マジカル★エクスプローラー ちょいゲス風味 作:名無しのエロゲユーザー
やっぱり水守雪音は強かった。
わかってはいたけど、ちょっと悔しいな。
フェイントは全て見切られ、「通用するかも」と思える瞬間さえ無かった。
俺はバチボコに殴られたが、あっちはかすり傷一つない。もっと言えば汗一つかかせられなかった。
前世で積み上げた5年少々の剣の腕は
俺は水守雪音に礼を言い、家に戻った。
もちろん、戻る最中も身体強化とストールへのエンチャントを施しながらだ。
花邑家に戻るとシャワーを浴びて汗を流し、着替えて毬乃さんが用意してくれていたご飯を食べる。
はつみさんは学園に行ったのだろう。家には誰もいなかった。
風呂に入ったから改めて汗をかくというのもなんだし、来客が控えているから外出することも出来ない。
俺は広い庭に面した縁側で座禅を組むことにした。
体内の魔力を循環させつつ、それをストールに流す。
ストールの重さを感じなくなったら、徐々に自分の内側に入り込んでいく。
自分の魔力に意識を向けると、「自分」と「他」の境界線が浮かび上がってくる。
―――はたして魔力とは何だろうか。
俺が思うに、4つの力―――すなわち、「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」の現代物理学における支配的な4つ力の外にある、5つ目の力なんじゃないだろうか。
花邑はつみの研究内容である『時空魔法』のことを考えると、その5つ目の力はおそらく4次元以上の存在に由来するものだ。
なぜなら1次元のものは2次元に、2次元のものは3次元に干渉できないが、その逆は可能だからだ。
つまり魔力はこの世界にあって、この世界に無いものであるとも言える。いわば別次元からの“影”なのだろう。
別次元とこの世界をつなぐもの。
この世界にそんな
ダンジョンだ。
マジカル★エクスプローラーというゲームには、『ダンジョンとは何かを考えることは、死とは何かを考えることに等しい』という格言のようなものがあったはずだ。
なるほどね。
本来は「(エロゲーなのだから)そんなこと考えるだけ無駄」という意味なのだろうが、この世界の人間として正しく解釈するなら「人類の現存する技術で観測することは出来ない」ということか。
あくまで仮説にすぎないが、この辺の話ははつみさんや式部会の変態先輩とかが好きそうだな。あとダメダメ先生とか。
はやくダンジョンに潜ってみたいものだ。
―――ん?
外から魔力の揺らぎを感じたのでゆっくりと目を開けると、ちょうど毬乃さんが帰ってきたところだった。
「あら、お邪魔しちゃったかしら」
「いえ、ちょうどいいところでした」
毬乃さんに「おかえりなさい」と声をかけると、彼女は嬉しそうに「ただいまー♪」と強めのハグをしてきた。
夫の仏壇の前で抱いちゃうぞ、このやろう。何やかんやで受け入れてくれそうでもあるが。
「午前中は何してたの?」
「トレーニングと、
「あぁ、あそこに行ったのね。どうだった、彼女は?」
「めちゃくちゃ美人ですね。毬乃さんには一歩及びませんが」
「やだもう、こうちゃんったら♪」
本当は甲乙つけがたいと言いたいところだったが、お
ありがたいことに、この後は甲乙だけじゃなくて「丙」まで来るのだから。
縁側でしばらく毬乃さんとイチャついていると、玄関の前に何台かの黒いリムジンが停まった。
噂をすれば「丙」の到着だ。
リムジンから使用人らしきエルフたちがぞろぞろと降りてきて後部座席のドアを開けると、中から美しい金髪が特徴的な女の子―――リュディヴィーヌ・マリー=アンジュ・ド・ラ・トレーフル皇女が降りてきた。
彼女のすぐ後ろには先日の使用人―――帯剣したクラリスが守るように付き添っている。
毬乃さんは彼女を玄関までエスコートし、一行を応接間に通す。
俺は無言で毬乃さんの後に付き従った。
「改めましてごきげんよう、花邑毬乃学園長、そして瀧音幸助様」
リュディは毬乃さんと俺を順番に見つめる。
「ごきげんよう、リュディヴィーヌちゃん」
「ごきげんよう、リュディヴィーヌ殿下」
真面目に「ごきげんよう」なんて初めて言ったわ。
「リュディヴィーヌ・マリー=アンジュ・ド・ラ・トレーフルと申します。こちらは私のメイドです」
「クラリスとお呼びください」
「はい、クラリスさん。こちらこそよろしくお願いします」
俺が返答すると、リュディとクラリスは深く頭を下げた。
帯剣するメイド……トレーフルとはメイドの解釈の幅に違いがありそうだ。
せめてスカートの中に短剣とかにしておいてよ。
「瀧音様―――この度は私たちの命を救ってくださり、誠にありがとうございました。主従揃って厚く御礼申し上げます」
「頭をお上げください、殿下。私としては、出来ることをしたまでです」
「いえ、それでも、トレーフル皇国としては、何か瀧音様にお礼を差し上げなければと考えております。この後の話にもつながるのですが―――」
リュディは毬乃さんに視線を向けた。
「私たちを狙ったのは邪神教団で、取り逃した1名の足取りは追えていません」
「私もそこまでは聞いているわ」
「学園に入学してしまえば、私に対する攻撃はなりを潜める、と思っています。ですが……」
「完全に、とは言えないわね。学園の外に出ることだって多いし、残念だけど学園の中に内通者が出ないとも限らないわ」
まぁ、ゲーム知識では確実に内通者がいるけど。
「はい、そして大変申し上げにくいことなのですが、邪神教団の報復の対象者に、瀧音様も入っているものと思われます」
