最弱種族に転生した。最強種のお姉さんたちに飼われることになった。   作:不破貞仁

3 / 3
第3話 魔族令嬢ヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリア

「……へ? 殺す? お、俺を助けてくれたんじゃないのか?」

「はぁ? 助けるぅ? なんで私が?」

 

 俺の喉元に鋭くとがった爪先を突きつけながら、目の前の少女は首をかしげる。

 

「だって、俺をネズミっぽいモンスターから救ってくれたじゃないか」

「ああ、それ。別に……気持ち悪いモンスターがいたから先に駆除しただけよ。だって嫌でしょ、こんなやつらに襲われるなんて」

 

 死体の山になったネズミ型モンスターの群れに目を向けると、彼女は顔をしかめた。

 

「うっ、気持ち悪い……。ホントに虫唾が走るわ」

 

 黒基調のゴシックなドレスに覆われた身体を震わせたのちに、彼女がふたたび俺に視線を向ける。

 

「で? もう一回聞くけど、なんでアンタ、魔族でもないのに私の領地にいるワケ?」

「お前の領地って……そんなの知らねーよ。俺はもとからこの山で暮らして――」

 

 首に痛みが走った。

 彼女の爪先が、俺の首の皮膚を浅く裂いたのが感覚的に伝わった。重傷ではない。けれど彼女の爪先を伝って血がつうっと垂れていく。

 

「返答に気をつけてね♡」

「ひっ……」

「知らないかもしれないから教えてあげるわ。私の名はヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリア。ここまで聞けばわかるでしょ? 魔族の名門、ドラクリア家の一人娘よ」

「し、知ってます……」

 

 いや、知らん。

 知らんて! こちとら生まれてから今までずっと山に引きこもってきたんだぞ!

 両親以外との交流もなかったし、何も知らん。

 

 けど、話の流れ的に「知らないです」って答えられるわけもない。

 

 えーっと、この娘……ヴィオレッタだっけ? 『魔族の名門』って言ってたし、たぶん魔族なんだよな?

 

 人生で初めて出会う、ヒト族以外の人間(?)。

 しかもかなり可愛い。ゴシックなドレスと相まって、コンセプト重視のアイドルグループとかに所属してそうな見た目をしている。

 

 どうやらこの世界には、やはりヒト族以外にも人間っぽい見た目の種族がいるらしい。

 彼らと交流を深めることができれば、俺にもまだ活躍の目があるかもしれない。

 

 よし、そうとなれば。

 

「聞いてくれ、全部誤解なんだ。俺はロイ・クローバー。ヒト族の末裔で、両親と一緒にずっとこの山で暮らしてたんだ。けれど結界が壊れちまって……。なあ、良かったら先に両親の埋葬だけさせてくれないか?」

 

 そう言いながら立ち上がった瞬間。

 俺の両脚が、ふとももあたりでザクリと切断された。

 

「「………………は?」」

 

 と声をあげたのは、なぜか俺とヴィオレッタの二人で。

 

「っ、ァァア………っっ! いってぇぇぇっっ! あああああああああっっ!」

「ちょっと何やってるの!? 束縛魔術をかけられてるのに動くなんて!」

「あああああああああっっ!」

 

 痛い痛い痛い…………っっ!

 のたうち回るたびに、見えない何かが身体に食いこみ次々に肉が裂けていく。

 

「ああもう、しょうがないわね! ――【束縛魔術】解除!」

 

「い、痛い……。死ぬ、死ぬ……。う、うう、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 腕や足が切断されて大量の血が流れている。

 激痛と出血。自分の命が失われていく感覚がする。

 

 ああ、もうダメだぁ……終わりなんだぁ……。

 

「えええ……なんなのコイツ。正直、コイツが死んじゃってもどうだっていいんだけど」

 

 呆れた瞳で俺を見下しながら、彼女が腕を組む。

 

「なんで束縛魔術をかけられてるのに動いたの? もしかして知らなかった? でも、こんなの子供でも知ってる初級魔術だし……」

「ぁぁぁぁ……痛い、痛いよぉ……。誰か助けてくれぇ……う、うう……」

「もしかしてホントはアンデッド系の種族だったりする? アホなふりして一度死んで、私を油断させてから【自己蘇生】でよみがえって襲うつもりかも」

「う、ぅぅ……。俺は、いつも……どうしてこうなんだ……。今度こそ活躍したかったのに……この世界で……英雄に……ぅぅ……」

「ていうか、なんで束縛魔術でこんなに重傷を負ってるワケ? せいぜい皮膚が傷つく程度の効果のはずでしょ。手足がちぎれるなんて聞いたことない。こんなに弱くてアホな生き物がいるわけない。何らかの罠。警戒を強めるべきね」

 

 でも、と彼女はつぶやいた。

 地面をのたうち回る俺をじっと見下ろしてくる。その視線にすがるように俺は叫んだ。

 

「し、死にたくない……っ! い……いやだ、うわぁぁぁぁぁんっっ! た、助けてぇ……っ!」

 

 魔族の令嬢ヴィオレッタはぞくぞくっと身体を震わせた。

 

「何なのかしらこの気持ち……。コイツを見てると、もっと泣き顔を見たくなるのよね……♡」

 

 少し悩んだ素振りを見せたのちに、彼女は微笑んだ。

 

「ま、いっか。どうせ殺そうと思えばいつでも殺せるし。――【血糸縫合】」

 

 彼女が俺に手をかざす。

 すると、俺から流れ出た血がまるで糸のように結びつきあい、切断された手足が胴体に縫い合わされていく。

 

