マジカル★エクスプローラー ちょいゲス風味 作:名無しのエロゲユーザー
思いがけず高評価頂き本当にありがとうございます。
とりあえず1巻終わる頃にはゲス出来るはずなので!(錯乱)
頑張ります!
花邑家での初めて朝を迎えた。顔を洗って歯を磨きダイニングへ向かうと、既に着替え終わった毬乃さんが朝食の準備をしていた。
機密上の問題はあるだろうが、花邑家は家政婦やメイドを雇わないのだろうか。
いったい何足の
メイドなぁ。早めに
「おはようございます、毬乃さん」
「おはよう、こうちゃん♪ よく眠れたかしら?」
「はい」
「はつみとも、仲良くなったみたいじゃない?」
「はは……」
やけに含みのある言い方だったが、俺の中では毬乃さんが
どうやらはつみさんは朝が弱いらしく、トイレですれ違ったが意識はまだ夢の世界にあるようだった。
「今日はどうするの? 私はもう学園に出ちゃうけど、午後にはリュディちゃん達が来るし、昼過ぎには戻って来るわ」
「俺はどこかでトレーニングでもします。庭先を借りても?」
「もちろんいいわよ。あ、トレーニングといえば家から少し行ったところにウチの土地があるから、そこに行ってもいいわ」
「ありがとうございます」
「あと、昨日言ってたアイテムボックスと刀よ」
彼女はそれらを取り出すと、広いテーブルに置いた。
アイテムボックスは“箱”というより“袋”だ。紐が付いているので腰のベルトにでも吊るしておけば使いやすいだろう。
「ありがとうございます、毬乃さん」
「刀の銘は『
「おお……普通に嬉しいな……」
『月』と名の付く刀はゲームでも多く登場する。その多くが闇属性や光属性に適性があり、おそらくこの刀は『月』シリーズの中でも業物だろう。
ちなみに他に『花』『鳥』『風』シリーズもあり、ゲーム中盤で解放される『工房』で合成すると、察しの通り『花鳥風月』という高ランクの刀になる。
刀は装備できるキャラクターも多いので、その分種類が豊富なのだろう。アニメでもメジャーな日本人大好き武器だからな。
その分、銃などのマイナー武器が割を食っているという話もあるが。
その他『魔法雑貨店』『研究所』といった、攻略の進捗に応じて解放される施設も学園にはある。
「じゃあ私は出るけど、外で気軽に武器を出したりしないようにね。普段はそのアイテムボックスにでも保管しているといいわ」
「はい、わかりました。いってらっしゃい、毬乃さん」
「いってきます、こうちゃん♪」
食事を終えると一人になった俺は庭で準備体操をし、身体強化の魔法を使用する。
この状態で鍛錬をすると通常の何倍も効果があるのだ。
ならば「みんなやればいいのに」と思うかもしれないが、普通の人間は何時間も継続して身体強化魔法を使うことは出来ない。
せいぜい1戦闘、15分に満たない時間だけだろう。インターバルも相応に取らなければならない。
エンチャントが得意であり、その気になれば起きている時間くらい継続できる魔力量を持つ俺だけの特権だ。
能力に恵まれていない分、これくらいはハンデをもらってもいいじゃないか。
身体強化の次はストールへのエンチャントだ。
第三の手、第四の手で殴る、掴む、防御するという動作は俺の生命線であり、いざという時に「ストールが絡まって守れませんでした」では話にならない。
死んだら終わりなのだ。あんな苦しいこと二度と経験したくないし、させたくない。
エンチャントが出来たことを確認すると、昨日のうちに調べておいた少し遠めの公園に向かう。
目的の公園にはランニングコースがあり、平日の午前中などは人が少なめだという。
というのも、俺は外を走るときは基本的に氷のエンチャントをしつつ、自在に動かせるように訓練している。
バカでかい、うねうねと動くストールを巻いて、ものすごいスピードで走っているヤバい奴だ。
近寄りたくないし、近寄らせたくない。
つまり皇居ランナーよろしく街中を自由気ままに走ることは出来ないのだ。
