『ありふれた職業で世界最強 ―空間を越える黄金の精神―』 作:武藤 桜
ライセン峡谷を抜けたハジメたちは、シアとその家族を伴い、樹海へと向かっていた。
鬱蒼と茂る木々の間を進んでいると、突然、周囲の茂みから武装した亜人族たちが姿を現した。
「止まれ! 何者だ!」
弓や槍を構えた守備隊が、ハジメたちを取り囲む。
シアの耳がぴくりと動いた。
「樹海の守備隊……!」
「シア・ハウリアか。追放されたお前が、何故ここへ戻ってきた?」
守備隊の男が険しい視線を向ける。
ハジメは一歩前に出た。
「俺たちは樹海の迷宮を探している。ここにいる兎人族は、帝国の亜人族狩りから逃れてきた連中だ。事情を説明させてくれ」
守備隊は警戒を解かなかったが、やがて一行は長老のもとへ案内された。
長老はハジメたちの話を聞き、しばらく考え込んだ後、静かに口を開く。
「迷宮の入り口へ続く霧の道が開くまで、十日ほどかかる。その間、滞在を許そう」
「ありがとうございます」
ハジメは短く頭を下げた。
だが、話がまとまった直後だった。
「待て! 何故、追放された兎人どもを受け入れなければならん!」
熊人族の男が声を荒らげた。
「こいつらは一族の恥だ! ましてや、外の人間まで連れてきて……!」
男はハジメへ詰め寄り、拳を振り上げた。
「おい、やめろ!」
シアが叫ぶ。
しかし、男の拳が届くより早く――
ゴツン!
ハジメのスタンドが、男の頭に容赦なく拳骨を落とした。
「ぐおっ!?」
男はその場から吹き飛び、地面を転がった。
周囲が一瞬、静まり返る。
ハジメは拳を下ろし、淡々と言った。
「話し合いの場でいきなり殴りかかる奴に、遠慮する理由はねえだろ」
「な、何をする!」
熊人族の男が立ち上がろうとするが、ハジメは冷たい視線を向ける。
「もう一発欲しいか?」
男は言葉を詰まらせた。
長老は深く息を吐き、騒ぎを収めるよう守備隊へ指示を出した。
十日間の特訓
滞在が許可された後、シアとその家族はハジメに頭を下げた。
「ハジメさん。お願いがあります」
シアが真剣な眼差しで言う。
「私たちに、戦い方を教えてください!」
カムやパルたちも続いた。
「もう誰かに守られるだけではいたくない」
「自分たちの家族を、自分たちで守れるようになりたいんです」
ハジメは彼らの顔を見回した。
必死だった。恐怖に怯えるだけではなく、自分たちの力で未来を変えようとしている。
「……分かった」
ハジメは頷いた。
「ただし、甘い訓練にはしねえぞ。十日間、死ぬ気でついてこい」
「はい!」
ハジメはユエへ視線を向けた。
「ユエ。シアのスタンドの使い方を教えてやってくれ」
「分かった」
ユエはシアを連れ、スタンド能力の基礎から教え始めた。
一方、ハジメは兎人族たちを鍛えるため、原作同様の容赦ない訓練を開始した。
まずは体力作り。樹海を走り込み、重い荷物を背負って移動する。次に、魔物を相手にした実戦訓練。逃げるだけではなく、仲間と連携し、相手の動きを見極めて戦うことを徹底させた。
「足を止めるな! 相手の動きを見ろ!」
「うおおおっ!」
「一人で突っ込むな! 仲間の位置を確認しろ!」
「はいっ!」
ハジメの指導は厳しかった。
だが、無意味な苦痛を与えるためのものではない。自分たちの命を守り、仲間を守るために必要な技術を叩き込んでいく。
シアもユエの指導のもと、スタンド能力の扱いを磨いていった。
「力を出すだけじゃ駄目。必要な時に、必要な動きだけをさせる」
「はい!」
シアは何度も失敗しながら、スタンドの動きを少しずつ制御できるようになっていった。
十日間。
兎人族たちは、疲れ果てても立ち上がり、何度も訓練を繰り返した。
そして、霧の道が開く頃には――彼らの戦い方は、以前とは別物になっていた。
兎人族の反撃
霧の道が開く直前、シアたちを追放した熊人族の一団が、報復のために現れた。
「追放された兎どもが、まだこの樹海にいるとはな!」
熊人族たちは武器を構え、兎人族へ襲いかかる。
だが、今度のシアたちは違った。
「みんな、訓練通りに!」
シアの声に、兎人族たちは一斉に動く。
パルたちは連携して敵の進路を塞ぎ、カムたちは相手の攻撃を誘って反撃する。シアもスタンドを発現させ、熊人族の攻撃を受け止めた。
「これ以上、家族を傷つけさせない!」
シアのスタンドが拳を振るう。
熊人族の男たちは、鍛え上げられた兎人族の連携に押されていった。
一方的な展開だった。
熊人族の一団は壊滅状態に追い込まれ、戦意を失って撤退する。
ハジメはその様子を見届け、静かに頷いた。
「……よくやったな」
シアたちは息を切らしながらも、確かな手応えを感じていた。
「ハジメさん、ユエさん……ありがとうございます!」
「礼はいい。これからも、その力を誰かを守るために使え」
ハジメはそう言って、彼らを見渡した。
樹海の迷宮へ
霧の道が開き、ハジメたちは巨大な大樹の入り口へと辿り着いた。
大樹の根元には、古びた石碑が置かれていた。
ハジメが刻まれた文字を読み取る。
「……この迷宮は、最低でも四つの迷宮攻略の証と、再生に関する神代魔法を必要とする、か」
ユエが頷く。
「つまり、今すぐ攻略することはできない」
「そういうことだな」
ハジメは手記を確認した。
「まずは、ライセン峡谷の迷宮を攻略する。必要な証を集めてから、ここへ戻ってくる」
シアは大樹を見上げた。
自分たちの故郷。けれど、そこに入るためには、まだ越えなければならない試練がある。
その時、カムがシアの肩に手を置いた。
「シア。お前はハジメさんたちについていきなさい」
「え……?」
「お前には、未来を切り開く力がある。ここで立ち止まるより、外の世界を見てこい」
パルたちも頷く。
「俺たちは、もう自分たちで家族を守れる」
「シアはシアの道を進め」
シアは目を潤ませ、家族を見つめた。
「……分かった。あたし、ハジメさんたちと一緒に行く!」
ハジメは肩をすくめる。
「決まりだな。だが、旅は楽じゃねえぞ」
「望むところです!」
ユエがシアの隣に立つ。
「一緒に行こう」
「はい!」
こうしてシアは、家族に背中を押され、ハジメとユエの旅に同行することになった。
樹海の迷宮を攻略するため、そして神の支配に抗うため――
一行は、次なる迷宮であるライセン峡谷へと向かうのだった。