マジカル★エクスプローラー ちょいゲス風味 作:名無しのエロゲユーザー
花邑毬乃学園長と
起きても相変わらず俺は瀧音幸助である。もう、認めざるを得ないだろう。
買い物の主目的はスマートフォンであるが、もう一つ、無くてはならないものがある。
「瀧音幸助といえば、馬鹿デカいストールだよな」
彼の主な攻撃手段は、身にまとったストールに魔力を流して相手をぶん殴ることである。
ゲームでは『第三の手』『第四の手』というスキルであった。
魔力の消費は半端ないものの、それなりのダメージを与えることが出来る。
そう、消費が半端ないのに『それなり』のダメージでしかないのだ。ベンチ入りしてしまうのも仕方ないと言える。
その代わり防御力は高かったので、壁役として使っていたプレーヤーも中にはいるだろう。
そもそもゲームにおける瀧音幸助の
器用さと魔力量が高いので、ゲーム中盤で解放される『研究所』に置いておくと魔法がエンチャントされた武器防具やアイテムを開発してくれるスピードと確率がアップするのだ。
だがこの先どうやって生きていくにも、強くなければ話にならない。
この世界がマジエクの世界であるとするならば、世界崩壊の危機さえあるのだ。放っておいても彼ら彼女らが世界を救ってくれるとは限らないし、俺自身が研究所暮らしなんてまっぴらだ。
強くなりたい。
柄にも無く、少しわくわくしている自分にふと気が付いた。
そうだ、この世界では、俺は俺の人生の主人公になれるかもしれない。
何者にもなれずに終わった前世をやり直すことが出来る。見ることが出来ずに終わったゲームのエンディングを見ることが出来るかもしれない。そして、その先も―――。
「さて、ストールはどうやって買うかな。確か魔道具扱いだった気がするけど」
購入したスマートフォンで検索しても10メートルを超えるストールなんて出てこない。自分で布を買って加工するしかなさそうだ。
魔力をエンチャントすることを考えれば専門店のようなところに行った方が良いだろう。
そう考えてスマホで検索して見つけた魔道具を扱うデパートのようなところへ行くと、布の専門店があった。
そこに居た女店員に用途と予算を説明すると「こちらならいかがでしょうか」と“アラクネ”の糸で織られたという生地を紹介された。
紅く染色されたそれは厚みがしっかりしている割に肌触りが良く、首に巻いても苦にならなさそうだ。
「ありがとうございます、これを下さい」
「10メートルで80万円になります。お支払いは?」
「現金で」
女店員はそれを聞くと俺の顔をまじまじと見つめた。差し詰め「こんな若い子が現金で高価な布を? 何のために?」といったところか。
さすがに声に出すほど不躾ではないらしく、粛々と会計をして、不審な目をした店員を背に俺はその店を去った。
このデパートはもしかしたらゲームにも出てくるあのデパートの系列かもしれないな。
スマホとストールを買ったらあれだけあった生活費も残金は数万円になってしまった。
もう少しデパートを見回るかと歩いていると、トレーニング器具の専門店がある。素振り用の木刀も欲しかったんだよな。
俺は何分か迷ったのち、鉄芯の入った木刀をレジに持っていき会計をした。1万円なり。
財布の中を見てみると、1週間の生活費としては十分以上に残っているものの、もう無駄遣いは出来ないことを確認する。
とりあえず何に使ったかは次に会った時にでも花邑毬乃さんに報告した方が良いだろう。
昼食を食べて家に帰ると、俺はまず昨日軽く流し読んだ『サルでもわかる魔法』という本をじっくり読んでみることにした。
・この世に生まれた生物には基本的に魔力が備わっている
・大気中にも魔力がある
・魔力を利用して起こす奇跡が魔法
・起こす奇跡に比例して魔力を消費する
・一般人と魔法使いの一番の違いは、この魔力量にある
小一時間ほど読んでみたが、以上のようなことが書いてあった。
次のステップとしては、魔力を感じることだろう。
俺は自室の中心で座禅、
前世の道場でしこたまやったから余裕かと思ったが、瀧音幸助の身体が固すぎてかなり窮屈になってしまった。
瀧音幸助は何かスポーツでもやっていたのか筋肉量は年相応以上にあるが、柔軟性が低いのが難点だ。
まぁ、慣れてくれば何とかなるだろう。
知られているように、座禅というのはただ目を瞑って座ることではない。精神修養の一環なのだ。
座禅における俺なりのポイントは、自分の“身体の音を聞く”ことである。自分の内に集中し、自分が何か、何で出来ているかを隅々まで意識する。
そして最終的には『心そこに無く、されど在り』という状態に至るのだ。
俺は家の内外の生活音をシャットアウトし、身体の内に意識を向ける。
足の先からかかと、ふくらはぎ、膝、腿、股関節、腰、腹、背、肩、腕、指、首、頭蓋。スキャンするように各部と対話する。
骨格の次は内臓だ。まず心臓の音に耳を澄ます。流れる血液を追うように自らの臓腑に意識を向ける。
これから先、お前たちは俺のものになるのだ。
俺が主人だ。裏切ることは許さない。
(……ん? 何だこれは……?)
