マジカル★エクスプローラー ちょいゲス風味 作:名無しのエロゲユーザー
新築6階建て、オートロック、宅配ボックス付き、地下立体駐車場、24時間ゴミ出しが出来る、コンシェルジュ付きのマンションの最上階4LDK角部屋。
いえーい、せれぶだー。
1階はエントランス、コンシェルジュ、住民が来客を迎えるための応接スペースがあり、さらには小型のジムまで設置されている。
2階と3階は単身向け、4階と5階はファミリー向けのようだ。最上階は4つの居室しか無いが、それぞれがデカい。
どう見ても10億単位ですね。本当にありがとうございました。
軽く現実逃避をしながら一歩中に足を踏み入れると、ラグジュアリーな家具がお出迎えしてくれる。
4LDKのうち3つの部屋はがらんどうだが、実家から送った荷物や家具が置かれている部屋が俺の部屋のようで、パソコンやモニターも置けるような勉強机と、なぜだかキングサイズのベッドが配置されていた。
これでリュディを美味しく頂いてねってことかな。
キングサイズのベッドや机を置いても、スペースにはまだ余裕がある。ウォークインクローゼットもある。
リビングを見てみよう。
軽くパーティーが開けそうな広さのリビングは天井が高く、70インチはありそうな液晶テレビ、革張りのソファーが設置されている。
金持ちがバスローブ着て猫とか撫でてそう。
窓の外を見るとベランダと言うよりはむしろバルコニーがそこに控えている。
もちろん屋根が付いているので雨の日でも安心だ。
リビングに併設されている対面型キッチンは、それだけで人が住めそうなスペースがある。
冷蔵庫の中を見てみると、既に食材が入れられていて、すぐにでも暮らしていくことが可能だ。
浴室と洗面所は、明らかに一人で暮らすことを想定していない広さだ。3,4人で入っても十分に使えるだろう。
ざっとこんなところだ。
小市民の俺は存分にビビり倒しているが、他国の皇族を迎えるとなればこれでも不足気味なのかもしれないと思うと、少しはマシか……マシか?
ちなみに新規入居の募集は早々に取り下げられている。入居者は花邑毬乃の審査と言う名の気まぐれで決定されるのだろう。
毬乃さんやはつみさんが隣の家に引っ越してきても俺は驚かない。
間取りの確認を終えて荷解きをしていると、玄関のチャイムが鳴った。
余談だがチャイムまで高級感にあふれている。
「はい、瀧音です」
『……クラリスです』
「あぁ、今開けますね」
どうやら同居人御一行様が到着なされたようである。
ドアを開けると、リュディとクラリスさんを先頭にした大名行列がマンションの廊下にぞろりと揃っていた。
「幸助、着いたわよ」
「殿下、最後の確認です。本当にいいんですね?」
「だからそんな堅苦しい呼び方じゃなくて『リュディ』でいいって言ってるじゃない。貴方のことは、信頼してるから……」
「それならいい……いや、よくは無いけど……もう何かどうでもいいや」
「何よ、失礼ね。じゃ、入りまーす」
彼女は俺を押し退けるように家に入ると、従っていた人たちもまたぞろぞろと荷物を持って侵入してくる。
俺は彼女たちの邪魔にならないようにソファーに腰かけ、その光景を眺めていた。
「瀧音様」
「クラリスさん」
今日の彼女は私服に身を包んでいる。ショートデニムと薄黄緑色のセーターが非常にバランスよく、彼女のよく鍛えられた長い手足を強調している。
「これからお世話になります」
「いえ、それを言うのはどちらかと言うと俺の方で……」
「それで、お嬢様のお部屋はどちらを使えばよろしいでしょうか」
「空いているところならどこでも良いと思いますよ。俺はこっちの部屋なんで」
「では、私とリュディヴィーヌ様はその隣室をいただきますね」
「部屋は空いているのですから、リュディとクラリスさんは別々にしても良いのでは?」