必然的に人目につきづらいところで同じところをぐるぐると周らざるを得ないのだが、それでもすれ違う人々からは不審の目を向けられる。
そういう訳で、俺は午前中を地味(目立たないとは言っていない)な鍛錬にあてることにした。
そして目的はもう一つある。朝に毬乃さんが言っていた私有地……ゲーム通りなら、ここには
マジエク三強とも言われる、近接系最強のアタッカー。
“
▼
都心部における一般的な空き地、私有地のイメージはドラ○もんに出てくる、土管が置いてあるあの空き地だろう。
だが、ここは控えめに言っても新宿御苑くらいはある。金額に換算すると下手したら兆単位になりそうである広大なスペースを「ちょっとその辺の裏庭」程度の扱い。
花邑家の財力が怖い……が、ありがたく有用に使わせてもらおう。
そこは芝の生えた広いスペースがあり、森があり、川が流れ、高低差15メートルほどの滝まである。
俺が向かうのはその滝つぼだ。
滝つぼにいるであろう
間違いない、彼女だ。
探知されたことに気づいたのか、あるいは気配そのものを読まれたのか、目を閉じて滝に向き合っていた彼女がこちらへ振り返る。
長い黒髪を頭の高い位置でポニーテールにし、上は白い道着、下は黒い袴に身を包んでいる。背は俺より少し低い程度だから、170cmを超えるくらいだろうか。
女性にしてはかなり高い方だ。
「誰かな? ここは一応、私有地なんだが」
「すみません。持ち主側の人間なんです、先輩」
「君は……はじめまして、かな」
「はい、
「そうか。知っているようだが、
「最近知ったことなのですが、俺は花邑毬乃学園長の被後見人―――有体に言えば養子になります。実際の関係は、母の従妹が毬乃さんで、はつみさんとは
「そうなのか……。私を先輩と呼ぶということは、今年学園に入学するのかな?」
「はい、そうなります」
「うむ、そうか。よろしくな、瀧音」
彼女は腕を組み大きくうなずいて、握手のため俺に右手を差し出した。俺はそれに応じ、彼女に語り掛ける。
「はい。それで……先輩に2つほどお願いがあるのですが」
「ふふっ。2つか。君は見た目によらず、けっこう図々しいのだな。まだ初対面だぞ?」
「大したことじゃないですよ、先輩。1つ目ですが……俺もこの場所で訓練をしたいのですが、良いですか?」
「ああ、構わないぞ。と言うか、学園長の息子なら、むしろ私の方がお願いする立場になってしまうな」
ははは、と彼女は快活に笑う。この裏表のない性格と主人公や周囲に対する思慮深さが彼女の人気たる所以だ。
「俺の戦い方は、このストールを使うのです」
「ストールを……?」
「見ていてください」
俺はそう言うとストールに魔力を流し、第三、第四の手でシャドーボクシングを披露した。
「……と、それなりの広さが必要なんです」
「なるほど……ちなみにどれくらいの時間、付与はもつのだ?」
「とりあえず今は10時間くらいですね」
「……君の魔力量はものすごいな」
俺は「その代わり、放出系はコレですけどね」と言いながらウォーターガンをちょろちょろと
「瀧音は……その……」
「まぁ、いいハンデですよね」
水守雪音は言いづらそうにしているが、俺はあえて言い切るように胸を張った。
「ハンデ?」
「言うまでもなく放出系魔法が使えないことは不利です。だいたい近接系の戦士は身体強化魔法なんて当たり前に使えますから。相手によっては戦いにすらならないかもしれない」
「それはそうだろう。私だって使うことは間々あるしな」
「だからこそ、です。俺が勝てば、俺の魔法以外が優れていることの証明になる。それは戦術であるかもしれないし、何かのスキルかもしれないし、純粋な剣技であるかもしれない。戦術も、スキルも、剣技も、一朝一夕では身につかないものばかり。言い換えれば、正しく生きていたという証明」
「正しく、生きる……」
「そう……だからお願いの2つ目です、先輩」