体内を巡っていると、今まで感じたことのない感覚がある。
筋肉でも臓腑でもない。まるで血液の様に体中に満ちていて、エネルギーに溢れている。
まるで無限が体の中にあるような感覚。
なるほど、これが魔力か。
一旦ソレを知覚すると、身体の外にあるソレにも意識を向けられるようになる。ゲームでは『魔力探知』という単語があったが、つまりこういうことなのだろう。
自分と自分以外の境界線に意識を向けると、自分の内と外にある魔力の違いに気が付く。
外にあるのは、何色にも染められていないただの粒のようなもの。自分の内にあるのは、例えるなら色の付いた波といったところか。
物理学的に解釈すれば、粒も波も表裏のようなものだけどな。
俺はいったん目を開け、座禅を解く。
中々勉強になったな。
多分だけど、ゲームで言うところの『気配察知』スキルは理解できたかもしれない。
先ほど気づいたように、人から生まれる魔力というのは波である。
それには大きさや周期、俺から言わせてみればそれぞれの『色』があるはずだ。
今は未だ意識しなければ出来ないが、無意識のうちに『波』を認識出来るようになれば、即ち気配察知スキルになるのだろう。
ということは、『気配遮断』スキルは波を打ち消すことか。
「“ライト”」
自分の内側の波を外の世界に流してみると、やはりというか、思い描いたとおりの光の初級魔法が発動した。
『サルまほ』には「魔法使いでなくても魔力があれば使える初級魔法」と書かれていたが、無事に発動できて良かった。
俺は発動したそれを部屋の中のあちらこちらに飛ばし、魔法をコントロールする感覚を身に着けた。
「いやー、楽しいな。実際」
一通り光球を振り回した後ライトの魔法を消すと、思わず声に出てしまった。
ゲームはゲーム、現実は現実である。まだ現実と言えるかどうかピンと来ていないところはあるが、ゲームの仕様を現実に落とし込むというのは初めての体験だった。
魔力の存在を確認し、魔法の存在を確認。それから、訓練すればスキルを体得できるであろうという事も確認した。
じゃあ、次は木刀とストールを使って魔力付与の練習でもしてみようか。
何となく、この世界で生きていけそうな気がしてきた。
▼
それからの数日は、ひたすらマジカル&フィジカルの鍛錬を行った。
特に自身に
調べた限り、この世界には肉体的なレベルという概念は存在しない。一方でスキルにはレベルがあることが知られているようだ。
同じ回復術でも擦り傷程度しか治せないものと欠損さえ治せるのとは文字通りレベルが違うからな。
また、主にダンジョンで得られる
俺が本から得た知識によれば、魔素とは、平たく言えば経験値である。
魔物を倒すことで得られるそれを取り込むことで肉体的・精神的に成長するという……ちょっと待てよ。
魔素とは体内の魔力、つまり他人の
無理やり数値化すると、1秒でMPを1単位消費するとして、60秒×60分×10時間でMP量は36000単位。これが俺の限界だ。
1戦闘が10分だとして、60秒×10分で600単位。ずっと継続するならエンチャントは結構な魔力消費になる。
原作では聖女などでも瀧音幸助の半分以下のMP量だったから、育ち切った状態でもだいたい15000~20000単位が人類の上限といったところだろう。
現在の目標は24時間エンチャントを維持することである。魔素の吸収と鍛錬でどこまで伸ばせるか測った方が良いかもしれない。場合によってはドーピングアイテムを準備することになる。
そんなことを考えながら庭で素振りをしていると、玄関から人の入ってくる気配がした。
毬乃さんだ。
彼女が今日来ることは昨日の段階で連絡があったから分かっていた。
「こんにちは、毬乃さん」
「こんにちは、幸助くん。数日ぶりね。幸助くんはいつもこれをしているの?」
