最弱種族に転生した。最強種のお姉さんたちに飼われることになった。 作:不破貞仁
どうしてこうなってしまったのだろう。
もともとは都内で勤めるサラリーマンだった。
けれど異世界転生して、魔術やスキルがある世界にたどりついた。
赤子に転生した瞬間からチートスキルを持っていて、6歳になる頃には両親から毎日賛美されていた。
『こんなにも強い子が生まれるなんて……!』
『あなたは、わたしたちヒト族の最後の希望よ!』
今度こそ、この世界で成功してみせる。
努力して、チートスキルも駆使して、成長して、強敵をなぎ倒して!
『流石、英雄様!』
『こんなにも強い方は見たことがない!』
『あなたこそ、わたしたちの希望!』
と、ちやほやされる成り上がり生活を夢みていたのに――。
「だ・か・らぁ、なーんで理解できないの?」
豪華で薄暗いお屋敷のベッドの上で。
俺に馬乗りになった美少女――ヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリアが苛立ち交じりの声で叱責してくる。
「アンタが私に勝てるわけないでしょ! アンタは私のものなのっ! 一生、この屋敷で飼われてればいいのよ! どこにも行かせない。逃げ出すなんて許さない……」
「で、でも俺は、ヒト族の希望として、この世界で活躍しないと――」
「はぁ~~~~~~~? 活躍ぅ~~~~?」
ヴィオレッタは鼻で笑って、俺を嘲笑する。
「どうやって活躍するつもり? 私に監禁されて逃げることすらできないアンタが? ねぇ、見える、これ? これはね、初級の束縛魔術でできた鎖よ。でもアンタには認識すらできないでしょ? 当然よね? だってアンタは、初級魔術すら使えない雑魚なんだからっ!」
事実だ。
彼女の言うとおり、俺には初級魔術すら使えない。
「そんなアンタがどうやって活躍するつもりなの? ねぇ、教えてよ。低級モンスター1匹にすら勝てないアンタが、どうやって生き残るつもりなのか」
頬を紅く染めた彼女が俺の首に手をかける。
「あっは☆ ねぇ、わかってる? アンタの命は私の手のひらの上なのよ。私が今ちょっと力を込めただけでアンタはポキッって死んじゃうのっ!」
「や、やめて……」
「ふふ、ふふふっ! ねぇ、怖い? 怖いわよね? 外はもっと怖いわよ。私みたいに優しくないんだから。怯えて震えてばかりのアンタが活躍ぅ? どうやって? ねぇ、まずは私を跳ねのけて襲ってみなさいよ。それすらできない雑魚のくせに」
薄くほほ笑んだのちに、彼女が俺の上半身に体を重ねてきた。
薄着越しに彼女の柔らかな肌が触れて、思わずドキリとしてしまう。
俺の頬を撫でながら、彼女が静かな声で囁いた。
「だから……どこにも行かないで。いい加減に諦めて。ここなら安全だから。私が守り切るから。誰にも殺させないから。私が、責任をもって――アンタを飼いつづけてあげるから」
けれど。
それでも、俺は成り上がらないといけないのだ。
彼女の意志に反してでも。
***
『有名大学を卒業して、大企業で働いて出世して、車と家を持って、家族を養う。それが成功した人生ってもんだ』
今にして思うと、古臭い考え方だったと思う。
けれど地方で生まれ育った両親と祖父母にとって、それは揺らぐことのない価値観だった。
残念ながら転生前の俺はその全てを満たすことはできなかったけれど、それなりの中堅大学をそれなりの成績で卒業し、大企業……は無理だったけどそのグループ会社に就職することができた。
同期で一番の出世頭にはなれなかったが、年功序列通りの出世をしてそれなりの年収を稼いで……競争社会の一番手ではないけれど、それなりに上手くやれていると思っていた。
そんなある日、交通事故にあった。
『ああ、くそ、一番になれなかったなぁ……』
薄れゆく意識の片隅でそう思いながら倒れ、そして気がつくと俺は異世界転生をしていた。
「おーい、ロイ! そっちの畑仕事が終わったら薪割りを手伝ってくれ!」
「分かったよ、親父!」
ロイ・クローバー。
それが、新たに名づけられた俺の名前。
山奥に建てられた質素な家と広い畑。
自給自足の過酷な生活ではあったものの、優しい両親に恵まれて俺は大切にされながらすくすくと育った。
「いよーっ! はっ! はっ!」
まるで紙でも扱っているかのように軽々と斧を振るって、次々に薪を割っていく俺を見ながら、親父が感心した声をもらす。
