スタブロにおけるフジとの関係、実に良かったです。
半ばオリウマ状態ですが、読んでいただけたら幸いです。
(0)
「ジェニュイン」
正真正銘の、本物の、といった意味の形容詞。
父母はいつか生まれる我が子にと、この名前を結ばれた時から決めていたという。
父の想いと母の愛を受け、私はその名に恥じぬよう生きてきた。
今日、私はトレセン学園に入学する。
その夢を、誇りを掴むために。
───
(一)
メイクデビューの気配も近づく五月のある日、二つのクロが模擬レースの決勝線を並んで駆け抜けた。
一つは漆黒。闇より深いその黒は、受ける印象とは裏腹に風に吹かれて穏やかに揺れている。
一つは濡れ羽色。腰のあたりまである艷やかな黒は、光を受けて緑に紫にその色を変える。
漆黒──フジキセキは思わず感嘆の声をあげた。
「仕上がりは上々といったところかな?
それにしても、キミの走る姿は本当に絵になるね」
濡れ羽色──ジェニュインは眉をひそめ、不機嫌な声で応じる。
「…貴方に褒められても不愉快だわ。
息一つ乱してないじゃない」
「そういうキミもね。
ストイックなのはいいけど、称賛くらい素直に受け取ってよ」
「お生憎さま。
貴方はいつもスカしているから本心なんて思えないもの」
少し困った笑みを浮かべたフジキセキはジェニュインの髪を一房掬うと唇を寄せた。
「つれないね。キミの髪はこんなにもまっすぐなのに」
――レース場にジェニュインの甲高い怒声が響いた。
───
(二)
足の速さは確かなジェニュインだったが、それだけで勝てるほどレースは甘くなかった。
ジェニュインはジュニア期を三戦一勝、二着二回でまとめる。
素質はあるが、少し不器用さが出たか。レースへの適応が課題となった。
さらに良くない流れは続くもので、ジュニア期の最大目標にと考えていた朝日杯も、足首の怪我で見送ることとなってしまった。
一方でジェニュインより先にデビューしたフジキセキはここまで順調に歩を進めていた。
デビュー戦は八馬身差、二戦目もレコード勝利と周りからは一段抜けた強さを見せていた。
そして年の瀬、ジェニュインが見送った朝日杯にフジキセキが参戦する。
好スタートから好位につけると、最終直線で内をするりと抜け出した。
悠然と先頭に立つと、後方からの追い込みをお見通しとばかりに僅差で封じ込み、デビューから三連勝でG1を制した。
ジェニュインはそれを観客席から見ていた。
あの模擬レースからおよそ半年。
並び立ったはずの二人の立場は大きく隔たれた。
フジキセキのあの余裕を持ったレース運びは、あの日の全力の模擬レースとは違って感じられて。
(信じたくはないけど、私と彼女には大きな実力差があるのかもしれない)
…思い詰めるのは良くない。
そう切り替えるとジェニュインは一つ息を吐きながら、固く握りしめていた拳をほどいた。