「いえ、この方が“間違い”が起きないかと」
彼女は少しジト目で俺の方を見る。
やだなぁもう。俺は同意の上でしかヤらないから。
俺は「まぁ、それもそうですね」と当たり障りなく返答しておく。
そう思うなら最初からお前らの国王を止めればいいじゃん、というのは心の副音声だ。
「それと、リュディヴィーヌ様や瀧音様のお世話をするメイドたちの居室として、毬乃様にお願いして下のフロア、5階を全て押さえさせていただきました」
何十人いるんだよ……でもまぁ、24時間交替勤務で休暇を取るならそれくらいは要るのか。
「了解です。ちなみにこの部屋の鍵は5本預けられています。俺とリュディ、クラリスさん、メイドの方たち用で4本、残りは予備という事で?」
「はい、それで構いません」
「あとはそうですね……生活する上での細かいルールはリュディも交えておいおい決めましょう」
「はい、お願いします。ところで……キッチンはすぐにでも使える様子。お茶を入れますので、荷物を整理する間、瀧音様とリュディヴィーヌ様はバルコニーでおくつろぎください」
「ありがとうございます」
タイミングよくリュディがひょっこり顔を出したので、俺は彼女を誘ってバルコニーで休むことにした。
「お疲れ様、リュディ」
「幸助もお疲れ様」
クラリスさんがティーポットからカップに紅茶を注ぐと、ふわりと紅茶の香りが広がった。
飲まなくてもわかる、高いやつだ。
……なんか、前もこんなことあったな。
俺とリュディは揃って口を付ける。
「美味しいです、クラリスさん」
「トレーフルから持ってきた茶葉です。お口にあったなら幸いです」
クラリスさんはそう言うとポットを置いて荷解き作業に戻っていったので、バルコニーには俺とリュディの二人きりになった。
初春の微かな陽気がバルコニーを包み込み、時折吹き込んでくる柔らかい風がリュディの美しい髪をなびかせる。
「クラリスさんも元気になって良かった。リュディも傷は残っていないみたいだし」
「幸助のおかげよ。……その、本当に、心から感謝してるから」
リュディは頬を少し赤く染めながらこちらを上目遣いでチラチラと見ている。
あの時、多少格好つけたことは認めるが、効果があったようで何よりだ。
「お礼は受け取った、こういう形でね」
俺はティーカップを目線の高さまで持ち上げ、見せつけた。
「もう……ありがと」
「これからよろしくな、リュディ」
「うん、幸助♪」
▼
さて、マジカルエクスプローラーというゲームでは、1年は約100ターン、つまり1ターン当たり3日程度である。
そしてゲーム開始の日である入学式まで、まだ1週間強の時間がある。つまり3ターン程度あるという事だ。
この時間を使って、俺は『心眼』スキルの習得に励むことにした。
心眼スキルとはゲーム内で『命中率増加』『会心率増加』『回避率増加』という性能を持つ、アタッカーには人権レベルのスキルである。
それの一番簡単な方法は、心眼スキル持ちのキャラクターと合同でトレーニングすることで、期間もおよそ3ターン程度で習得できる、最強のコスパを持つスキルなのだ。
問題と言えば「そもそも心眼スキルを持っているキャラクターが少ない」ということだろうが、そこは神様・仏様・水守雪音様である。彼女は貴重な心眼スキル持ちなのだ。
思い立ったが吉日。
ということで俺は例の滝のある修行場を訪れていた。
「こんにちは、先輩」
「瀧音か。精が出るな」
想定していた通り、彼女は滝の前で薙刀を使い、型の稽古をしていた。
すらりと長い手足を最大限に活用してリーチのある薙刀を振り回す姿は一種の神々しさがあり、まるで儀式で使う奉納の演武にも見える。
「先輩もじゃないですか。それで、今日はちょっと先輩に聞きたいことがあって」
「なんだ?」
