最弱種族に転生した。最強種のお姉さんたちに飼われることになった。 作:不破貞仁
「――ふぅん、ヒト族、ね。そんな種族が私の領地にいたなんて知らなかったわ」
ヒト族、山での暮らし、結界、守り神……などについて、俺は一通りの説明を行った。
それらを聞き終えた魔族令嬢ヴィオレッタは周囲に視線を向ける。
「たしかにこの山、私が生まれたころからずっと結界に覆われてて不思議だったのよね。しかも、私でも壊せないぐらい固かったし。私のご先祖様がお宝でも隠したのかしら――って思ってたけど、まさか弱っちい種族が隠れ住んでたとはね」
「そんなに弱い弱い言わなくていいだろ!」
「だって事実でしょ?」
「ぐぬぬぬ……」
そう言われると反論ができない。
事実、ネズミ型モンスターの群れを駆除してくれたのも彼女だし、崩壊した家の瓦礫を魔術で動かしてくれたのも彼女だ。おかげで両親の遺体を安心して地面に埋めることもできた。
お袋、親父……本当にごめん。守り切ることができなくて。
英雄になるとか冒険に出るとか、見栄ばっかり張って、肝心なときに活躍できなくて……。
――『お前は……私たちヒト族の最後の希望だからな』
親父が言ってくれた言葉を思い出す。
そうだ、ヒト族の希望。
それはまだ途絶えちゃいない。今はまだ弱いとしてもここから成長して活躍できれば、正真正銘ヒト族の最後の希望として名を残せるかもしれない。
期待しててくれよ、親父、お袋。
俺の冒険はここから始まるからさ。
「で? お祈りは済んだ?」
「ああ、ありがとな。墓を作る手伝いまでしてくれて」
「…………気にしなくていいわ。その悲しみは、私にもわかるから」
ヴィオレッタが空へと視線を向ける。
「じゃ、私はもう帰るわね。久しぶりにこんなにも笑えたわ。――せいぜい頑張って生き残りなさい、よわよわのヒト族さん」
コウモリのような羽を広げて、彼女が飛び立とうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれっっ!」
思わず彼女を呼び止めてしまった。
いやいや待て待て待て。
こういうのって普通、ここから交流を深めたり一緒に冒険に出ることになったりするもんじゃないの!?
俺が知ってるアニメとか小説だと100%そういう流れになるんだけど!?
可愛い女の子に出会って、主人公がチートスキルを見せつけて『なにそれすごーい!』『ふん、やるじゃない』『好き♡ 一緒に冒険させてくださいご主人様♡』みたいになるんじゃないの!?
「ていうかそっか、まだ俺のチートスキルを一度も見せてないな」
【開示】――相手のステータスを確認できるスキル。
【強欲】――倒した相手のレベルとスキルを吸収できるスキル。
それらはヴィオレッタの前でまだ一度も披露していない。
先ほどのヒト族に関する説明のときも、俺が転生者であることやチートスキルについては隠したまま話を行った。
そうだ、まだ俺の真価を見せていない。
ネズミ型モンスターがもういないので、倒した敵のスキルとレベルを奪える【強欲】はこの場で披露できない。けれど【開示】なら使える。
俺の有用性を彼女に示すことができる!
「去る前にさ、一つ、面白いスキルを見せてやるよ。――【開示】っっ!」
目元に手を当てて、俺は格好いいポーズとともに魔族令嬢ヴィオレッタに向かって【開示】を使用した。
ヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリア Lv.????
スキル:????
「あ、あれ? 『????』ってなんだ? バグった?」
戸惑う俺とは対照的に、今にも飛び立とうとしていたヴィオレッタが驚いたように瞳を見開いた。
「嘘でしょ、アンタ……今、何したの?」
「え、何って。俺のチートスキルを使おうとしただけだが?」
その発言に、ヴィオレッタはますます驚いたように口を大きく開ける。
もしかして、とんでもないスキルだったりするのか、これ?
ネズミ型モンスターを一撃で葬った魔族の令嬢。彼女がこれほどまでに驚いた様子を見せるのは初めてだ。
「チート……スキル……?」
そう呟いたのちに、彼女は俺のほうに近づいて肩をつかんできた。
「チートスキルぅ――――? はぁー? 何言ってんの? 【開示】なんて、ただのノーマルスキルでしょっ! 誰でも持ってるやつじゃないっ!」
「へ?」
「私が驚いたのは【開示】を私に使ったことよ! ぷ、ぷぷぷ……、私のステータスを見れるわけないでしょっ! だって【開示】はレベルが格上の相手には使えないんだからっ! それぐらい【感知】でわからなかったの? く、くふふふ……っ!」
めちゃくちゃ馬鹿にされて笑われている。
それに、どうやら本当は【感知】という俺の知らないスキルを組み合わせて利用するのが常らしい。
でも、そんなことより何より。
「ノーマル……スキル……?」
嘘だ、嘘だ。
だって俺は転生者で、生まれながらにスキルを持っていて、両親はスキルの存在すら知らなくて……。
俺だけが授かったスキルじゃなかったのか!?