「はっはっは、相変わらずお前は凄いな! そんな簡単に薪を割れるなんて」
「はっ、任せろって。これぐらい余裕だよ」
「……ふ、そうか。お前のような立派な息子を持てて嬉しいよ」
親父が俺に一歩近づく。
「お前は……私たちヒト族の最後の希望だからな」
そう。そうなのだ。
転生して最初に知ったことだが――ここは、よくある異世界ファンタジーの世界らしい。
魔術があって、モンスターがいて、独自の文化が根づいている。俺もそれなりに異世界系の小説やアニメは嗜んでいたから、それほど違和感なく受け入れることができた。
けれど一つだけ、この世界には特徴がある。
ヒト族――いわゆる普通の人間種族が、両親と俺を含めた三人しか残っていないらしい。
事実、赤子に転生してから今日に至るまで、俺は両親以外の人間をただの一度も目にしたことがなかった。
「……なあ、親父」
斧を地面に下ろしながら、俺は告げる。
「俺さ、やっぱり明日になったら――成人の日を迎えたら、この山を出ていこうと思う」
「……っ! お前は、またそんなことを!」
血相を変えて、親父が俺の肩を掴んで強く揺さぶってきた。
「何度も言ってるだろう、ロイ! 絶対にこの山の外に出ちゃいかん。山の外には恐ろしいモンスターがそこら中にいるんだ。私たちの祖先がどれほど苦しめられたか!」
親父の叫び声を聞きつけたのか、木造の家の扉がゆっくりと開かれた。
そこから病弱の母親が現れて、よろめきながらこちらに駆け寄ってくる。
「一体どうしたのですか、二人とも」
「聞いてくれ! ロイのやつが、山の外に出たいとまた言うんだ」
「っ! ……どうしてなのですか、ロイ。聞き分けのよいあなたが、なぜ何度も『山の外に出たい』などと言うのですか。いつも言っているでしょう、この山には結界が張ってあるのです。わたしたちヒト族が繁栄していた頃に張られた、ご先祖様の結界。この中にいれば、どんなモンスターも入ってこれないの。ここで暮らす限りは安全なのよ。だから、絶対に山の外に行ってはなりませんよ、ロイ!」
「…………」
すーっと息を吸い込む。
分かっている。
二人とも、俺を心配してそう言ってくれているんだ。
けれど、正直に言おう。
両親は俺のことを心配しすぎなのだ。
(――――【開示】)
心の中でそう唱えると同時に、両親のすぐ隣に文字の羅列が表示された。
ジル・クローバー Lv.1
スキル:なし
リリア・クローバー Lv.1
スキル:なし
次いで、俺は、斧の表面に反射する自分自身の姿を見つめる。
ロイ・クローバー Lv.100
スキル:【開示】【強欲】
はっきり言おう。
俺はすでに両親よりも強くなっている。
というか、生まれた時点で俺のレベルはすでに両親を上回っていた。
おそらくヒト族というのは、そんなに強い種族ではないのだろう。
だから結界の内側に引きこもって徐々に衰退してしまって、今ではもう三人しか残っていない。
けれど俺は転生者だ。
絶滅寸前のヒト族の身でありながらすでにレベル100に到達している。それに【開示】【強欲】と二つのスキルも保有している。
昔、それとなく両親に聞いたことがあるのだが、二人はそもそもスキルというものの存在を知らなかった。
魔術は存在する。
モンスターもいる。
けれど、スキルというものがあることは知らない――。
おそらくこれは、転生者である俺だけが授かったチートスキルなのだろう。
俺は、このスキルを使って成り上がりたい。
ヒト族の最後の末裔として、この世界の誰よりも活躍したい。
そうすればヒト族の名は永遠に刻まれるはずだ。
それに、世界のどこかには可愛い魔族とか獣人族とかがいるかもしれない。
そんな子たちに巡りあえたら、彼女らが抱える悩みを解決したり俺が活躍する姿を見せることで――将来の伴侶として結ばれて、純血のヒト族は滅びてしまうとしてもヒト族の血を繋いでいけるかもしれない。
俺が転生したのにはきっと意味があるはずだ。
「なあ、親父。お袋。本当にごめん。二人の気持ちは伝わってる。けど、俺だって成し遂げたいことがあるんだ」
覚悟を決めるように、二人に向かって告げる。
「明日、成人の日を迎えたら俺はこの山から旅立つよ」
けれど、このときの俺は理解していなかったのだ。
この決断がどれほど愚かで、思い上がったものだったのかを――。