「スキルってどうやったら覚えられるんですかね」
彼女は顎に手を当て、少し考えながら返答した。
「スキルか……。適正にもよるだろうが、一般的にはそのスキルを心から欲しいと思った時に発露すると聞いたな」
「心から欲しいと思った時……?」
「うむ。例えばピンチになって誰かを助けたいとき、相手を倒したいとき、とかだな」
「先輩にもそういった経験が?」
「まぁ、後になって思えば、ということもある。一皮むける体験に近いだろうか。瀧音もあるだろう? ある日、上手く剣を振れるようになっていて『あれ?』と思ったときが」
「あぁ、確かに」
「瀧音は、具体的にはどんなスキルが欲しいんだ?」
「心眼スキルが欲しくて」
水守雪音はそのスキルの名前を聞くと、にこにこと笑顔を作った。
「なら、私も役に立てそうだな」
「役に立つだなんて……ぜひ、ご教授ください」
「よし、わかった。じゃあ早速だが瀧音……脱げ」
ははは、雪音は面白いことを言うなあ。
「まさかとは思いますが、今、ここで、貴女の前で、服を脱げだなんて言ったりしていないですよね」
「そう言ったつもりだが?」
「なにゆえ?」
「滝に打たれるのに服を着たままだとダメだろう?」
彼女は「何を当たり前のことを」といった顔で俺を見ているたが、ハッとした顔で何かに気づいたようだった。
「すまん、そうだったな」
「ははは。そうですよ。先輩」
「安心しろ、私も一緒に打たれてやるから」
「違えよ!」
▼ 水守雪音
一流の剣士、と言われて私が一番最初に思い浮かべるのは、亡くなった姉である。
彼女は
私が薙刀を持っているのは「好きだから」などではない。
刀を持つと決して私が姉にかなうことはないと思い知らされ、両親には姉と比較され勝手に落ち込まれるから嫌だったのだ。
『雪音には才能があるわ。私なんかより、とても大きな』
そんな姉からの慰めさえ、私は嫌いだった。
そのことを言うと彼女は悲しそうな顔を作り、『私は雪音の才能を信じているから』と繰り返すのだった。
そして彼女は永遠に私の手の届かぬ所へ逝ってしまった。
そんな私の前に、再び才に溢れると感じる剣士が現れた。
モニカ・メルツェーデス・フォン・メビウス生徒会長。
そして、目の前の年下の男の子。
モニカ会長はツクヨミ魔法学園で最強で、歴代最高の生徒会長と言っていいだろう。その評価はおそらく学園に通うものならば共通で持っているはずだ。
だがまだ入学してさえいない、この男の子はいったい何なのだろうか。
花邑家の人間だから、と言われればそうなのだろう。
彼が「心眼スキルが欲しい」と言うので、私が会得した時の様に滝に打たせてみた。
一か月か、二か月か、それくらい続ければ
三日。
彼が会得にかかった時間である。
彼は「魔力を薄く広く延ばしていく感覚で、目で見ず眼で見るって感じですね」などと軽くのたまっているが、その境地に達するまで私がどれほどの時間を費やしたと思っているのか。
恐ろしい。
彼は早々にスキルを手に入れると、基礎訓練にその後の時間を費やした。
常に身体強化をしながらストールにエンチャントし、走り、振り、鍛える。
日に日に走る距離が増えているのも驚きだが、一番特筆すべきなのは彼の素振りだ。
振り上げるのに5秒かけ、振り下ろすのに同じだけの時間をかける。
まるで細胞一つ一つに魔力をしみこませるかのように、筋繊維一つ一つと対話するかのように、振る。体力が尽きるまで、振る。
見るべき人が見れば、日ごとに彼の体の動きが最適化されていっているのがわかるだろう。
今立ち会えば、先日と同じように私が勝つ。
しかしその時、きっと私は汗だくで這いつくばり、先輩としての威厳を保てる自信は無い。
彼はものすごい速さで私の背中を追ってきている。
私はまだ、姉の陰で立ち尽くしたままだ。
悔しい。