(一)
「お嬢、レース見返すのもいいけど根詰めすぎだよ?」
そんな声とともに視聴覚室の明かりがつけられた。
「…なによ、ツヨシ。ノックぐらいしなさいよ」
「したところで無視するでしょ?
消灯も近いんだからとっとと寮に戻った戻った」
フジキセキの朝日杯の映像を見返していると、現れたのは同期のタヤスツヨシだった。
入学直後の出席番号で並んだときに隣の席になり、それからなんだかんだと付き合いが続いている。
「…今、クラシックはあいつを中心に回ってるわ。あいつをどうにかしないと主役になれない。貴方もわかっているでしょ」
「それはそーだけどさぁ、体調管理も大事じゃない?
晩ご飯さっさと食べて出てったの見てたよ?」
「それは、」
言い返そうとしたとき、お腹からくぅ、と音がした。
……やめろツヨシ、そのニヤニヤ笑いを。
───
朝日杯を制し、クラシックの大本命となったフジキセキは弥生賞から始動した。
天気はあいにくの雨、ぬかるむ重馬場とコンディションは決して良くない。
一番人気のフジキセキはスローペースの前半から直線で抜け出し早め先頭に立つ。
しかし後方勢も余力十分。負けじと加速し追いすがる。
直線並ばれかけたフジキセキだったが、残り100メートルで再加速。逆に二馬身半差をつけてゴール板を駆け抜けた。
───
「…そういうことするんだ」
レースを外から見ていたジェニュインだから気づけた。フジキセキが余力を持った上で結果を調整していたことに。
決して手を抜いている訳ではないのだろう。
先を見据えて消耗を抑えたのかも知れない。
それでも、本気を出しなさいよ、そう思わずにはいられなかった。
(ニ)
弥生賞から二週間後の若葉ステークス。
クラシックに向けて距離を伸ばしてきたジェニュインにとって初の2000メートル戦。試金石となる一戦であったが、前日から降り続く雨の影響で不良馬場での開催となった。
「で、なんでツヨシもいるのよ」
「いちゃだめなの!?
いや、あたしだってクラシック目指してんだしかち合うこともあるよ」
タヤスツヨシは昨年末のラジオたんぱ杯を制して、ここでは実績上位。
ただ、取りこぼしというか絶妙にここぞで勝ちきれないので皐月賞の前にひと叩きいれたかったようだ。
レースは一筋縄ではいかなかったようで、ジェニュインは必死に喰らいつくも、五馬身離された二着入線。
しかし先着のウマ娘が進路妨害で降着となり、繰り上がりで一着となる。
ツヨシも五着に敗れ、お互い気持ちのいい結果とはいかなかった。
快勝したフジキセキとケチのついた自分。
あらゆる結果、出来事が自分とフジキセキの差を突きつけてきているような気がした。
しかし、その緊張状態は思わぬ形で解消されることとなる。
フジキセキに屈腱炎の発症が確認され、そのまま引退が決まったのだった。
(三)
皐月賞は大本命のフジキセキが離脱。
続く有力候補も怪我で回避し、混戦模様の中、ジェニュインは当日三番人気で本番を迎えた。
内寄りの枠からすっと先行し、終始二番手を追走。
直線半ばで前をかわしそのまま押し切る王道の走り。
後続を引き離しながら最後は追い込んできたタヤスツヨシを首差抑え込んだ。
───
「おめでとうございます!
フジキセキがいなくともジェニュインがいる、タヤスツヨシがいる。
そんなSS門下の強さを見せていただきました!」
「……ええ、そうですね。
彼女の怪我は残念でした。
それでも私たちも結果で示していきます。
応援、ありがとうございました」
皐月賞を制したジェニュインは、取材で報道陣に答えながら、自分は主役の、フジキセキの代わりの代わり、“三番人気”でしかないことを感じとった。