マジカル★エクスプローラー ちょいゲス風味 作:名無しのエロゲユーザー
長い夢を見ていたような感覚で目を覚ますと、俺は知らない部屋のベッドの上だった。
「どこだ、ここ……?」
そう呟く声は聞きなれたものではなく、目の前に持ってきた手は見るからに健康で、点滴にも繋がれていない。
「多分、死んだんだよな、俺……」
俺は思うように動く身体に戸惑いつつもベッドから立ち上がり、自分がいる部屋を見まわした。まさかこんな現実的なところが天国や地獄ではあるまい。
当然のことながら俺が住んでいたマンションとは全く間取りが違う。どこかの一軒家の一部屋のようだ。恐らくこの体の持ち主の部屋だろう。
部屋の隅に姿見があるのを見つけ、自分の容姿を確認する。
顔は普通……よりは上だな。スポーツマンタイプの精悍な顔つきだ。
見た感じ、16,7歳ぐらいだろうか。身長はだいたい180センチで年の割には背が高い。しかしながら筋肉の付き方は良好。
速さと強さが両立出来る限界の体型だ。
「しかし、どこかで見た気がする顔なんだけど……何か手がかりは無いかな……」
物が乱雑におかれた勉強机は後回しにして、いったん整理されている本棚に目を向けた。
辞書に漫画、それからこれは……『サルでもわかる魔法書』? ゲームの攻略本か何かか?
気になったので手に取り、パラパラっとページをめくったところ、ゲームタイトルのようなものは見当たらず、単に「魔法/魔素とは」「魔法の発動の仕方」「初級魔法一覧」といったものが書かれている。
俺は『サルまほ』を一旦本棚に戻し、散らかっている勉強机に手掛かりを求めた。机があるってことは、教科書とか返却された答案の一つでもあるだろう。
「……っと、やっぱりあった」
赤ペンで多くのバツと『38』と書かれた答案の隅に、俺はこの体の持ち主の名前を見つけた。
「
あぁ、つまり、マジエクの世界の、モブキャラってこと―――
道理で見たことのあるような顔なわけだ。人生最後に遊んでいたゲームのキャラクターだ。
確かにあの顔を実写にしたらこうなるかもしれない。
三枚目で、MPが馬鹿デカいのに攻撃魔法も回復魔法も使えず、一応仲間にすることは出来るが、上位互換である美少女がいるから滅多に使われないキャラクター。
そして、それ以外はほとんど明らかになっていない。
それはそうだろう。なぜ美少女ゲーなのに男のキャラクターを深堀りしなければならないのか。好き好んで使わなければならないのか。
そのしわ寄せが全部俺に来ている。解せない。
その後、小一時間程度この家……もとい瀧音幸助に関する情報を集めた。
両親は一年前に死亡、父方祖父もすでに亡くなっている。母方親戚とは縁が切れていて、知っている唯一の血縁である父方祖母が痴呆により施設行き。保護者の責をおうことができない。
しわ、寄りすぎじゃない? どうしていつも俺は家族というものに縁が無いのか。
カレンダーと郵便物から察するに、今は『マジエク』の舞台となる学園入学前の春休みといったところだ。入学案内が無造作に机に投げ捨てられていた。
自分名義の預金通帳は見つけたが、祖母の入居費用と思しき金が出ていって、ほぼカラだ。当面の生活費ぐらいはあるが、両親が亡くなった時の保険金とか遺産とかはどうなったのだろうか。
捜したものの瀧音幸助のスマートフォンは見つからず、交友関係もわからない。
困った。半分詰んでいる。
「金策から始めなきゃいけないのか……。またママ活でもする? っていうか、入学金とか大丈夫なのか……?」
ママ活をするにしてもスマートフォンさえ無い。
というか、ゲームの通りならここは『和国』であり日本でさえないので、どこに行けば良いかもわからない。
途方に暮れかけたその時、玄関のチャイムが鳴った。
返事をしつつガラリと引き戸を開けると、訪問してきたのはとんでもない美人だった。
「はい、どちら様でしょうか……?」
「こんにちは。瀧音……幸助くんで良かったかしら?」
「……はい、そうです。それで、どちら様でしょうか?」
返事が一拍遅れた。本当は「多分、そうです」と言いたかった。
「初めまして。私はツクヨミ魔法学園、学園長。花邑毬乃です」
「学園、長……!?」
彼女は瀧音幸助同様に、マジエクに出てくるキャラクターだ。
基本的には仲間に出来ない、味方サイドのアンプレイヤブルキャラ。
ゲームだと確か『ツクヨミの魔女』と呼ばれていた。
実際に強さを見たことは無いが、キャラ同士の会話や『三会』との関係から、マジエクという作品での最強キャラクターランキングを作ったら間違いなく上から数えた方が早い一人と目されている。
「こんなところにどうして……」
「その様子だと、私のことはご存じかな?」
「……俺が受験した?ツクヨミ学園の学園長で、花邑龍炎氏の孫で、魔法協会の重役で、現・花邑グループの筆頭……とかですか?」
「必要なところは抑えられているわね。それで、ちょっと込み入った話があって……今からちょっと場所を移して話は出来るかな?」
「わかりました、大丈夫です」
彼女に促され、俺たちは近くのカフェに場所を移す。
2人ともコーヒーを注文し、手元に届いたところで会話を始めた。
「改めまして、瀧音幸助くん。突然の訪問でごめんなさい」
「いえ、お気になさらず。それより、この度はどのようなご用件でしょうか」
「……単刀直入に言います。瀧音幸助くん、貴方には、私の子どもになってもらいます」
「……ちょっと状況がよく呑み込めません。確かに、俺は天涯孤独に近い状態ですが、赤の他人である花邑学園長がどうして」
「実は、赤の他人ではないの。貴方のお母さんは、私の従姉。つまり貴方と私は血縁関係にあります。勝手に調べさせてもらって悪いとは思っているけど、お婆様が施設に入居された以上、法律に基づき誰かが貴方の後見をしなければならない状況。そこで私が手を挙げた、ということ」
そんな大仰な設定があったのにあんな恵まれない扱いをされていたなんて、瀧音幸助というのは本当に可哀そうな人間である。
今の自分でなければ笑っていただろう。クソが。
しかし、逆に言えば詰みかけていた状況から逆転することは可能そうだ。
ゲームでも花邑グループ、花邑財閥という単語はあちこちで見かけた。
このぱっと見で女子学生と言えそうな美魔女の庇護下にあれば、後の学園生活でも大いにアドバンテージとなるだろう。
瀧音幸助の母親が花邑家なら、今の俺は花邑龍炎の曾孫ということか。
それならあのバカげたMP量にも納得だ。
「子どもというと、俺が花邑毬乃さんの養子に入るということですか?」
「正確に言うと、私が貴方の未成年後見人になります。貴方さえ良ければ養子でも全然かまわないと思っているわ」
「……わかりました。後見人、よろしくお願いします」
養子はさすがに性急に過ぎるだろう。瀧音幸助の両親になんの思い入れも無いが、少なくとも今すぐは体裁が悪い。
それに正直、親と呼べるモノが今も昔もいなかったから、家族と言うのもよくわからない。
そもそも、今の俺の状態さえまだよくわかっていない。
死んで、生き返る?
