最弱種族に転生した。最強種のお姉さんたちに飼われることになった。   作:不破貞仁

7 / 7
第7話 権力闘争

「……あのさ」

 

 この屋敷に連れてこられて数日。

 俺は意を決して、気になっていたことをヴィオレッタに尋ねた。

 

「この屋敷って、本当にお前の屋敷なんだよな?」

「ええそうよ。生まれたころからずっと住んでる、私の屋敷よ」

「にしては、メイドとか執事の態度が悪くないか?」

「…………」

 

 そう。この屋敷で数日過ごしてわかったのだが、どうも何というか……この屋敷の主であるヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリアは浮いている。

 メイドたちを雇う主人であるはずなのに、煙たがられている感じだ。

 

 確かに使用人たちは食事の用意をしてくれる。

 ベッドメイクもしてくれる。

 館の掃除も、庭園の伐採も……必要な業務はこなしている。

 

 けれど、メイドたちからヴィオレッタに対して挨拶や話しかけることは一切ない。

 少なくとも俺がここに来てからの数日間で、そのような光景は一度も目にしなかった。

 

 ヴィオレッタの自室。

 俺たち二人の他には誰もいない。

 彼女はしばらく押し黙ったのちに、静かに口を開いた。

 

「……昔、雇っていた使用人たちはみんないい人たちだったわ。でも、一人のメイドを除いて全員クビにされたの。今いる使用人たちのほとんどは、その……私の監視役なのよ」

「監視役? でもそのわりに自由に行動してるじゃん」

 

 屋敷の中は自由に歩き回れているし、行動を制限されている様子はない。

 というか、俺が住んでいた山まで一人で来ていたぐらいだし。

 

「一人で行動する分には問題ないわ。でもドラクリア家の他の人物に接触するのは禁止されてる。私が反旗を翻さないように監視してるのよ。魔族の名門ドラクリア家……その権力争い、というか家督争いを起こさないようにね」

「家督争い? ってことは、もしかして……」

「そうよ」

 

 ヴィオレッタは瞼を伏せた。

 

「私のお父様は殺されたの。今はお母様が代理当主で、別の屋敷に暮らしている。お母様にとって私は当主の座を脅かす邪魔者なのよ」

「な、何だよそれ……! 親子なんだろ!? それなのに何で……!」

「権力争いで殺しあう。親子であってもよくあることでしょ?」

 

 そう告げるヴィオレッタの瞳は悲しそうに伏せられていた。

 

 俺はまだこの世界の常識を知らない。

 けれど、親であっても信用できない……それはあまりにも悲しすぎないか?

 

 そういえば、と俺は思い当たる。

 

 ヴィオレッタは、メイドが提供する料理を食べる前にいつも【分析】のスキルを使って毒が入っていないかチェックしていた。就寝前はいつも部屋に【結界】を張ってからベッドに入っていた。

 

「私は強いわ。この屋敷の誰よりも。けど油断はできない。【隠密】【透明化】のスキルを使って襲ってくるかもしれない。【毒】【呪い】みたいに致命的な罠を張られるかもしれない。レベル差があっても、一撃必殺のスキルで殺される可能性がある。それがこの世界なのよ」

 

山育ちのアンタは知らないでしょうけどね、とヴィオレッタが茶化すように少し笑った。

 

「その点、アンタには気を張らなくていいから楽だわ。レベルは100、スキルは2個だけ。私を殺す手段なんて一つもないんだから」

「なぁ」

「ん? なに----」

 

 俺は立ち上がると、彼女の頭を自分の胸に押し当てた。

 そのままぎゅっと彼女の頭と肩を抱きしめる。

 

「よくがんばったな」

「……っ」

「そのさ、俺、レベルも低いし、『お前のことを守ってやる』なんて今は言えないけど--俺の前でだけは肩ひじ張らなくていいから。絶対にお前の敵にはならないよ」

 

 少し気恥ずかしくなって、誤魔化すように笑う。

 

「ま、そもそも今は弱いから敵にすらなれないかもだけどな、はは」

 

 転生前の世界で、中学生だった俺は父親や祖父から『お前は良い大学に入らないといけないんだ。こんな成績でどうする!』『情けない、泣くな! こんな程度もできんのか!』『遊びは禁止だ。そんな暇があったら勉強しろ』と叱咤されつづけてきた。

 

 家族が敵に回る辛さはわかってる。

 だから放っておけず、思わずヴィオレッタを胸に抱きしめてしまったんだけど--。

 

     *

 

 ヴィオレッタ・ノクターン・ドラクリアは、幼い日の記憶を思い出していた。

 

 今は亡き父との思い出だ。

 優しくて強い父親だった。レベルだけじゃない。心が強くて、器が広くて、いつもみんなから慕われていた。

 

 魔術の勉強や訓練を終えたヴィオレッタが彼の胸に抱きつくと、いつも彼はヴィオレッタの頭を撫でながらこう告げた。

 

