(一)
「私ジェニュインは、次走のマイルCSを最後に、トゥインクルシリーズから卒業します」
菊花賞の取材に向けて動き出した報道陣に向けて、ささやかな爆弾を投げ込む。
普段ならレース翌日の月曜日は取材も落ち着くゆっくりな日のはずだが、そうはいかない。
「怪我にも悩まされましたが、かつて栄光を掴んだこの舞台で再び走れること、この地で皆様にお別れの挨拶ができることを嬉しく思います。
どうか私のラストラン、お付き合いください」
これは応援してくれた方たちへのお返しだ。
何も言わず秋天でおしまいなんて良くないものね。
フジにも最後に走るとこ見せてあげましょう。
──
引退レースのマイルCSは四番人気だった。
コースに入るときにはスタンドから歓声が上がったりもして、思っていた以上に応援してくれていた人がいることを今更ながら実感した。
レースはこの年の桜花賞ウマ娘キョウエイマーチとサイレンススズカの二人のスピード自慢がガンガン飛ばし、ヒシアケボノら短距離勢もそれに絡む。加速するラップはハイペースの削り合いの様相を呈していた。
私は後方に控えていたが、前走の秋天のダメージも残っていた。
同じく秋天組のスズカと一緒に最終直線でズルズル失速していく。
そんなハイペースを前で受け、上がり最速で押し切ったのはタイキシャトル。
ハイペースの立役者であるキョウエイマーチは離されながらも二着に食らいついていた。
「最後まで見せつけられちゃったな」
九番目にゴール板を越えた私は、新たな怪物の登場に天を仰いだ。
ある意味らしい結末なのかしら?
でも、まぁ悪くなかった、かな。
──
(二)
レースの世界から引退後、私は指導者になるべく国内外を飛び回り勉強を重ねていた。
今回はオーストラリアでの研修で、現地で最新の理論を学ぶべく学会に参加するのと、海外遠征の予行演習として前入りして現地で数日過ごす予定だ。
空港のロビーには大荷物を抱えた私。
そして力なくベンチに腰掛けるツヨシ。
「指導者目指すお嬢が研修受けるのは分かるよ。
でも私は関係なく無い!?
寮母さんとかそんなポジション狙いだよ!?」
「ごちゃごちゃうるさいわね。
そんなの私が推薦したからに決まってるでしょ」
「お嬢!なんで!why!?」
「寮母さん目指すならトレーニングやリハビリの知識はあって損は無いわ。
あなたは勉強できる、私は生活の当てができる。一石二鳥よ」
旅費の大部分は経費で落ちるのに、まったく何をそんなに騒いでいるやら。
せっかくのチャンスと好意、掴まなきゃ損じゃない。
「いや、私の負担多くない?
てかお嬢、あんたお嬢でしょ!?
生活力、大丈夫だよね?」
「私の能力は“ゆで卵を爆弾に変える”よ」
私の発言に、あっ、と何かを察したように固まったツヨシ。
適材適所、ギブアンドテイク
素晴らしい言葉ね。
「よかったじゃない。寮母の仕事も欠かさず練習できるわよ」
絶句したツヨシの手を引いて搭乗ゲートへと向かう。
プライドが高くて、ひねくれもので、ちょっとワガママ。
そんな本当の私の歩幅で歩いていく。
(完)