『ありふれた職業で世界最強 ―空間を越える黄金の精神―』   作:武藤 桜

1 / 5
とりあえず投稿します良かったらコメントお願いします。


プロローグ 奇妙な冒険の果てに

朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中を淡いオレンジ色に染めていた。

 

 南雲ハジメは、ベッドの上で目を覚ました。

 

「……朝か」

 

 寝起きの気怠さを感じながら上体を起こし、枕元の時計を確認する。いつもと変わらない時間。いつもと変わらない朝。

 

 少なくとも、表面上はそうだった。

 

 制服に着替え、洗面所で顔を洗う。鏡に映った自分の顔を眺めながら、ハジメはふと、窓の外へと視線を向けた。

 

 今日も一日が始まる。

 

 高校に通い、授業を受け、クラスメイトと顔を合わせ、家に帰る。そんな当たり前の日常が、これからも続いていく。

 

 ――本当に、そうだろうか。

 

「……いや、考えすぎか」

 

 小さく息を吐き、ハジメは鞄を手に取った。

 

 自分は昔から、妙なことに縁がある。

 

 いや、正確には、妙なことに巻き込まれる人生を送ってきたのだ。

 

 始まりは、中学二年生の頃だった。

 

 *

 

 杜王町。

 

 海沿いに位置する、どこにでもあるような地方都市。

 

 だが、南雲ハジメにとって、その町は決して普通の場所ではなかった。

 

 人間の精神が具現化したような謎の存在。常識では説明できない能力。そして、それらを巡って繰り広げられる、一般人には知られてはならない戦い。

 

 すべては、あの弓と矢から始まった。

 

 虹村形兆が所持していた弓と矢を、音石明が強奪した事件。

 

 音石によってスタンド能力を発現させられたハジメは、否応なく杜王町の裏側へと足を踏み入れることになった。

 

 自分の身に何が起きたのかも分からない。

 

 目の前に現れた異形の人型。自分の意思に呼応するように動く、もう一人の自分とも呼べる存在。

 

 最初は恐怖しかなかった。

 

 だが、東方仗助や広瀬康一、虹村億泰といった仲間たちとの出会いが、ハジメの運命を変えた。

 

 仗助のまっすぐな正義感。

 

 億泰の単純さの裏にある情の深さ。

 

 康一の、いざというときには誰よりも勇敢になれる強さ。

 

 彼らと共に事件を追い、敵と戦い、時には命の危機に瀕しながら、ハジメは学んでいった。

 

 スタンドとは何か。

 

 力を持つことの意味とは何か。

 

 そして、どれほど理不尽な状況でも、自分の意志を曲げずに立ち向かう人間がいるということを。

 

 杜王町を騒がせた数々の事件。

 

 その果てに待っていた、平穏な日常の裏側に潜む殺意。

 

 忘れられるはずがなかった。

 

 忘れてしまえるほど、軽い経験でもなかった。

 

 それでも、ハジメは前へ進んだ。

 

 あの町で過ごした日々は、恐怖だけでできていたわけではない。

 

 くだらないことで笑い合った時間もあった。仲間たちと過ごした何気ない放課後もあった。

 

 そして何より、自分が一人ではないと知ることができた。

 

 それは、ハジメにとって何物にも代えがたい財産だった。

 

 *

 

 それから二年。

 

 ハジメは広瀬康一と共にイタリアへ渡った。

 

 きっかけは、康一が空条承太郎から依頼された調査だった。

 

 その旅先で二人が出会ったのは、ジョルノ・ジョバァーナという一人の少年だった。

 

 そして、その出会いは新たな戦いの始まりとなった。

 

 ギャング組織パッショーネ。

 

 その内部で繰り広げられる権力争い。仲間を守るために組織へ反旗を翻したブローノ・ブチャラティ。そして、自らの夢を実現するために進み続けるジョルノ。

 

 ハジメは、再び命懸けの戦いに身を投じた。

 

 敵は杜王町で遭遇した者たちとは違う。

 

 能力の性質も、戦いの規模も、覚悟の重さも違っていた。

 

 相手を倒すだけでは終わらない。

 

 一瞬の判断が仲間の生死を分け、ほんのわずかな油断が致命傷につながる。

 

 その中で、ハジメは自分自身のスタンド能力を磨き上げていった。

 

 そして、ボスとの決戦。

 

 運命さえもねじ伏せようとする力を前に、彼らは何度も絶望しかけた。

 

 それでも、ジョルノたちは諦めなかった。

 

 仲間の想いを受け継ぎ、倒れた者たちの覚悟を背負い、最後まで前へ進んだ。

 

 その姿を、ハジメは決して忘れないだろう。

 

 康一は戦いを終え、日本へ帰国した。

 

 だが、ハジメはイタリアに残る道を選んだ。

 

 自分の意思で選んだ道だった。

 

 あの戦いを経て出会った人々。共に死線を越えた仲間たち。彼らと過ごした時間は、ハジメにとってかけがえのないものになっていた。

 

 ジョルノ・ジョバァーナ。

 

 ブローノ・ブチャラティ。

 

 レオーネ・アバッキオ。

 