転生?
転移?
胡蝶の夢?
元々の瀧音幸助はどこへ行った?
「……そうよね、まだ整理はつかないよね」
「すみません、急な話で」
「大丈夫よ。また来週、会いに来るわ。とりあえず連絡先、教えてもらえるかしら?」
「あ、いえ、スマートフォンを持っていなくて」
そう言うと、花邑毬乃はハッとした表情を作り眉を寄せ、俺に謝罪した。
「ごめんなさい……。そうよね、貴方の両親が魔族に殺されるときの叫び声を、電話で聞いたせいでトラウマになっているのはわかるわ……でも何かあったときに電話できる物があると違うから、できれば持っていてほしいの。万が一の時には私が駆けつけるわ」
マジかよ。瀧音幸助、ハードすぎる人生だな。
「あ、いや、お金が無いので節約でもありますし、そこまで気になさらなくても……」
「お金なら準備してあるわ。入学と当面の生活に必要なお金はそこから出しておいてくれるかな」
彼女はそう言うとカバンの中からドスンとお
「これが1週間分……?」
「少ないかもしれないけど、足りなくなったら追加するから全部使い切っていいわよ」
お金には少し困っていたから助かると言えば助かるが……改めて花邑家のスケールのデカさを感じる。
「それから―――改めて、貴方のご両親とお爺様の逝去にお悔やみ申し上げます。貴方のお母さんとはね、昔は仲が良かったの。花邑家を出ていっちゃったから心配はしていたのだけど……まさか……」
「お悔やみ、ありがとうございます。花邑学園長」
お礼は言うが、全く実感はわかない。正しく他人事なのだから仕方ない。
それにしても美人だな。
少しウェーブのかかった美しく長い髪、長いまつげ、透き通るような肌、豊満なスタイル、そして垂れ目のせいか幼い顔立ちながらも人妻特有の妖艶さ。
非実在性美人だ。
まぁ、俺の予想が正しければ
「学園長だなんて他人行儀じゃなく、毬乃って呼んで。もう、家族になるんだから」
「毬乃……さん?」
「お母さん、でも良いのよ?」
「いや、でも、確か娘さんがいらっしゃいましたよね。悪いですよ」
彼女は悪戯気に笑うが、こう見えて成人済みの娘がいる
まぁ、エロゲーである以上どのような見た目でも「成人」ではあるんだよな。
そして彼女自身も夫を亡くした未亡人である。『同病相憐れむ』と言うが、俺に対する感情もその辺りの背景から来ているのかもしれない。
「はつみには私から言っておくわ。―――ところで、春からはどこに住むの? 私としては、ウチに来て欲しいのだけれど、寮という選択肢もあるわ」
「少し考えさせてください。今の家は?」
「区画整理の対象になっているわよね? 申し訳ないけれど、必要なもの以外は処分させてもらうことになるわ」
悲しすぎだろう。
両親は殺され身寄りは無く、思い出があるであろう家まで潰されるだなんて。
コイツ、本編ではどんな顔で主人公に絡んでいたんだ。
まぁ、俺にとって必要なものや思い入れのあるものなんてほとんどないし、瀧音幸助の両親の位牌など捨てられないものは花邑家に置かせて貰えば良い。
寮暮らしは嫌だ。ベストはワンルームマンションでも借りてもらうことなんだが……さすがに厚かましいか。
「―――っと、良い時間になっちゃったわね。もう少しお話していたいのだけど、まだ仕事があって」
「お忙しいところありがとうございました、毬乃さん」
「スマートフォン買ったら、ここに連絡してくれる? 来週、また会いましょう。はつみにも会って欲しいから」
「わかりました」
「それから、次に会う時にはもう少し砕けた感じになってくれているとありがたいかな」
「努力します」
「じゃあね、幸助くん♪」
その辺の男なら確実にオトされるであろうウインクを一つし、彼女は俺に連絡先を渡すと伝票を手に取り颯爽と去っていった。
色々と考えなくちゃいけないことが多くなったけど……とりあえず、スマホでも買いにいくか。
私の推しは紫苑さん