「ええ、毬乃さんからも言われています」
頷きつつ毬乃さんの方をちらりと見ると、彼女も頷きを俺に返す。
「実のところ、花邑家一族は元々邪神教団に目を付けられていた節があります。テロの場所があのホテルであったのも偶然ではないでしょう。そして花邑家に縁ある幸助さまがリュディヴィーヌ様をお助けされたことで、彼らの中で排除すべき対象の一番高いランクに幸助さまが入ってしまったものと思われます」
「そうね、私がトレーフル皇国側に聞きたかったことはその辺りなのよ。つまりさっきのお礼の話につながるということは、トレーフル皇国としてこうちゃんに何かしてくれるって理解でいいのかしら」
「はい、出来れば護衛を付けさせて頂きたいと考えています」
護衛かぁ……正直、勘弁してほしいな。
これから先、強くなるために様々なダンジョンに潜りたいと思っている。
中にはDLC限定だったダンジョンや、普通にプレイしていたら見つけられないようなダンジョンも混じっている。
何でエロゲに興味ないのにDLC入れてるんだって? あの女に入れられたんだよ。
それはさておいて、そんなダンジョンにわけのわからん男だか女だかを連れて行くなんてリスクが高すぎる。
「クラリスさん、護衛の話はありがたいと思いますが、正直に言えば遠慮したいところです」
「お待ちください、幸助さま。話にはまだ続きがあります」
「続き……?」
「その前に、こちらをご覧ください」
クラリスは懐からごてごてと装飾が施された手紙を取り出すと、そこから中身を取り出し、俺たちに差し出す。
■拝啓■
身も凍るような記録的な冬を越えた陽春の候、いかがお過ごしか。
余の末娘は萌えた草花に心揺さぶられたようで、今も元気に庭を走り回り、花々や小動物と戯れている。
どうやら末娘の振りまく笑顔は余のみならず城内全てに影響を及ぼすようだ。おかげで城内部はこれまでにない活気に満ちている。そのかわいさは神ですら嫉妬するであろう。
さて、話は変わる。先日は信じがたいことが起きた。まさか余の最愛の娘であるリュディを狙うとは。幸助殿には心から感謝申し上げる。犯人は我が手で血祭りにしてやった。
その間に聞けたことではあるが、どうやら学園内にスパイがいるらしい。ただし本当にそうかの裏がとれぬ。気をつけて欲しい。
気をつけて欲しいといえば我が末娘なのだが、最近好奇心が限界突破しているようで、幾多の物に興味を示すようになった。最近のお気に入りは魔法のようだ。まだ魔法を習うのは早いというのに、杖を持って魔力遊びをしている。不安だ、しかし期待も膨らむ。末娘は魔力の扱いが非常に上手い。これは将来大魔法使いになるであろう。ああ、皆にも杖を持った末娘を見せてやりたい。世界一可愛い、いつ求婚すべきか。
さて陽春のみぎり、どうかご自愛専一に。ますますのご活躍を祈る。
■敬具■
中身を知っているのだろうかとリュディの方を見るが、彼女は目が合っても「?」とした表情をしている。
ざっくりとした内容は知っているが、どのような文言で書かれているかは知らないのだろう。
俺もよくわからん。全部読めたのに。
唯一ゲーム知識として知っているのは、リュディはこう見えて三姉妹の真ん中であり、他国に嫁いだ姉(ゲーム未登場)と、幼い妹がいるということだ。
そして皇帝陛下は一番下の娘にお熱らしい。
「……つまり?」
「陛下はこうお考えになりました。これから先、リュディヴィーヌ様と幸助様のお二人が狙われるのであれば、いっそのこと二人をまとめておいておけば楽なのではないかと」
「まさか……」
「同じ屋根の下で暮らしてもらおうかと」
ちょっと待てぃ!
毬乃さんは手を頬に当てながら「あらあら」みたいな顔をしているし、リュディは至極真剣な顔だ。
<え? これ何や? わしがおかしいんか?>
<こんなもんゲームとかラノベの話やないか>
<あの女に聞いたことあんぞ。2010年代半ばに流行ったラノベで、落第した騎士候補生が皇女様と同居する話>
<アレな。魔力量がめちゃくちゃ少なくて主人公が留年するやつな>
<まだ留年してないとこと、魔力量が少ないとこは
<まだってなんや! 留年なんかせんど!>
頭を振って脳内の関西人2人を追い出し、リュディに確認する。
「―――リュディヴィーヌ殿下は、本当にそれでよろしいのですか?」
「幸助さまは信頼できる方だし、合理的でしょう」
そんな自信満々に言い切られてしまうと……え、本当に? 俺、わりと肉食系だよ?
困った顔で毬乃さんの方を見ると、彼女は「任せて」と言わんばかりに自分の胸を叩いた。ぽよん。
「こうちゃんの心配はわかるわ」
そうでしょうとも。
「二人とも、同棲するのに呼び方が固すぎるわ」
「なら私のことはリュディでいいわ。だから私も幸助って呼ぶわね」
ちょっと待てぃ!
呼び方の話はしとらんのよ誰も!
「ちょっと待って、毬乃さん。俺がマンションに入るって話は!?」
「4LDKもあるんだから、2人ぐらい増えても余裕じゃない」
「ぐっ……」
「それに、身の回りの世話はクラリスがやってくれるわ。そういう意味でも安心じゃないかしら」
リュディが毬乃さんに謎の援護射撃をする。
「せめて! せめて隣の部屋で! 新築なんだから部屋は空いてるでしょ!? さすがに年頃の男女が同じ部屋はまずいって! 誰も止めねぇのかよ!」
「陛下が望まれたことですので」
「そぉぉぉだよねぇぇぇぇ! 最高権力者が言ってるんだもんねぇぇぇぇぇぇ!」
やっぱりこの世界、変だよ!!