最弱種族に転生した。最強種のお姉さんたちに飼われることになった。 作:不破貞仁
「……へ? 殺す? お、俺を助けてくれたんじゃないのか?」
「はぁ? 助けるぅ? なんで私が?」
俺の喉元に鋭くとがった爪先を突きつけながら、目の前の少女は首をかしげる。
「だって、俺をネズミっぽいモンスターから救ってくれたじゃないか」
「ああ、それ。別に……気持ち悪いモンスターがいたから先に駆除しただけよ。だって嫌でしょ、こんなやつらに襲われるなんて」
死体の山になったネズミ型モンスターの群れに目を向けると、彼女は顔をしかめた。
「うっ、気持ち悪い……。ホントに虫唾が走るわ」
黒基調のゴシックなドレスに覆われた身体を震わせたのちに、彼女がふたたび俺に視線を向ける。
「で? もう一回聞くけど、なんでアンタ、魔族でもないのに私の領地にいるワケ?」
「お前の領地って……そんなの知らねーよ。俺はもとからこの山で暮らして――」
首に痛みが走った。
彼女の爪先が、俺の首の皮膚を浅く裂いたのが感覚的に伝わった。重傷ではない。けれど彼女の爪先を伝って血がつうっと垂れていく。
「返答に気をつけてね♡」
「ひっ……」
「知らないかもしれないから教えてあげるわ。私の名はヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリア。ここまで聞けばわかるでしょ? 魔族の名門、ドラクリア家の一人娘よ」
「し、知ってます……」
いや、知らん。
知らんて! こちとら生まれてから今までずっと山に引きこもってきたんだぞ!
両親以外との交流もなかったし、何も知らん。
けど、話の流れ的に「知らないです」って答えられるわけもない。
えーっと、この娘……ヴィオレッタだっけ? 『魔族の名門』って言ってたし、たぶん魔族なんだよな?
人生で初めて出会う、ヒト族以外の人間(?)。
しかもかなり可愛い。ゴシックなドレスと相まって、コンセプト重視のアイドルグループとかに所属してそうな見た目をしている。
どうやらこの世界には、やはりヒト族以外にも人間っぽい見た目の種族がいるらしい。
彼らと交流を深めることができれば、俺にもまだ活躍の目があるかもしれない。
よし、そうとなれば。
「聞いてくれ、全部誤解なんだ。俺はロイ・クローバー。ヒト族の末裔で、両親と一緒にずっとこの山で暮らしてたんだ。けれど結界が壊れちまって……。なあ、良かったら先に両親の埋葬だけさせてくれないか?」
そう言いながら立ち上がった瞬間。
俺の両脚が、ふとももあたりでザクリと切断された。
「「………………は?」」
と声をあげたのは、なぜか俺とヴィオレッタの二人で。
「っ、ァァア………っっ! いってぇぇぇっっ! あああああああああっっ!」
「ちょっと何やってるの!? 束縛魔術をかけられてるのに動くなんて!」
「あああああああああっっ!」
痛い痛い痛い…………っっ!
のたうち回るたびに、見えない何かが身体に食いこみ次々に肉が裂けていく。
「ああもう、しょうがないわね! ――【束縛魔術】解除!」
「い、痛い……。死ぬ、死ぬ……。う、うう、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
腕や足が切断されて大量の血が流れている。
激痛と出血。自分の命が失われていく感覚がする。
ああ、もうダメだぁ……終わりなんだぁ……。
「えええ……なんなのコイツ。正直、コイツが死んじゃってもどうだっていいんだけど」
呆れた瞳で俺を見下しながら、彼女が腕を組む。
「なんで束縛魔術をかけられてるのに動いたの? もしかして知らなかった? でも、こんなの子供でも知ってる初級魔術だし……」
「ぁぁぁぁ……痛い、痛いよぉ……。誰か助けてくれぇ……う、うう……」
「もしかしてホントはアンデッド系の種族だったりする? アホなふりして一度死んで、私を油断させてから【自己蘇生】でよみがえって襲うつもりかも」
「う、ぅぅ……。俺は、いつも……どうしてこうなんだ……。今度こそ活躍したかったのに……この世界で……英雄に……ぅぅ……」
「ていうか、なんで束縛魔術でこんなに重傷を負ってるワケ? せいぜい皮膚が傷つく程度の効果のはずでしょ。手足がちぎれるなんて聞いたことない。こんなに弱くてアホな生き物がいるわけない。何らかの罠。警戒を強めるべきね」
でも、と彼女はつぶやいた。
地面をのたうち回る俺をじっと見下ろしてくる。その視線にすがるように俺は叫んだ。
「し、死にたくない……っ! い……いやだ、うわぁぁぁぁぁんっっ! た、助けてぇ……っ!」
魔族の令嬢ヴィオレッタはぞくぞくっと身体を震わせた。
「何なのかしらこの気持ち……。コイツを見てると、もっと泣き顔を見たくなるのよね……♡」
少し悩んだ素振りを見せたのちに、彼女は微笑んだ。
「ま、いっか。どうせ殺そうと思えばいつでも殺せるし。――【血糸縫合】」
彼女が俺に手をかざす。
すると、俺から流れ出た血がまるで糸のように結びつきあい、切断された手足が胴体に縫い合わされていく。
「はぇ……? もう、痛く……ない?」
手足も指も正常に動く。
それどころか傷跡すら残っていなかった。
「で? えーと、ロイくん? だっけ? どうして束縛魔術をうけてるのに動いたりしたの?」
「えっと、束縛魔術?」
「なーんだ、やっぱり知らないんだ。ぷぷ、しょうがない。教えてあげるわ」
【束縛魔術】と唱えたのちに、彼女は俺を指さした。
「ほら、それ。体中に巻きついてるやつ。それが、相手を拘束する束縛魔術。……あ、動いちゃだめよ? またバラバラになっちゃうから」
彼女の忠告に肝を冷やしながら、俺は自分の体を見つめる。
そして。
「えっと……巻きついてるやつ? 何もないけど?」
「ハァー? あるじゃない、ほら、ここに。アンタの体をぐるぐるにしてる――――」
魔族令嬢ヴィオレッタはハッと気づいたように動きを止めた。
「ちょっと待って。アンタ、もしかして見えてないの?」
「え? うん……何も」
正直に答えた俺から、ヴィオレッタは一歩遠ざかった。
そして衝撃をうけたようによろめき、ゆっくりとうつむいてしまう。
あれ? もしかして俺……何かやっちゃいました?
「ぷ、ぷぷぷ……あーっはっはっはっはっっ! なにそれ! なにそれ! そんなヤツいるの!? ウッソでしょ、オモシロすぎる……っっ! あはははははっっ!」
いや、うん。
流石の俺でもわかる。これは確実にバカにされている。
「しょ、初級魔術……! 子供でも使える初級魔術よ! それすら見えないなんて……っ! ザコすぎっ! こんなヤツ、見たことないっ! あははははははっっ!」
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……」
「ねぇ、アンタ」
信じられないほど可愛らしい顔をぐいっと近づけて、彼女がささやいてきた。
「--ざこすぎ♡ よわよわ♡ ざーこ♡」
罵倒したのちに、彼女は妖艶に微笑む。
まるで小悪魔かのように。
「でも、こんなに面白いヤツに出会ったの、はじめて。――ね、もっとアンタのこと教えなさいよ」