「はぇ……? もう、痛く……ない?」

 

 手足も指も正常に動く。

 それどころか傷跡すら残っていなかった。

 

「で? えーと、ロイくん? だっけ? どうして束縛魔術をうけてるのに動いたりしたの?」

「えっと、束縛魔術?」

「なーんだ、やっぱり知らないんだ。ぷぷ、しょうがない。教えてあげるわ」

 

【束縛魔術】と唱えたのちに、彼女は俺を指さした。

 

「ほら、それ。体中に巻きついてるやつ。それが、相手を拘束する束縛魔術。……あ、動いちゃだめよ? またバラバラになっちゃうから」

 

 彼女の忠告に肝を冷やしながら、俺は自分の体を見つめる。

 そして。

 

「えっと……巻きついてるやつ? 何もないけど?」

「ハァー? あるじゃない、ほら、ここに。アンタの体をぐるぐるにしてる――――」

 

 魔族令嬢ヴィオレッタはハッと気づいたように動きを止めた。

 

「ちょっと待って。アンタ、もしかして見えてないの?」

「え? うん……何も」

 

 正直に答えた俺から、ヴィオレッタは一歩遠ざかった。

 そして衝撃をうけたようによろめき、ゆっくりとうつむいてしまう。

 

 あれ? もしかして俺……何かやっちゃいました?

 

「ぷ、ぷぷぷ……あーっはっはっはっはっっ! なにそれ! なにそれ! そんなヤツいるの!? ウッソでしょ、オモシロすぎる……っっ! あはははははっっ!」

 

 いや、うん。

 流石の俺でもわかる。これは確実にバカにされている。

 

「しょ、初級魔術……! 子供でも使える初級魔術よ! それすら見えないなんて……っ! ザコすぎっ! こんなヤツ、見たことないっ! あははははははっっ!」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……」

「ねぇ、アンタ」

 

 信じられないほど可愛らしい顔をぐいっと近づけて、彼女がささやいてきた。

 

「--ざこすぎ♡ よわよわ♡ ざーこ♡」

 

 罵倒したのちに、彼女は妖艶に微笑む。

 まるで小悪魔かのように。

 

「でも、こんなに面白いヤツに出会ったの、はじめて。――ね、もっとアンタのこと教えなさいよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

上位存在のクソデカ師匠に生まれ直しを迫られてる(作者:上位存在って総じてエッチだよね)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

全部がでかい上位存在に、胎内回帰(おかえりなさい)!を迫られるがしない話。▼ひょんなことから上位存在の弟子となった主人公は、いつの間にかにどちゃくそ執着されていた。▼「私の胎で生み直しましょう?」▼こんなことを素面で言うくらいには執着されてしまったのだ。▼もっとも、赤ちゃんプレイみたいな趣味は無い主人公は拒否するものの、上位存在である師匠は頑なに生み直すと聞…


総合評価:1253/評価:8.16/連載:4話/更新日時:2026年09月17日(木) 08:05 小説情報

俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる終末世界のヤンデレもの。  (作者:走れ、ヤンデレ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

なお、強さだけではなく記憶も引き継いでおり、登場人物の殆どが主人公に対して劇重感情を抱いている模様。▼


総合評価:3243/評価:8.61/連載:3話/更新日時:2026年10月18日(日) 06:31 小説情報

運命のツガイをみつけてバチクソにヤンデれちゃう獣人さん短編集(作者:アンドララベリャ)(オリジナル:現代/恋愛)

獣人には、生まれた瞬間から運命で定められたツガイが一人いる。獣人はその姿を目にしたその瞬間から、そのツガイに恋をし、執着し、なにがなんでも手に入れようとする―――。▼これは、そんなふざけた常識が当たり前の世界で、幸運にも出会えたツガイを異常な執念で囲いこみ、病的までに愛し、その身も心も手に入れようとする獣人さんたちの短編集。▼※つまり、獣人さんにバチクソにヤ…


総合評価:171/評価:9/短編:1話/更新日時:2026年10月31日(土) 19:35 小説情報

冥宮会長は後ろから刺されそうな独裁者ムーブばかりしている(作者:PON太郎)(オリジナル:現代/恋愛)

――うちの生徒会長は、たぶんいつか後ろから刺される。▼やれやれ系副会長の刃くんは能力育成する系の高校で、美少女で、エセ関西弁で、いつも目を閉じていて、の属性もりもりの幼馴染、冥宮 遙は生徒会長の座を無事奪い取り、独裁者ムーブをかましているが、後ろから刺されるのをなんとか止めたい。▼目が据わっている後輩ちゃん「先輩は冥宮会長に束縛されているんですよね、私が解放…


総合評価:309/評価:7.44/連載:9話/更新日時:2026年10月30日(金) 08:59 小説情報

純真天使がドロドロヤンデレに堕ちるまで 〜神は告げた。天使様にとって周囲みんな敵で、相性悪い俗物の俺だけは味方だと。ん? 天使様の様子が……〜(作者:ががんぼ)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

 神学校に住む純真無垢な天使さまは、周りみんなが自分の敵だと知って病む。唯一苦手だった主人公だけが自分の救いと知ってからは、さらに病みが加速。初めて知った独占欲、依存、これまで冷たく当たっていたことへの深い後悔。それらが混然と合わさった結果、とんでもないヤンデレが誕生した。


総合評価:100/評価:5.33/連載:1話/更新日時:2026年06月20日(土) 17:59 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>