「くふふ、ホントに知らなかったの? やっば、ウケるんだけど! やっぱりオモシロいわね、アンタっ!」
うなだれる俺とは対照的にイキイキとしはじめた魔族の少女が胸を張る。
「じゃ、もっと面白いものを見せてあげる。――アンタにだけ、特別よ?」
直後、彼女の近くに表示されていたステータス欄の文字に変動が生じた。
ヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリア Lv.532049
スキル:【吸血】【血液操作】【開示】【感知】【幻影】【飛行】【霧化】【形状変化】【影渡り】【影縛り】【魅了】【精神支配】【威圧】【恐怖】【眷属召喚】【死霊使役】【超再生】【物理耐性】【魔法耐性】【状態異常耐性】【精神汚染耐性】【魔力吸収】【生命吸収】【闇魔術】【血界魔術】【鮮血の槍】【紅月の宴】【魅了の魔眼】【超音波】【眷属化】【血の契約】【夜王の威光】【魔力生成】…………。
読み切れないほど大量のスキルが羅列されていた。
「ひっ……!」
「あっはぁ♡ それそれ♡ その泣き顔♡ アンタの情けない顔を見てるとゾクゾクってするのよね♡」
あまりのレベル差とスキル数の差に腰をぬかす俺に向かって、ヴィオレッタは恍惚の表情を浮かべる。
こ、こわい……。こんなにも差があるのか……?
確かに、彼女は俺よりも強いと思っていた。けれどこんなにも。まるでアリと象じゃないか。彼女なら一瞬で俺なんて消し飛ばせるに違いない。
震える俺に近づきながら魔族の少女が瞳を禍々しく光らせる。
「くふふふっ。で? アンタのステータスはー? どれどれー? 丸裸にしちゃうんだから。――【開示】」
「…………っ!」
わかる。わかってしまった。
彼女に、すべて悟られた。俺の力量が丸裸にされて晒されてしまっている。
ロイ・クローバー Lv.100
スキル:【開示】【強欲】
「ぷ、ぷぷぷぷっ! あっはっはっはっはっっ! れ、レベル100ぅ――――? そんなの見たことないわっ! あははははっ! 生まれたばかりの甥っ子より弱いわよ!? あ、ごめん。魔族と比べるのはカワイソーよね♡ あははははっっ!」
「ぐっ、うっ、うぅぅ……ぐすっ!」
「あははははは! ねぇ、泣いてるの? 泣いてるのー!? ねぇ、今、どんな気持ち!? 弱すぎて、バカにされて、ねぇ、悲しい? 苦しい? つらい? ねぇねぇ? どんな気持ちなのー!?」
思わず目元が濡れて顔を隠そうとした俺の手を、彼女がガッチリとつかんだ。
そして無理やり顔をあげさせられる。
「あっはぁ♡ よっわ♡ あぁ……その顔、サイコー♡」
ぞくぞくと身体を震わせたのちに、彼女は悪だくみでも思いついたかのようにニヤリと笑った。
「でもそっか、これなら役に立つかもね」
「え……?」
「毒スキルもない、洗脳スキルもない。私を罠にハメる手段は1つもない。レベルだって遥かに格下だから隙をみせても脅威になりえない。お母様の手下の……あのメイドたちに世話してもらうよりも、圧倒的に安心できるわ」
「えっと、あの……?」
「弱すぎるアンタなら私を殺せないものね。アンタの前でなら数百年ぶりにぐっすり安眠すらできそうね」
話についていけない俺を置き去りにして、彼女は指をパチンと鳴らした。
「うん、決めた。これからアンタを私の屋敷に連れて行くわ。私専属の世話係として一生懸命に働きなさい? これは決定事項ね」
「ええええええ!?」
「言っておくけど、逆らったら殺すから。私の奴隷として生涯尽くしなさいよ」
それが、俺と魔族の令嬢ヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリアの出会いだった。
一応言っておくと、この頃はまだ平和だった。
この後、まさか彼女の愛があんなにも重くなるなんて……。