俺はアイテムボックスから木刀を取り出す。
「一手、ご指南頂きたく」
▼ 水守雪音
首筋をぞわりと何かが駆け抜ける。視られている、な。
振り返ってみると季節外れのマフラー、それも馬鹿みたいにデカいのを付けた男子が現れた。聞けばこの春からの新入生で、あの学園長の養子、花邑龍炎の曾孫にあたるという。
話してみるとなかなか丁寧な奴で、いつの間にか気を許している私に気が付いた。
彼は初代聖女のように放出系魔法が使えないと言う。彼女はその代わり回復系の魔法に恩恵が与えられたが、彼には膨大な魔力量が恩恵として与えられた。
なるほど、すさまじい魔力量は血筋というわけか。
実のところ、私も戦闘になれば身体強化を行うことはある。しかしどうしてもすぐ魔力が息切れしてしまうのだ。
エンチャントや身体強化魔法は燃費が悪い、というのは半ば常識である。
彼はそれしか使えない。彼の体質のメリットとデメリットを比較するが、デメリットの方が大きいと私は判断する。
だが、彼はそれを「いいハンデだ」と笑った。
「だからこそ、です。俺が勝てば、俺の魔法以外が優れていることの証明になる。それは戦術であるかもしれないし、何かのスキルかもしれないし、純粋な剣技であるかもしれない。戦術も、スキルも、剣技も、一朝一夕では身につかないものばかり。言い換えれば、正しく生きていたという証明」
「正しく、生きる……」
それは抜け殻となった私への当てつけなのだろうか。
いや、違う。彼は真っ直ぐなのだ。
姉を亡くし目標を見失い、学園で立ちはだかる壁の前に立ち尽くしたままの私とは違うのだ。
「そう……だからお願いの2つ目です、先輩。一手、ご指南頂きたく」
剣を合わせてみると、彼が決して口だけの人間ではないという事はすぐにわかった。真面目に剣を振ってきた人間の太刀筋だ。
実戦慣れもしているのだろう。時折肩や重心、視線でかけてくるフェイントは、並みの人間なら大いに隙を晒すことになる。
だが、この程度ならまだ一本はくれてやれないな。
上段から振り下ろされた一撃をいなすと、したたかに彼の肩を薙刀の柄で打ち据える。
彼は木刀を落とすと、痛みに顔をゆがめ、片膝をついた。少し強く打ちすぎただろうか。
「まだやるか?」
「……もう一丁お願いします。次は、ストールも使います」
「良かろう」
彼は再度剣を握りしめ立ち上がると、ストールを伸ばし私に向かってくる。やられたばかりなのに積極的に向かってくるところを見ると、根性もあるようだ。
一旦距離を置いて間合いを図る。
私が接近しようと試みると抜け目なくストールで足や身体を拘束しようとしてくる。
普通の人間が相手なら魔力切れを狙って回避に専念するところだ。
だが彼は無尽蔵にも見える魔力量を誇っている。
一方まるで腕が4本あるかのようで中々に面倒くさいストールだが、剣との連携はまだまだのようだ。
私は短く「ふっ」と息を吐き彼の間合いに入り込み、くるりとその場で回転しつつストールと彼の木刀を同時に弾き上げた勢いで、隙を晒した彼の腹を薙刀の
「ぐぇっ」
「……ッ! 大丈夫か!?」
彼は「いつつつ……」と腹をさすりながら、再び膝をついた。
「すまん、少し力が入ってしまったようだ」
「いえ、大丈夫です。未熟な俺が悪いんで」
彼は私に心配させまいとしてか、脂汗を流しながらも気丈に立ち上がった。
「参りました、先輩」
「勉強になったか? それであればいいのだが……」
「はい、それはもう。ダメダメのダメダメですね、俺は」
「そこまで卑屈になることも無いだろう。剣筋は確かなものだし、見たところストールを使っての実戦は慣れていないようだ。時間の問題だろう」
「その時間が、惜しい」
「さっき、お前自身で『一朝一夕には身につかない』と言ったばかりじゃないか」
「……確かに。先輩、また後日、お願いしても良いですか」
「ああ、もちろん」
そう返答すると、彼は嬉しそうに笑った。
私には彼が眩しく見えた。