『よくがんばったな、ヴィヴィ』

 

 今、ヴィオレッタはまったく違う男と一緒にいる。

 父親とは比べ物にならないほど弱い男だ。ざこの中のざこ。そもそも種族すら違う。魔族ではなくて、ヒト族とかいう聞いたこともない絶滅危惧種。

 

 けれど。

 

『よくがんばったな』と告げる、その声の優しさは似ていて。

 

 ヴィオレッタは、自身の胸にこみ上げる熱い感情が何なのか言語化できない。

 それなのに、一言だけ口にしてしまっていた。

 

「--ねぇ、ヴィヴィって呼んで」

 

 え? と戸惑った表情を浮かべるロイに、ヴィオレッタは顔を真っ赤にしつつも今さら撤回などできるはずもなく強引に押し切る。

 

「と、特別に許可してあげる……! 特別だからね! アンタだけよ!? 光栄に思いなさい!」

 

 目の前の男は苦笑いをしながらも頷いた。

 

「ああ、わかったよ、ヴィヴィ」

 

     *

 

 その日の夜。

 ヴィヴィが眠るベッドから、俺はゆっくりと身を起こした。

 

「はは、よく眠ってるな」

 

 この屋敷にきてからずっと、俺はこのお嬢様と一緒に寝食を共にしている。

 

 ……と言うと同棲でもしているかのようだが、実際はペット扱いで連れまわされているというか、ストレスが溜まったときにいつでも殴れるサンドバッグとして一緒に移動している感じだ。

 

 けれど今日は、家族事情について吐露したからだろうか……ストレスが減ったのか、ヴィヴィの寝つきがいつもより良いようだった。

 

 俺は立ち上がり、ヴィヴィの自室からゆっくりと退出する。

 そして、真っ暗闇に覆われた屋敷の廊下をゆっくりと進む。

 

 まあなんてことはない、ただトイレに行きたかっただけだ。

 

 けれど。

 廊下の先に、一人の小柄なメイドが立っていた。

 

 彼女はゆっくりとお辞儀し、そして顔を上げて俺をじっと見つめてくる。

 

「--ロイ・クローバー様。少しお話よろしいですか?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

運命のツガイをみつけてバチクソにヤンデれちゃう獣人さん短編集(作者:アンドララベリャ)(オリジナル:現代/恋愛)

獣人には、生まれた瞬間から運命で定められたツガイが一人いる。獣人はその姿を目にしたその瞬間から、そのツガイに恋をし、執着し、なにがなんでも手に入れようとする―――。▼これは、そんなふざけた常識が当たり前の世界で、幸運にも出会えたツガイを異常な執念で囲いこみ、病的までに愛し、その身も心も手に入れようとする獣人さんたちの短編集。▼※つまり、獣人さんにバチクソにヤ…


総合評価:2321/評価:8.79/短編:1話/更新日時:2026年10月31日(土) 19:35 小説情報

天使留学(作者:おにいちゃん予備軍)(オリジナル:現代/恋愛)

人間が天使に祝福を求めすぎていちいち祝福するのが面倒になったので支配するようになった世界。高校一年生の久保田のクラスに天使が留学してきて、天使と交流する話。


総合評価:886/評価:8.65/連載:2話/更新日時:2026年09月28日(月) 12:48 小説情報

普通の恋愛がしたいのに、人外美女としかマッチングが成立しない(作者:てぃんだーまん)(オリジナル:現代/恋愛)

マッチングアプリ。▼主に、男女の出会いの切欠として用いられる、令和の恋愛の主戦場。▼これまで良縁に恵まれなかった僕も、友人の薦めで登録してみたのだけれど。出会えたのは素敵な人ではなく、妖怪、悪魔、天使など、素敵な人外の方々で――


総合評価:1002/評価:8.47/連載:10話/更新日時:2026年10月10日(土) 01:19 小説情報

上位存在のクソデカ師匠に生まれ直しを迫られてる(作者:上位存在って総じてエッチだよね)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

全部がでかい上位存在に、胎内回帰(おかえりなさい)!を迫られるがしない話。▼ひょんなことから上位存在の弟子となった主人公は、いつの間にかにどちゃくそ執着されていた。▼「私の胎で生み直しましょう?」▼こんなことを素面で言うくらいには執着されてしまったのだ。▼もっとも、赤ちゃんプレイみたいな趣味は無い主人公は拒否するものの、上位存在である師匠は頑なに生み直すと聞…


総合評価:1283/評価:8.16/連載:4話/更新日時:2026年09月17日(木) 08:05 小説情報

俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる終末世界のヤンデレもの。  (作者:走れ、ヤンデレ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

なお、強さだけではなく記憶も引き継いでおり、登場人物の殆どが主人公に対して劇重感情を抱いている模様。▼


総合評価:3395/評価:8.63/連載:3話/更新日時:2026年10月18日(日) 06:31 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>