 グイード・ミスタ。

 

 ナランチャ・ギルガ。

 

 パンナコッタ・フーゴ。

 

 そして、戦いの中で出会い、別れた数え切れない人々。

 

 彼らとの日々があったからこそ、今の自分がいる。

 

 そう、ハジメは思っていた。

 

 *

 

「……懐かしいな」

 

 通学路を歩きながら、ハジメは小さくつぶやいた。

 

 あれから、いくつもの季節が過ぎた。

 

 杜王町での冒険も、イタリアでの死闘も、今となっては過去の出来事だ。

 

 もちろん、忘れたわけではない。

 

 むしろ、忘れられるはずがなかった。

 

 あの経験があったからこそ、ハジメは多少のことでは動じなくなった。

 

 目の前で奇妙なことが起きても、まずは状況を確認する。

 

 理解できない敵に遭遇しても、すぐに諦めたりはしない。

 

 そして、自分の手が届く場所に守りたいものがあるなら、できる限りのことをする。

 

 それが、彼の生き方になっていた。

 

「まあ、だからって、また面倒事に巻き込まれたいわけじゃないんだけどな」

 

 苦笑しながら、ハジメは歩を進めた。

 

 今度こそ、普通の高校生活を送りたい。

 

 授業を受け、友人と話し、平穏な毎日を過ごす。

 

 そんな生活に、少しばかり憧れていたのだ。

 

 杜王町の仲間たちも、イタリアの仲間たちも、それぞれの場所で生きている。

 

 いつかまた会える日が来るかもしれない。

 

 そのときには、昔話に花を咲かせながら、笑って過ごせたらいい。

 

 ハジメはそんなことを考えながら、学校への道を歩いていた。

 

 ――その日が、自分の人生を根底から変える一日になるとも知らずに。

 

 *

 

 教室に入ると、いつも通りの光景が広がっていた。

 

 クラスメイトたちの談笑。

 

 机を動かす音。

 

 窓から差し込む朝の光。

 

 その中に、南雲ハジメという一人の高校生がいる。

 

 彼は自分の席へ向かい、鞄を置いた。

 

「おはよう、ハジメ」

 

 声をかけてきたのは、クラスメイトの一人だった。

 

「ああ、おはよう」

 

 短く返事をし、椅子に座る。

 

 その何気ないやり取りに、ハジメは少しだけ安堵した。

 

 ここには弓も矢もない。

 

 ギャングの抗争もなければ、スタンド使いたちの命懸けの戦いもない。

 

 少なくとも、今は。

 

 やがて担任教師が教室へ入ってきた。

 

 生徒たちが席に着き、朝のホームルームが始まる。

 

 いつも通りの一日。

 

 そのはずだった。

 

 教師が口を開き、連絡事項を伝えようとした、その瞬間。

 

 教室の床に、見たこともない紋様が浮かび上がった。

 

「……あ?」

 

 ハジメの眉が動く。

 

 光り輝く幾何学模様。

 

 床一面に広がる、魔法陣のようなもの。

 

 クラスメイトたちが困惑の声を上げる。

 

「な、何だこれ!?」

 

「床が光ってる!?」

 

「先生、これ何ですか!?」

 

 騒然とする教室。

 

 ハジメは反射的に立ち上がった。

 

 足元の光を見つめ、周囲の様子を確認する。

 

 スタンド攻撃か?

 

 いや、違う。

 

 少なくとも、自分が知る能力のどれとも一致しない。

 

 しかも、これは自分一人を狙ったものではない。

 

 教室全体を、いや――クラスそのものを包み込もうとしている。

 

「おい、全員! 動くな!」

 

 ハジメが声を張り上げた。

 

 だが、遅かった。

 

 光が爆発的に膨れ上がり、視界を白く塗り潰す。

 

 身体が浮き上がるような感覚。

 

 耳鳴り。

 

 天地がひっくり返るような浮遊感。

 

 ハジメは咄嗟に机へ手を伸ばしたが、指先が触れる直前、机そのものが光の中へと溶けていった。

 

「クソッ……!」

 

 スタンドを発現させようとする。

 

 しかし、能力を使うよりも早く、世界そのものが遠ざかっていく。

 

 最後に見えたのは、驚愕に目を見開くクラスメイトたちの姿だった。

 

 仗助。

 

 康一。

 

 ジョルノ。

 

 イタリアで共に戦った仲間たち。

 

 脳裏に浮かんだ顔は、どれも遠い場所にいる。

 

 ここで自分が消えたら、あいつらに何も伝えられない。

 

 そんな思いが一瞬だけ胸をよぎった。

 

 だが、次の瞬間。

 

 南雲ハジメの意識は、完全な白に呑み込まれた。

 

 こうして、一人のスタンド使いの新たな冒険が始まった。

 

 それは、杜王町の奇妙な事件とも、イタリアの黄金の風とも異なる物語。

 

 神を名乗る者の気まぐれによって異世界へ召喚された少年が、やがて奈落へ落ち、絶望の底から這い上がる物語である。

 

 そして、その少年の手には――空間を切り取り、別の空間と入れ替える力があった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。