これとはストールにエンチャントを施し、身体強化をしながら素振りを行うことであろう。ちなみに春先とはいえ少し汗ばむので、ストールには氷のエンチャントを軽く施している。
「鍛錬を始めて魔力が切れるまでは、ですね」
「恐ろしいほどの魔力量と器用さね……私でさえここまでは……」
器用さを褒められたので、俺は「座りますか?」と笑いながらストールを椅子の形にして彼女に差し出した。彼女は白魚のような指でさらさらとストールを撫で、恐る恐るストールに腰かけた。
「ちょっとひんやりするけど、強度もばっちりね」
「ははっ。ありがとうございます。
俺が笑いながらそういうと、彼女はなぜか嬉しそうな顔をした。
「……どうかしました?」
「いえ、初めて幸助君の笑顔を見たから」
そう言われると少し照れてしまう。
花邑毬乃さんは、良い人なのだろう。ゲームでの設定とか関係なしにそう思ってしまう。
前世もこんな人と最初から家族であれば、俺も歪まなかったのかもしれない。
俺が素振りを止め縁側に腰かけると、彼女もストールから降りて縁側に腰かけた。
「でも、放出系魔法はからっきしで」
庭に向かって水系魔法の基礎である「ウォーターガン」を指先から発射すると、指先から生まれた水は本来の威力を発揮することなく、ちょろちょろと庭先を湿らせることになった。
原作の瀧音幸助は放出系魔法が苦手である。つまりこういうことだ。
「でも、やりようはあるんじゃない?」
「俺もそう思います。どうせなら、強くなってみたい」
「なれるわよ、幸助君なら。何と言っても、私の子どもなんだから」
「子どもって……」
「子どもは子どもよ。それで、春からの住居はどうする? 先日も言った通り、私としてはウチに来て欲しいのだけど」
「お申し出はありがたいんですけど……邪魔になるかもしれませんし」
「邪魔なんてこと、決してないわ! もう私と貴方は家族なんだから!」
強い口調で彼女は俺の発言を否定する。瀧音幸助のことを心から心配している様子が窺える。
「ありがとうございます。でも、ちょっと不安があるので……一人暮らしとかは出来ませんか。両親が亡くなってからやってきたので、ある程度の自炊は出来ると思います」
「寮じゃダメなの?」
「知らない人との共同生活はちょっとストレスが、ね……」
特に他意があるわけではない。前世がある俺からしたら年下の学生たちの中で生活するとボロが出そうなのと、女を呼ぶことを考えたらそちらの方が都合が良いからだ。
しかし俺がそういうと、彼女はショックを受け、俺を憐れむような顔をした。
「……ごめんなさい、あなたがいじめや迫害を受けていたことは知っていたのに。ちょっと無神経だったかもね」
「え?」
魔族に両親を殺されただけじゃなく、いじめや迫害までされていたのかよ。本当に可哀そうな奴だな、瀧音幸助という奴は。
まぁ、今の俺なんだけど。
「安心して! 学園には様々な種族の学生がいるけれど、ウチの生徒たちには決してそんなことをするような人はいないから! でもそういうことなら……いいでしょう、学園の近くにマンションを準備するわ!」
「え、いや、ありがとうございます……?」
「ちょうど完成して、これから入居者を募集するところだった物件があったわね……じゃあ、幸助くんの部屋は最上階の角部屋にして、ついでにマンションの名義も幸助くんにしておくから!」
「いやいやいやいや!」
「そうと決まれば早速引っ越しね! もう荷造りはある程度出来ているみたいだし、すぐにでも入居できるから!」
怖い! 意思決定の速さが怖い! さすが金持ちの権力者!
あっという間にレールが敷かれてしまった。そう望んだのは俺だけど。
「じゃあ、とりあえず移動しましょっか♪」
「……了解です」
荷物は後日毬乃さんが業者を呼んで運んでもらうことにし、俺たちは毬乃さんの車で移動することになった。
高校生でマンションの
それってなんていうゲームだよ。