの時だけは恨めしいと感じた。奏多はそれ以上深入りすることはなく過去について自分から話すこともなかった。
そんな煮え切らない日が続く中、いつからか奏多と会う日も減っていた。いつもの場所でピアノを弾いていたはずの彼女はいつからか姿を現さなくなった。
理由はわからない。
何かあったのか?
連絡先を交換していなかったのを少しだけ後悔した。
またつまらない日々に戻る。
彼女のおかげでまた1人でギターやボーカルの練習をすることが増えた。欠けている物は埋まらないまま。
彼女に会うまでそれでもいいと思っていた。
奏多と会ってまた歌ってギターを弾いて。
気づいたらそれが当たり前になって。
その楽しさを思い出して無くなってからそれに気づいた。
息が詰まりそうだった。
ある日の夕方。その日無性に何かを吐き出したくて半ば衝動に任せてギターを担いで外に出た。理性的ではないけれど本能に任せてひたすら足を動かして。
近くの広い公園に向かって走る。
夕方。
誰もいない広い公園でギターを鳴らしていた。
余計な雑念は捨てて内側にある感情を吐き出すように叫んで周りも気にせずにただ感情を吐き出しす。
時間なんて気にせずに今まで溜まっていた鬱憤を晴らすように自分の世界に入り込んでいた。
だから気づかなかった、誰かに見られてるなんて。
まあ今になって考えれば当たり前だろう。
気づいたのは満足いくまで音を鳴らしてギターをしまおうとした時だ。薄緑色の人形みたいに綺麗な子がこちらを見ていた。見知らぬ少女。
一瞬髪色から奏多を連想した。けれどそこにいたのは真逆のような雰囲気を持つ少女だ。
いつから見られていたんだろうという疑問。他人に見られていることすら気づかないほど自分の世界に入り浸っていたことに今更恥ずかしくなって少し顔が熱くなった。
早く帰ろうとギターをケースに押し込んでその場を去ろうとする。そこにもう1人の少女が来た。
「睦!どうしたのですの、いきなり」
薄めの水色の髪色に、三つ編みを織り交ぜたようなツーサイドアップ。お嬢様口調の少女。月ノ森女子学園の制服、容姿と合わせていい所の箱入り娘を感じさせる雰囲気。
離れたい。
奏多の時と同じようにやな予感がする。
その日は逃げた。
そうして逃げていく少年のギターケースを背負った背中を若葉睦と豊川祥子は見つめていた。
「……いい音だった」
無表情のまま呟く睦。
祥子はその様子に知り合いなのかと問う。
「睦?先ほどの方は知り合いですの?」
「知らない人」
キッパリと頭を軽く左右に揺らしてそう答える。
出会い。そう呼ぶには少々歪な始まりだった。
次の日。
放課後の帰り道、昨日弾いていた公園にまた昨日と同じ少女がいて目が合った。
風が2人の間に吹いて気まずい空気を強調して互いに沈黙が続く。
「……」
「……」
睦はじっと真央を見つめていた。
真央はどうすればいいか分からずたまらず声をかける。
睦は表情を変えずに短く答えた。
「えっと、昨日の人だよね……」
「……うん」
「……何かよう?」
違うだろうと自分で突っ込んだ。
でなくとも他に話題の振り方があるだろうと。別にコミュ症だとは思っていない…一応は。
この手の相手が今まで大していなかった。おまけにお嬢様学校の生徒。どんな話題を振ればいいかなんてわからない。また逃げたい無性に、いつも逃げてばかりだなと自分を卑下する。
そんな事などお構いなしに彼女は口を開いた。
「今日はギター弾かないの?」
何気ない一言。
体が固まった。
「……今日は乗り気じゃない」
適当に誤魔化す。
「そうなんだ……いい音だったのに」
残念そうに顔を下げて何やら考えてまた顔を上げた。
その目には期待の光が灯ってこっちを真っ直ぐ見据えている。
「……明日も来る?」
「……来たら、なに?」
「……また、聞きたい。あなたの音」
素直にそう言われると思わなくて少し恥ずかしい。
真っ直ぐにこっちを見つめる目にたじろいで一歩引いた。
次の日。
また、公園に彼女がいた。
無表情。瞳には期待の色。
少しだけならと一度家に帰ってギターを取りに行った。
戻っていなかったら別にそれでいい。あまり期待はしない、けれど彼女はそこにいた。
その姿が絵になるなとそんな感情を抱いている自分の頭を振って思考を切り替える。近づいていくと表情を変えないまま期待の瞳は変わらないでこっちを見ていた。
なんて話せばいいかわからなくて、そばに座ってただギターを鳴らして時間を過ごす。
彼女は静かに音を聞いていた。
奏多の時と違う静かで純粋に音階だけを楽しむ時間。
曲が終わってから彼女は一言。
「……やっぱりいい音、明日も来ていい?」
「……好きにして」
投げやりな言い方を家に帰って少し後悔したけれど次の日から彼女は本当に好きにした。
公園に行くといつも彼女は待っていてその隣に座ってギターを鳴らす。小さなコンサート会場。お互い会話は少なく音楽だけの繋がり、彼女もギターを持ってくるようになっても変わらず互いに言葉は少ないまま。不思議とそれに不満はなくてなんとなく彼女の言いたいことが伝わる気がしてそんな時間が日常になっていた。
「……名前」
「?」
「まだ言ってなかった。……若葉睦、貴方は?」
「……今更、七宮真央」
本当に今更だった。
互いに名前も知らないことなんて気にせずにこの時間が楽しければいいやと気にしていなかった。
おかしな関係なのだろう。けれど2人とも特別それをおかしいと思わず一緒に過ごしていく。
そんな時間がしばらく続いてそんなある日だった。
「改めまして、豊川祥子と申します。睦がいつもお世話になっておりますわ」
睦と会った初めての日にいたもう1人の少女。
睦が話したいことがあると言っていつもの公園に向かってそこに豊川祥子と名乗る少女が睦の隣に立っていた。
なんだろうと少し身構える。
次の一言で見ている世界がフリーズした。
「わたくし達とバンドをしてくださる?」
それが後のCRYCHICと名付ける彼女達との出会い。
かけがえのない居場所と感じる事になる大切な記憶。
始まりは偶然の出会い。思えば全てそうだった。
そして終わりもいつだって残酷で唐突だった。
その事を知っていたはずなのに……。
実は1話にまとめようとして書きたい描写詰め込んだら途中で1話じゃ終わらないなってなったなんて口が裂けても……。次回後半です。